EternalKnight
VS破滅/Scherzo
<SIDE-Dirge->
フィリアが地属性の魔術によって作り上げた土の檻は瞬く間に隙間無く形成され、外界と完全に隔絶された空間となり、光りは失われて暗闇の包まれる。
この闇で視覚を奪う事が目的なのかと一瞬脳裏で考え、周囲のエーテルの動きに神経を集中させて立ち止まるが、その心配も「《ShiningBullet》」フィリアと共に居た女が紡いだ詠唱と共に霧散する。
正確には、その詠唱と共に生まれた暗闇を照らす光源を見て、だが――否、或いはそうして油断させる事が目的かもしれない事を考えると、もう少し警戒はしておくべきかもしれない。
どの道、形成された光源は無数に存在しているが、それぞれ大したエーテル量ではない事を考えると、目に見えているあれを態々警戒する必要はない。
周囲のエーテルの動きに注意を払っているが、異変は無い――そう思考をめぐらせている間に、淡い無数の光だけが光源だった土の檻の各所が発光し始め、空間に一気に光が満ちていく。
それに意識を取られている一瞬の間に、先程まで空間を淡い光で照らしていた無数の高原は、私の元に殺到する様に打ち出された。
射出された光弾の速度はSかSSと考えればなかなかどうして悪くない――が、準最高位聖具契約者であり、その上で魔獣としても最高位にある私に対する攻撃としては、まだまだ温い。
回避する事も容易だが、そもそも回避する必要すらない攻撃を不用意に回避して隙を作るのは得策ではない。
特に、この場にはフィリアが居て、今私が立っているこの空間はフィリアが作り上げた土の檻だ――些細な隙つかれてもう一度生き埋めにされるのはごめん被る。
故に――右手に収まる《破滅》に破滅の概念を纏わせ、全方位への警戒をそのままに、前方から迫る光弾に視線を集中させる。
迫る光弾の数は十数発、食らえば多少のダメージにはなるであろうそれを、私は正面から迎え撃つ。迫る光弾を、もっとも少ないアクションで処理する軌跡を頭の中で描き《破滅》を振るう。
破滅の概念を纏った鉄槌は、振りぬかれた軌跡の上に存在する光弾を悉く接触と同時に破滅させ、一振り目でハつを、二振り目で五つ、最後の一振りで残った二つの光弾をかき消してていた。
あらゆるモノを破壊し滅する概念封殺能力――それが私の《破滅》の力だ。破滅の概念を纏った一撃を受けたモノはなんであれ、砕かれると同時に無かった事にされる。
故に、本来ならば着弾と同時に何かしらの効果を成す筈だったフィリアの仲間が放った光弾は、何の効果も発揮せずにかき消されたのだ。
そう、破滅の概念を纏った一撃を受ければ、その箇所は封殺している《破滅》を破壊しない限り修復する事が出来ず、封殺された瞬間にあらゆる効果はかき消える筈なのだ。
――筈なのだが、《無限蘇生》はどういう方法でかは知らないがその影響を受ける事無く、破滅の概念で頭部を吹飛ばしても優々とそれを再生させ、今もまだ私の前に立ちはだかっている。
故に、私は彼女とは戦いたくなかった。破滅させられないのなら、相手にしなければ良いと思おうとした――だが《破滅》の力を完全に否定してくるその存在が許せなかった。
あぁ、そうだ……自分に嘘を付いても仕方がない。故に、認めよう――私は彼女を殺したい。《無限蘇生》などという大層な名を与えられたその存在を、その名を否定してやりたい。
だから私は、他に彼女の相手をする者が居ないなどと、適当な理由をつけてこうして彼女の元にやって来たのだ。
無限を語ろうがなんだろうが、それが魔術であると言うのなら、必ず少なからず魔力を、エーテルを消費している筈だ。ならば、そのエーテルが枯れるまで延々と壊して殺してやればいい。
その為には「大した障害ではないが……邪魔だな」視線の先に、光弾を放ったもう一人の敵を、彼女の仲間の方を先に殺した方が、面倒が無くフィリアを殺し続けられる筈だ。

<SIDE-Manaha->
私の撃ち出した15の光弾は、三度男が鉄槌を振るう事で全て霧散させてしまった。唯それだけで、今回の敵が今まで私が戦ってきた敵とは段違いで出鱈目な強さを持っている敵なのかを再認識する。
これまで戦ってきた回数は少ない方だとは自覚している。それでも先程の動きだけで、彼我にどれだけの力の差があるのかぐらいは分かるつもりだ。
距離がなければ――否、フィリアさんが居なければ、数秒も持たずにあの鉄槌で私は叩き潰されていただろう。それが私にも分かる位に、男はフィリアさんを意識している。
フィリアさんも一度戦った相手だと言っていたし、聖具こそ私と同じSSだけれど、フィリアさんにはLv9の魔術がある――あれほど力を持つ敵であっても警戒せざるを得ない程に、それは強力だと言う事だ。
何にしても、フィリアさんのお陰で私はこうして戦いの場に立っていられる。だったら、私はフィリアさんとの打ち合わせ通りに、遠距離から攻撃を続けるだけだ。
光弾では――《ShiningBullet》では何発撃っても、どれだけ撃っても無駄かも知れない。だけれど、次に繋ぐ為には、無駄だと分かっていても打ち続けるしかない。
そもそも、聖具で光弾を15発叩き落されただけだ。数を増やせば、全てを叩き落す事が出来なくなるに決まっている。もっとも、私にとっては打ち落とされ様が命中しようがどちらでも良いのだけれど……
そんな風に思考を纏める私に視線を向けながら「大した障害ではないが……邪魔だな」男はそんな風に呟いていた。
大した障害ではない、か……確かにフィリアさんが居なければ、私は直ぐにでも男にやられていただろう。それだけとてつもない相手と戦っているのだという自覚はある。だけれど、それがどうしたというのだ。
そんな事は言われるまでも無く解っている。だけど、大した障害では無いといわれるのは心外だ。少なくとも、この戦いにおける攻撃役は、フィリアさんではなく私なのだから。
一度、たったの15発の光弾を打ち落とした位で、舐められる訳には行かない。15発で駄目なら、もっと多くの――男が打ち落とせない程の光弾を用意する。
元より可能な限りエーテルを使って戦うつもりだったのだ、最大でどれだけの光弾を同時に撃てるのかを試してみるのも、悪くない。
「――《ShiningBullet》」
故に私は、力の名を叫んで、今の自分の限界に挑むつもりで光弾を可能な限り展開した。
《光輝》に限った話ではなく、聖具には個々に一度に能力として展開しうるエーテルの量に限度がある。それがあるからこそ、位階に差がある聖具が戦った場合はより上位の聖具が有利なのだとされている。
もっとも、根本的に持っているエーテルの量の問題や、相手の能力との相性等も重要な要素なのだけれど、そもそも一度に扱えるエーテル量が多いより上位の聖具の方がエーテルを保持している事が多い。
相性と言っても、永遠の騎士に成りうる資質を持つBクラス以上でさえ、無数にそれこそ数百数千と存在する中で、そういう相性の相手とめぐり合う可能性はとても低い。
だけれど、現実問題としてクラスが下位の聖具が上位の聖具を倒したという話は、思った以上に存在する。
上位の聖具側が手を抜いていて不意をつかれただとか、下位の聖具側は一人ではなく仲間と協力していただとか、偶然にも相性が良かっただとか、理由は色々とある。
だがしかし、そういう理由なしに純粋に一対一で下位の聖具が上位の聖具を倒したという事例も少ないながら存在している。それも、噂話などではなく、事実として。
現に私がその内の一人だ――もっとも当時の私はAクラスで、倒した相手はSSクラスだったので、そんな事実を知っているのは私と《光輝》しか居ないのだけれど。
兎も角、自身を構成しているエーテルを、聖具を通して聖具固有の能力やマナ、或いはフォースへ一度に変換出来る量には限度がある。
故に、正面から能力でのぶつかり合いをした場合は、より多くのエーテルで編まれた上位の聖具側の能力が押し勝つ。だからこそ、下位の聖具では上位の聖具に勝てない。
だがしかし、このルールには抜け穴がある。能力の性質等との兼ね合いもあるが、意外な程この抜け穴を知っている者は少ない。
そう、一度に変換出来る量に限度があると言うだけで、扱える量に関しては、契約者と聖具の本来ありえざる量のエーテルを制御するだけの精神力と技量があれば問題なく扱えるのだ。
故に私は、一度の詠唱をトリガーにして《ShiningBullet》を連続で展開し続ける。一度の展開で15の光弾が中空に形成されて、次の瞬間にはさらに15の光弾が展開される。
15、30、45、60、75、90、105、120、135、150――と、数秒の間に次々展開された光弾の数は既に展開している私にも解らない程の数にまで膨れ上がっている。
把握出来ていたのは400を超えたところまでで、自分に制御できる限界まで展開し続けた事によりそれよりも更に多くの光弾が、フィリアさんの能力で閉ざされた空間に所狭しと展開されている。
「これは……」
フィリアさんの戸惑うような声が聞こえるが、説明している時間も余裕も無い。自分に制御できる限界ギリギリまで数を展開したのはこれが初めてで、他に多くの意識を割く事が出来そうに無い。
流石にこの数は捌ききれない筈だ。もっとも、余裕を崩す事なく「ふむ――少し認識を改めるべきか?」そんな風に言ってのける男を倒せる訳でも無いのだろうが……それでも無傷ではいられない筈だ。
元より、この攻撃は布石に過ぎない――それで手傷を負わせられるなら、十分だ。
「《ConcurrentShooting》!」
そして、私が紡いだ言葉と同時に、数百に及ぶ無数の光弾は、一斉に男の元へと殺到した。

<SIDE-Philia->
「――《ShiningBullet》」
マナハがそう紡ぐと同時に、彼女の周りに無数の光弾が次々と発生し始めた。それは次第にマナハの周囲に留まらず、私が作り上げた土の柩全体に、所狭しと発生し続ける。
彼女の能力のもっとも基本的な形として無数の光弾を作り出し撃ち出すというのがあるのを聞いていたが、まさか此処までの量を展開できるとは思ってなかった。
発生している光弾の一つ一つは、先程十数個の光弾となんら変わりの無い量のエーテルを内包している事から考えれば、コレは明らかに以上な量だと言える。
ダージュを囲むように、土の柩の内部に展開されたその光弾に内包されたエーテル量の総量は軽く見積もってもSSクラスが展開できるエーテル量の限度を超えた出鱈目な量なのは誰の目にも明らかだった。
「これは……」
マナハもまた、レオンの様に能力に制限を掛けていたと言う事なのだろう? 否、そうであったとしても、それでは今尚マナハの反応がエーテルを大量に消費している事意外に変化していない事に説明が付かない。
ならばコレがマナハの言う所のクラスの限界を超えて能力の運用すると言う行為なのだろうか?
だが、しかし――そもそも、どれだけ数が多く、SSクラスの枠を超えた量を展開できた所で「ふむ――少し認識を改めるべきか?」それで相手に有効なダメージを与えられるかどうかは別問題だ。
ダージュの態度から察するに、数こそ意外だったかもしれないが、一発一発のエーテル量を考えればそこまでの脅威では無いと判断した、程度の所だろう。
……この戦いが始まる前に聞いた話通りなら、コレはあくまで次につなげる為の布石だ。
SSクラスの枠を明らかに超えた量のエーテルを運用して、それを布石と呼んで良い物かという疑問は残るが、今はマナハを信じて、次に繋げる為に動くしかない。
攻撃手段が殆ど無い、数少ないそれらも以前の戦いでダージュには破られている私に出来る事は、マナハを守り彼女が攻撃するチャンスを作る事意外にないのだ。
周囲に浮かぶ光弾を見渡して《破滅》を構えるダージュの動きに意識を向けながら、マナハが光弾を撃ち出した後、次に繋ぐにはどうすれば良いのかを頭の中でシュミレートしていく。
必要なのは、マナハが今展開している光弾を撃ち出した後、次の攻撃の準備が整うまでダージュからマナハを守る事だ。ならば――
そんな風に思考している間に「《ConcurrentShooting》!」マナハは周囲に展開した光弾を一気にダージュに向けて撃ち出した。
無数の光弾が、全方からダージュの元へと殺到する。全方位からの攻撃故に、逃げ道は存在せず、その膨大な量を前に最初の十数発の様に打ち消す事も不可能だろう。
だがしかし数百に及ぶ光弾の内、十数が命中した程度で倒せるとは思えない。否、そもそも全弾を命中させられたとしても、倒せるかどうかと問われれば些か怪しいかもしれない。
聖具の位階が上位であればあるほど、その体を構成するエーテルの密度が高くなる。そしてエーテルの密度はそのまま永遠の騎士や魔獣の肉体の強度に直結しているのだ。
どれだけの数を用意しようと、泥で作った球では土の壁は壊せない様に、並のSSクラスでもある程度なら同時に作り出せる程度の光弾では万全な状態のSSSクラスを倒すには威力が足りない。
その証拠に、全方位から無数に向かってくる光弾の嵐の中心で、その身に迫る光弾を一つでも多く打ち落とす為にダージュはその手に握る《破滅》を振るい続けている。
――或いは、それが分かっているからこその布石なのかもしれない。
一度に展開出来るエーテルの量には限度があるが、それが即ち扱えるようの限度では無いとするのなら、マナハの言っていた集めやすいというのは――
それにどれだけの時間が掛かるのかは私には解らない――だけれど、私が今しようとしている事はマナハの意思に沿っているのは間違いでは無いという確信は得られた。
後は、私がどれだけダージュを抑えていられるかに掛かっている。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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