EternalKnight
<兄弟〜弟の不屈〜>
<Interlude-同化->
「お前ではもう、持ちそうにないな……そうだな代わりにお前の弟でも――」
視線を蒼二からはずして翼に向け――
「――いない?」
瞬間、金属どうしがぶつかり合う甲高い音が響いた。
馬鹿な……何の音だ?
あの方向は《飛翔》を捕らえている柱がある筈――
そう思いながら、音の方角へ視線を瞬時に向ける。
そこには――
「!? 馬鹿な、いつの間に――」
蒼二の持つ黒い剣と似たような形状の剣で鎖を切ろうとしている翼の姿が見えた。
「いつの間に? お前と僕が話をしてる間に、だよ」
一定間隔で金属の衝突音が鳴り響く。
「馬鹿な、一体いつ打ち合わせを――」
「そんな事してないさ、ただ僕から一方的に内容を伝えただけさ」
「だからそれをどうやったと……くそ、今はそれどころでは――」
《飛翔》を開放されたとしても、力は我の方がまだ上だろう。
だが、せっかく得た力……それも三割程も失うのはいただけん――
「――Creation」
「――っ何?」
瞬間、黒い刃に肩を貫かれる。
「グッ……貴様ぁ!」
「行かせはしないさ……翼の力が戻るまで僕と一緒にその様を見学していようじゃないか」
「ふざけるな、この死に損ないがぁ!」
黒い刃を握る蒼二の顔面に拳を叩き込む。
――だが、蒼二は刃を放さない。
殴る。
殴る、殴る。
殴る、殴る、殴る。
――それでも尚、蒼二はその手に握った刃を放そうとしない。
「――借りは……返したぞ……《同化》?」
その言葉を最後に、蒼二の体が薄れ始め、刃を握る力が緩まるのがわかった。
もはや何の力も持たない腕をへし折り、突き刺さった、黒い刃を引き抜く。
傷口から黒い何かが漏れ出しているが、放っておけばじきに治るので気にせずに柱の方に視線を移す。
そして、その視線の先に――
「……間に合わなかったか」
――瞳に映る光景を見つめてそう呟いた。

<SCENE073>
何度も俺が剣を打ち付けた事によってヒビの入った鎖に、黒い刃を全力で振り下ろす。
骨を伝わり衝撃が腕に響き、鎖のヒビが少し広がる。
くそ、まだ砕けないのか……
黒い剣の刃は既にボロボロに欠けており、剣としての機能は完全に残ってはいない。
だがしかし俺の目的は鎖を《斬る》事ではなく、《壊す》事だ……
「あと少し、あと少しでいい、頼むから折れるな――」
願うように呟き、もう一度剣を振り下ろす。
腕に振動が帰ってきた瞬間……何かが砕ける音がした。
瞬間、腕に感じていたその重さが半分程になる。
――それは、何を意味しているのか?
視線を手元の黒い剣に移す。視線の先の刃は中ほどから折れていた。

<Interlude-グレン->
「キョウヤさん、まだかかりそうですか?」
なんだかさっきから相当な時間がたってる気がするんだが……
(そうでもない、至高の心が転送の門を起動させてからまだ三十分程だ)
あぁ、そう。俺には長く感じられたんだから別に良いだろ?
つーか細かい突っ込みは別にしなくていいから。
(……最近、我の扱いが酷くなっていく一方ではないか?)
そんな事は……いや、確かにそんな気がしなくも無いな。
(気が付いたのなら良い、今後は注意――)
「いや、とりあえず起動はしたんだが、なにぶん使うのが久しぶりでな……」
脳内で繰り広げられる相棒との会話はキョウヤさんの声を聞き取る為にわざと聞き逃した。
と、それは良いとしてだ。
確かに性能的に条件が厳しいので簡単に使えるような代物じゃないのは分かるが……
「後どれくらいで出来ます?」
(……はぁ)
相棒がため息ついてるが気にしないようにしよう。
最近はいつもだし。
「そうだな……後十数分あれば出来ると思うが……っ何?」
突然キョウヤさんが驚いたような表情になる。
「一体どうしたんですか、キョウヤさん?」
「いや、今《至高》を伝わってセトからの連絡が着たんだが……」
「セトさんから?……なんだったんですか? どこかで大きな戦いでも起こったんですか?」
そうだとしたら、今から俺達が行く世界の近くの世界でそれが起こっている事になる……
「いや、お前の仕事に関する話だ」
「俺の……? じゃあ、何か状況に変化があったんですか?」
「あぁ、先程までCクラスだった聖具反応がSクラスになり、Bクラス並の反応が消えたそうだ」
「CクラスがBクラスを倒したのか……それにしてもSクラスか……」
「その上、新たにBクラスが出現したらしい」
「なっ!? どうなってるんですか?」
「こっちが聞きたいところだ……だが、どちらにしてもSSとSを送り込めばまだどうにかなる範囲だ」
「でも新たに現れたBクラスがSクラスにやられたら――」
Bクラスの所持者がエーテル解放出来るとは思えないし……
「最悪の場合はSSSクラスになる可能性もあるが……まぁ、それは恐らく無いだろう」
「なんでそう思うんですか?」
「いや、いくらなんでも成り立てのSクラスがBクラスを取り込んだ程度でSSSクラスになるとは思えないってだけだ」
確かに……いってもSSがいい所か。それにSSSクラスには一部の聖具しか到達できないって言うし……
「多少難しくなるが、出来ないレベルの内容じゃない。やれるな、グレン?」
「はい、わかりました」
クラスSとクラスB……か。
いや、クラスSSと考えていた方がいいかも知れない。
「お前も、しっかり面倒を見てやれよ、クオン」
「はいはい……って言っても、私の方が背は小さいし、聖具の階位は低いし、女の子だし?」
「それでもだ、お前は先輩なんだからしっかりやれよ?」
「はいはい、分かったわよ。って言うかキョウちゃん? そんな事より転送の門の座標、早く繋げなくていいの?」
「ぁあ、そうだな。すぐに終わらせる」

<SCENE074>
折れた刃を握り、ヒビの入っただけの鎖を見つめ、ただ呆然とする。
無理だった。……だめだったんだ。
俺の力じゃ、誰も救う事なんて出来なかった。
『誰も救う事が出来ない』だって?
ふと、自分の思考に疑問が沸く。
なんで、決め付けてしまったんだろうか?
そう分かっているなら何故、誰かを……叶を、みんなを助けたいと願ったのだろう?
決まってる、そんなことやってみないと判らないからだ。
だから俺は出来る出来ないを気にせずに、理想を掲げた。
なのに、まだ生きていて出来る事があるのに、諦めるなんて……
そんな事で自分の知るみんなを護りたいだなんて、調子がいいにも程がある。
――だったらどうする?
答えは簡単……ただ諦めなければいい。
諦めなければ、最後まで諦めなければ、何かが変わるかもしれないから――
そう気づいた瞬間、俺は折れた黒い剣の半分しか残っていない刀身で、鎖を殴りつけた。
金属同士がぶつかる衝撃を受け腕が震える。
それでも尚、黒い刃で殴りつける。
そうする事で少しづつ、少しづつヒビが広がっていく。
腕を伝わる痛みに耐え、歯を食い縛り、黒い剣で鎖を何度も何度も殴りつける。
――そして、遂に……鎖は砕け散った。
その瞬間、連動するかのように鎖が解け、縛り付けられていた叶が開放される。
そして叶は、閉じていた瞳をゆっくりと開き、こちらに微笑んだ。
瞬間、俺は白く淡い光と、つい最近感じた筈なのにひどく懐かしい様な感覚に包まれた。
そして力が、翼が、叶が戻ってくる。
(ありがとね、翼。私を助けてくれて)
――元は俺が悪いんだ、それに、男が彼女を助けるのは当然だろ?
(そうよね……それじゃあ翼――)
あぁ、取り戻すぞ、俺の体を!
(――うん)
俺は、白い翼を広げ《同化》を見据える。
そこに、霧の様に薄く霧散していく、兄貴の姿が見えた。
「――兄貴……あんたはどうして、そうまでして俺に力を取り戻させたんだ?」
帰ってくるはずの無い疑問を、自然と紡いでいた。
勿論、答えが返ってくるはずなど無い。
そして、徐々にさっきまで握っていた黒い剣の感触が無くなっていく。
――そして、遂に完全に剣の感触が消える。
……何のために兄貴は俺に力を貸してくれたのだろう。
それは《同化》への報復の為だったのか?
それとも、何か別の要素でもあるのだろうか?
どうだったとしても……あんたが、俺の為に力を貸してくれたことは真実だ。
だから、一言だけ言っておく。
「――ありがとう、兄さん」
随分と昔、已めてしまった呼び方で、お礼の言葉を紡ぎ……俺は駆け出した。
向かう先は《同化》の元――
別に仇を討とうと思ったわけじゃない。
そもそもこれは……俺の体を取り戻す戦いだ。
《同化》を倒さなければ意味が無い。
「来たか……貴様等を消滅させたくは無かったが……仕方あるまい」
「仕方ない事は無いさ。消滅させたくないんだろう? だったら望みどおりにしてやるさ」
「それは貴様等を完全に我が制御できて、の話だ」
「あぁそうかい。だが俺はお前に従う気なんざさらさらねぇ」
「……ならば今度は、貴様を消し去ってやろう。お前も蒼二のように、我が糧となるのだ」
「黙れ……兄貴には借りがある。その借りは返さなきゃならなねぇ」
「蒼二は完全に消滅した、今はこの器……この体を構成するエーテルでしかない。そんなモノにどうやって借りを返す?」
「決まってるだろ。お前を叩き潰す事だ、それが兄貴の望む事」
「ふっ……やれるのなら、やって見せろ。お前に人間を殺せるならな」
「あぁ、やってやるさ。俺はもう逃げない」
俺は人を殺す、という事から俺は逃げていた――
そのクセに、蚊とかそんな虫なんかは平気で殺していた。
動物を殺して作られた料理を、何も感じずに食べていた。
人の形をしていなければ……相手がバケモノなら殺すという事にためらいを感じなかった。
命の重みは平等なんてそんな聖人じみた事を言うつもりは無い。
食った動物の事なんか知る気はないし、踏み潰したりした虫の事も知った事じゃない。
だけど、そいつ等の死の上に俺が居るって事は絶対に忘れない。
勿論全てを把握する事なんて出来ない。
だからこそ、その屍の……死の山の上に俺が居るって事だけは絶対に忘れない。
命が全て等しい価値とは言わない。だけど、人間なら重いというわけでもない。
誰に誓うわけでもない、これは俺が俺自身と結ぶ誓い。
俺は、相手の命の重さなど考えない。そんなの俺の価値観で決める事じゃない。
だから、相手が何であろうと、これからは躊躇なんか……しない。
俺はもう守るために……人を殺すって事から目を背けない。
大切な人を守る為、仲間を守るため、俺は決して目を背けない。
――殺す事がいいことだとは思わない。
だけど、例え誰であろうと……俺の守りたい誰かに手を下すというのなら……俺はそいつと戦う。
結果相手が死んだとしても、それもまた、俺の立つ死の山に加えられるだけなのだから。
だから、俺と俺の守りたい人達に手を出した――
「《同化》俺はお前をぶっ殺す!」
――理由なんて、それで十分だ。
「言葉だけなら何とでもいえるさ……それに勘違いしてないか?」
勘違い……だと?
「我はお前よりも《強い》のだ、たとえ我が体の形状がどうであろうと、万に一つも勝ち目など無いと知れ」
「うるさい、やりもしないで決め付けるな!」
「ならば見せてやろう、絶望的な差を。そして礼を言っておこう、貴様等兄弟のおかげで、我は力を得る事が出来たのだから」
瞬間、《同化》の体に異変が起きた。
全身の数箇所に、ヒビが入りそのヒビの様な線から、黒が噴出する。
親父の顔も一瞬で黒に染まる。
否、何の起伏もない平らな黒い面に覆われる。
同時に全身が完全に黒で覆われた。
それは、シルエットこそ人に近かったが、異形以外の何者でもなかった。
黒い、全てが黒い。それは、何の特徴も無い黒い人形。
――否、今この瞬間。特徴が二つ出来た。
一つは、背から生えている一対……つまり二枚の黒翼。
もう一つは、これも一対の燃える様な赤い眸。
それが眼としての機能を果たしいるかまでは分からないけど、それは確かに眼と言えた。
黒い能面の本来の人の顔ならば眼があるであろう位置に、それは輝いていた。
「さて、改めて名乗っておこう。我が名は《堕天》……そして教えておいてやろう、この力は我の真の姿ではない」
何処から発声しているのかは謎だが、それは確かに聞こえた。
そして、その言葉が意味するところも理解した。
目の前にいる黒……その威圧感を。
感じ取れる力から分かる事は一つ。
今の《堕天》を相手にしても絶望的……までは行かないものの、相当な力の差がある。
そして、この現状で尚、《堕天》は本気ではない、という事。
心理的なプレッシャーなのかもしれないが、今の段階で既に相当な差なのだ。
もし仮に真実だとしたら、勝ち目など限りなく0に近いだろう。
だけど……それでも、0じゃない、諦めるわけには……いかない。
もとより、勝てないはずの戦い。
一矢報いなければ、それこそ向こうでそ兄貴にあわせる顔が無い。
あぁ、それに……最後までやらずに諦めるなんて、もう俺には出来ない――

――to be continued.

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