EternalKnight
VS躯骸/対話
<SIDE-Kevin->
もっとも、進ませると言っても既に目視可能な範囲内だ《Titan》の性能を持ってすれば、十秒と掛らずに詰められる。
問題は接触後、如何にして俺が味方であると彼等に伝えるかだが……そこはもう、当たって砕けるしかない。
ネスだって守護者の宮殿に単身で乗り込み、信用を勝ち取ったのだ。それに比べれば視線の先に居る三人の永遠の騎士に信用してもらう事等、簡単な事だろう。
ネスとの関係を説明すれば上手く行く等とは考えていないが、少なくともネスと言う前例が彼等にあるのも、魔獣の全てが《呪詛》の配下にある訳ではないと分かってもらえているのは非常に大きい。
数秒の思考の後に僅かな衝撃が《Titan》に乗り込む俺に伝わってくる。その正体は、目標までの距離を移動した《Titan》が障壁を展開している準最高位のそれに接触する直前の所で急停止した際の振動だった。
自分が生み出した物ながら、あの加速からの急停止で衝撃をあれだけに抑えるとは、実に良い性能だ――と、今はそんな事を考えている場合じゃないな。
ネスと言う前例があるとは言え、魔獣である時点で話を聞いて貰えないのが当然だろう、それを踏まえて対話できる状態に持っていくには、部が此方にある事を相手に認識させる事が重要だ。
自分達よりも弱い相手が味方であるから話を聞いてくれなどと言った所で、時間稼ぎか何かの策であると疑われるだけで意味は無い。
最初の時点で敵だと認識されている相手と対話をするには、持ちかける側の優位性が証明されていなければ成り立たない事が殆どだ。
故に、その性能を相手に見せ付ける目的もあって、俺は《Titan》を呼び出してその性能を永遠の騎士達に見せ付けた訳だが――
目前で急停止させた《Titan》を見上げるように、前に踏み出し障壁を展開していた準最高位の契約者は「何のつもり?」短く言葉を紡ぐ。
「何のつもりかと問われれば、俺は君等と話がしたいと応えるのが正解になる。だからコレは君等を傷つける気は無いという意思表示と言う事になる――のだが、簡単には信じてくれないだろう?」
その《Titan》の外部スピーカーから発せられる俺の言葉に、セリアを思い出させる蒼い髪の準最高位契約者の女は少し考えるように眉を顰めて「……話と言うのは?」問いを投げ返してくる。
どうも、予想以上に食いつきが良い。其処に何か策があろうが無かろうが、少しでも会話が出来るのなら其処から信用してもらえる糸口をつかめるかもしれないのだから、会話には乗るしかない。
「信じて貰えるかは分からないが《呪詛》を倒せる様にする為に、君等に手伝いをして欲しいと言う話だ」
「魔獣である貴方がそんな事を言ってくる理由は? それにそもそも倒せる様にするというのはどういう事?」
思ったよりも会話が弾んでいる――コレは、このままいけるか? 別に特におかしなエーテルの動きも感じないし、会話している蒼髪の準最高位以外の二人にも何かをしている気配はない。
「別に、魔獣の全員が《呪詛》を快く思っている訳じゃない、あんた等に強力しているネスみたいにな。倒せる様にってのは「ちょっと待って、確かに魔獣の協力者は居るけれど、そんな名前じゃないわよ?」
ネスじゃない? そんな馬鹿な、ではあの最高位二人と行動を共にし《呪詛》と今まさに戦っているネスと同じ反応を持っているのは一体誰だ?
「馬鹿な、ネスだぞ? 《名無し-NameLess-》だ。確かに俺はアイツをあの場で《呪詛》と接触しない様に、宮殿に送り込んだんだ。あんた達に協力している魔獣がネスじゃない筈がないだろ?」
「そう言われても、名前が違う物はしょうがないじゃない。でもちょっと待って、何かが引っかかってるんだけど、何だったかしら?」
名前が違う? 一体どういう事だ? 《Titan》のムネモシュネで何度探知しても、今現在《呪詛》と戦っている三人の内の一人の反応は間違いなくネスの物で間違いない。
「その《名無し-NameLess-》ってのは彼の能力の名じゃないの? 魔獣の中には今の自分を認めたくないって言う理由で本名じゃなく能力で名乗る奴も居るって話は聞いた事があるわよ?」
準最高位の女の髪の色をセリアを思い出させる蒼と言うのなら、それよりも淡い色の青髪の女が準最高位の女の背後から現れてそんな言葉を口にした。
確かに《呪詛》の軍門に下っていない魔獣の中にはそういう連中も居ると聞いた事がある。
実際にアイツだって《牙》の頃から続いていたとは言え、この間の邂逅の際には俺がネスと呼んでも訂正されなかったので、今もそう名乗っているのだとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。
それでも「アイツが名乗ったのか? ネームレスではなくネロ=エクステルと?」その事実は俺にとっては少なからず意外な事だった。
「ちゃんと名前を知ってるのね。なら、貴方が彼を宮殿に送り込んだという話は信じても良さそうね。と言うかそういえば彼が《呪詛》の側に一人協力者が居るとか言ってたわね――名前は確か……」
……そういうのはもっと早く思い出して欲しい――否、一戦交える前にこうして此方が味方である事を納得してもらえたのだから御の字と言う所か。
彼女達には悪いが、俺が負けるとは思えないが、彼女達をできる限り傷つけずに此方の優位性を納得してもらうのは手間だと思っていたので、それが省けたのは実に幸先が良い。
他の戦場の決着もまだどこも決していないし、これ以上は無いと言える状態ではないだろうか? まぁ、それは兎も角、ネロから名前を聞いて居るとしても、自己紹介は大切だろう。
《Titan》のハッチを開き、その中から降りて、手を差し伸べながら「ケビン=アドヴェントだ。短い付き合いになるだろうが、よろしく頼むよ」此方から名乗る。
それに応じる様に、蒼髪の準最高位は「私は《神光》のアリア。アリア=アルケインよ、此方こそよろしく――って何をよろしくするのか知らないけど」名乗りながら差し出した手を取ってくれた。
それに続く様に「《限定》された強者アルア。アルア=グランツだ」黒髪の男が名乗り、続けて「……《独尊》のベアトリス。ベアトリス=グランツよ」青髪の女もそう名乗っていた。
アルア=グランツと言うと確か《宿》の管理者だったか? そして同じ姓を持つ青髪の彼女が、彼が娘として育てた永遠の騎士か。となると残るアリアが守護者のメンバーと言う事になるのだろうか?
まぁ、それに関してはどうでも良い。今は期せずして《宿》と言う絶好の対話の場が見つかった事を喜ぶべきだろう。
どこか一箇所でも他の連中の戦いが終り、魔獣の側が勝利してしまった場合に俺が戦っていない事が露見すると色々と拙いのだ。
表立って永遠の騎士側を立ち、それが戦いの最中であろうが《呪詛》の耳に入れば最期、片手間所か考えるだけで俺は消滅させられてしまう。
別に《呪詛》を倒せば魔獣としての俺は消滅してしまうのだから、結果だけ見れば遅いか早いか違いでしかないのだが、少しでも騎士側に情報を提供する為には出来る限り長く存在できるに越した事は無いのだ。
「さて、早速で悪いのだがアルア、ここに《宿》を展開してはくれないか?」
「あ? あぁ、別に構わないが……どうして私の能力の事を知ってるんだ?」
どうしても何も、自分がどの程度有名なのかぐらいは理解している筈なのだが……否、或いは魔獣である俺が知っている事に疑問を感じているのかもしれない。
「そりゃ、俺みたいな魔獣の耳にも有名な《宿》の噂ぐらいは耳に入るさ。つってもまぁ、永遠の騎士から魔獣になった連中に聞いたってだけなんだけどな――そっちからすれば悪い条件じゃないだろ?」
幾らなんでもネロの件だけで全面的な信用を得れているとは思わない。アルア達がどれだけ俺を信用してくれているかは分からないが、アルア側が圧倒的に優位に立てる場でなら、話も幾らかしやすいだろう。
「何で態々《宿》の中での話し合いを望むの? あの中じゃアル以外の永遠の騎士の能力は全て大幅に制限されるのよ? この意味、分かるでしょ?」
「単に周り魔獣共に動きを知られたくないだけだ。リスクは覚悟の上だったが、アルアが《宿》のオーナーであるならその力を使わせてもらわない理由は無い。まぁ、無理強いするつもりもないが……」
と言うか、意味が分かるも何も《宿》の中に入ると言う事は単に俺がアルアに勝てなくなる事以外には変化は無いと思うのだが、それが不満なんだろうか?
「いや、だから貴方は魔獣なんだから、聖具の能力とか補正が消されても魔獣としての力が使えるでしょ? だったら、それで万一アルを倒されたら私達はそのまま貴方にやられてあたし達は全滅じゃない!」
……この青髪は何を言ってるんだ?
「あのなベアトリス? そもそもケビンが私達を倒す気で居るなら態々《宿》の中に入らなくてもそのまま戦えば良いだけだろう? それに、ケビンが私が《宿》の支配人であるのに気付いたのは先程だぞ?」
アルアの言う通り、そもそも倒す気で居るのなら態々交渉等せずに《Titan》で圧倒すれば良いだけなのだ。
準最高位のアリアに関しては微妙な所だが、俺に戦闘の意思が無いのを示した事で俺を多少なりとも信用していた事を見る限り、此方の方が上だと考えて良いのかもしれない。
少なくともアルアとベアトリスに関してはその気になれば簡単に屠れる程度の実力は有しているつもりだ――無論、話をする為に此処に居るのだから、そんな事はしないが。
「でもアル、万一って可能性が――」
「そこまで言うのなら別に此処で話をしても構わないがな。なんなら両手足を縛るなりしてくれても良い――魔獣の能力はどうしようも無いし、聖具に関しても俺の体と融合しているから渡し様が無いがな」
俺の聖具《躯骸》は、普通の天然物の聖具とは少し違う。
これは魔獣としての俺の能力をサポートする為に俺自身が作った、人造の聖具だ。まぁ、魔獣になってから作った物だから明確には《人》造とは呼べないが。
その能力は俺の魔獣としての力――かつて人だった頃に組み上げた俺の知識の結晶《巨人-Titan-》の強化版を組み上げる能力――を補助する事にのみ特化している。
何故そんなモノを作ったのか?
それは、エーテルの可能性について研究する間もなく、殆ど机上の空論の様な状態で能力を作り上げた事が原因で、不完全な箇所の多い欠陥能力として仕上がってしまった事がそもそもの始まりだった。
その能力を何とか万全に扱える様に、補助強化する為に作り上げたのが俺の聖具《躯骸》だった。無論、俺としては聖具を作ろうとして作った訳では無いのだが。
だが、エーテルで作られ、エーテルに干渉出来るそれには、意志を持つには至らないまでも魂が宿った。魂の宿った装具品――ソレが聖具の定義である以上、そうなっては最早聖具と呼ぶしかない。
人造であるが故に意志を持ってはいないソレには、それでも《Titan》を強化、補助すると言う名目で相当量のエーテルを制御できる様に俺が作った事が問題だったのか、洗礼因子までもが宿った。
そして、洗礼因子が宿った事で、元々の用途の他に準最高位としては突出しすぎず、さりとて弱すぎないだけの加護を得て、より聖具らしい聖具となったのだ。
その形状は、《Titan》を制御する俺自身の肉体の一部、より正確には、肘よりも先の両腕の骨――の代わりに埋め込まれている機器だ。
人造の俺が生み出した聖具……意志を持たぬ魂を持つ、骸。巨人を支える、躯。――故に、俺は自らが生み出したソレに《躯骸》と名づけた。
そして、恐らくコレが出来たのは俺が魔獣であったからでも偶然でも奇跡でも無い。
現に《呪詛》も準最高位の聖具を生み出しているのだから――それも、あちらは此方の様な偶然の産物ではなく、狙って作った力を持つ物を、だ。
其処から考えても、今と同じ知識と、エーテルを制御する方法さえあれば、人であった頃だろうと、聖具を作れたのでは無いだろうか?
そうか……或いは、聖具と言う存在がどういう仕組みで生まれるのかを知ってからずっと疑問だった事の答えは、もしかすると――
「……悪いケビン。ベアトリスは少し心配性みたいでな、不快な思いをしたのなら娘に代わって謝らせてもらう。《宿》は、今すぐ用意させてもらう――《MyWorld》」
アルアがそう唱えると同時に、アルアの目の前に小さめの門が形成された――あれが、噂に聞くBクラスとしては特級の域にある亜空間結界、永遠の騎士達の中立地帯、《宿》の入り口か。
「気にする必要は無いさ。寧ろお前さんとアリアにあっさりと信じてもらえた事の方が、俺にとっては意外だよ。彼女の反応は寧ろ正常だろ? まぁ、出来れば彼女にも敵で無いと認めては欲しいと思うが」
とは言え、元々信用して貰える様に打っていた手、アルア達が俺に敵意は無いと判断した理由である、此方が有利な状況で会話を持ちかけたという事実があっても信用して貰えない以上、難しい事なのだろうが。
「実際話をするだけなのだから、彼女が気になると言うのなら言った様に両手足を拘束するぐらいは構わないんだが、どうする?」
それで《宿》の中で話し合いが出来るのなら、俺としてはそれでも全く構わない。そもそも《宿》と言う交渉に最適な場を確保出来るとは思って居なかったので、無理だというのならそれでも問題は無いのだが。
「……わかったわよ。万一の時も《宿》の中ならアルが貴方を何とかしてくれるって信じる事にするわ」
どうやら俺自身は全く信用されていないみたいだが、どの道近い内に消滅する身だ、別に俺自身がどう思われていようが、大して関係無いだろう。
「と、言う事は《宿》の中で話が出来ると言う事で良いんだな?」
「そうみたいね――ところで《呪詛》を倒せる用にするって言ってたけどあれって結局どういう意味だったの?」
そういえば、ソレを説明しようとして居た所で、ネロの件で話の腰を折られたんだったか……まぁ、何であれ落ち着いて話が出来る環境が整うのなら、すこし踏み込んだ説明なんかも可能だろう。
「簡単に言えば、聞こえは悪いかも知れないが、《呪詛》と戦ってるネロ達が《呪詛》を追い詰めた時に、逃げられない様にする為の小細工をするのを手伝って欲しいって話しだ」
「逃げられない様にする為って《呪詛》は何か特別な逃走手段でも持ってるの?」
そう《呪詛》には非常に厄介な逃走手段がある――故にそれを全て潰せる可能性を孕んだ今この場こそ、《呪詛》を倒しうる希望たる最高位と彼が戦っている今こそが、奴を滅ぼす最高で最後のチャンスなのだ。
俺自身の為にも、この広域次元世界全ての為にも、失敗は許されない。
そういう意味では《宿》の中でアルア達にソレを説明できると言うこの状況、広域次元世界の意志が俺に与えてくれたチャンスなのかもしれない。
「あぁ、その通りだ――詳しい話は《宿》の中でって事で良いかな? まだ大丈夫だとは思うが、周囲で戦ってる魔獣連中の戦いが終ってココに気づかれると結構厄介な事になる」
実際には、自分の標的を倒したからと言って間違いなく此方に来るとは限らない――それでも、僅かでもリスクがあるなら、ソレを回避したいと思うのは普通だろう。
「了解だ――他の連中に見つかりたくないってことは、目印代わりに使ってるエーテルの結晶なんかも仕舞った置いた方が良いと言う事だな?」
言いながら、アルアは門に吊るされていたエーテルの結晶を取り外して自らの懐に仕舞いこんだ――理解が早くて助かる。
そして「では、中に入るか――ようこそ《宿》へ、急な話で何も用意できていないが歓迎するよ、ケビン」そんな言葉を掛けられながら、俺は開け放たれた《宿》の門をくぐった。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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