EternalKnight
<墜落〜力届かず〜>
<Interlude-蒼二->――昼
――痛い。
でも……まだ僕は死んでいない。
「死にたく……ない」
嫌だ、もう死ぬのはごめんだ。
「早く……傷を……治さないと」
体を包んでいた紅い光は、いつの間にか消え去っている。
「Start……Of……Flame」
再び、紅い光が僕を包んでいく。
光が僕を癒し、穿たれた孔を塞いでいく。
「はぁ……はぁ……」
ゆっくりと、少しずつ傷はふさがっていく。
巻き戻しのビデオのように、孔が塞がっていく。
周囲を包むのは濃密な煙。これならこのペースで回復すれば大丈夫だろう。
でも、傷が治った所で同じ事なんじゃないのか?
「――違う」
確かに今の攻撃を食らっても死んではいない。
だけど同時に、僕も彼等を倒せていない。
「――僕は……不死身なんだ」
不死身だから死なない。
アレだけのダメージを負っても時間さえかければ、全快まで回復できる。
だけど、不死身だからこそ恐怖を、痛みを何度も味わうことになる。
否、僕は所詮、強力な攻撃にある程度耐えれて、同時に強力な回復能力を持っているに過ぎない。
「――なんでだ? なんで僕にはもっと力が無いんだ?」
左腕の剣、背に浮かぶ翼、これは所詮他人後からに過ぎない。
右手の剣、これすらも《終末》との契約で与えられた力に過ぎない。
力が、力が欲しい。
僕だけの、僕だけが生み出せる力が――
「――欲しい」
誰のモノでもない。僕の力が――
僕には創れるはずだ。
だって、今僕が持つ力も、僕が原型を思い出して作り上げた力でしかないんだから。
アレは……どうやったんだっけ?
「――あぁ……そうか、簡単な事だ」
僕はただ思い描いただけなんだから――

<SCENE067>――昼
煙が晴れる――そして、煙が晴れたその先には……
「……兄貴」
「あぁ、翼か……やっと来たんだな、お前」
確かに、《飛翔》と紅蓮さんの聖具、そして兄貴が持っていた聖具だ。
「あんたの目的……俺を殺すことだろ?」
「よく分かってるじゃないか?」
「なら……始めるぞ、これ以上被害は出させない」
「へぇ、大した自信だな? クズのくせに……」
「俺がクズなら、俺に負けたお前はクズ以下だな」
「あぁ、そうだな。あのときの僕はクズ以下だった……でも、今は違う」
「他人の力の模造品で戦ってるだけのお前は、俺には勝てない」
「その通りだ、だから手に入れたのさ、僕だけの力……をね?」
「何?」
「見せてやるよ――」
――なっ!?
突然、蒼白い光のラインが兄貴の全身に現れる。
次の瞬間、兄貴が視界から消えた。
――否、動いたのは見えたが、ぎりぎり反応できるか否かの速度だ。
(翼、落ち着いて)
――叶の声が聞こえた。
だが、落ち着いてなど居られない。
兄貴の移動先を眼で追うように右に振り向くとそこには――銀の斬撃が迫っていた。
咄嗟にバックステップでかわす――
――が、バックステップで後退する速度よりさらに早く、兄貴が踏み込み黒い刃を跳ね上げた。
(翼ぁ!)
黒い刃が体を斬り裂き、その痕には激痛を走る――
だけど、致命傷じゃない。
「っぁ――」
痛みに耐え、地面を蹴り《飛翔》の力で上空に飛ぶ。
「っくそ、なんて速さだ……」
とりあえず上空に逃げれば――
地面を見下ろし兄貴の姿を探す……が、居ない?
「……僕がお前の力も持っているのを忘れたのかい?」
――背後から声が聞こえた。
「EndOfGlacier」
瞬間、俺は何かを背中にぶつけられた。
――落ちる、地面に落ちる、落ちていく。
何を食らったんだ? 痛みはまるで無いのに……意識が飛びそうだ……
『何でだろう?』と疑問に思い、天を見上げる。
兄貴の持つ黒い剣の周りに浮かぶ氷の弾丸をみて、今の自分の状態を把握した。
『あぁ、凍てついて感覚が無いのか――』と。
それにしても、兄貴の体に浮かぶあの蒼白い光は一体何なんだろう?
そこで、意識が途絶えた――

<Interlude-武->――昼
幻想種の笑い声が響く。
「……っ翼君!」
圧倒的だった。先程までとは桁が違いすぎる動き――
「どうすればいいんだ……宝具も効かない上に、翼君だって……」
残りの戦力は俺、ジョージさん、ジークさん、ルーグさん、雫さん、蓮さんの六人。
六人……だけど威力の高い宝具は全て効きはしたが、それで勝利にはたどりつかなかった。
しかも、ジョージさん達エクソシスト、雫さんと蓮さんは固まった位置に居るが、俺は一人孤立している。
さらに言うなら、怪我している茜もすぐそばに居る。
圧倒的なまでに絶望的な状況だ……
どうすればいい? どうすれば幻想種に、会長に勝つ事が出来る?
『不可能だ』違う。そんなはず無い。こんなことじゃ、父さん達に合わせる顔が無い。
あきらめたら、終わりなんだ。
――何のために、俺の手には二本の剣が握られている?
ただ、この剣技を後世に伝えるため?
否、父さんに自慢の息子と言ってもらえた自分自身の為に――
俺は、最後まで戦う。
例え、この選択の先に死が待っていようとも――
「父さん、ごめん」
ただ一度だけ、謝っておいた。
――父さんとの最後の約束を破るかも知れなかったから。
右手の黒天月に力を込める。
――曰くその斬撃は黒く、天を浮かぶ月の様だったとされる――
一閃、空中で高笑いする会長に黒い斬撃を放った。
――が、黒い斬撃は黒い刃の一閃にかき消された。
そこで、笑い声は途絶える。
「なんだ……翼より先に君から死にたいのかい?」
ただ冷たく、そう言い放たれる。
「死ぬつもりなんか無い……だけど俺は、死ぬ気で戦う!」
「……せっかく死ぬ気でやってくれるのに、空中に居たら面白くないな……よし、地上で殺ろうか」
そう言いながら、幻想種が降りてくる。
「行くぞっ!」
両の手に握られた刃をより強く握り、俺は駆け出した。
「はぁぁぁぁぁああああっ!」
叫びながら、力の限り二本の刃を叩きつけ、持てる技量の全てを費やし剣戟とする。
だが、しかし――
「所詮その程度か……」
――目の前の男は、幻想種は、たった一本の刃でそれに対応しているのだ。
今俺が殺られていないのは、単なる敵の気まぐれ。
左手のもう一振りの剣を幻想種が振れば、俺は簡単に死ぬのだから。
だけど、諦めない!
剣戟を加速させながら、草薙剣にゆっくりと限界まで力を込めていく。
宝具の攻撃は効いたけど倒すことが出来なかった……ならば、零距離で撃てば、あるいは――
しかし圧倒的な能力差の前に、このままでは零距離で撃つ以前に懐にさえ入れない。
だがしかし、俺は一人で戦っているわけじゃない!
瞬間、赤い斬撃が――
――否、赤い衝撃が飛来し、幻想種の右肩に命中した。
勿論、そんなモノでは傷が付くか付かないか程度だ。
だが、命中したその一瞬、攻撃を出した相手を幻想種が確認する一瞬に……隙が出来た。
踏み出す。一歩、足を踏み出して剣戟の先に進む――
だが、零距離で打つにはまだ少し時間が掛かる、刃を幻想種に押し当てる為の時間が――
幻想種にはまだ左の刃が残っている。
今すぐに俺を攻撃することなど、容易なことだろう。
だけど、せっかくチャンスをくれたんだ……掴んでみせる。
――左腕、草薙の剣を握る手を伸ばす。
幻想種が左の手の銀の刃を振るう。
――右腕、黒天月を持つ腕を伸ばす。
俺に向かって迫る刃、その軌道に、右手を伸ばす――
左腕を伸ばす。――あと少し。
痛みが走る、同時に、幻想種の左手に持たれた銀の剣が朱に染まる。
そう、銀の刃の攻撃を防いだのだ。
否、右腕を犠牲にして、敵の攻撃の軌道をそらしただけ。
だけど、それで十分だ。これで草薙の剣と幻想種の距離は零――
――神話に曰くその剣は八岐大蛇の尾の中より現れたとされる――
瞬間、大気を引き裂きそうなほどの大蛇の咆哮が轟き、爆風が巻き起こった。
その爆風によって、俺の意識もそこで途絶えた。

<Interlude-蒼二->――昼
爆音と閃光と押し寄せる力の波が消える――
――痛い。死ぬほど痛い。
――あぁ、だけど……もう慣れてしまった。
死ぬほど痛い? それがどうしたと言うのだ、死んでいないじゃないか?
「惜しかった……さっきまでの僕だったら今のでやられていたろうに……」
それにしても、渾身の一撃とはいえここまでのモノだとは思っていなかった。
まさか、左半身をほとんど全部持っていかれるとはねぇ……
――だけど、それでも僕は倒せない。
――それでも僕を殺せない。
消え去った半身を描くように蒼い光が走り、紡ぐ――
「StartOfFlame」
その瞬間、消し飛んだ左半身がほぼ一瞬で元に戻った。
「さて、初めからそのつもりだったけど……君には死んでもら――」
……いない?
逃げたのか? それとも自分の技の反動でどこかに飛ばされたか?
先程の一撃が作り上げた煙が視界を遮り、探し出すことは難しそうだ。
「まぁいいさ。どうせ全員殺すんだ。」
さて、次は誰を殺ろうか……
考えても、この煙じゃ探すことは出来ないか……まぁ誰でもいいか、見つけた奴から殺そう。
それなら……飛ぶより歩いた方が楽しそうだ――

<Interlude-聖五->――昼
やった……のか? くそ、煙でなにも見えない。
翼は地面に落ちたみたいだが、死んではいないだろう。
ただ……黒崎。アイツはどうなったんだろうか?
零距離であの技を撃つためとは言え、片腕が無いのでこれ以上の戦闘は無謀だろう。
そして……あの爆発で無事かどうか……
そういえば、時乃は負傷していて動けない筈だ……どこかに移動させてやらないと。
煙ですぐ先も見えないが、前に居た位置に行けばいいはずだ。
足には怪我をしていなかったから動けるがも知れないが、動いたとは思えなかった。
そもそも動けるなら、もっと早く移動しているはずだろうし……
とにかく、いってみよう。
俺は煙をかきわけながら進んでいった。

<Interlude-蒼二->――昼
「StartOfFlame」
吹き飛ばされた下半身が元に戻る。
「それにしても……案外あっけなかったねぇ?」
最後に再び零距離でも攻撃を受けたせいで、下半身を持っていかれたが――
それにしても、英語と言うのは難解だ……彼等の喋るのが早すぎて内容が理解できなかった。
「まぁ、学校教育程度で英語を理解できるはずも無いか……」
それに……言葉が分からなくとも、恐怖に歪んだ顔と言うのは何処の国でも同じだ。
一対三でもここまで圧倒できる。……
つまらない……死んでしまうと実につまらない。
恐怖に引きつった顔を見るのと、死ぬ間際を見るのは楽しいが、殺してしまっては何も残らない。
地面に転がる、三つの骸が……それを教えてくれた。
「さて、これで残るは四人。あぁだが、翼と……黒崎はもう無理か」
せっかく消えかけていた煙が、再び色を濃くしている。
……まぁいいさ。もう少し、この状況を楽しむとしよう。

<Interlude-聖五->――昼
鳴り響いていた剣戟の音が止んだ。
どうなったんだ?少し煙は少しは薄くなっていたが、それでもまだ先は見えない。
――瞬間。
薄くなり始めた煙の中に、白い光の柱が伸びていくのが見えた。
またか……
「まだ殺り合ってるって事はまだ会長は死んでないわけだ……」
戦ってるのは金髪や、銀髪の人たちだろう。
俺にも戦う力が、《聖賢》があれば……
――いや、アレだけ力を込めてだめだったんだ、今更どうにかなるなんてことは……
待てよ……翼が戦ってるって事は翼の聖具は間違いなく元に戻ったんだ。
なら、《聖賢》もよみがえる可能性はあるのか?
だけどどうやって? 俺がいくら力を込めたって、大した量にはならない。
そんなことより、今は時乃を――
『時乃の力を借りれば、或いは――』ふと、そんなことが頭によぎった。
そうか……そうすれば、ひょっとしたら……
わずかに生まれた希望を持って煙の中を進んでいく。
――居た。
煙の向こうに、確かに時乃の姿を確認して、走り出す。
「大丈夫か? 時乃」
「聖五……さん? どうしてこんなところに? それに、どうして起きてるんですか?」
俺を確認するや否や、驚いたように俺の顔を見ている。
どうやら、春音で一度会っただかだが覚えていたらしい。
「どうして起きてるって……質問の意味がよく分からないけど?」
剣が刺さったままだが、どうやら命に別状があるほどのものではないらしい。
「……もういいです、それよりここは危険です、早く逃げてください」
「君の方こそ、危険だと俺は思うが?」
「私を助けに来たんですか?」
「いや、助けにって言うよりは戦闘が起こってる所から少しでも遠ざけようと思ってな」
「何が……目的ですか?」
「はじめは目的なんて無かったけど、今は一つだけ協力して欲しいことがある」
「何……ですか?」
「少しここから離れてから話すさ……足は大丈夫そうだけど、歩けるか?」
「……一応歩くことは出来ると思うけど、傷が痛むから無理は出来ないわ」
……めんどくさいな、でもしょうがない。
「……じゃあ背負って言ってやる、早く乗れ」
そういって時乃に背中を向けて座る。
「乗れないわ、肩にこんなものつけてたらあなたも怪我してしまう」
確かにそういわれればそうか……なら
「……あ〜しかたねぇ」
俺は地面に座っている時乃を抱き上げる。
俗に言うお姫様抱っこと言う奴だ。
「っちょっと、あなた……何してるの!?」
「騒ぐな傷口に触るぞ?……それに、ちょっと運ぶだけだ」
そういって俺は駆け出した。

――to be continued.

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