EternalKnight
<兄弟〜共闘〜>
<Interlude-蒼二->
「いいから黙っていろ、少なくとも何の力も無いお前を守りながら戦えるような相手じゃないんだ」
まったく、世話の焼ける弟だな……
四年もあったんだから、もう少し精神的に成長してるかと思ったんだが……
まぁいいさ。今は自分の戦いの事だけ考えよう。
――目的は一つ。ただ僕等を自分の計画に使った《同化》を潰す事。
……既に人間ではない、聖具の力で永遠の力を得たわけでもない、そんな不完全な僕に可能なんだろうか?
……分からない。いや、むしろ絶望的だ。
だけど、叩きのめす為の希望はある。
――決意を固めて、僕は駆け出した。
走る僕の右手に黒い剣が、左手に銀の剣が顕現する。
親父の形をした《同化》の居る位置まで、残り数歩――
《同化》が構えを取るがその腕に武器は無い。
手を抜いて武器を出さないのか、それとも何か別の考えがあるのか、僕には分からないが……関係ない。
「はぁぁぁあああああ!」
瞬間、左足に渾身の力を込めて、地面を押し蹴る。
数歩分の距離が一瞬で詰まる。同時に、僕は黒い刃を打ち込んだ。

<Interlude-聖五->――昼
黒い光を翼が纏う……否、取り込んでいく。
そしてそれは翼でありながら、翼以外のモノとなった。
翼が元に着ていた服は既になく、黒いマントを身を纏い、黒い翼を背負っていた。
唯一あらわになっている顔には黒い血管にも似たラインが浮き上がり、それが脈動している。
あの様子では、マントの下もあのような肌になっているだろう。
「……抗うか」
「何?」
「……なんでもない、こちらの話だ……では始めようか? お望みどおり一対一だ」
(だめですマスター、我々が勝てる相手ではありません)
確かにそうだろう、今の翼が放つプレッシャーは半端じゃない。
――だけど、ここで逃げるなんて出来るわけない。
(ですがマスター、力の差がありすぎます。マスターにだってそのくらい――)
あぁ分かってる。だけどやるしかないだろ?
静かに、構えを取る。
それにな、俺の目的は勝つ事じゃない、時間を稼ぐ事だ。
(時間を稼いで何の意味が――)
あるんだよ、ちゃんと。
アレだけ強い力を放つヤツがいるんだ、永遠の騎士……いやグレンの仲間が必ず来るはずだ。
世界を護る事が、彼等守護者の使命なんだから――
だからそれまで、もう一人たりとも被害を出させない為に、俺は戦う。
(――分かりました、もとよりこの力、命……全てをマスターに捧げた身、共に戦いましょう)
すまんな《聖賢》迷惑をかける。
(迷惑などとは思わないと、何度も言っているでしょう?)
……ありがとう。それじゃあ、いくぞ《聖賢》!
「待たせたな……さぁ、始めようか?」
「せいぜい足掻くのだな。お前の聖具の階位は知らんが、永遠者でない身でクラスSに挑む事の意味……たっぷりと教えてやろう」
瞬間、翼だった者……《堕天》が動き出した。

<Interlude-蒼二->
――金属の衝突する甲高い音が響く。
僕の打ち込んだ太刀筋は、あっさりと刃と化した《同化》の腕に阻まれていた。
「所詮その程度か……これだけの実力差があれば、貴様をじわじわと嬲り殺して、翼を殺さずに得る事も可能だな……」
刃が均衡し、鈍い鉄の擦れ合う音が耳につく。それ以上に目障りな顔が目の前にある。
また、コイツの顔を見る日が来るなんて思っても見なかったな……
いや、今はそんな事より――
「……もし僕が今、お前に協力すると言ったらどうする?」
「この体の器ではない貴様に用はない、始めから殺すつもりだったし、余興程度に今ひねり潰してやるさ」
「やはりそうか……まぁこれで僕としても、貴様の元に下ると言う選択肢が消えて戦いやすくなったよ」
「何を言う、先程までそれが貴様が唯一生き残れる可能性だったのだろう?」
「確かにそうだ。けどね、こっちは二度死んでるんだ、今更怖くなんかないのさ」
「戯言を……ならば貴様には今より深い絶望と恐怖を与えよう……いっそこんな反抗をせず消えてしまえばよかったと思える程のな」
さて、これでヤツは僕をじわじわと殺しに来るわけか……
――乗せられたなら、乗せ返さないとなぁ?
それが礼儀と言うものだ。
「それじゃあ、最後まで粘らしてもらおうか?」
「安心しろ、簡単には殺さん」
「……後で後悔するなよ?」
「――言っていろ」
瞬間、互いに刃を放し、距離を取った。
さぁ、ここからが正念場だ。
銀の剣を《同化》にかざして、紡ぐ。
――作り上げるのは二十を超える数の物質。
「Creation」
幾つものの剣が《同化》の逃げ道を塞ぐ様に顕現する。
「かわしきれるか?」
「ほぉ……わざわざ己が命を縮める技を使うか? 知っているぞ、その技はエーテルを大量に消費する」
「お前を倒せるのなら、残り少ないこの命など必要ない」
「無駄な事を――」
「無駄かどうかは、受けて味わえ」
中空に停止していた剣が《同化》に向かって動き出す。
降り注ぐ剣を予定通りに《同化》がかわしていく。
十数本もの刃が回避しやすい一点を作りながら順に降り注ぐ。
そして最後の一本の剣も何事もなかったようにかわす――
――だが、その先に待つのは、黒い刃を振り上げ、僕が最大の一撃を準備している場所。
剣を意識して回避する限り、死角となる一点。
「もらったぁ!」
そのまま、僕は無防備な状態の《同化》に全力で黒い刃を叩きつける様に振り下ろした――
――だがしかし、僕が振り下ろした刃は……呆気なく、掴まれていた。
それも、真正面から。
――速過ぎる。
こちらに振り向いた瞬間も、手で止めた瞬間も、ほとんど残像の様なモノが見えただけだ。
予定外に実力差が大きいか――
「……どうした、何をもらったって?」
そう言いながら《同化》が掴んでいた部分を握り潰す。
――っまずい。いや、かえってこちらの方がいいか?
こんな状態の剣なんて、それとしての役に立たないだが……使い道はある。
あまりにも、絶望的な差。だがそれ故に、明らかに油断している。
もっとだ、もっと油断させろ……時間を稼げ、気づかせるな。僕になら出来るはずだ――
「っくそ……冗談だろ――」
「足掻け足掻け、そのほうがより深い絶望に叩き落す甲斐もあると言うモノ」
「っクッソォォォォ!」
自棄になったように叫びながら、壊れた黒い剣を叩き付けるように振り下ろす。
――無駄なのだが、今の僕の目的は《同化》を油断させて気をひきつけておくには十分過ぎる動き。
そして、振り下ろされた刃は、黒い手刀に阻まれ、呆気なく砕けて折れた。
「っ、くそ……諦めて……たまるかぁ!」
自分でも陳腐な台詞だと思う。こんな状況に追い詰められれば、普通はもうどうにもならない。
……なのにしつこく生き足掻く。
追い詰める側から見れば、これほど嬲り甲斐のある奴はいないだろう、演じている自分でも思う。
「いい加減に諦めろ、貴様では私に勝つ事など出来ん」
――あぁ……そんな事、戦う前から分かっていたさ。
だけど……今はもう少し道化を演じなければ――
「そんな簡単に、諦めれる筈ないだろ! 僕は、最後まで諦めないんだ!」
《同化》に向かって叫ぶ、様に見せかけているが、視線はその先へ――
――よし、まだ奴は気が付いていない。
後少し、ほんの少しだ……それが……《同化》を倒す最後の希望。
「――Creationっ!」
紡ぐと同時に剣が……幾重もの剣が顕現する。
「……力を使い果たして消える気か、貴様?」
「――冗談言うなよ、まだ力は残ってるさ」
「残ってるといっても、後二本か三本作れる程度だろう? 思っていた以上に消耗が早かったな」
そう、確かに僕は残り数回力を行使すれば消えるだろう。
「つまりこれをかわせば、我の勝ちだ。じわじわと嬲り殺すつもりだったが、お前にそれは望めそうにない」
「それは残念だったな……だが、そんなものはこれをかわしてから言うがいい」
「無駄なことを――」
――いいや、無駄じゃないさ。
瞬間、僕は《同化》に向けて作り上げた十数モノ剣を放った。
先程よりも早く、一つの逃げ道もないように。
だが、しかしそれでも尚――
金属同士をぶつけたような音が鳴り響き、降り注ぐ刃全てはかわされ、弾かれ、叩き落される。
「……どうだ? これでもう打つ手なしだろ?」
「確かにな……」
「お前ではもう、持ちそうにないな……代わりにお前の弟でも――」
そう言いながら《同化》が顔を上げ翼がいた方を見る。
「――いない?」
《同化》そう言うと同時に金属を金属に叩き付けた甲高い音が一つ響く――
「!? 馬鹿な、いつの間に――」
音の方向にあわてたように《同化》が顔を向けた。
そこには、《同化》の視線のその先には――
一本の剣を握り、柱の鎖を切ろうと剣を鎖に打ち付ける翼の姿があった。

<SCENE072>
「Creation」
兄貴の声が聞こえると同時に中空に剣が幾重も現れた。
さらにそれと同時に、俺の目の前に一枚の石版の様なモノが現れる。
「なんだ……これ?」
何か文字が書いてあるように見えて俺は、目の前を漂う様に浮いていた石版を掴み、書いてあった文字に目を向ける。
――僕が今から同化をひきつける、その間気づかれないようにお前は柱の前までいけ――
……従うのは悔しいが……俺に何か案があるわけでもない。
柱って言うのは叶が鎖で縛られている柱の事だろう。
――素直に従うか……
だけど、俺が行っても叶を助ける事は出来ないのに……どうして――
そう思いながら俺は柱の元へと走り出した。
聞こえてくる金属音や叫び声に一切振り向かず走る。
走る。
走る、走る。
――そして、柱の目の前まで辿り着いた。
「……はぁ……はぁ……これで、どうすればいいんだ?」
柱には叶が縛り付けられている。
遠くからは確認できなかった表情もこの距離からなら見える。
だが、その瞳は閉ざされ、体もピクリとも動きそうにない。
――くそ、こんな距離まで来てるのに俺の力じゃ叶を助けられないのかよ……
何の力もない俺に鎖を断ち切る事は出来ない――
どうする事も出来ずに、状況を確認するために兄貴の方に意識を向ける。
視線の先で兄貴と《同化》は向かい合いながら何か喋っている。
こちらを背後にしている上、この距離なら《同化》がこちらに気が付く心配はない。
そして、再び兄貴の周りに幾重もの剣が現れる。
そしてまた同時に、俺の手元にも一本の、兄貴の持つ黒い剣そっくりの剣が現れる。
――そうか、この剣で鎖を切れば……この為に兄貴はわざわざ……
よし、なら俺も……その期待にこたえなければ――
そう思い、俺は剣を振り上げ、鎖を断ち切るつもりで打ち付けた。
それと同時に、幾重もの金属音が響き渡る――
兄貴が中空に止めていた剣で攻撃を始めたんだろう……いや、今は鎖を切ることだけを考えるんだ。
そう思い、他の事を視界と意識から消して、俺はひたすら鎖に剣を叩き付けた。

<Interlude-聖五->――昼
《堕天》が一気にこちらに迫ってくる。
早い……だが、ついていけない速度じゃない!
逃げても無駄なのは分かっている、ならば――
頭の中に一瞬で膨大な量の戦術の情報が走る。
――こちらから出て迎え撃つ!
瞬間、一歩前に踏み出し、拳をまっすぐ正面に打ち出す。
《堕天》の回避速度が、俺の攻撃速度より早いなら、相手の速度を利用すればいい。
瞬間、拳は迫ってきていた《堕天》に命中する。
そのまま間髪いれずに逆の腕でもう一撃打ち込む。
だが、一撃目を受けてすぐに体勢を立て直した《堕天》は二撃目をかわし、後方に一度引いてこちらと距離を離す。
「永遠者の領域に到達せずにその力か……気に入った、お前のその聖具も我が取り込んでくれよう」
相当の自身だな……そしてあの動き――
「本気じゃ、なかったな……今の動き」
一撃目を受けてから体勢の立て直しの早さから考えても、今のはそれ以外は本気で行っていないように思えた。
――いや、ひょとすると体勢の立て直しすらも本気ではなかったかもしれない。
「ほう、そこまで分かるのか……ますます取り込みたくなる力だな」
この差は……大きい。打開策は……《聖賢》身体能力の底上げ、前みたいに出来るか?
(可能です、ですがやはりマスターに大きな不可が――)
そんなモノ、このまま使わずに殺されるのに比べればなんともない。
(分かりました……それで、今すぐにお使いになられるのですか?)
いや、今はいい。アレはあくまで切り札だ。
それと、あの立て直しの速度から他を導き出してこっちとの戦力差は出せるか?
(可能です、しばらく待っていてください)
「貴様に負けるつもりはない、さっさと翼の体を返せ」
「それは出来ん相談だ、と言うよりこの体はもはや完全に我が物と――」
なんだ?あそこで言葉を止める意味はないと思うんだが――
「……いや、どうやらまだ抗っているようだ」
と、言う事は翼はまだ完全に取り込まれたわけじゃないのか?
「だが、無駄な事だ……器の所持者を失うのは少々勿体無いが、また別の器を見つければよい」
「何一人でぶつぶつ言っている! 翼は今どうなってる!」
「それを、我がお前に伝えるとでも?」
――始めから期待はしてなかったが……やはり無理か。
「さて、それでは、内も外もまとめて片付けてくれようぞ!」
(マスター戦力比、出ました。通常で1:2こちらが身体強化を使用して5:6程度だと予測されます)
通常だと倍近くの差か……諸刃の刃を行使してもまだ若干こちらの方が不利、と言った所か……
いや、戦術支援があるのを考えると対等……といったところだな。

――to be continued.

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