EternalKnight
VS躯骸/亀裂
<SIDE-Alcas->
「ここまでご苦労だったな、ヴェルガ――引き続き雑魚の足止めを任せて良いな?」そう言いながら、王は《凶獣》に向けてエーテルの結晶を投げ渡す。
その結晶を受け取りながら「王様のご命令とあらば」殆ど形だけで何の感情も篭っていない形だけの動作で、恭しく頭を下げて、王に背を向け、そのまま中空を蹴って飛び出していった。
これでこの場に残ったのは王と、私を含む王下のみになるのだが……私がこうしてこの場に留まった事に意味は無い。単純に、他の連中と違って戦う事を望んでいないから、今もまだこの場に残っている。
そもそも、私には魔獣の能力も無ければ、聖具でさえSSだ。単にその聖具の能力が特殊であるが故に王下の地位に居るだけで実力は今回集められた王下の候補である連中以下でしか無いのは明らかだった。
その事実が示す所は即ち《軍勢》と同種の《軍勢》以上の能力の使い手が現れるか、王の目的が完遂され、王下などという戦力が必要なくなるまで、私が解放される事はないと言う、認めがたい事実だった。
《軍勢》の能力がいかに特殊なのか、私以上に知っている者は居ない。だからこそ私には分かってしまうので、私が開放されるのは、王の目的が達成された後なのだと。
本当にそれで開放されるのかどうか等、私には分からない。そんな事は、それこそ王本人にしか分からない事だろう。
それを今ここで問えば、どうなるのだろうか? 王下という枠組みを崩すという答えが返ってこれば、憂い無く戦えるのは間違いない。
だが、問いを投げて、その結果望まぬ答えが返ってきたとすれば、私は――否、そんな事を今考えても仕方ない。
そうだ、希望が無ければ戦えない――絶望は要らない。もっとも、望まぬ答えが返ってきた所でどうする事も出来ないのだろうが。
「さて、ヴェルガは行ったが、お前達は何故まだ残っているレイビー、ケビン、アルカス? 俺は行けと言っているのだぞ? それとも何か? 俺の命は聞けないとでも言うのか?」
言いながら王は私達に視線を向けてくる。王へ反発して良い事など何も無いのは考えるまでも無く明らかだ。だが、しかし――
「ですが、相手も王と同位の最高位を持っている以上万が一と言う事もあります。貴方の死は魔獣全ての死だ、どうか、僕も共に戦う事を認めてください」
事もあろうか……或いは彼だからなのか、王下の一位の座に座り続けている《禁忌》の担い手は王の言葉に逆らっていた。
「……くどいぞレイビー。それとも俺が負けるとでも? 確かに以前《終焉》を相手にして片腕を落とされたが、今回は違う。今は《根源》と《時空》が俺の手にはある。位階の差が無いなら負けはせん」
王の死は魔獣全ての死――それは確かにその通りなのだが、隷属の呪い掛けられている者にとっては、そもそも王に逆らう事が死に繋がっている。
「ですが僕は万一の可能性を考えて――」
だからこそ、王下や、今回の戦いに参加している様な力の強い魔獣は誰一人として王の命に従うしか無い。だと言うのに《禁忌》は尚も食い下がる。
「王が行けと言っているのだから、素直に従っとけよレイビー。そもそも、俺等が最高位の戦いに混じれるとでも思ってるのか?」
その《禁忌》を《躯骸》が嗜める様に言葉を紡ぐ――確かに、最高位の魔獣であり準最高位の聖具を持とうとも最高位の聖具の相手は厳しい筈だ。
王の言う前回は《禁忌》を含む三人の王下と最高位を手に入れる前の王が居て、引く事しか出来なかった程らしい。その話を聞くだけで最高位の聖具が如何に出鱈目な存在なのかを知る事が出来る。
少なくとも、聖具からして準最高位ですらない私に言わせて貰えば異次元の強さと言う所だろうか?
「ケビンの言うとおりだ。そも、万一の可能性など考える必要は無い、相手に二人最高位が居ようが関係無い。二人居る事と二つ持っている事ではまるで意味が違うのだからな」
「……分かりました。其処まで仰るのなら、僕は王を信じます」
搾り出す様に《禁忌》がそう呟いたのを聞いて、王は「分かれば良い――それで、レイビーに関しては先程の下らない抗議の為として、お前達は何故残っているんだケビン、アルカス?」標的を私達に移す。
何故と聞かれても、特に理由が無いので答えに詰まる。強いて言うのなら戦いたくないからなのだが素直にそんな風に答えられる訳が無い。
そもそも《禁忌》と《躯骸》それに《凶獣》の三人が悪いのだ。
彼らが残っていたから、私はこの場に残っていたにすぎない。誰一人此処に残らず、全員が王に与えられた命に従っていたのならば、私だってこんな所に残らずにそうしていた筈だ。
「少なくとも俺は残ってたんじゃなくて、この場にまだ居ただけですよ、王。他の連中みたく、鎖を外されると同時に獲物の方に突っ走る理由も無いですし――そういうのは、相手を選ぶ連中にやらせれば良い」
私が悩んでいる間に《躯骸》は事も無げにそんな風に王の問いに答えていた――成程《躯骸》が本気でそれを言っているかはさておき、言い訳としては優秀だろう。
「私も同じ様な理由です、特に急ぐ必要が無かったからまだ残っている――唯、それだけの事です」
《躯骸》に続ける様に私も王に向けてそう答える――少なくともこの理由でなら下手な追求はされないだろう。
「ならさっさと行ってこい。速い所はもう戦い始めている位だぞ? レイビーお前もだぞ?」
「……分かっています。どうか王、くれぐれも無茶はなさらぬ様にお願いします」
王の言葉に《禁忌》は心配そうに応えてから、ゆっくりとした動作で王に背を向け、暫く悩むような素振りを見せた後、吹っ切れた様な表情を一瞬見せて、その次の瞬間には中空を蹴って一気に加速していた。
それを見届けてから、私と《躯骸》も同じ様に虹色の世界の中空に足場を生み出し、それを蹴って、残っている敵の下へとそれぞれ加速した。

<SIDE-Aria->
他の皆の元へと敵が向かっていくのを感じ取る――が、私達の元へと向かってくる敵は今のところ確認できない。
否、私達の所だけではなく、《虚空》と《紫煙》の協力者二人組みの場所と、それにセトさんと達の居る場所、そしてグレン君達の居る場所にもまだ敵は向かっていないみたいだ。
もっとも、グレン君やレオン、それにあの魔獣の協力者が相手するのは相手の親玉なのだから、彼等の元に敵が向かっている場合は何処かの組がそれを止めないといけない。
幸いにも今の所そういう状況にはなっていないのは偶然なのか必然なのか――まぁ、最高位が二人居る場所に向かおうとは普通の思考なら絶対に思わないのだろうけど。
そういう事を知る限り唯一実行しかねない思考回路の持ち主であるゼノンはアレン達の報告から既に消滅した事が確認されているので、まぁ、心配の必要はないだろう。
それはそうと――ようやく敵が此方に向かって動き出したらしい。その速度は、ゆっくりと言うほど遅くも無いが、他の場所に向かっていた他の敵に比べると随分と遅いように思える。
特殊な能力を持っているとは言え、此処には私以外には永遠の騎士としては最下級のBクラス持ちしか居ないのだ、相手の意図の有無は分からないが、警戒しておくに越した事は無いだろう。
私とこの場で共に戦う事になっているのは、知名度だけならBクラスとしては異常としか言えない程のハグレの永遠の騎士、限定された強者アルアと独尊のベアトリスの二人だ。
……それにしても、今の私は準最高位になっているとは言え、ついこの間までAクラスだった私とBクラス二人でグループを形成しているというのは、戦力のバランスとしてどうなんだろう?
今更言っても仕方ないし、そもそも準最高位が居ない組も存在する事を考えると、私であろうと一人でも準最高位が居るこの組は恵まれているというべきなのかもしれないのだが。
まぁ、考えた所で仕方ない。今は此方に向かって来ている敵とどう戦うか、それだけを考えていれば良い。
「ようやく敵がこっちに向けて動き始めたみたいね――それで、何か策はあるのかしら、アリア?」
やはり、狙うべきは相手をアルアさんの結界の中に引き込む事だろうか? 引き込む為の条件を考えれば、決して簡単な事ではないだろうが……
否、相手の情報がまるで無い内からその方法だけを考えても仕方が無い。アルアさんの結界に引き込むのは最後の手段として取っておきたい。
であれば、最初は特に策を弄さずに相手の能力を探る戦い方が無難といえば無難になるのだろうけど……
「策も何も、相手の能力が分からない以上はなんとも言えないわ。無策で実現できるかどうかは分からないけど、アルアさんの結界に引き込めれば勝てるとは思うけど、それを策とは言えないでしょう?」
「まぁ、確かに《宿》に引き込めれば負ける気はしないな――アリアの言う様に、そもそも引き込めるかが何よりも問題だとは思うが」
相手だって馬鹿じゃない、態々自分から結界に飛び込んでくる者等そうそう居ないだろう。
「と言うかこの反応――相手は準最高位みたいなんだけどさ……これって結構拙くない?」
そう、それも大きな問題の一つだ。相手と同じ準最高位の私は兎も角、Bクラスのベアトやアルアさんは策無しで戦うには厳しい。
そもそも私の《神光》もかなり相手を選ぶ能力だ。相手の能力次第では、私だって策無しで戦えるとは限らない。
もっとも逆説的に相性が噛み合っていれば、私一人で十分と言う可能性もあるのだが――其処までかみ合った相手が偶然現れるとも考えにくい。
そもそも、準最高位で自己の強化しか能力が無い聖具があるとは思えない――が、まぁ自己強化の能力持ちが相手なら、その能力を実質無効化できる分、有利ぐらいにはなれるだろう。
「結構、ではなくかなり拙いだろうな。こちらにも同じ準最高位のアリアが居るには居るが、彼女はまだ成り立てで、しかも相手は魔獣の能力とやらを聖具の能力とは別に持っているのだから」
まぁ、成り立て云々は能力が洗礼されていない事や、使い慣れていない事意外には殆ど関係ないのであまり関係ない話だが。
同じ能力でも、運用の仕方次第では随分と出来る事に差が出る――それについては元々《祈り》の力として仲間の能力を借りていた私には良く分かっている話だ。
「まぁ、厳しかろうがなんだろうが、私達だけでなんとかする必要がある事には変わりないし、全力を尽くすしか無いわ。相性が良いならそれで良いし、相性が悪いなら悪いなりに戦うしか無い、そうでしょ?」
「《宿》の外では大した戦力になれない私としては、出来ればアリアと相性が良い事を望むがね」
出来る事なら、私もそうあって欲しいと思うけれど、現実はそんなに甘くは無いだろう。
「って言うか結局策とか無いのね……まぁ、それでも何とかするしか無いんでしょうけ」
まぁ、そもそも初見の相手に策を用意できる方がおかしいと言えばそこまでなのだが――兎も角、私達に出来るのはようやく目視可能な範囲にまで近付いてきた敵に、持てる力で立ち向かう事だけだ。
ようやく見えてきたその男の外見はオールバックの金髪に痩せ型で細身の体で上半身は白衣を羽織っただけの……って言うか何故白衣だけ? まぁ、兎も角、そんな変態だった。
武器を持っている様には見えない為、身に纏っているあの白衣が聖具である可能性は高い――と言うか、他にそれらしいモノが見当たらない。
もっとも、魔獣ならあの協力者の様に自ら能力と聖具を融合させている可能性も考えられるが、不定形で器を探している様な聖具はそう多くは存在しないだろう事を考えると、その線は無いと考えていいだろう。
等と考えている間に、ベアトも敵を視認出来た様で「え? 何あの変態?」と口に出して言ってしまっている。まぁ相手は敵な訳だから、遠慮する必要等ないとは思うけれど。
「ベアトリス、個性的な服装だとは思うが、もう少しその思った事を直ぐに口に出すのはやめた方が良い――過去に何度か似た様な注意はした筈だが?」
同じ様に、アルアさんの方も敵を捕捉できたらしい。まだ距離は開いているので戦いの幕が上がるまでにはもう少し時間が掛かると思うが……
等と考えていると、視線の遥か先に居る敵の周囲にエーテルが収束していくのを知覚した。
この距離でエーテルの収束ですって? 遠距離からの攻撃が狙い? 或いは戦う為の何かしらの下準備?
下準備は兎も角、遠距離からの攻撃だとかなり拙いのは間違いない。 これだけの距離から攻撃可能な相手に抗する手段なんて私は持ち合わせていない。無論、それはベアトやアルアさんにだって言えるだろう。
だが、下準備であるならこの距離で行った理由が分からない。もっと早く展開すれば良い様にも思えるし、維持にマナを食うのならもう少し距離を詰めてからでも良い筈だ。
故に、この距離でのエーテル収束から予想されるのは遠距離からの攻撃になる訳だが――その予測に反して起こした現象は、白衣の男の背後の空間に走った巨大な亀裂を走らせる事に留まっていた。
――否、そもそも空間に巨大な亀裂を走らせる事が自体が、普通の現象では無いのだけれど。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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