EternalKnight
VS破滅/Finale
<SIDE-Dirge->
一気に加速し、私と奇怪な格好の女の間に立ち塞がるフィリアの脇を抜ける。準最高位聖具の契約者でありながら最高位の魔獣である私の本気の速度にフィリアが付いてこられる事は無い。
そのまま、その先に居る奇怪な格好の女との距離を詰めながら《破滅》にあの女を一撃で滅する為の概念を纏わせて構える。
一撃で、終らせる。そうすれば後はフィリアを延々と殺し続けるだけになる。故に、邪魔をするだけのあの女を片さ無くてはならない――そう、思っていた。
その私の考えは「Lightning――」迫る私を前に、女が紡ぎ始めたその言霊が響いた瞬間に書き換えられた。
フィリアを抜き去り、私と女との間には障害物は無い――そして、このままの速度なら数秒で女との距離を詰めて《破滅》の一撃を振り下ろせばあの女は殺せる。
だと言うのに――女が紡いだその言霊が響くと同時に、フィリアによって閉じられたこの土の檻の中に満ちるエーテルが、女の下へと収束し始めたのは、一体どういう事なのか?
否、そもそも何だあの女は? 考えてみればあの女が使った光の雨も、個々の質は低くとも膨大な量だった。あの女自体の反応はSクラスか良くてSS程度だと言うのに、扱っているエーテルの量が出鱈目すぎる。
女が紡いだ事で集まり始めたエーテルの量も、この一瞬の間でSSクラスが一撃に注げるであろう限界量を超えている。
周囲のエーテルを収束して扱う攻撃と言うのも存在するが、収束には本来もっと時間が掛かる筈だ――こんな、一瞬でここまでのエーテルを収束させるなどあり得ないにも程がある。
自身の制御下にあるエーテルなら兎も角、中空に浮かぶエーテルをこんな速度で収束させられる筈が――否、そういう事か……あの無意味に思えた二度目の光りの雨には、そんな意味があったのか。
自身のエーテルを攻撃と同時にばら撒き、この閉じ空間を満たして、その自分の制御下にあるエーテルを一気に収束させる。
確かに、それなら一撃で使える限界量を空間に満たしたエーテルを纏め、指向性を持たせる事にだけ使用出来るのかもしれない。
手段は分かったが、そもそも、一度能力として放出したエーテルを自身の制御下に置いたままにしておくという所からして常軌を逸しているのは間違いない。
そして、恐るべき事はそれだけでは無い……収束するそのエーテルの量が際限なく増え続けているという事だ。
SSクラスの限界量を何の問題も無く超えたそのエーテルの収束は、SSSクラスの限界量にまで届こうとしている。否、この事態の異常性を考えれば、それ以上にまで膨れ上がる可能性すらある。
これが、フィリアが女を守ろうとしていた理由か――確かにこんな切札があるなら、準備に時間が掛かろうが何だろうが、それを利用したくもなるかも知れない。
そうしている間にも、私と女の距離は詰まっていく――あれだけの量のエーテルを収束させた者にその力を放たれる前に潰そうと考えるのは愚策なのだろうか?
だがしかし、そもそも私にはあれだけのエーテルを収束させた攻撃に正面から向かう術が無い。
破滅の概念を扱える事こそが《破滅》の特異性であり、一撃に膨大な量のエーテルを注ぎ込み解き放つ様な攻撃方法は持ち合わせてはいないのだ。
故に、正面からあの一撃を迎え撃つ事は出来ない。そして膨大な量のエーテルが込められ、どれだけの特性を持つか分からない攻撃に対して回避という選択支を選ぶ程愚かでも無い。
確かに仮に追尾する特性や回避できない速度でも無いとすれば、今の今まで使わなかった事から考えても、回避できれば次に同じ一撃が撃たれる事はまず無いと考えて良いだろう。
だがしかし、あれだけのエーテルを集めて、それを打ち出すだけでは、余りに芸が無い。流石に、そんなモノを切札にするとは思えない。であれば、残る選択支は撃たれる前に討つ――コレしか無い。
幸いな事なのかどうなのか、私は今まさに女を《破滅》で殺そうと動いていた――ならば予定通りにして、女を殺せば良い。唯、それだけだ。
そして、女が収束させるエーテルがSSSクラスの限界量を超えるか否かと言う所で、遂に私は女を《破滅》の攻撃園内に捉えて、その手に握られた鉄槌を振り下ろした。
その瞬間、今まさに《破滅》の鉄槌が女の頭部を砕かんとしたその瞬間に、私と女の間にフィリアが突如として現われ、その手で女を突き飛ばしていた。
そして、振り下ろした《破滅》の鉄槌に手応えが返ってくる。私と女の間に割って入ったフィリアの上半身は原型を留めぬ程に破壊され、原型を留めた下半身もその一撃の威力でその場から弾き飛ばされる。
しかし、無限蘇生の異名を持つフィリアをその程度では決して殺せない。
否、今はそんな事よりも、フィリアに突き飛ばされ、目と鼻の先の位置に居る女が掲げる杖型の聖具の先端に収束するエーテルの密度がとてつもない量になっている事の方が問題だ。
一体どこまでエーテルを収束させられるのか? 最早悪い冗談としか思えない程の、SSSクラスが振るえる限界量すら超えた量のエーテルの収束を前に、背に嫌な汗が流れる。
振り下ろした《破滅》を構え直す時間は無い。私に出来る事は、最早どれだけ無意味と分かっていても、回避か防御に専念する事しか無い。
だが、その選択支すらも《破滅》を振り下ろす瞬間に生じた僅かな隙を突いて、周囲の地面から生えて来た土の腕に足を取られ、回避と言う選択支を奪われ、残った防御を強制される。
故に、私に出来るのは全力でエーテルの障壁を展開して、あの暴力的なまでにエーテルを収束させた一撃に耐える事だけだった。
そして「――Blaster」女の口から、収束させたエーテルを解き放つ為の言霊が紡がれて、次の瞬間には、私の視界は白い極光に焼かれていた。
何重にも重ねて展開していたエーテルの障壁は悉く破壊され、暴力的な量のエーテルの奔流が私に叩きつけられる。
その威力に、荒れ狂うエーテルの奔流に、奪われかける意識を意地で繋ぎとめ、少しでも被害を抑えようと、障壁の再展開と、エーテルの奔流によって破壊された体の修復に全力を注ぐ。
そして――放たれるエーテルの奔流が途絶えるその瞬間まで、持ちこたえる事に成功する。
視界は閃光によって焼かれ、未だに前方すらはっきりと見えないが、それは直ぐに暗順応を果すだろう。
もっとも、視界が潰されていようとも、エーテルの反応を探れば現状を把握するのは難しくない。
莫大なまでのエーテルの奔流を解き放った女にはもう殆どエーテルは残っておらず、フィリアにはまだ多くエーテルが残っている様だが、そもそも彼女では私を倒す事は出来ない。
先程の膨大なまでのエーテルを収束させた一撃が文字通り切札だったのだろう。それに耐え切った今、この局面での戦いの結末は見えたに等しい。
それにしても――あれだけのエーテルの奔流でも今回の土の檻は破壊できないらしい。
外界と遮断された檻の内側には先程放出された莫大な量のエーテルが渦巻き、通常では考えられない程の密度のエーテルがこの檻の中には漂っている。
もっとも、コレだけの量のエーテルがあるのならば、それを体内に取り込めば、回復はスムーズに進むだろう。流石に先程の一撃には堪えたので、今はありがたい限りだ。
しかし、これだけのエーテルが檻の中に渦巻いている状況と言うは実に良くない。この漂うエーテルを女が回収してしまえば、もう一度先程と同じ一撃を放たれる可能性がある。
今は、エーテルを大量に消費して、周囲のエーテルを収束させる事すら不可能だろうが、これだけのエーテルが空間に満ちているのなら、回復も早い筈だ。
そして、ある程度まで回復できたのならば、この空間に満ちた女の制御下にあるエーテルを再収束させる事で、もう一度あのエーテルの奔流を使われることになる。
もう一度あれに耐えられると言う確証は無い。障壁の展開や、肉体の修復に用いたエーテルの量等を考えると、恐らく耐えられない。故に、今この瞬間より私が取るべき行動は一つしかない。
あの奇怪な格好の女から先に始末する――それも、もう一度あの一撃を撃たれる前に、可及的速やかに。
考えている間に、視界は暗順応して目前の光景が元に戻る。どうやら先程のエーテルの奔流で随分と押し流されてしまったらしく、女やフィリアとの距離は少し遠い。
それでも、女が周囲のエーテルで回復を果たし、先程のエーテルの奔流をもう一度使える様になる程まで回復される様な距離でも無い。
故に私は、周囲から取り込んだエーテルを回復に回しながらも、体内に残ったエーテルを脚部に収束させ、地を蹴った。
収束し、解き放たれたエーテルが私の体を加速させる――が、先程の一撃によってエーテルは相当量失われており、考えていた程の速度は出ていない。
もっとも、その加速でも女が再度あのエーテルの奔流を放つまでには仕留められるだろうし、フィリアに追いつかれる事もない域の速度なのだが、やはり考えていたより速度が出ないというのは良い気がしない。
とは言え、現状を嘆いても仕方がない。私が成すべきは奇怪な女を殺し、フィリアを再生不可能になるまで殺しつくす事だ。そしてそれは、この状態でも不可能では無い。ならば、やり遂げるしか無いだろう。
そして、加速し、女の元へと向かう私の前にフィリアが立ちはだかる。
彼女を殺す事こそが私のこの戦場での最大の目的なのだが、今は彼女の背後に居る女をなんとしても先に殺さねばならず、その為には彼女は邪魔だ。
どんな拘束からも自害して肉体を再構成する事で抜け出し、何度でも蘇るその特性からその身を盾に女を守り続ける――かといって、彼女の相手をしている訳にもいかない。
彼女の居る中でどうやってあの女を始末するか、それが現状での最大の問題だ。
一応、強引に突破し、フィリア毎まとめて一撃で仕留めるという手が無い訳では無いのだが、反応から察するに、女の回復は私が考えていたよりもずっと遅く、時間の猶予は少しはある現状、他の策を考えたい。
強引な手段に走った結果、余計なエーテルを消耗し、その結果女を始末した後、フィリアを殺しきれないという様な無様な状態になるのは出来る限り避けたいのだ。
何か他の策が思いつくまでは、余計な行動は止めた方が良いと判断し、私は彼女の目前で減速し、彼女と正面から向かい合う。
彼女にしても、目的が私を足止め、女にあの攻撃の準備をさせる事なのだから、会話を投げれば乗って来るのは目に見えていた。
「守護者幹部、フィリア=オル=フェリアス……悪いが、今は貴女の相手をしている場合では無いのだ――貴女の後方に居る女、あれは先に始末させてもらうぞ?」
「させると思うの? と、言うより何が狙いかしら? さっきので彼女には禄にエーテルは残っていないわよ? そんな彼女を先に始末しようだなんて、とても準最高位聖具の契約者の台詞とは思えないわね?」
時間を稼ぐことが目的の彼女の言葉はどこか回りくどい。何が狙いか? あの女にエーテルが残っていない? 準最高位の台詞とは思えない? 随分と言ってくれるではないか。
何が狙いか、など時間を稼ごうとしている彼女には言うまでも無く理解できている筈だし、エーテルが残っていないのは事実でも、周囲に満ちるエーテルを取り込めば直に回復するのは目に見えている。
そして、準最高位だからこそ、それ以下の聖具で下準備を要するとは言えあれだけの力を振るえるあの女を捨て置けない。そんな事は問うまでも無い事だ。
「応えるまでも無い。そも、先の一撃も威力こそ大したモノだったが、もう一度撃たせて貰えると思うなよ? 切札を使うなら確実に仕留めてみせろ――聞こえているのだろう、フィリアの後ろに隠れる女よ」
「もう一度撃たせて貰えると思うな、なんて言う割りに、こうして私とは会話してくれるのは何故かしら? それこそ、会話なんてこれ以上無い時間稼ぎだと思うのだけれど?」
確かに、フィリアの言うとおり会話と言うのは永遠の騎士からすれば非常に効率的な時間稼ぎだ――だがそれは、どちらにとっても同じ事だ。時間を稼ぐ事で有利になるのは、何もあの女だけでは無い。
どうやらフィリアは土の檻の現在の状況を全て把握している訳では無いらしい――まぁ、考えても見れば情報量等を考えればある意味それも当然と言う事か。
しかしここまで気付かれないとは思って居なかった……だが、気付いていないのならそれに越した事は無い。
私の背から伸びる魔獣としての力――鎖黒の鎖は、フィリアに見えぬ様に私の足元から土の檻の地面を掘削し、私とフィリア、そしてあの女が立つ地面の下を掘り進めながら、女の下へと進んでいく。
土の檻を掘り進めながらなので、その速度はお世辞にも速いとは言えないが、こうして気付かれぬのならそれでも問題は無い。
後は、フィリアに気付かれぬ様に会話を長引かせるだけなのだが――流石に幹部を名乗るだけあって、都合の良い様に見える状況であっても、それに此方が簡単に乗っている事に疑問を感じているらしい。
「私なりのハンデと言う奴だよ。見れば後ろの女の回復はあまり捗っていない様じゃないか……幾ら驚異的な力の持ち主であろうと、SS二人相手にSSSが本気で仕掛けるというのは些か大人気ないだろう?」
言い訳としては苦しいか? あまり苦しい言い訳を重ねては不審がられるかもしれないが、それでも疑念を持っている相手に沈黙で応じるよりはマシな筈だ。
「そも、大した攻撃だったが、使った後に周囲に散るエーテルが多すぎる。折角ダメージを与えても、周囲がこれだけエーテルで満ちていればそのエーテルで回復されてしまうぞ、このように?」
言いながら、修復がまだ済んで居らず、傷だらけだった左腕を掲げて、フィリアと女に見せ付けるように傷一つ無い状態に修復して見せる。
内側はエーテルを多く消費したせいで万全な状態では無いが、外見と言う意味では修復できない衣服以外は先程の一撃を受ける前と殆ど同じ状態だ。
こうして余裕を見せる様に振舞えば、此方がもう一度あの攻撃を受けても耐えられると踏んで油断していると見えなくは無い筈だ。
「あらそう、その余裕の割りには私よりもマナハを優先して倒そうとするのね?」
「貴女では私にダメージを与える手段は殆ど無いが、あの女は私に相応のダメージを与える手段を持っている――で、あれば僅かでも脅威になりうる者を先に倒そうと考えるのは当然の判断だろう?」
こうして会話を交わしている間にも女の持つエーテル量は増えていき、私が地面に潜ませた鎖黒の鎖は女の下に向かって伸びていく。
女のエーテル量が十分に満たされるのはまだ今しばらく掛かりそうだが、私の伸ばした鎖はもう既に女の足元にまで伸びている。
そして、フィリアには最後まで気付かれなかった。勝利の確信と共に、女の足元まで伸ばした鎖を地表に解き放とうとした、その瞬間――
「私のエーテルを使って、回復したって言ったわね?」
未だ先の一撃を放てる程にはエーテルを回収できていない女が、突然そんな言葉を紡いだ。その戯言に付き合うつもりの無い私は、女の足元まで伸ばしていた鎖を地表に解き放った。

<SIDE-Manaha->
「私のエーテルを使って、回復したって言ったわね?」
フィリアさんと男との会話に割ってはいる様に私は言葉を投げた。それは、とても重要な事だから。
コレだけ空間にエーテルが満ちていれば……否、満ちていなくとも永遠の騎士は存在するだけで周囲のエーテルを少なからず取り込んでいる。
故に、仮に男が私が空間に満たしたエーテルを取りこむ意志が無かったとしても、時間さえあれば問題は無かったのだけれど、実際に男は見せ付ける様に私が空間に満たしたエーテルを利用した。
で、あれば――後はそれが全身に巡るのを、ホンの十秒程度を待つだけで良い。それで、私の準備は整う。
本当は男のエーテル量が《LightningBlaster》を受けて以降に少しでも増えた時点でよかったのだが、失敗が許されない以上、絶対の確信が欲しかった。そして、その確信を先程ようやく得ることが出来た。
こうして確認する様に相手に問いを投げる必要は無い。もっとも相手にはもう逃げる術は無いのでどちらでも良いのだが、私の性格上こういう風に最期に言葉を投げる事はかなり珍しい事だと思う。
それでも、私はそうせずには居られなかった――男の言葉が、私に戦いを教えてくれた、今はもう居ないあの人の言葉にとてもよく似ていたから。
それがいけなかったのか、次の瞬間、私の足元の地面からこの戦いの間に何度か見た、五本の黒い鎖が突然現れて、私の四肢はその内の四本によって拘束されてしまった。
「なっ!?」
フィリアさんが慌てた様な声を上げながら、此方に振り返るが、そのフィリアさんも男に背を向けた瞬間に黒い鎖で再度全身を拘束されてしまう。
「一度は破られた方法ですが、私がこの場に居れば先程と同じ手段では貴女は死ねない。その間に、貴女のお仲間には私の鎖で適当に穴だらけになってもらいます。それでようやく一対一だ」
私を無視して、拘束したフィリアさんにのみ言葉を向ける様に男は言葉を紡ぐ。成程――私の事は本当にどうにでも出来ると思っているのだろう。だったら、思い知らせてやらなければいけない。私達の力を。
「貴方、私の話を聞いてる?」
「……聞こえているさ。それで、動きを封じられたお前が私に今更何を言ってくれるのだ、女?」
フィリアさんとの対応が明らかに違うのは、やはり私を軽んじているからなのか、他に理由があるのか――それは私には分からない事だけど、そんな事はどうでも良かった。
「貴方、言ったわよね? 切札を使うなら確実に仕留めてみせろ――って」
「確かに言ったが、それがどうした? 現にお前の切札で私を倒しきれなかったからこそ、今こんな状況になっているのだが?」
全くもってその通りだ。だけれどそれは、その考えがそこで終っているならの話だ。
「切札を使うからには倒せ、確かにそれには私も同意するわ。けどね――それだけじゃ、足りないのよ」
「何を言っているのだ女、時間稼ぎか? 生憎だが、私の見立てでは貴様の切札とやらが使える様になるにはまだ少し時間が掛かるぞ? そも、そうして四肢を拘束されていては私を狙う事など出来まい」
あぁ、確かにその通りだ。こうして四肢を拘束されている今《光輝》の先端にエーテルを収束させて放つ《LightningBlaster》ではこの状況は動かせない。
《LightningBlaster》では、動かせない。だけれど――私の力はそれだけじゃない。
「残念だけど時間稼ぎじゃないわ。貴方の考えに足りないモノ……それを最期に教えてあげる。切札を使うなら必ず倒せ――そして、万が一に備えて奥の手を持て。それが私に戦いを教えてくれた人の言葉よ」
「奥の手、だと? 笑わせるな、SSクラスの分際であの攻撃以上に一体何が出来る? そもそも、これからその奥の手を使いますと宣言する馬鹿がどこに居る?」
本来なら私だってそんな事は言ったりしない。男の言う事は確かに正しい。だけど、どうせ防御も回避も不能な攻撃なのだ、その存在を告げようと告げまいと、結果は何も変わらない。
「どこに居るも何も、今貴方の視線の先に居るじゃない――まぁ、こうして使う前に相手に告げるのは初めてだけど、結局どっちだって良いのよ、防御する手段も回避する手段も私の奥の手には無いから」
「急に饒舌になったな……やはり狙いは時間稼ぎか? それ程の力があるならさっさと使えば良いではないか?」
確かに、この状況で急にコレだけ饒舌に離せば、時間稼ぎをしていると思われてもおかしくは無いか――じゃあそろそろ、あの男には退場してもらおう。この広域次元世界から、完全に。
男の言葉に「えぇ、じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうわ」そう応じて、私は意識を集中させて、イメージを固め、奥の手の名を、その言霊を紡ぐ。
「――《EtherlightBreaker》」
私の内にあるエーテルをホンの僅か消費して、その力は解き放たれて――ホンの一瞬の間をおいて、男の体の至る所が裂け、そこから大量のエーテルが男の血と共に噴出した。
《EtherlightBreaker》――切札たる《LightningBlaster》に耐えた相手を倒す為の、私の奥の手。
《ShiningBullet》によって周辺空間に撒いたエーテルを収束させて打ち出すのが《LightningBlaster》で、その周囲に撒いたエーテルの中で相手に取り込まれたモノを利用するのが《EtherlightBreaker》だ。
相手の体内に取り込まれた私の撒いたエーテルを利用し、相手の肉体を内側から破壊する、対エーテル存在……即ち永遠の騎士と魔獣に対する私の奥の手だ。
一度私の撒いたエーテルを取りこんでしまえば、防御も回避も許されない絶対の力。
その上、私の撒いたエーテルだけでなく相手が保持するエーテルすらも利用する為、私自身はそれ程エーテルを消耗しないと言うのも大きい。
もっとも、コレを行使する大前提として相手が私の撒いたエーテルを吸収している状況、即ち《LightningBlaster》を使用している事が条件となる為、使用するエーテル量が多くては使い物にならないのだが。
兎も角、これで私達の勝利だ。
「甘く、見ていた――まさか、本当に……奥の手とやらがあったとは、な」
例え、私の奥の手を受けた相手がまだ立っていたとしても。
そう、私の視線の先には全身に幾つもの傷口を残し、その傷口の全てからエーテルを大量に撒き散らした男が、尚も消滅する事無くその場に立ち尽くしている。
その体にはエーテルは殆ど残っていない。此処に至るまでまでに大量にエーテルを失った私よりもホンの少し多い、程度だろう。
それでも、私よりも彼の方がエーテルを多く有していようとこの戦いは私達の勝利だ。何故なら――
男がフィリアさんを拘束していた鎖の隙間から、真っ赤な血が流れ出し、その血はエーテルとなって大気に融けて行く。
そして、次の瞬間には鎖の隙間から大量の金色の光りがあふれ出し、いつの間にか男の直ぐ傍にフィリアさんが再構成されていた。
――私は一人ではなく、男はもう周囲のエーテルを集めて自らの力に出来ないからだ。この閉じた空間に満ちるエーテルには大量に私が撒いたエーテルが満ちている。
それを吸収する事は、もう一度《EtherlightBreaker》を発動させる為の条件を自ら満た行為に他ならない。故に、この戦い――私達の勝利だ。
「フィリアも、開放されたか――これで、勝ち目は無くなったな。だが、準最高位の契約者にして、最高位の魔獣である私が、SSクラスの二人に、一方的にやられると言うのは、情け無なすぎると思わないか?」
「どう思おうがそれが現実よ、認めなさい。まぁ、私はLv9の魔術師だし、マナハにしたって共闘する私にすら教えてない奥の手を隠してた規格外なんだし、仕方ないわよ」
傷だらけの姿のまま、その傷口からエーテルを漏れ出させる男にフィリアさんがそんな言葉を投げる。それに「仕方なくなどない――せめて……」男は何かを答えかけて、口を紡ぐ。
そして、そのボロボロの体のまま、地を蹴り、未だに鎖で四肢を縛られた私の元へと、その手に鉄槌型の聖具を持って一気に距離を詰めてくる。
「――せめて一人は、道連れにさせて貰うぞ、フィリア!」
そのSSSクラスの最期の意地の特攻に、四肢を縛られた私は成すすべも無く、目前に迫った死に瞳と閉じる。
――しかし、予想していた衝撃は訪れる事なく、変わりに重い何かが地に落ちる様な衝撃と音が足元から伝わってきた。
その衝撃に恐る恐る瞳を開くと、その先では、大量のエーテルが開放された様な金色の光りと、男の持っていた鉄槌型の聖具が地面に転がっていた。
「最期はちょっと焦らされたけど、流石にあの体で動くのは無茶だったみたいね――兎も角、無事で何よりだわ、マナハ」
その光景と、フィリアさんの言葉に本当に戦いが終ったのだと安堵した私の意識は、大量のエーテルを消耗していた事もあって、その場で深い闇に飲まれていった。

TheOverSSS――15/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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