EternalKnight
VS禁忌/旧神外伝
<SIDE-Seto->
「それはあれか? 触覚と痛覚を遮断しているのかな? あまりソレはお勧めしないな? そんな事をしているから自分の体の状態を把握出来なくなるんだ、この様に――」
私の胸を貫いたままの状態で居た少年が、そんな事を言うのと同時に、私の体は内側から裂けて、そこから赤黒い結晶が飛び出してきた。
男に貫かれた胸部を中心に結晶が体の内側から飛び出してくる――その異変に、それだけの異変に、私はソレが体の内側を突き破って生えだしてくるまで気付けなかった。
気付けなかった理由は考えるまでもなく、少年の言った様に全身の触覚を遮断していた事にある。だけど、私にソレをさせたのは他でもない目の前の少年だった。
ある程度経験を積んだエーテル存在は、感覚を任意で遮断する事が出来る。基本的には痛みを誤魔化して戦闘を続行する際に痛覚の遮断などを行うのだが、今回私は痛覚以外にも触角も遮断していた。
否、触覚を遮断せざるを得なかったのだ――少年がそのままの状態を維持した私の胸を貫いていた腕の異物感から逃れる為には触覚を遮断するしかなかった。
そして、私が触覚と痛覚を遮断している間に、少年は私の体の内側を好き勝手に弄り回したのだ。その結果が、内側から生えて来た赤黒い結晶と言う事だろう。
――と、冷静に分析してはいるが、はっきり言って今の私には殆ど余裕が無い。
否、この場から逃げ果せる事はいつでも出来るのだけど、その前に長く生きる守護者の先輩として後輩達に何かのヒントを残してあげたいのだ。
逃げ果せた所で、どこに飛ぶか分からない手前、この傷で助かるのかはやってみなければ分からない。
全身の無数の傷口に、至る所から生える赤黒い結晶が体表を突き破っている箇所も傷口なのだから、それらからもエーテルが漏れるだろう事を考えると――否、考えるのはやめておいた方が懸命だろう。
今は、ツバサがこの少年と戦う為のヒントを探そう――どうせ逃げようが逃げまいが、手当て出来ない事に変わりは無いのだから。
「あぁ、君はもう良いから、さっさと死んでくれないか? ――何、心配しなくてもお仲間も直ぐに後を追わせてあげるから待っていれば良い。」
そんな風に考えている間に、私の胸を貫いている少年はそんな事を言いながら、胸の傷を押し広げる様に抉りながら、貫通していた腕を私の胸から引き抜いていた。
引き抜かれ、抉られた孔から鮮血が流れ出し、流れ出した血は金色の光となって空間に融けて行く。痛覚と触覚を遮断している今、ソレはどこか他人事の様で、自分の身に起こっている事だとは思えなかった。
少年は「もっとも、死後の世界とやらが本当にあるのならの話だけどね?」言いながら、左手で私の体を突き飛ばして、私の胸から引き抜いた右腕を掲げる。
その右腕からは視界を奪う程の青白い光を放つ巨大な球体が生み出されて――ソレは私に向けて放たれた。ソレを見て、私は敵の能力がなんであるのかを理解すると同時に、自分の死を覚悟した。
転移能力を使えば今からでも目前の死は回避できる、だけど、ソレを回避出来たからと言って必ずしも生き残れる訳じゃない。
だったらせめて、今ここで確実な死を迎えるのだとしても、折角敵の能力の正体がわかったのだから、それをツバサとユフィに伝えるべきだ。ソレが、きっと今の私に出来る事で――
【二人とも、敵の能力についての私なりの推測を立てたから聞きなさい】
その私の覚悟を「それって、この攻撃凌いでからじゃ駄目なんですかね?」私と青白い光を放つ球体との間に割って入り「《ElderSign》」正面に障壁を展開したツバサが妨害してきた。

<SIDE-Tubasa->
【二人とも、敵の能力についての私なりの推測を立てたから聞きなさい】
そんな覚悟を決めた様な意志を感じるセトさんからの念を聞きながら、俺はセトさんと、少年の右手から放たれた青白く光を放つ球体の間に、全速力で割って入る様にその場を動き出した。
セトさんは、きっとさっき自らの死を覚悟した上で、《彼方》での転移でこの場から逃れるという選択支を捨てて、俺達に情報を残そうとしていた。だけれど、そんな事はさせない。
俺がさせたくない。だから「それって、この攻撃凌いでからじゃ駄目なんですかね?」何食わぬ様な態度で、セトさんと青白い光の球体との間に飛び込んで「――《ElderSign》」旧神の紋章を展開した。
直後に、青白い光の球と《旧神の紋章》は衝突し、展開したその紋章に多大な負荷が掛かる――が、紋章でなんとか青白い球体に抗う事に成功する。
そんな俺の姿を見て「驚いたわ……けど、どんな攻撃かも分からない攻撃の前に突然飛び出して来るというのは正直褒められたものじゃないわよ?」セトさんは呆れた様な声色の言葉をくれた。
「生意気かもしれませんけど、これでも一応準最高位ですから――先輩とは言え、仲間を守るくらいの事はさせてください」
セトさんの言葉にそんな風に軽口を返しながら《旧神の紋章》の展開を維持し続ける。
受け止めた青白い球体からは、凄まじい熱波が放たれていて、それだけで青白い球体事態が持つ熱量が凄まじいモノである事を理解出来た。それでも《旧神の紋章》は揺るがずにその球体を受け止め続ける。
そして、衝突から十数秒の後、青白い光の球体はその力を失って消滅していった。
だけどその青白い球体を打ち出した側の少年は何食わぬ顔で「成程、最初に必死になって其処の彼の能力を発動させたのはあながち間違いではなかった訳だ」納得した様に頷くだけだった。
そして「正直アレを止められるとは思ってなかった――けど、それは所詮結末を遅らせて、仲間を苦しめる事にしか繋がらないと理解しているかな、君は?」今度はそんな事を言い出した。
少年のその言葉を証明する様に「セトさん!」ユフィさんの声が響く。呼ばれたセトさんは直ぐ後ろに居るけれど、この少年を目前にしている状態で振り向くと言う行為は自殺行為以外の何物でもない。
故に、俺には振り返ってセトさんの状況を確認する事が出来なかった。だけど、セトさんの体からエーテルが今まで以上の早さで流れ出し、反応が少しづつ弱くなり始めている事だけは知覚出来た。
否、セトさんだけじゃない――ユフィさんのエーテルの反応もセトさん程の早さではないモノの、少しづつ漏れ出している。
「――お前、二人に一体何をした?」
「僕がその問いに答えるとでも思ってるのかい? もっとも、僕はさっき君が防いだ事以上の事はしていないんだけどね。まぁ、気になるなら、振り向いて確認してみると良い。直ぐに分かるよ」
それが出来ないからこうして振り向けずに居るのを分かっていて、少年はそんな言葉を吐いてくる。
だが、こうして睨み合っていても何の解決にもならない上に、時間が過ぎれば過ぎる程エーテルが流出しているセトさん達の状況は悪くなる一方なので悠長にもしていられない。
【振り向く必要は無いわ、ツバサ。だけど、私はもう戦えないから後は貴方達に任せる事になってしまうわ。だけど、今の攻撃で相手の能力がなんなのか、推測が確信に変わったから聞きなさい】
焦る俺に、セトさんからの念が届く――俺達だけで少年と戦おうとは思って居たが、新ためて戦える状態じゃないと伝えられると応えるモノがある。
「俺が振り返ったらどうするつもりだよ?」
だけど、俺達だけで、俺とカナエの二人で戦うつもりである以上、尚更相手の能力が何なのか分かるのは大きい。
セトさんよりもダメージの少ないユフィさんはまだ戦えるというかもしれないが、やはりBクラスの彼女がSSSクラスと見て間違いないあの少年と戦うのは無謀も良い所だ。
「分かりきった事を聞かないでくれるかな? 僕はこれでも君達をさっさと殺してしまって次に行きたいんだよ」
相手がSSSであるのならこっちも同じSSSである俺が、俺達が戦うしかない。永遠の騎士としては守護者でも最若輩な俺達だけど、位階だけなら準最高位なのだから。
【分かりました、セトさんもユフィさんも、俺達が逃がして見せます】
【いえ、私の方は自前の能力で離脱するからユフィの方だけお願いするわ。流石に二人守りながら戦うのは簡単じゃないでしょ? と、話が逸れたけど、敵の能力だけどね】
「だから、君が馬鹿正直に振り返らない以上、これ以上時間を与えるつもりもない――とりあえず、他の二人はもう禄に戦えないだろうし、コレでようやくSSSの君と一対一だ」
【彼の聖具の能力は、恐らくLv7までの全属性の魔術を使用できる事よ】
全属性のLv7ってそれぞれ何が出来るんだっけ? と、言うかそもそもLv7って相当な才能と年月が無きゃ辿り着けない域だった筈じゃなかったっけ?
(えぇ、その筈よ――詳しくは私も知らないけど……)
「偉そうに言ってる割りにはやってる事は臆病だな? 一対一でないと準最高位とは戦えないってか?」
【ユーリの《探求》も似た様な事が出来るけど、あれは《探求》の能力で生まれたオマケであってメインじゃないんだけど、Lv7ともなると流石にそれがメインの能力と見て間違い無いと思うわ】
そうだ、確かユーリさんも全属性のLv6までが使えるんだっけか? とは言っても、魔術の一位階って上に行く程差が広くなるらしいし、きっとユーリさんよりも断然強力な力を使ってくるのだろう。
「別に全員同時でも構わなかったけど、万が一と言うモノもある。僕は死にたくないし、時間もあまりかけたくなかったから、より確実に手っ取り早く勝つ方法を選んだ、それだけさ」
右手に展開したままだった握っていた《魔を断つ旧き神剣》を少年に突きつけながら「言ってろよ、手っ取り早くどころか、お前は今から俺に倒されるんだ」言い放つ。
【唯、Lv7までと言うのはあくまで此処までの戦いから得られた結果であって、ひょっとするとLv8が使える可能性も零じゃないと言う事だけは覚えておいて】
「君が僕を倒す? 随分と言うじゃないか……仲間が居なければ今展開させているその能力すら発動させれずに死んでいたかもしれない、唯の準最高位の契約者の分際で」
「お前だって同じ準最高位だろうが――それとも何か? 魔獣である事が、他の誰かを殺してその犠牲の上で成り立ってる様な存在である事が、そんなに偉いってのか?」
【急いでいると言ってる割に使ってきていない事を考えると使えないのだとは思うけれど……万が一って言う可能性もあるから】
「っ……確かに、僕は偉くなんてない。言ってしまえば王の下僕みたいなものさ。だけどね――」
そこで言葉を切った少年は此方に視線を向けて、次の瞬間にはその場から一瞬で姿もエーテルも消えて――
【ツバサ、後ろ!】
そうして少年が消えた刹那の後に、セトさんの念に反応して振り向こうとした時には既に遅く、俺の体は凄まじい熱量に襲われた。
熱いと言うよりも痛いと呼ぶべき程の――《旧神聖典》が発動していなければ、そのまま蒸発していたのではないかとすら思える程の極大の熱量を全身に叩きつけられて、俺はその場から大きく弾き飛ばされる。
これは、先程《旧神の紋章》で防いだあの攻撃だろうか? 《旧神の紋章》越しでも相当な熱さだったが、直接貰うと《旧神聖典》を発動していても此処までのダメージになるのか……
強化されている治癒能力で直ぐに治りはするだろうが、あまりの熱量に皮膚が爛れて目を開く事が出来ない。
幸か不幸か、何かの意図があるのか、彼のエーテルの反応がこちらに近付いてくる気配は無い。
【セトさん、今のが火属性の魔術のLv7って事で良いんですか?】
その俺の問いに【えぇ、そうよ】セトさんから短い答えがが帰ってくる。コレで、Lv7なのか……この威力でまだ上の位階があるのかと思うとぞっとするが、今は関係ない話だ。
そもそも今のがLv7だというのなら《旧神の紋章》で防御さえ出来れば防げるという事だ。故に問題なのは、前の前で消えられる、アレなのだが……恐らくあれも、魔術と言う事になるのだろう。
【貴方の目の前で消えて見せたのは空属性のLv7よ。これが、多分一番やっかいなんだけど、分かりやすく言うのなら条件付の空間転移能力なんだけど……悪いわね、これ以上の説明は無理そうだわ】
セトさんから伝わってくるのは予想通りの念で、やはりLv7と言う途上の段階でそこまでの事が出来る魔術への興味と恐怖が俺の中で膨らんでいくのを感じる。
だけどそれ以上に、もう説明が続けられないというセトさんの言葉が気になった。否……待て、そもそも何で俺がこんな状況なのにあの少年は俺に追い討ちをかけてこないんだ?
【セトさん?】
【悪いけど、後は頼んだわよツバサ。私はこんな事言える立場じゃないけど……貴方は、生き残りなさい】
そのセトさんの念を感じ取るのと同時に、嫌な予感がしてセトさんとユフィさんのエーテルの反応を探す。
――ユフィさんの反応は見つからず、セトさんの反応は見つけるのと同時に消えてしまった。
それが何を意味しているのかなんて、考えるまでも無く分かってしまった。
こうなってしまったのはきっと俺のせいだ。俺が初めから、敵が攻めてくる前から能力を発動させていれば、きっとこんな事にはならなかった筈だ。
僅かなエーテルの消耗と持続時間に応じて訪れる解除後の疲労感を嫌った結果、俺は仲間を失ってしまった。それを悔やんだ所でもう遅い、時間はどうしようもなく不可逆だ。
だったら、俺に時間を与えてくれた仲間の為に俺は絶対に生き残らないといけない。準最高位のあの少年を他の仲間の下へと向かわせてはいけない。彼は準最高位である俺が、俺達が倒す。
その為には――今のままでは足りない。俺一人では、きっと彼には勝てない。それは此処までの戦いで痛い程理解出来たから……だから、カナエ。
(……分かってるわ、ツバサ)
「(その神はあらゆる場に在り、あらゆる時に在り、あらゆる祈りを聞き、あらゆる祈りを謳い、あらゆる誓いを謳い、あらゆる誓いを貫き、あらゆる世界を救う)」
もう手遅れな事もあるけれど、俺はまだ生きていて、道を残してくれた仲間の為に、やらなければいけない事がある。
「(我は聞き、祈り、謳い、誓った。汝が世界を救う神ならば、この場、この時に顕現せよ、最も旧く、最も新しい神の書よ――)」
だけど、それは俺一人ではきっとそれを成す事は出来ない。だから、もう一人、俺を支えてくれる存在が必要で――
「(――《旧神外伝-AnotherBible-》)」
――俺達にはそれを叶える手段があった。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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