EternalKnight
VS破滅/Cadenza
<SIDE-Philia->
マナハの生み出した数百に及ぶ光弾の雨が止む。その中心点では、全身に細かな傷を負ったダージュの姿がある。
どれだけの光弾が最終的にダージュに命中したのかは分からないが、予測通り、与えられたダメージはマナハが消費したエーテルから考えれば余りにも少ない。
先程の光弾の雨がマナハの切札へと繋がる布石だったと分かっていても、あれだけのエーテルを使っても大したダメージを与えられら無いと言うのは少し堪えるモノがある。
あれだけの光弾の雨の中であの程度の負傷しか追わない様な相手を、SSクラスのマナハの切札とやらだけで、本当に倒す事が出来るのか?
否、倒す事が出来なければ、私達に勝ち目は無いのだ……倒せると信じて行動する他に、出来る事は無い。
だから私は、光弾の雨が止むのと同時に、土の柩の、ダージュが立っている地面の形状を変質させ、その足を土の柩の地面に縫い付けた。
勿論、それだけでは直ぐに拘束が解かれるのは目に見えている――故に、すぐさまダージュを拘束する為に、土の柩の壁や地面を変質させ、ダージュの拘束に当たらせる。
足元を縫いとめられた事でその手に握る鉄槌を振るう事が出来なくなったダージュは、早々に《破滅》によって拘束を破壊する事を諦めて、以前の戦いで見せた黒い鎖をその背から生やし始める。
あれは、拙い――恐らくあの鎖がダージュの魔獣としての能力なのだろうが、あれを展開させるのは拙い。
以前の戦いの際には無数の鎖を絡ませて巨大な腕の様にして操っていたり、背後から隙をついてではあるが《宿命》の契約者を貫き、鎖で転移の陣を描きあの場に《呪詛》を呼びよせた際に使っていた力だ。
《呪詛》は今現在レオン達と戦っている筈なので転移の陣現れたりはしないのだろうが、組み合わせて自在に操る効果と《宿命》の契約者を貫ける程の威力はそれだけで十分に脅威に値する。
そもそも転移の陣に関しても呼び出せるのが《呪詛》だけとは限らない。
――もっともこの戦場に集まっている敵は魔獣の中でも指折りの存在である筈なのは間違いないので、呼び出せた所で現れるのはそれ以下の戦力なのだろうけど……
今の時点でも戦力差はこれだけ明らかな所に、これ以上敵が増えるのは考えたくない。
とは言え《呪詛》を呼び出した時には陣の展開から実際の出現までに結構な時間が掛かっていた。それを考えると、それだけの隙を晒してまでこの戦場に仲間を増やそうとしては来ない――と、思いたい。
兎も角、あの黒い鎖は危険だ――少なくとも、今あの鎖を展開したと言う事は、あの鎖を使って拘束を解こうとしている、と言う事だろう。
……ならば、此方にも考えがある。前回と違って、今回は拘束していなければいけない時間はそれ程長くはないのだから。
鎖を展開し始めたダージュの元へと、土の柩の地面と壁面から、無数の巨大な手が伸びてダージュに襲い掛かり、その体を掴み、絡みつき、隙間無くダージュの体を埋めるように柩の中に小さな山を作り出す。
全身を埋めてしまってはマナハの攻撃がダージュに届きにくいのだろうが、以前全身を土に埋めた際には直ぐに《破滅》の力で埋めた周囲の土を破壊して出てきたのだから、直ぐに出てくるだろう。
これで、ダージュを生き埋めるのは二度目だけど、同じ手をそう何度も貰ってくれるとは思えない以上、出来ればこのチャンスでマナハには決めて欲しいのだけど――
彼女の切札とやらがどれ程のモノかは分からないけれど、先程の光弾の雨を見る限り、ある程度期待しても良いのかも知れない。
そんな風に考えている私の耳に「《ShiningBullet》」先程と同じ詠唱が、聞こえて来た。
「――ぇ?」
その声に、思わずダージュが埋まっている小さな山から視線を切り、私の後方に居たマナハの方へと体ごと振り向く――その先では、先程見たのと同じ様に、無数の光弾が展開されていく光景が広がっていた。
「さっきと、同じ?」
詠唱にも変化は無かったし、何より展開されていく無数の光弾が先程となんら変わりない。それが彼女の言う切札だとは、私には到底思えなかった。
「すいませんフィリアさん、さっき撃ち出したのの何割かは敵に打ち消されちゃったみたいで……全力で撃てそうに無かったんです。だから申し訳ありませんけど、これの後、もう一回お願いします!」
成程、事情は分かった。分かったけれど、随分と簡単に言ってくれるわよね、マナハも……
流石に何度も同じ手は通用しないと思うんだけど……エーテルをコレでもかと言わんばかりに使って頑張っているマナハの手前、泣き言は言ってられない。
足元からの拘束は恐らくもう通用しない、そして、唯一土の柩に接しているであろう足元からが通用しないなら、もう生き埋めを狙うのは難しい。
……では、どうやってマナハが用意した切札をダージュに命中させる? そんな事を考えている間に、マナハの展開した光弾は先程と同程度の量まで増え、ダージュを埋めた土の山の表面にはひびが入っていく。
ダージュの動きを止める方法が無い訳ではない。しかし、こちらでタイミングを選べるような方法では無いし、止められたとしても一秒程度のものだ。
使えるのも不意打ちに等しい一度目だけで、それ以前に失敗が絶対に許されない。それでも、それしか方法が無いのなら、それを試すしかないのだろう。
このまま戦い続けても、マナハの切札以外にダージュを倒せる可能性は無いのだから。
そして、ダージュを埋めた、ひび割れた土の山が、遂に崩壊する――それと同時に「《ConcurrentShooting》」マナハが光弾の雨をその地点に向けて開放した。
崩れ落ちる土の山に光弾の雨が降り注ぐ。
その姿こそ、崩れる土の山と降り注ぐ光りの雨によって巻き上げられた砂埃に覆い隠されて見えないが、その中心では先程と同様に《破滅》を振るい迫る光弾を叩き落しているダージュの反応が捉えられる。
この光弾の雨が止んだ瞬間からが、頑張りどころだ。マナハの切札の準備が整うまでの時間を稼ぎ、整った段階でダージュの動きを止める――言葉にすると簡単に聞こえるけれど、上手く行く保障は無い。
否、上手く行かせるんだ。私達にはそれぐらいしか勝機がないのだから。
そんな風に思考していた私の元に、光の雨が降り注ぐ砂埃の奥から、黒い鎖が一直線に伸びてきているのに気付いた時には、その鎖の先端は私の左肩を貫いていた。
その鎖は一つだけに留まらず、砂埃の向こう側から何本も凄まじい速度でこちらに向かって伸びて来て、一本目の鎖に貫かれ、動きを制限された私にそれを回避する術はなく、無数の鎖が私の体を貫いた。
最初の一撃で貫かれた左肩、そして左腕、右上腕、腹部、右腿、左足――全身の六ヶ所を貫かれ、貫いた鎖はその後も絡みつく様に体を巻きつき、全身の自由が奪っていく。
瞬く間に全身に鎖が巻きつけられ、そのまま私は文字通り身動き一つ取れない状態に陥れられる。
頭部も完全に鎖に覆われ、口を開く事も出来ないので舌を噛み切って一度死に、別の場所で復活と言う様な前回ダージュの拘束から脱した際に使った奥の手も取れない。
「質問なんだが、身動き一つ取れない様にされる気分はどうかな? 二度体験させてもらった私としては、もう二度と体験したくは無い、と言った感想なのだが? あぁ、すまないな――それでは喋れないか」
二度目の光弾の雨を乗り切った直後だというのに、ダージュの声は楽しげに聞こえる。いや、ダージュの側が圧倒的に有利の状況なのだ、饒舌になるのも無理はないのかもしれない。
「もう暫くそのままで居てくれれば、もう一人を始末して、貴女がどれだけ殺せばエーテルを使い果たして消滅するのか確認する作業に入れる――故に、もう少し待っていてくれ」
これは、拙い。私がこの様では、マナハがダージュに殺されてしまう。何か、この状態で自害できる方法を考えないと、早くしないと手遅れになってしまう。
どうする? 身動き一つ取れない状態でどうすれば……否、拘束しているモノが鎖であるなら、その形状の関係上僅かな隙間がある筈だ、その隙間から《慈愛》の《EtherThread》で何とか出来はしないだろうか?
否、駄目だ――糸を通して五体をバラバラにするには時間が掛かり過ぎる。永遠の騎士は基本的に人間の構造を模してはいるが、魂さえ維持出来れば人としての機能を必要としない。
故に、簡単には死ねない。五体がバラバラになっても魂の力とエーテルさえあればそれである程度は生きている事が出来る。
意志の力で生きようとしなければ、流石に五体バラバラになれば死ねるのだが、窒息などではどうやっても死ぬ事は無い。そもそも酸素など無くても生きているのだから当然と言えば当然なのだが。
故に、以前ダージュに拘束された際も舌を噛み切った上で自らの体をバラバラにしたのだ。死のうと思って簡単に死ねるなら、血を流しエーテルを無意味に消耗する様な死に方など選ばない。
だが今は、どんなに無駄にエーテルを消耗する方法であろうと構わない、手段は選んでいられない。どんな方法を使ってでも、この肉体を放棄して再構成を行える程度の死に方をしなければいけない。
否……鎖の隙間? この体を放棄する程の肉体の損傷? だったら、私の力を使えば――
……それで間に合うか? 否、悩んでいる時間はもう無い《EtherThread》を使って五体をバラバラにするのよりは速いと信じて、実行に移すしかない。
頭の中で素早く術式をまとめ、詠唱と言う工程を挟まずにそれを実行に移す。同時に《慈愛》からの加護を極力なくし、肉体の強度を可能な限り脆弱にしていく。
鎖で全身が覆われている以上、外の光景は見えないが、エーテルの流れを読む事で、大体の状況を知る事は出来る。
私の動きを鎖で封じたダージュは、この戦いにおける私達の攻撃役であり、私と違って殺す事が出来るマナハを先に始末しよう、《破滅》を構えてマナハに近付いていっているのが感じ取れる。
マナハの方も、私の動きが封じられたのを知って逃げに徹している様だが、基本的な能力に差が有る以上、時間の問題でしか無い。
そこまで考えて、全身の感覚全て遮断する――それが訪れる事も、回避する方も知っているのに分かっている苦痛を受けるのは、マゾヒストのやることだ。
新たに肉体を構成する場所は――既に決まっている。その次の瞬間、私の体は押しつぶされ、意識は途絶えた。

<SIDE-Dirge->
背後から、フィリアを拘束した方向から、巨大な質量が――この閉ざされた土の檻全体がうねる様な重低音が聞こえてくる。
逃げ回っている奇怪な格好をしたフィリアの協力者を《破滅》の一撃で消滅させられるまで後一歩と言う所まで来て、コレだ。
……フィリアの動きは私の魔獣としての能力で拘束した筈だが、SSクラス聖具の契約者とは言え、Lv9の魔術師だ。そして何より、今私を閉じ込めているこの土の檻を編み上げたのはフィリアだ。
その土の檻全体に変化が生じているというのなら、このまま捨て置いても邪魔にはなるだろうが、障害足りえない女を消滅させる事よりもその変化に備えて居た方が正しい選択だろう。
そう自らで判断を下し、逃げ惑う奇怪な格好の女から視線を切って、フィリアの反応がする方へと視線を向ける――無論、捨て置くとは言ってもエーテルの反応は知覚し、不意を打たれぬ様にだけはしておくが。
そして、振り返ったその先の、フィリアを縛った鎖のあるべき場所には、先程までは無かった筈の土が山の様に固められていた。
「自らを……生き埋めた? 否、私の鎖を破壊しようと外部から圧力を掛けたのか?」
だが、その程度で私の鎖を破壊する事等――否、そもそも鎖など破壊せずとも彼女には鎖の拘束から逃れる方法があるではないか。
即ち、この土の山の目的は――鎖を構成するチェーンの隙間から土を内側に流し込んで、自らを圧迫死させたとでも言うのか? 否、この状況ではそうとしか考えられない。
鎖の内側で限界まで圧迫されたその肉体が、真っ当なカタチで残る訳が無い。故に、《無限蘇生》の名を冠する彼女の肉体は――ある程度の範囲内の彼女の望む位置に再構成される。
どこで再生しようが周囲のエーテルの流れに気を使っていればある程度は対応出来る。否、そもそも――彼女には私に対して有効な攻撃手段も持っていない筈だ。
それに関しては、前回の戦いと今回の戦いではっきりとしている、彼女に出来るのは私の動きを拘束する所までで、決して私の存在を脅かすような攻撃は出来ない。
そもそも攻撃の手段があるのに未だにそれを使ってこないという事の方がおかしい。
で、あれば――少なからず私にダメージを与えられる側を先に討つべきなのだろうか? とは言え、あの奇怪な女にしても私に真っ当な攻撃が届くとは思えないが……
一度目の光りの雨も、続く二度目も、どちらにしても少しばかりは痛みを感じた、程度でしか無い。攻撃手段がまるで無いフィリアに比べればマシかも知れないが五十歩百歩だろう。
と、言うかあの光りの雨にしても手数が多いからダメージになっているにすぎない。現に、最初の十五発に関しては全て《破滅》の力で打ち消しているのだから。
――まぁ良い、元々あの女から殺して、じっくりとフィリアのエーテルが空になり再生不可能になるまで殺し続けるつもりだったのだ、一度歪んだ予定が元に戻っただけに過ぎない。
そんな風に思考している間に、フィリアが私と奇怪な服装の女の間に再構成された。
まぁ、なんであれ関係ない。とりあえずはあの女を殺す。
――幾ら拘束されていたとは言え、こうしてその拘束から脱出出来る様な状況下でさえ背を向けていた私には何もして来なかったのだ、フィリアに関しても殺すことが難しいという程度の認識で問題ないだろう。
元々、地属性のLv9の特性は《無限蘇生》だ。Lv9であるとは言え、攻撃手段は持ち合わせていないと、そういう事なのだろう。
そう自らで結論を下して、私は地を蹴り、一気に奇怪な格好の女の方へと向かって加速した。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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