EternalKnight
VS禁忌/黒之聖典
<SIDE-Reibe->
王の下を離れた僕は、残っている敵の中でもっとも近い位置に居る三人組を相手に定めて、彼等の下を目掛けて速度を上げる。
王は僕の力は必要無いと言っていた。それは事実かもしれないが、現実問題として王のその自信に明確な理由は存在していない。或いは僕等にソレを説明していないだけなのかもしれないが――
最高位の数はどちらも二つ……一人で二つ持つ王と一人一つづつの敵。単純な計算ならば、数が多い敵側の方が有利に見える、そしてだからこそ僕は王を心配しているのだ。
複数の聖具を持つ者は、稀有な存在ではあるが存在しない訳では無い。過去に一度きりだが僕にも二つの聖具を持っている相手と戦う機会はあった――そして、だからこそ僕は心配なのだ。
複数の聖具を持っていようが、その強さは二つの良い所を寄せ集めたに過ぎない。二つ持っていようが、二重の加護を得られる訳では無いのだ。
王の創った《七鍵》とやらがどれ程の物であろうと、きっとそのルールは越えられない。だからこそ、僕には数で劣る王が心配だった。王の敗北は、王の死は、等しく王に呪われている僕等全員の死なのだから。
――僕は、生きていたい。例えどうなっても、絶対に死にたく無い。一度、人としての死を迎えたからこそ、僕は切にそう願う。
一度の死を乗り越えて、魔獣となって寿命と言う枷からは開放された――その代わりに、別の枷が僕を縛る事にはなったけれど、寿命と言う絶対の枷とは違い、それは僕の努力次第で守る事が出来る。
だから、僕にとっては魔獣化は決してマイナスではなかった。本音で言えば、魔獣となる前に上位の聖具を見つけ、ソレと契約できるのが一番だったのだろうけど、過去を悔やんでも仕方が無い。
今を認め、今を見つめ、今自分に出来る限りの事をする――僕はそうやって生きてきた。
今出来る事をする為に、そして命のやり取りをする上で重要になる数の理を埋める為に僕が望んだ力が《殺意の装甲》――なのだけど、はっきりと言ってしまえばこの力は別段凄くもなんとも無い。
他の知る限りの王下連中の能力に比べると今一ぱっとしない、相手どるのも面倒な雑魚の処理には便利だけれど所詮はその程度の能力でしかない。
そして、聖具の能力も――僕の主観で言えば、使い勝手も悪く無く、決して弱いモノでは無いとは思うけれど、それでも二位となっていた《刹那》と比べて自分が勝っているとは僕にはどうしても思えなかった。
しかし、その王下一位の座は、単に《刹那》に比べて僕が王の命を聞くからという理由で与えられた物では無い――他でもない《刹那》が僕を化物じみた餓鬼と呼んでいたのがその根拠だ。
言うまでも無く、僕は彼とはあの時初めて出会った――その上で一目見て彼が僕を化物だと断じた理由が僕には分からない。
王や《躯骸》が言うには、僕の《禁忌》には何か特殊な力が備わっているらしいのだが、その力は可能な限り使うなと王に釘を刺されている。
故に、僕は《禁忌》を準最高位たらしめている力、《禁忌の柩》と言う名を持つその力の実体を知らない。王が可能な限り使うなと言っているのだから、僕にソレを使う権利は無い。
もっとも、絶対に使うなと、言われている訳では無いので、状況によっては使っても良いのだろうが……使うとしても王の支援に向かう際、即ち相手が最高位である場合ぐらいだろう。
《刹那》に匹敵する強さであるなら、準最高位相手でも使わざるを得ないかも知れないが、そもそも《刹那》に匹敵する存在が居るとも思えない。
あれは、まず間違いなく準最高位の中でも最強と言える存在だ――この僕でさえ、少なくとも《禁忌の柩》を使わない前提なら、彼には勝てる気がしない。
逆に言えば僕が王下の一位であり続けているという事実が《禁忌の柩》がどんな力か理解しているであろう王から見て、その力を持ってすれば《刹那》さえも妥当し得ると判断出来る程強力な力だという訳だ。
もっとも《禁忌の柩》に関してはどうせ今からの戦いでは使わないのだろうから、そこまで深く考える必要も無いのかもしれないが――
そして《禁忌の柩》を使わないのなら、そして可能な限り早く敵を倒したいのなら、僕には今こうして敵との距離を詰めている間にでもやるべき事がある。
故に、僕は敵の下へと向かう事も、減速する事もなく、ただ「《Apocrypha》」その力の名を紡ぐ。ソレと同時に、右手の人差し指に嵌った指輪型の《禁忌》は形を崩し、黒いハードカバーの書物へと変異する。
それを確認すると同時に「《MagiForm》」さらに言霊を紡げば、黒いハードカバーの書物は書物としての体裁を失う様にバラけ、そのページの一枚一枚が、僕の体に纏わり付いて、僕を包む法衣になる。
これが黒聖書、魔術師形態――《禁忌の柩》をこの状態で発動させる事は出来ない様だが、その点を除けば《禁忌》と言う聖具がもっとも力を発揮出来る姿だ。
これで、準備は整った、後はこのまま敵の下に辿り着く、速やかに全滅させればいい。他の事は考える必要が無い。
「そうだ、考えるのは後からで、与えられた使命を果たし、王の援護に向かえる状態になってからで良い。手短に、素早く、確実に殺す――今、僕がなすべきはそれだけだ」
自分に言い聞かせる様にそう呟いて、無駄な思考を放棄して、戦う事だけに集中できる様に意識を切り替えて、僕は目指す先へ、与えられた敵三人の下へと急いだ。

<SIDE-Tubasa->
他の場所での戦いが始まっていると言うのに、俺達の元に向かって来ている敵の反応が見当たらない。
或いは、エーテルの反応を偽装して、接近を悟られない様にしている可能性もある、それが零では無いのだから、油断は決して出来ない。
とは言え、ココど同様にまだ戦いが始まっていない戦場も残っているので、その全てが反応を偽装する能力だと言う事も考え辛い事から考えて、戦いに赴く前に何か話でもしているのかも知れない。
魔獣であろうとも、俺達と同じ様に意志を持っているのだから、そんな事があっても不思議では無い。
まぁ、どんな会話であろうかなんて、考えるだけ無駄なのだろうけど、決戦に赴く前にする話といえばある程度定番は存在するのでは無いだろうか?
どれだけ死亡フラグっぽい事を言おうと、勝つ側は勝つべくして勝つし、その逆も然りと言うのが現実だ。
数、個々の力、能力の相性――そういうモノが組み合わさって勝敗は決まる。だから、戦いの結末なんてものは、始まった時点で概ね決まってしまっていると言って良い。
運で覆せる差なんてのもあるけれど、それは結局お互いの差が僅かであったというだけに過ぎない。無論、その僅かな運で得た時間で戦場に別の要素が混じった場合はまた結果が変化するのだけど。
かつて、奇跡の様なタイミングで助けられた事が俺にもあるけれどそれはあくまで他の誰かの手によってもたらされたモノで――少なくとも今回の戦いでは援軍はまず期待できない。
故に、戦いの最中に別の要素が混じる可能性は非常に少ない。つまりは、戦いの結末は始まった時点で決していると言っても良いのではないだろうか?
(それはツバサの自論でしょ? 確かに実力の差って言うのは簡単に覆せないモノだと私も思うけど、運とか、奇跡とかで覆せる差って、きっとツバサが考えている以上に大きいんじゃないかと、私は思うの)
俺に言わせてもらえれば、そういう奇跡とかってのも能力の相性とかの内に入ると思う訳だけど――って、この話は平行線になりそうだから止めとこう。少なくとも今する話じゃない。
(そうね……けど、敵の反応も見当たらないし、探知に懸けては守護者の中でも最高の実力を持ってるセトさんでも敵の動きを掴めてないんだから、暫く敵が現れたりはしないと思うけど?)
いや、まぁ、そう言われるとそうなんだけどさ……さっきの話を続けるのも不毛だろ、なんか? 多分あのまま話してても平行線だと思うんだけど?
(そうかしら? 私かツバサか、どちらかが相手の考えに納得して、考えを変えるかもしれないじゃない? 少なくとも私は、戦いの結末は決着が付くその瞬間まで分からないと思うんだけど?)
それは、どれだけ実力に差があっても?
(えぇ、現に数位階差を覆して勝ってる人達は少なくない数存在しているでじょ?)
相性が良かっただけじゃないのか?
(そもそも相性が良い相手、なんてどれだけ居るのかしら? 一種類の特化した能力がある準最高位なら兎も角、それに満たない聖具の能力で相性次第で実力を覆せるの?)
覆せるさ。それに何も絶対的な相性の良さの話をしているんじゃない、何かしらの能力の欠点を付ける能力を持っているという条件だけに絞れば、きっと幾らでも居る。
(――そういう相手と戦う事になる事自体が運や奇跡なんじゃないの?)
そうかもしれない――が、そういう相手と戦う事になった場合、勝つ側は予め相手に勝てる能力を持っているのだから、勝敗は戦う前から決まっていると言うのが俺の自論な訳だけど?
(……確かに不毛ね、この話。私は折れる気は無いけど、ツバサの言いたい事は大体分かったわ)
俺も、カナエの考えを少しは理解出来た――認めるってのとは、また違うけどな。まぁ、考えから何から全部同じってのも詰まらないし、多少考え方が違うのは個性って事にしといて、この話は終わりだな。
(そうね、ソレが良いわ)
カナエとのそんな念話が終るのと殆ど同時に「……二人とも、来たわよ」セトさんのそんな声が聞こえて来た。
俺の方では、まだ敵の反応は掴めないが、セトさんが来たと言うからにはようやく俺達の戦うべき敵が動きを見せたのだろう。

<SIDE-Yufi->
「……二人とも、来たわよ」
セトさんの声に、無駄だと分かっていながらも。周囲に広げていた探知領域に全神経を注いでその位置を把握しようとして――異変に気付いた。
私の知覚領域のギリギリの位置に、何か妙な違和感が存在していた様な気がする。その違和感はほんの数秒で消えてしまい、その周囲には既にそれらしい違和感はない。
だけど、私の探知範囲はセトさんの足元にも及ばない様なモノだから、私に探知可能な範囲に何か異変があるのならもっと早くにセトさんが気付いているので、気のせいかもしれない。
そんな風に考えながら、私に探知可能な範囲全域に、先程の違和感が存在しないか、意識を集中させて確認してみる。
そして、先程とは随分と離れた位置で、だけれど先程よりは確実に此処に近い位置でその違和感を見つける。それは周囲のエーテルの濃度から見て浮いている、濃度が濃い空間だった。
基本的に空間にはエーテルは均等に満ちている。もっともそれはエーテルを運用できる永遠の騎士や魔獣が関わらない場合に限る。
私が見つけたのはそのルールから外れている丁度人一人分程のエーテルの濃度が濃い空間で――だからこそ其処に違和感を覚えた。
そうして考えている間に、違和感はまたもその場から消えて、今度はまた少し此方に近い位置に違和感は瞬間的に移動した。
私の知る常識から外れた空間――コレが、セトさんが気付いた敵なのだろう。
そう気付いた時点で「セトさん、にゃにか……変じゃにゃいかにゃ?」私はセトさんにそう声をかけていた。
「あら、ユフィの方は気付いた見たいね、と言うか我ながら情け無い話だけど――否、ソレは後で良いわ。兎も角ユフィ、ツバサ――敵を迎え撃つ準備をしなさい。出来る限り早くね」
その言葉から察すれば、私の感じた違和感の正体は敵だったのだと、簡単に理解する事が出来た。
「《Prepare》」
だから私は、自分に出せる全力を引き出す為に必要な力の名前を紡いだ。
だけど「え? セトさん? それって、どういう――」どうやらツバサ君はその違和感に気付いていないのか、セトさんの言葉の意味を理解出来ずにそんな風に聞き返していた。
この場に居る中ではもっともクラスが高いとは言え、彼は永遠の騎士となってからまだ100年も経っていないのだから、違和感に気付けなくてもおかしくは無い。
それでも、ツバサ君の取った行動は愚策だった。仮に違和感に気付けなかった所でセトさんに迎撃の準備を指示された時点で、彼は《旧神聖典》の詠唱を始めておくべきだった。
何故なら、瞬間的に移動する違和感はもうすぐそこまで迫っていて――いや、だけどこの違和感の正体が敵だとして、なんでここまで近付かれているのに姿が見えないのだろうか?
否、自分の反応だけでなく、聖具の反応すらも僅かな違和感に抑え、セトさんにその存在を知覚されずにここまで接近出来る程の相手だ、姿を消す能力の一つぐらい持っていてもおかしくはないのかもしれない。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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