EternalKnight
VS災渦/至高の心キョウヤ
<SIDE-Tquo->
放った拳と叩き込むその直前に「《HarmonicSupremacy》」男は何かの能力を発動させた。それも、何かとてつもない量のエーテルを消費して、だ。
密度を上げて《災渦》の一撃を止めた左腕もその密度を失い、殴られた衝撃で食い込んでいた刃がその腕を切断する。
ありえない、何が起こった? 準最高位の聖具では、これ程までのエーテルを一気に消費する事など出来ない。一撃に込められるエーテルの量には限界があるのだ――では、今の現象は一体なんだと言うのか?
(アホな……何が起こってんねん?)
そうだ、ありえない。準最高位でこれ程までのエーテルを一度に消費する能力なんて使える筈が無い、だが、実際にコレは私の目の前で起こった、ならば、コレは一体どう言う事なのだ?
(違うんやトクォ、そうや無いねん! ウチがいうてるのはトキハに埋めたウチの力が綺麗さっぱり無くなってもとるって事や!)
なっ!? 馬鹿な一体何が起こって――これも奴の能力だとでも言うのか? そんな馬鹿な、だったら何故今に至るまで使わなかった?
(まさか……さっきのまで黙っとたのは、この為なんか? 否、そうと考え名辻褄が合わん)
否、そもそも――確かに男はありえない量のエーテルを消費していたが、それがトキハの元に集まった気配は無かった筈だ。
だったら――何故? そんな疑問が止めどなく湧き上がってくるがそれに対する回答が得られない。
そうして立ちすくんでいる間に、周囲の景色が虹色から白へと変色していく。それを見て、そして以前に見た男の能力から考えて、今私の身に何が起きているのかと言う疑問に対する小さな答えを得た。
「内部の概念干渉を無力化する――亜空間形成やと? なんやねん、その出鱈目は? 準最高位に許された力の領域を超え取るぞ、そんなもん!?」
そもそもの話、どうして準最高位の限界を超えられている?
一撃に注げるエーテルの量には限度がある筈だ。だからこそその量を基準に聖具のクラスが大まかに分けられている筈なのだ、それを遥かに凌駕するエーテル運用しているのは果たしてどう言う事なのか?
準最高位の限界を超えたエーテルの運用、空間内の概念干渉を無力化するという反則じみた能力、そして――いつまでたって閉じきらず、穴だらけの状態で完成しない亜空間形成……どれを取ってはありえない。
こんな事はあってはならない事だ……理に適わない――これは絶対に異常だ。
「言ったろ、無理な話だったんだって――だから望む性能の再現を優先さて強引に発動させらこんな欠陥だらけの能力だった。これは、唯それだけの事だ……もっとも、予想外のオマケもついてきたんだがな」
その声の方へと視線を向けると、私に殴られた顔面を手で覆いながら、男がそんな事を言っていた。
先程も思ったが、大量のエーテルを消費した事で――否、今も消耗し続けている事でもう殆どエーテルが残っていない。その割には、表情に余裕が伺えるのがまた気に食わない。
もう、この亜空間形成は数分と持たずに消滅する事が見えている、男のエーテルの残量を考えれば、長引いても五分と持たないのではないだろうか。
ならばもう何の心配もないだろう。《災渦》の能力ももう直ぐに使える様になる。それでなくとも私にはそもそも魔獣としての能力が――
「――っ!?」
思考を其処までめぐらせて、気付く。先程まで、この空間に飲まれるまであれほど全身に満ちていた力が、いつの間にか感じられなくなっている事に。
馬鹿な、何故だ? どうしてだ? 私の魔獣としての能力は身体能力の強化であって、概念干渉等では無い筈なのに、何故それが無効化されている?
否、そもそも私が望んだのは意識して発動させる類の能力ではなく、常に私の力を上昇させ続ける力の筈だ、何故、どうしてその能力が消えている?
或いは、そういった力さえ無力化出来る亜空間形成だとでも言うのだろうか? 否、ここまで来ればもうどんな能力だと言われ様が信じる他にない。
それでも、エーテルの残量を考えれば私のほうが圧倒的に有利なのは間違いないのだから。
「あぁ、やっと気付いたかのか――随分時間が掛かったな。それとも、もう薄れすぎて感覚が無いのか?」
何だ? コイツは何を言っているんだ? 大量のエーテルを失って存在の密度が薄れているのは自分の方だろうが…… それも最後の強がりのつもりなのか?
否、確かに魔獣としての能力を押さえこまれた今ならば、男とトキハにとっては絶好のチャンスだろう……待て、トキハの気配はどこへ消えた?
舐めて掛かっていたが今は魔獣の能力も《災渦》の力も禄に発揮できないのだ。警戒するに越した事は無い。否、そもそも――この亜空間形成は男が成しているのだから、奴を殺せば話はもっと早い筈だ。
だが、あの男に仕掛けようとした瞬間にトキハに逆に仕掛けられる可能性もある――お前はどう考える《災渦》?
(……)
《災渦》からの返事は返ってこない。聖具との意思疎通すら遮断できる亜空間形成とは、いよいよ本当に意味が分からない。
これでは出鱈目を通り越して万能ではないか、幾ら大量のエーテルを消費しているからと言って、限度があるだろう?
仕方が無い《災渦》の意見などどうせ気にせず突っ込めば良いだとか、その程度の筈だ。警戒して仕掛ければ、SSSクラスの私がAクラスなんぞに隙を付かれたりはしない。
そう結論付けて、此方に視線を向けている男にトドメを刺す為に此方に応じない《災渦》を構え様としたところで、《災渦》を強く握っていた右手が砕けて、金色の光りを撒き散らした。
「なっ――え?」
何が……起きた? 私の体が崩れた? どうして? エーテルは十分に保持しているこの体が何故崩れる?
そうだ、さっきあの男が言っていたではないか『それとも、もう薄れすぎて感覚が無いのか?』と、あれは、こういう意味だったのか?
否、違う……そうではない。それは今何故私がこんな事にあっているのかの回答にはなっていない。だったら、一体どうして――
亜空間形成能力で私に何かしらの干渉をした? 否、幾ら空間内で法則を強制させられる亜空間形成とはいえ、それはありえない。
エーテルがまだまだ残っている私の体が崩れ落ちる様な法則が敷かれているのなら、同じ空間内に居る男には何故影響が出ていない? 能力を展開した本人だから? 成程確かに、それであればまだ理解できる。
否、そうか、私でこんな状況なのだから、トキハがこの法則化で存在できる筈がない。だからいつの間にかトキハの姿が消えていたのだろう。
しかし、それが分かった所でどうするこのままでは私はこの亜空間能力の法則でトキハと同じ様に消滅してしまう――で、あれば、どうすれば良い?
そこで、私はようやく男が展開したこの白い空間が穴だらけで、外側の虹色の世界が見えている事に気付いた。
空間内部にいる存在を消滅させる能力であれば、外に出れば良い――本来空間形成系の能力にその様な穴が開くはずは無いのだが、これだけ万能な能力だ、その程度の不完全さが無い方がおかしい。
ならば、私のすべき事は一つしかない。この白い空間に穿たれた無数の穴の一つから、一瞬でも早く外へ逃れる事、唯それだけだ。
亜空間形成能力はその内部にのみ特定の法則や制限を強いる力だ――どれだけ強力なモノであろうと、流石にその大原則からは逃れられない筈だ。
否、そもそもそのルールすら超越出来るのなら空間を形成する意味がない。故に、穴だらけとは言えこうして空間を形成している以上は、絶対にそのルールからは逃れられてはいない筈だ。
等と、考えている暇は無い。今は唯、一刻も早くこの空間から脱さなければならない。故に私は、今居る位置から最短距離でこの空間より外へと出られる場所目掛けて、足場を蹴った。
既に相当この空間の能力の影響が出ているのか、その一蹴りでは加速があまり得られず、空間の外まで中々辿り着けない。
それでも、能力の行使に大量のエーテルを消費して動けない男しか居ない今、そんな速度であれ、空間の外に逃れようとする私を止める者は居ない。
――居ない、筈だった。こんな場所に、他の誰も居る訳が無いと思っていた。故に、知覚を疎かにしていた。この空間から逃れる事ばかりに気を取られ、その違和感に気づく事が出来なかった。
その違和感の存在に気付いたのは、背後からの一太刀で私の体が上下に分断されてからだった。
背後に、エーテルの反応は無い――が、注意して知覚すれば、空間を満たす筈のエーテルが丁度人型に感じ取れなくなっているのに気付ける。
両断されて、下半身の感覚が途切れるその刹那に、下半身を構成していたエーテルを可能な限り集めて、上半身を空間の外へと押し出すフォースへと変換する。
それによって、私の体は背後からの襲撃者に両断された瞬間に加速し、そのまま白い空間に穿たれた穴から外へ――虹色の世界へと脱する事に成功した。
しかし、下半身を両断された事でエーテルを相当失ったのは痛かった。それでも男に残されているエーテルの量を考えればまだまだこちらの方が多いのだが、下半身と右腕を修復しない事には戦うのは難しい。
治癒能力等を持っていない私では、流石に下半身と右腕を修復するのには時間が掛かる。だがしかし、少なくとも男の側にはあの空間内だったとは言え、私の体を両断した戦力がある。
エーテルの残っていない男の方は兎も角、その存在をどうにかしなければいけない。しかし、増援等いつの間に現れたのだろうか?
そんな事を考えながら、視線を男の方へと向けて、私の体を両断した存在の正体を知るのと同時に、それ以上の疑問が私の中に生まれた。
「トキハ――やと?」
視線の先に居たのは、あの空間の能力で消滅したと思って居た、トキハの姿だった。
否、おかしい――それは絶対におかしい。トキハの気配云々はトキハの能力で気配を消してたとか、そういう理由で納得出来る。
だがしかし、何故トキハが、高がAクラスの聖具の契約者でしか無いトキハが、私ですらその中に長時間止めるべきでは無いと判断し、すぐさま離脱したあの白い空間の中に今も存在していられる?
味方には作用しない効果を持っているとでも言うのか? そこまでいけばもう万能を超えたご都合の域だ。
概念干渉能力の無効化、身体能力強化の無効化或いは魔獣の能力を無力化、そして聖具との念話を封じ、エーテルで出来た存在をエーテルの保持量に関係なく分解し、その上で味方にそのデメリットを与えない。
あまりにも多くの効果を有しすぎている――こんなもの、最高位の能力だと言われても納得しかねる程の性能だ。
私の持つ《災渦》とのあまりの性能差に、思わず《災渦》を握り締める様に左腕に力が入る。それによって、今度は左腕が砕けた。
今度こそ理解できない。ありえない。もう此処はあの白い空間の外なのに、どうしてこんな事が起こる? 否、それ以前に――どうしてあの空間から出たのに《災渦》は何も言ってこないのか?
常軌を逸した性能の亜空間形成能力――それは本当に私が感じたほど多くの能力を持っていたのだろうか? そもそも致命的な勘違いをしては居ないだろうか?
だがしかし、その致命的な勘違いが何であるのかが分からない。そんな事を考えている間に、軋む様な感覚が体中を駆け巡った。
その感覚がなんであったのかは、ここまで来れば想像できたが、それでも私は、両腕と下半身を失った自分の体に視線を向けて――ヒビだらけのその体を見て自分の最期を理解した。

<SIDE-Kyoya->
右腕を失い、下半身を失い、今まさに右腕も失った少女の体に、ヒビが入る――それは、当然の結末だった。
効果の範囲を自身のみから形成した空間の内部へと変質させたあらゆる概念干渉を無力化する《HarmonicSupremacy》の効果は、そもそもトキハの中に埋め込まれた死の概念を取り除く為の力だった。
そして、穴だらけで亜空間形成能力としては不完全で、且つ膨大な量のエーテルを消費するその能力は、当初の目的を果すだけでなく、この戦いにおいてはとてつもない効果を発揮した。
あらゆる概念干渉を無効化する能力――その力は、魂を呪い魔獣化させるという《呪詛》の能力すら無力化さたのだ。
《呪詛》の呪いとは、死者の魂を呪い隷属する力だ――故に、その呪いが無力化された者の末路は、死以外にはありえない。
例えどれ程のエーテルを持っていようが、魂を繋ぎとめる力がその器に無いのならば、器は緩やかに消滅し、魂は輪廻の門に戻るしか無い。これは唯、それだけの話だ。
そうして、俺とトキハが見届ける中で、四肢を失いヒビだらけだった少女は、金色の光になって砕け散った。
それを見届けてから展開したままだった《HarmonicSupremacy》を解除する。
維持にも結構なエーテルが必要だが、いつあの少女が《災渦》の力で反撃してくるか分からなかった以上、最期まで解除は出来なかった――お陰で、もう殆どエーテルが残っていない。
「一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな」
安堵するように言葉を漏らす。
と、言うか《HarmonicSupremacy》が魔獣相手に絶大な効果を発揮していなければ、今頃俺もトキハも殺されていたかもしれないと思うとゾッとする。
相手が魔獣であるのならば、一度でも、一瞬でも空間内に相手を入ってくれば相手の消滅が確定する反則技――なのだが、一度の展開で消費するエーテルがあまりにも多すぎる。
少なくとも、この戦場でもう一度使うには相当なエーテルを補給してからでないと使えないし、使えたところで俺が消滅してしまう。
もっとも、全員が戦っているこの状況下じゃエーテルを分けてもらうというのは無理だろうから、対魔獣での絶対の切札として使う機会は二度と訪れないだろう。
まぁ、それは良いとして――最後にあの少女が落とした《災渦》は確保しておかなければならない。そういう意味でも、俺もトキハもこの戦いにはもう参加できない。
準最高位の聖具は可能な限り回収する――そうする事で、敵として現れる準最高位の数を減らすというのがセルの方針だった。セルはもういないが、レオンなら同じ様に考える様な気がする。
まぁ、実際に確保できたのは俺の知る限りではコレが始めてな訳だが。
「何にしても、確保して巻き込まれない様に撤退だな。まぁ出来るなら同じ様に撤退を決めた他の連中と合流って所か――」
殆どエーテルが残っていないとは言え、戦うのは厳しいというだけで、動けない程ではない。故に、俺は足場を生み出し、漂っている《災渦》を確保する為に足場を蹴った。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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