EternalKnight
VS災渦/トクォ=リルルフォン
<SIDE-Kyoya->
紡がれたトキハの言葉、俺はすぐにその違和感に気づいた。
私は彼女の側に付く、だって? そもそもトキハは自分の事を私等と言ったりしない筈だ。派閥が違うから付き合いはそう深くはないが、そんな事ぐらい俺にだって分かる。
では、どうして彼女はそんな事を言ったのか? 先程の口付けを皮切りに操られていると考えればいいのか?
だがその答えは恐らく否だ。一人称を間違う様な、そんなすぐに種が割れてしまいそうな事を、相手がすると思うか?
或いは、バレ様が何だろうが構わないという線もあるのだろうが、そもそも相手側に操るメリットがない。
場合にもよるだろうが、基本的にSSSクラス同士の戦いにAクラスが割り込める事はそうそうないのだ。
加えて、状況的にはトキハが居ても居なくても相手の優位には変わりない。そんな状況で、Aクラスを操る事に一体どれだけの価値があるというのだろうか?
いや、視線の先に居る少女が以前ユフィと戦っていた際の事を考えれば、彼女にとっては価値があるのかもしれない。
しかし、そうだとすると不味い、否、どうであったとしてもこの状況が不味い。
(そうだな、敵にとっては汝の心を折る為の一手だったのだろうが、此方からすれば勝ちの目を潰されたに等しい。トキハの力を汝は当てにしていたのだからな)
まぁ、そうだな――ここでトキハがどういう理由や原因であっても敵側に付いたのは正直キツイ。だが、勝ちの目が潰れたって程じゃない――と、思いたい。
だけど、視線の先の少女のニヤついた顔から考えて、たぶんさっきのトキハの一人称の違和感は、想像通りどちらでも良いと言う事なのかもしれない。
一人称の違和感は、トキハが操られていると仮定しないと納得のいく説明が出来ず、操られているだけである以上俺から手を出すことは出来ない。
「なぁ、仲間だと思ってた娘に裏切られる気分ってのはどんな感じなのよ? ウチには仲間なんて居た例がないんでよくわからへんねん?」
――裏切られた気分、だと? 自分で操っておいて良く言うものだ……或いは、操られておらず、何かしらの理由から敵の側に付いたという事なのか?
否、仮に操られていなかったとすれば、それには何かしらの意味がある筈だ。トキハが本心から敵に寝返ったとは考えづらい――もっとも、それは俺の願望であって、確証がある訳ではないのだが。
「ダンマリか? けど別にそれで構わんで、最高や――アンタの苦悩に満ちた表情が見れただけで、ウチからすれば満足行く結果や。いやはや古典的な手もやってみるもんやね?」
ニヤつきながらそんな言葉を垂れ流す忌まわしい敵の言葉に、激昂しそうになる自分自身を抑える――ここで激情のままに突っ込んでも、勝ち目は薄いのだ。
敵に、あの少女にトキハが何かをされたと言うのなら、念話で俺にそれを伝えてくれれば良い。そうしてくれれば俺から何かしらの策を講じる事もできるのだが――
(その線に頼るのは無茶ではないか? 流石に念話で意思疎通が取れる事ぐらいは相手も分かっているだろう? そんな事で穴が開く様な策を使ってくるとも思えんが?)
じゃあ一体、どんな策だって言うんだよ《至高》?
(それが分かれば苦労などせん……が、このままでは汝が危険だ。あの少女一人でも相手に余るのだ、トキハを退けながらあの少女と戦うのは無理だ)
っ……――何が、言いたい?、
(このまま我等と敵対するのなら、トキハを倒す他あるまい。操られているのだろうが何であろうが、邪魔をするなら我等の敵だ)
倒すって、それは――
(殺すと言う事だ。実際は意識を奪えれば十分だが、あの少女を相手にしながらそんな手加減など出来る筈がない)
確かに、それしかないか……あの少女の相手をしながら意識を奪うってのは簡単じゃないだろうが、それしか手がないなら仕方ない。
(我の話を聞いているのか、汝は? それは無理だと言っているであろうが)
やってもねぇのに無理だって決め付けるなよ《至高》それに、それぐらい出来ないととどの道俺等に勝ちは無いさ――違うか?
(無理に勝ちを急ぐ必要は無い、時間さえ稼げれば他で戦いを終わらせた連中が増援に現れないとは限らんだろう?)
そりゃ裏を返せば敵が現れる可能性だってあるって事だろ――それに、一応幹部を名乗ってるんだ、それが他に助けられてる様じゃ格好がつかないだろ?
(我は汝の事を考えて言っているのだぞ?)
だったらそれはいらねぇ世話だよ。そもそもお前、戦いってのは逆境の方が燃えるもんだろ?
(……わかった、汝にはもう何も言わん。好きにしてくれ)
あぁ、好きにさせてもらうさ。
そうだ、好きにする。視線の先の少女の相手をしながらトキハを熨すくらいの事、軽くやれる筈だ。そうすれば俺を目の仇にしている少女と一対一で何の気兼ねも無く戦えるのだ。
「黙り込んだ思うたら、また気にくわへん顔になったな、アンタ? なんや見当外れの希望を抱いとらへんか?」
相手の言葉を聞くぐらいはするが、それに応えてやる義理はない。そもそも、因縁が薄い相手との戦いの場での会話など、時間稼ぎか挑発程度の役にしか立たない。
俺の視線の先の少女にはそんなに深い因縁などない。一度前に戦ったという程度だ。彼女がそれに拘っていようがなんだろうが、俺にとってはその程度しかない。
「またダンマリかい――まぁ、えぇわ。けど、一つだけ教えといたるわ。今ウチの側に付くゆーて宣言した娘な、別にウチが操ってる訳やないねん。そもそもウチにはそんな能力は無いしな?」
操っている訳ではない、か――その言葉を信じるとでも思ったのだろうか? 否、信じようと信じまいと、俺のすべき事は変わらない。
「じゃあなんでその娘はウチの味方をする言い出したかって? 決まってるやろ、アンタを、守護者の連中を裏切ったからや。自分の命惜しさになぁ?」
それを此方に告げて果たして視線の先の少女にどれ程の意味があるというのか? 或いは、彼女の言葉は全て真実で、本当に俺の心を折りたいだけなのかもしれない。
「まだダンマリで、顔色を変えへんのんか……まぁ、別に構いやせんわ。信じる信じひんはそっちの自由やしなぁ? けどこれだけは教えといたる、その娘はもうウチには逆らえへん、絶対にや」
何を根拠にそんな事を言っているのか分からない。絶対に逆らえないというのは、操っているのと何が違うのだろうか?
例えどんな理由で縛っていようとも、それは絶対とは言えない。そこに本人の意思が介在しているのなら、絶対なんてありえない筈なのだ。
或いは、仲間等居なかったという彼女には理解できないのかもしれないが……しかし、そうだというのならば、俺にはもうトキハを助ける事は出来ないという事になる。
だけど、視線の先の少女の言葉と、トキハが敵側に居るという事実を考えれば、その事実はきっと覆す事は出来ない。だからこそ、トキハ自身がそう諦めたからからこそ、今こんな事態になっているのだ。
今の俺には、それを覆す事は出来ない。もちろんトキハ自身にも不可能な事なのだろう。そういう状況で、トキハが考えそうな事は、守護者の連中が考えそうな事は、ある程度推測が付く。
「さて、無駄話はもう終わりや。ウチはあんたがさっき見せてた苦悩に満ちた表情が、その先の絶望に染まった表情が早ぉ見とーてたまらんねん。やから、そろそろ再開と行こうや?」
その少女がトキハに何をしたのか、それは大体理解した。だから俺は応じる必要のない会話に応じて「無駄話をしていたのはそっちだろ?」逆に挑発するように言葉を返した。
「へぇ、ダンマリはもう終わりにしたんか? それとも、お友達が来るまで時間稼ごうと思うたんか?」
あぁ、時間を稼ぐって手はそれになりに有効だと思われてるのか、相手にも――けど、俺はそんな手を使おうとは思わなかった。
「別に、時間を稼ぐ気も、お前と話をする気は無い。俺は唯、トキハに一言伝えておこうと思っただけだ」
そう、俺にはトキハに伝えるべき言葉がある。それはきっと敵対する少女からすれば一笑に伏せる様な内容に過ぎないけれど、トキハには伝わると信じている。それが、強がりなんかではなく本気だと言う事が。
「必ず助けてやる、だから諦めずに待ってろ」
わざわざ自分の一人称を違和感のあるものに変えて、操られているかの様に演出してみせたのは何故か?
真偽の程はトキハに聞かなければ分からないけれど、きっと、俺がトキハの裏切りにも見える行動に傷つかない様にという配慮何だと、そう思っている。
「何言っとるねんな、助けるも何も、彼女はもうこっち側やて言うてるやろ? それとも耳か頭でも悪いんか? なぁ、そうやろ、トキハ?」
「そうであります。手前は、彼女の側についたのです、助けるも何もありはしません」
その言葉で、彼女の手前という本来の自らを指す言い回しを聞いて、此方の想いは伝わったと認識する。後は、どうなろうと、どんな状況だろうとトキハを信用するだけだ。
俺は、俺達は、その信用に応えなければいけない。
(何がどうトキハの行動を縛り付けているのか分からぬ以上、何をすれば良いのか、がそもそも分からぬのだがな? 全く、面倒事を抱え込むのが好きだな、汝は)
悪いな《至高》だけど、俺は自分のした事が間違いだとは思ってねーよ。
(別に、我とてそんな風には思っておらぬさ……寧ろ、汝はそう得なくてはならぬと、そう思うくらいだよ)
「なぁ、アンタが助けたがっとるトキハはこう言うとるみたいやけど?」
「だったらお前を倒してトキハを取り戻すそれだけだ」
それでは駄目な事は分かっている。言葉を交わす少女はその可能性は端から零だと思い込んでいる様だが、それはしてはならないのだ。少なくともトキハを助けられるまで。
「倒す? ウチを? 無理無理、アンタにはウチを倒すことなんか出来へんよ――二つの意味で、な?」
――どうやらご丁寧に解説してくれるらしい。こっちはそれぐらいの事は把握出来ているのだが……まぁ、こっちは少し集中したいのでちょうど良い。
聞き流しながら意識を集中して、今まで不可能だった事を可能にしよう。敵の能力から考えれば、言葉を交わしていた少女がトキハに何をしたのか考えるのは難しくない。
その手段を、トキハが俺達を裏切るようなフリをせざるを得なくした手段を、俺に使ってこなかったのだから、それが何を元にした力なのかなんて考えるまでも無い。
故に、俺がやるべき事は決まっている。決まっているのだが、それはきっと簡単な事ではない――だけど、そんな事を理由に止まれない。俺はトキハを、仲間を助けたいのだから。
「もっとも大きな理由は言うまでもねーけども、ウチがアンタよりも強いからや。相性なんぞ関係ない、純粋にウチは強い――それは精神論とか相性とかそんな程度でどうにかなる差やないねん」
(根本的な差、と言う奴か。確かに、身体能力に決定的な差があるのは最早疑い様が無い事実だが……)
「そしてもう一つ、今のアンタには絶対にウチを殺せへん。少なくとも、トキハを殺せない今、取り戻すだのなんだのと寝言を言っている間は、ウチを殺す事はでけへん」
あぁ、そうだろうさ。そんな事はお前に声に出して説明されなくても気付いている。だから、俺の集中が乱される事は無い。
「ウチを殺せば、アンタが助けたがっとるトキハも一緒に死ぬんやからなぁ? なぁ、コレ聞いてそれでもまだアンタはウチを倒せると、殺すと言えるんか?」
集中しろ、集中しろ、集中しろ――トキハを助け出す為の力を得る為に、集中して集中して集中して、今ある力をトキハを助け出せる形に改変し、改造し、改修しろ。
「またダンマリかいな――けどまぁ、アンタの苦悩に歪む顔がもういっぺん見れて、ウチとしてはまぁ、そこそこ満足出来たかね」
既存の俺達の……《至高》の力を、より良い形に――望む形に変質させろ。
「ウチとしちゃアンタの絶望に歪む表情ってのも見てみたかったんやけど、それを引き出すのもなんぞ面倒やし、そろそろ死んでくれへんかね? アンタとトキハ以外とも遊びたいんやわ、ウチとしては?」
一人でペラ回す少女を無視して、自己の内にある既存の術式を変質させていく。
「つー訳やから、そろそろ二人でアイツブチ殺そうか、トキハ? あぁ、いやいやアンタがアイツを殺すってのも中々面白そうやんね? ひょっとすると、絶望した表情も見れるかも知れへんしさ?」
しかし《至高》の形として完成している術式を変質させる事は簡単な事ではない。
「っ手前は……」
術式の性質を変える為に術式の一箇所を弄れば、別の二箇所で綻びが生まれて術式自体が成り立たなくなる。
「どうしたんよ、トキハ? まさか出来ないなんて言わへんよなぁ? アンタは自分の命惜しさにウチの側に付いたんやろ? 忘れてへんよな? アンタはウチの意思一つで今この瞬間にでも死ぬんやで?」
その二箇所の綻びを直せば、別の三箇所に綻びが生まれる――そうして俺が望む形の術式は、完成から一歩また一歩と遠ざかっていく。
「……承知しました」
それでも諦めず、無意識に歯を食いしばって意識を加速させて己が内へと深く深く埋没し、術式の綻びを直していく。
「許してください、キョウヤ殿。手前は……」
耳は話し合う声を拾ってはいても、その意味までは理解出来ない。開いた目はその場の状況を捉えていても、その意味まで理解出来ない。俺は唯、深く沈んだ意識の海の奥底で、只管に術式を編み直す。
――そしてトキハは、鞘に収めた刃を解き放った。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

88/118ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!