EternalKnight
VS躯骸/巨人
<SIDE-Aria->
男の背後の空間に走った亀裂が広がっていく――それが何を意味するのかは分からないが、それによってもたらされる結果が良くないであろう事だけは分かった。
だがしかし、距離が離れすぎている。此処からでは何をする事も出来ず、その光景を指を咥えて見て居る事しか出来ない。
そしてその巨大な亀裂は裂けて広がり、虹色の世界に孔を穿ち――その置くから巨大な人型の質量が顕現した。
亀裂を展開させた男の六倍近いサイズの大きさの人型の質量、その存在感とは裏腹に、その巨人からは其処まで多くのエーテルを感じ取れない。
「何だ……あれは?」
アルアさんがそう呟くが、その言葉に誰も答えを返せない。
――そこから数秒の沈黙を挟んで「……けど、あれって見掛け倒しじゃないの? エーテルの反応はそんなに強くないみたいだけど?」ベアトがそんな希望的観測を口にする。
本当にそうであればどれだけ良いだろうとは思うけれど、現実はまずそんなに甘くない。
アレを出現させるのに男が使ったエーテルの量や、あれが現れるまでのプロセスを考えれば、見掛け倒し等では無い事くらい容易に分かる。
「ベアト、結構な量のエーテル使って、態々コレだけ距離開けて見掛け倒しを用意する意味って何かあると思う?」
「そりゃ、こうしてあたし達がアレを見てこうして驚いている時点で、それなりに威嚇にはなってるんじゃない?」
「だが、単に威嚇が目的なら、あんなゴツイのにエーテルの量が少ない物を出すのも変な話じゃないか、ベアトリス?」
アルアさんの言う様に、あの巨人はサイズから考えて不釣合いな程エーテルの反応が弱い。あれでは威嚇ではなくベアトの言う様に見掛け倒しにしかならない。
だからこそ、相手の狙いが分からない。この距離で態々あの巨人を呼び出した理由も、あの巨人を呼び出した意図すらも、此方には分からない。
だけれど、意味も無くあんなモノを展開したとも思えない。あの巨人自体を構成するエーテルは少ないが、あれを呼び出す為に使っていたエーテルは準最高位が一度に運用可能な最大のエーテルに近いのだ。
全体量から見ればそれ程多くのエーテルを消費した訳では無いかもしれないが、問題は其処じゃない。準最高位が扱いうる最大近い量のエーテルを使ってまであの巨人を展開させた事が問題なのだ。
――もっとも可能性として考えられるのは、あの巨人のエーテルの反応が偽りである線だろうか?
それならこの距離で展開させた理由以外に説明が付く――が、今度はあれだけのエーテルを使って呼び出すのを見られている以上、その可能性に辿り着かれ安いと言う事だが……
それについては、可能性としてそれに気付いていながら核心を私自身がもてていない時点で十分に意味があると言えるだろう――もっとも、本当に私が考えている通りであれば、の話だが。
「あぁ、もうまどろっこしい――要するにあのデカブツが何なのか分かれば良い訳でしょ? だったら実際に仕掛けて確認すれば良いだけじゃない」
「落ち着けベアトリス、何が狙いであれを展開したのか分からないから私達はこうして考えているのだろう? それを実際に仕掛けて確認しようなんていうのは思考の放棄だろう?」
アルアさんの言う事はもっともだけど、相手に仕掛けられるぐらいならこっちから仕掛ける方がまだ良いのでは無いかという案も脳裏に浮かぶ。
否、落ち着こう――仕掛けると言っても向こうはあの巨人を呼び出してから動きを見せていないのだから、まだ考える時間はある。仮に動き出した所で、まだ距離は開いている。
今仕掛けても、相手に仕掛けられるのと大差は無い気がする。だが、どこからが敵の攻撃範囲内なのか分からない以上、動くのは早いに越した事はない。
「アリアも落ち着け、焦りが顔に出ているぞ?」
「そうは言っても、あの巨人の肩についてるのとかどう見ても砲門じゃない、あれの射程次第じゃ反撃する手段が無い以上、こっちから動くしかないでしょう?」
ベアトは近接格闘戦しか出来ないし、アルアさんも火のLv6の魔術以上の遠距離攻撃手段を持っていないし、その射程も其処までの距離があるとは思えない。
私に関しては《神光》がどこまで出来るのかが未知数なのでなんとも言えないが《神光》を準最高位たらしめているのは強化能力の無力化の一点で、その特異性から他に特に秀でている能力があるとも思えない。
準最高位としての標準的な性能は持っているだろうが、それを言ってしまえば相手も同じ準最高位なのだからあまり意味は無い。
と、言うかその考えで行くと相手が魔獣な分此方が不利なのだ……これは、真剣に拙い状況なんじゃないだろうか?
「遠距離攻撃でどうこう言うのなら、射程園内に入ったらどっちでも同じだろう? こっちから接近するといえば聞こえは良いが、やってる事は敵の射程園に飛び込んでいくのと変わらないぞ?」
アルアさんの言うとおりかも知れない――だけど、だからってこのまま此処で敵の射程園に入るのを待っていても仕方がない。
そんな風に考えていると、視線の先の巨人の胸部がせり出し、白衣の男はそのせり出した部分の空洞にその身を滑り込ませた。
中に入ったと言う事は、あの巨人は乗り物な訳か……けど、それならどうして呼び出して直ぐに乗り込まなかったのだろうか? 何か、先程から妙に不自然な気がする。
此方まで向かってくる際の速度、妙な位置で巨人の展開――は、乗り込むのを邪魔されない様にする為にしても、呼び出してから乗り込むまでの無意味なラグ等、不可解な点が多すぎる。
……何らかの策の為の時間稼ぎ? だとすると、時間を稼ぐ意味がどこかにある筈なのだが、そもそも相手の方が有利な状況で、相手が策を練る意味などあるのだろうか?
否、相手に取っては此方のメンツや能力等は分からない訳だから、相手から見れば私達は準最高位一人、Bクラス二人と言う事になる――訳だがそう見えているのなら態々策を練る意味などあるのだろうか?
考えれば考えるほど分からない。本当に何か策があっての事なのか、それとも相手の側に何かの事情があるのか――どれだけ考えても私では答えに辿り着けない。
そうして思考を巡らせていると、白衣の男が乗り込んだ巨人のエーテルの反応が急激に膨れ上がり、それと同時に視線の先にあるその巨人の瞳に光りが灯った。
「動き、出した――と、いうかだったらさっきまで動かなかったんじゃん、あのデカブツ。と言うか、やっぱしあたしの行った通りに仕掛けとくべきっだったのよ、アル!」
「結果から言えば警戒しすぎて機を逃したという事になるが、だからと言ってこっちから仕掛けていた所で間に合う距離じゃなかったと言うのも間違いない」
それでも少しは距離が詰められたであろう事を考えると、確かに結果論で言えばベアトの言う通りなのだが、今の問題はそんな事じゃない。
動き出した巨人の反応が、大きい――まるであの巨人が、中に乗り込んでいる白衣の男と一体になったといわんばかりの量のエーテルをあの巨人から感じ取れる。
否、そもそも乗り込んだ白衣の男の反応が見つけられない事や、そもそもあの巨人を白衣の男が展開した事から考えると今やあの巨人が白衣の男と考えても間違いではないだろう。
あの巨人が聖具の能力なのかそれとも魔獣の能力なのかは分からないが、兎も角あれを倒すしかない。
少なくとも、エーテルの量に殆ど変化がないにも関わらずあの巨人を呼び出したと言う事は、あの巨人が在った方が白衣の男にとっては戦いやすいという事に他ならないが、大きければ良いと言うモノでもない。
小さい方が小回りも効くし、何より此方の方が数が多いのだ。ならば、それを生かして戦うしかないだろう。問題は、やはり遠距離への攻撃手段が敵にはあると言うことだが――
そこまで思考した所で、白衣の男が操る巨人の背に、相当量のエーテルが収束するのを知覚した。
次の瞬間、その巨人は今まで男がこちらに向かってきていた時とは比較にならない速度で急速に此方に向かって加速を開始した。
否、比較にならないなんてモノじゃない、目で追える分カノンやゼノンさんに比べればマシだけれど、コレは幾らなんでも速過ぎる。
私の全力で二十秒はかかるであろう距離が、ホンのニ、三秒程で半分も詰められている――コレは、本当に拙い。と言うかなんだあれは?あの巨大な質量をその速度で動かすのは幾らなんでも反則だ。
そんな考えが脳裏に過ぎっている間にも巨人は更に距離を詰めてくる――あれだけの速度と質量なら、撥ねられるだけで相当なダメージを追うのは容易に想像出来る。
ならば、突っ込んでくるその巨体を回避するべきだろう。目算では接触まで二秒と少し――それだけあれば私は回避出来る。出来るのだが、私の直ぐ傍に居る二人も同じかと言われれば、恐らくそうは行かない。
身体能力強化に特化しているベアトに関しては恐らく問題ないとは思う。だが、Bクラスにして亜空間結界の形成能力を有するアルアさんに関しては、そこまで身体能力の強化幅が優れているとも思えない。
故に、回避は難しい。回避できなければ大きなダメージを負うのは間違いないと分かっていても、回避出来ない。
無論、私がアルアさんを引っ張って回避と言うのも無理だ。そんな事をすれば私も一緒に巻き込まれる。ならば、此処に居る中で唯一準最高位の力を持つ私がやるべき事は――
《神光》、全力で正面にエーテルの障壁を展開、行けるわね?
(展開自体は間に合うだろうけど、それで防ぎきれるかどうかは分からないわよ? と言うか、恐らく防ぎきれないと予想出来るけど、それでもやるの?)
そうやって議論してる暇は無いわ。そもそも、防ぎきれるかどうかは関係ないわ。数秒保てばそれで良いから、展開のサポートをお願い。
(……分かったわ。流石に貴方なら、あれに轢かれてそれだけで消滅なんて事にはならないでしょうし、そもそも障壁で止めて勢いを殺せれば、大したダメージにもならないでしょ)
僅かな間に《神光》とそんな念話を交わして、私は向かってくる巨人の方へと一歩踏み出し、指輪型の《神光》を嵌めた右腕を前に掲げて、意識を集中させて前面にエーテルの障壁を展開する。
しかし、可能な限りのエーテルを込めて展開した障壁が敵の突撃を受け止める事は無く、突進してきていた筈の巨人は、障壁と衝突する寸前でその動きを急停止させていた。

<SIDE-Kevin->
《呪詛》の戦いが始まったのを知覚すると同時に《巨人-Titan-》を展開し、ムネモシュネ-広域エーテル探知機構-で他の同類連中が戦いの最中であるのを確認する。
それと同時に、俺は《Titan》に乗り込み、その心臓に火を灯す。他の誰かに監視されているとも思えないが、警戒するに越した事は無い。
この行動を《呪詛》に悟られる訳には行かない。それは即ち俺自身の死を意味するからだ。
成功すれば俺という存在はどの道消えてなくなるが、そんな事は覚悟の上だ。俺は……否、俺達は人として生きていた頃から命懸けでずっと戦って来たのだから。
そもそも、俺達は一度殺されているのだ。故に、この呪いに満ちた二度目の生に執着は無い。コレまでの長い魔獣としての呪われた生は、全て《呪詛》へと叛旗を翻すこの瞬間の為に在ったと言って良い。
そしてその為には、魔獣側の誰にも気づかれる事無く永遠の騎士達と接触する必要がある。
《呪詛》はある程度以上の力を持つ魔獣の元へとゲートを展開する力を持っている。それがある限りは、どれだけ追い詰めてもその力を使って逃げ果せる事が出来るのだ。
だがしかし、今回この戦いにはその《呪詛》がゲートを形成する事の出来る全ての魔獣が参加している。それらを全て倒した上で《呪詛》を追い詰めれば逃げ道のなくなった奴を倒す事が出来る。
コレが最初で最期のチャンスだと、俺は考えている。そしてそれを生かす為、俺はどうしても永遠の騎士達と接触し《呪詛》の逃げ道となるゲートを開ける魔獣の情報を永遠の騎士側に流す必要があるのだ。
その情報を持って、全てのゲートとなる魔獣を消滅させられれば、後は最高位の契約者達が逃げ道の無くなった《呪詛》を逃がす事無く倒す事が出来る。
もっとも、《呪詛》もまた最高位を保持している為、最高位達が《呪詛》を倒せるのかも掛けにはなってしまうが、今の《呪詛》と渡り合えるのは同じ最高位の保持者しか居ない以上、彼らに掛けるしかない。
兎も角、そんな訳で他の魔獣連中と《呪詛》が戦っている今しか永遠の騎士達と接触するチャンスは無い。
その為の時間を一秒でも無駄にしない為に、俺は《Titan》のエンジンとテミス-補助推進機構-を使って、可能な限りの速度を持って視線の先の永遠の騎士の下へとその巨体を進ませた。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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