EternalKnight
VS禁忌/旧神聖典
<SIDE-Seto->
私がその存在を知覚できた時には、全てが遅すぎたのかもしれない。
《彼方》の特性によって超広域にまで広げられた私のエーテル探知能力は、少なくとも守護者の中では群を抜いているし、単に範囲が広いだけでなく、他のに比べてその探知能力も高いと自負している。
それでも、敵に大幅な接近を許してしまった――ここまで近付かれるまで敵の存在に気付けなかった。
相手の気配の消し方は、確かに私の記憶にある限りではもっとも巧いと言えるだろうけれど、それでも絶対に感づけない程ではない。
自信と聖具の気配を消すのではなく、極限まで弱めて周囲のエーテルに近い量を維持する――言葉にすると簡単だが、決してそれは簡単な事じゃない。
それこそ、今こうして接近を許してしまった敵も、完全には周囲と同化出来る程完璧には気配を調整出来ず、意識しなければ気付けないだろうが、意識すればその違和感を見つけられる、程度に収まっている。
それでも、本人の気配だけでなく聖具の気配もまとめて制御できている時点で明らかに常軌を逸している。
微妙な調整は兎も角、自身のエーテルの反応を抑える事はそう難しい事ではないが、聖具の反応に関してはそうそう調整出来るモノじゃない。
待機形態か、それでも反応が強いなら聖具の限定化か――普通ならそれ以外に聖具の反応を抑える方法は無い筈なのだが、何事にも例外はあると言う事だろう。
加えて、ある程度距離が縮まっているのに、居場所は反応からつかめているのに、その姿を全く捉えることが出来ない。即ち、エーテルの反応だけでなく、その姿まで隠していると言う事だ。
反応を隠しながら、自身は姿を隠す能力を利用できる――これだけでも十分に規格外と言わざるを得ないだろう。
もっとも、Aクラスでありながら守護者の中で最大の探知範囲を持つ私もそういう例外の一人なのだから、例外は認めるしかない。
今も近距離間の転移を連続して行いながら、確実に此方に接近してくる敵の反応が私達の元へと到達するまで、凡そ十数秒――で、あれば私のすべき事は決まっている。
そこまで考えた所で「セトさん、にゃにか……変じゃにゃいかにゃ?」ユフィのそんな声が聞こえた。
何かが変だと感じている辺り、彼女は敵の反応を捕らえたのだろう――彼女の位階から考えれば、つい先ほど探知範囲内に入ってきたばかりの敵の反応を。
「あら、ユフィの方は気付いた見たいね、と言うか我ながら情け無い話だけど――」
ソレが偶然か必然かは分からないけれど、どちらであれ、彼女には相応の才能があるのかもしれないが、そんな事は今はどうでも良い。
「否、ソレは後で良いわ。兎も角ユフィ、ツバサ――敵を迎え撃つ準備をしなさい。出来る限り早くね」
今は残り数秒でこの場に到達する敵に対抗する事を考えなければいけない。反応を隠しているせいで敵の位階を正確には把握出来ないが、ここまでの能力があるのなら、恐らく準最高位と考えて間違いない。
敵に気付いていたユフィは素早く「《Prepare》」と、能力を発動させたのに対して、状況を正しく理解できていないツバサは「え? セトさん? それって、どういう――」そんな風に私に問うてきた。
その問いに対する回答をしている時間は無い。敵の反応は本当にもう直ぐそこまで来ている。此処までの一度の転移の距離から考えて、次の転移で丁度私達の目の前に届くと言う所まで既に迫ってきているのだ。
そして、未だにその姿を私達に晒さない打倒すべき敵は、此方との距離を詰める為の最後の転移を実行した。

<SIDE-Tubasa->
「え? セトさん? それって、どういう――」
そう俺が聞き返している間に、ユフィさんは「《Prepare》」と能力の名を紡いでいた。
ユフィさんは何かを感じ取り、ソレをセトさんに問うていた。
それに対するセトさんの答えが迎撃の指示だったのだから、俺のすべきだったのは、二人の言葉の真意を知ろうとする事等ではなく、その言葉に従って迎撃の準備をいち早く行う事だったのだ。
そう理解した時には既に遅くて、《刹那》に匹敵する程、或いはそれ以上の密度のエーテルで構成された俺達の戦うべき敵のモノと思われる反応が俺の直ぐは後ろから感じ取れた。
否、そもそも《刹那》に匹敵するかそれ以上の密度のエーテルで構成されて居る事は、この際問題では無いのだ。
その条件だけで言えば、準最高位である時点で、俺も《刹那》よりは少し劣ってはいるが、ソレに近い程度の密度のエーテルは保持している。
故に、今この瞬間に恐るべき事は、それだけの密度の反応が、この瞬間に至るまで俺には全く知覚出来なかった事の方だろう。
セトさんは少し前に気付いていた様だし、ユフィさんも何か違和感を感じ取っては居たみたいだが、ソレにしたって常識ハズレも良い所だ。
特にセトさんにここまで近付くまで気付かれていないと言う時点で常軌を逸した隠密性と言って良いのではないだろうか?
ここまで来るとそういう特性の準最高位である可能性が高い。背後に敵の反応を知覚してから振り向くまでのほんの僅かな間に、目まぐるしく思考を巡らせる。
そして、振り向いたその先に見えた光景が見えると同時に、巡っていた俺の思考は停止した。
「まず、一人――クラスは低いけれど、真っ先に僕に気付いたのは君だったみたいだからね。まぁどの道全員殺すんだから、順番なんて大して関係ないんだけどさ」
振り返ったその先に見えた光景は、輝く様な金色の髪と冷たい銀色の瞳を持つ黒衣を身に纏った少年が、その手で正面からセトさんの胸部を貫いているという、信じ難いモノだった。
「「セトさん!」」
殆ど同時に振り返った俺とユフィさんの声が重なる――ソレを聞いて、セトさんを正面から貫いた少年は納得した様に頷きながら「やはり彼女が一番の古参みたいだね」そんな風に言葉を紡ぐ。
「まぁ、エーテルの反応的には彼女は君らの中じゃ一番弱いみたいだし、こんな雑魚の処分は手早く済ませるとしよう」
その少年の言葉に「誰が、雑魚……ですって?」胸を貫かれたままのセトさんが反応する。
【ツバサ――私がこの男の注意を引きつけるから、あなたは《旧神聖典》を発動させなさい。勿論、詠唱なんかすれば直ぐに気付かれるから、言霊は紡がずに術式を頭の中で組み上げて、よ?】
ソレと同時に少年に気付かれない様に、念話で俺にそう指示を飛ばしてくる。だったら俺は、それに従うまでだ。セトさんがそうすべきだと判断したのなら、俺はそれに従う。
否、セトさんの指示が無くても、目前の少年が相手であるのなら、準最高位が相手であるのならどの道《旧神聖典》の使用は避けられないだろう。だったら、最初から使っておくに越した事は無い。
【分かりました、少しだけ時間稼ぎをお願いします――】
「決まっている、雑魚とは僕の接近に気付きながらも攻撃を避けれなかった君の事さ――考えるまでも無いだろう?」
とは言え《旧神聖典》の術式を詠唱なしで展開した事は実は今までに一度も無い――だが、やるしかない。セトさんが無理をして時間を稼いでくれて居るのだ。出来ませんでしたでは済まされない。
(大丈夫、詠唱は無くても問題ないわ。ツバサはいつもの詠唱を思考して、最後に名前だけ紡いでくれれば、それで発動できるわ――何時もより多めにエーテルを消費するけど、それは問題じゃないでしょう?)
「全員殺すだのと宣言しておきながら、一番古参で最弱な私を狙ったのは何故かしら? 」
いつも通りで良いって――本当に大丈夫なのかカナエ?
(えぇ《もう一つの聖典》いえ《新約聖典》が使える今ならそれでも問題ないわ)
だったら、セトさんを助ける為にも、早速始めよう。
こうして俺とカナエが念話を交わしている間もセトさんが時間を稼いでくれているのだ。ゆっくりとは、していられない。
「一対多に限らず多人数との戦いの鉄則は、倒せるモノから倒す事だ――僕はソレを守っているだけに過ぎない。君らを倒すのは容易だが、油断も手加減もする気はないんだ」
我等は誓う(護る事を)我等は祈る(平和な世界を)我等は愛す、俺は叶を(私は翼を)(我等は謳う)遠くまで響くように(誓い)祈り、愛し、謳い続ける!
「だから、君の時間稼ぎに乗ってやっているのは、僕の方にもその間にやるべき事があったからであって、決して油断と言う訳じゃない」
我等は貫く(胸に抱いたモノを)誓い(祈り、愛し、貫き続ける! そして、謳い貫き続ける為に)ここに旧き神の書物を写す(いざ、ここに紐解かれよ――)
ここに、術式は組みあがり「――《旧神聖典-ElderBible-》」組みあがった術式を発動させるトリガーとなる力の名を紡ぐと同時に《旧神聖典》は発動した。
発動と同時に【――後ろだ】鋭敏化した感覚が「ッ――ユフィ! ツバサ!」セトさんが声を上げるよりも早く、背後から迫るエーテルの反応を発さない何かの存在を俺に認識させた。
セトさんの声が聞こえるのとほぼ同じタイミングで、俺は背後へと振り向きながら「《ElderSign》」言霊を紡ぎ《旧神の紋章》を展開して背後から迫る何かから身を守る。
直後に、先端の鋭利に尖った無数の氷塊が《旧神の紋章》に衝突して砕ける。
射出された氷塊には相当なスピードもあったが、幾らスピードがあり、且つその先端が鋭利でも、エーテルの篭っていない唯の氷塊では相当の質量でもない限り《旧神の紋章》は破られない。
少なくとも衝突と同時に砕ける程度の質量ではどれだけだろうと防げる自信がある。だが、しかし――
「ッグ……」
「ユフィさん!」
咄嗟に展開した《旧神の紋章》では自分を守るだけで精一杯で、少し離れた位置に居るユフィさんの事を守る事は出来なかった。
それでも《Prepare》を発動させ、獣化によって能力が底上げされていたのが幸いしたのか、ユフィさんの体を貫く氷塊は三つしかなく、その全てが致命となるモノではなかった。
打ち出された数から考えれば、ダメージは少なく済んでいる方だろう――が、無論軽症とは言える様なダメージでもない。少なくともあの少年と戦える様な状態ではないと言う事だけは間違いない。
「成程、時間稼ぎは彼の為だったのか……良かったじゃないか、彼は無事に能力を発動させられたよ? もっとも、結果的には彼女は戦える状態ではなくなったみたいだけどね」
「どの道貴方が相手じゃ、私もユフィも大して持たないだろうし、ツバサの準備が整ったのならそれで十分よ」
セトさんは胸を貫かれ、ユフィさんも両腕と右足を氷塊に貫かれている今、マトモに戦えるのは俺だけしか居ない。
否、こんな考えは傲慢かもしれないが、そもそも少年と真っ当に戦えたのはこの場には初めから俺だけしか居なかったのかもしれない。
俺がしっかりしていれば、セトさんもユフィさんもこんな風に傷つかずに済んだのかもしれない。悔やんでも遅いし時間は戻ったりはしない。だったら、今俺がすべき事は――
「《魔を断つ旧き神剣-ElderDemonBane-》」
詠唱と共に右手にエーテルが収束し、そのエーテルは刃の形に形成される。俺に出来る事は、この少年を俺一人で何とかして、二人を逃がす事ぐらいしかないから――だから、戦う。
奇跡はきっと存在しないから、きっと皆、全員が厳しい戦いを強いられているだろうから、応援は来ない。だったら、だから、この場に居る二人は俺が守ろう。
三人の中じゃ一番若い俺だけど、こんな俺でも最高のパートナーを持つ準最高位だ。同じ位階の俺がやらずに、この場の一体誰があの少年が戦うというのか。
そんな想いを胸に顕現したエーテルの刃を少年に突きつけて「そこのお前、いい加減にセトさんを解放しろ」少年に向けて言葉を放った。
「能力を発動させたとたんに一気に強気になったね――君の能力の発動までの間に、一人仲間が犠牲になったと言うのに、ソレについて思うことは無いのかい?」
「あるさ、お前にはきっと理解できないぐらいにな。だけど、だからこそ能力を発動させられた今、お前の相手を俺一人でやってやると、そう言ってるんだよ」
視線の先に居る少年を挑発する様に、少年の言葉に応じる。
その間に【ユフィさん、俺がこいつの気を引いている間に、貴方は早くここから離れてください――セトさんも、必ず俺が逃がしますから】ユフィさんに念を送ってこの場からの離脱を促す。
その念に【だけどツバサ、貴方一人でこいつの相手が出来るの? 貴方を信用していない訳じゃないけど、相手の能力は完全に未知数なのよ?】自分も重症を負っている筈なのに、俺の事を案じた念が返って来る。
そんな念話を交わしている間に、少年との会話は「ソレは挑発か、或いは時間稼ぎかな? 悪いけどどちらにも僕は乗ってやるつもりは無いぞ?」相手側から一方に打ち切られた。
「それから、君も君だ――胸を貫かれているのに、随分と余裕そうに話すじゃないか? 否、君は永遠の騎士だ、胸を貫かれているのに言葉を発する事が出来るのはまぁ問題じゃない」
セトさんの胸部を貫いた腕を動かして傷口を広げながら少年は饒舌に言葉を紡いでいく。
「それはあれか? 触覚と痛覚を遮断しているのかな? あまりソレはお勧めしないな? そんな事をしているから自分の体の状態を把握出来なくなるんだ、この様に――」
そして、そんな言葉を少年が紡ぐと同時に、セトさんの体の内側から赤黒い結晶が体表を突き破って生え出してきた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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