EternalKnight
VS災渦/トキハ=イオフェイル
<SIDE-Tquo->
そして、只管に一直線に男の元へと進み続けた先に、遂に憎きその姿を視界に捉える。
相手は私が殺すべき怨敵と、その傍に立つAか或いはSクラス程度のちっぽけな反応の聖具を持つ女の二人だ。
男に関しては言うに及ばず、女の方も反応などから察すに大した相手じゃない。それでも、潰す。全力で叩き潰して、恐怖を、絶望を、死を――その身に教えてやるのだ。
先に狙うべきはやはり女の方だろう。圧倒的な力でねじ伏せ、恐怖と絶望と死を与えて殺す。
そして私が殺すべき怨敵であるあの男には、目の前で仲間が殺されるのを助ける事が出来ないと言う絶望をくれてやれば良い。
まぁ、それも別に絶対に守るべきルールでは無い。先ずはそういう方向で動くと決めるだけだ。それは、ひとつの指標に過ぎない。いざ始まれば、状況に応じて動けば良い。
練りこみすぎた行動計画は、前提が一つ崩れるだけで瓦解する脆い物でしかないのだから。
「さぁ、始めるで……」
小さくそう呟いて、私は脚部にエーテルを集中させて組み上げている足場を踏みしめて力を込める。
(なんや、いきなり手の内を見せてもーて良ぇんかいな?)
ねぇ《災渦》どうでもいいのだけれど、貴方のその喋り方を頭の中で響かされると不愉快なのだけど?
(不愉快て、アンタの喋る時の口調と同じやんか――大体ウチかて別に好きでこんな喋り方しとう訳やねーねんけど?)
じゃあなんでやめないのよ? 後、私自身が喋る時はいいのよ、癖みたいなものだから。頭の中にそういうのが響くのが駄目なのよ。だから私も、こうして考える時は普通にしているじゃない?
(そう言われてもなぁ、アンタの普段の喋り口調がなんでかウチに移ってもうたもんはしゃーないやんか)
……だったら攻めて今まで以上に静かにしていて、話すなとまでは言わないから。あぁ、それからいきなり手の内を見せるても良いのかって言う質問の答えだけれど、問題ないから見せるのよ。
どうせ見せた所で、単純な身体能力の高さに対する回答なんて早々に存在しないのだ。
今の私の身体能力はそれだけ圧倒的に高い――スピードでは確かにカノン程の高みには至っていないけれどそれを補って余りあるパワーがある。
(しっかし、幾ら強ーなったから言うても、ウチの力が要らんって言われると正直へこむわぁ……)
別に要らないだなんて言って無いわよ。魔獣化した事と魔獣としての能力で身体能力はかなり上がったけれど、その上で貴女の存在のお陰で私は今の高みに居るんだから。
まぁ、貴女無しでもある程度は戦える域にはあると思うけれどね――
(身体能力の補正なんて些細なもんやない? そう言うんやなくてさー、能力が要らへんみたいな扱いなのが気になんねんよ、ウチとしては)
何を言ってるの? 今からも使うわよ、あなたの能力? だってあなたの能力が効かないのはあの男だけなんですもの。連れ合いの女の方には効果があるんだから、使うに決まってるじゃない。
(あ、そうなん?)
えぇ、力があるのに使わないなんて勿体無いじゃない? それに、男に対しても効果は有るかも知れないしね?
――そもそもの話、あの男に《災渦》の死の概念攻撃があの男に効かなかったのはあの男の聖具の何かしらの能力が原因であると私は考える。
そして、それは間違いなく死の概念攻撃を阻むだけの能力なんかでは無い。そんな使える場面が限られている能力であるとは考えにくい。故に、その能力は全ての概念干渉を無力化する能力だと考えられる。
否、無力化というよりは自身にその概念干渉が及ばなくなるというべきか? 兎も角《災渦》の力が届かなかったのはそれが原因であると私は考えている。
そして、そこまで分かれば十分だ。何にせよ聖具の能力であると言うのなら、使わせれば使わせるだけ相手はエーテルを失う事になる。
無論此方が《災渦》の力を使う際に消費するエーテルの量と比べてどうなのか、と言う話でもあるが、元よりこれから起こる戦いにおける私の武器は極限まで練り上げられた身体能力だ。
多少エーテルが減ろうが身体能力の強化には大した影響は出ない。大して敵は、此方がどのタイミングで死の概念攻撃を挟んでくるかも分からずに、常時展開によってエーテル消費を強いられる。
仮に常時展開をして来なかったとして、死の概念攻撃は警戒せざるを得ない為、集中力を割かれる事になる。
故に、どう転ぼうが此方が有利になる筈なのだ。ならば、使わない理由は無い。
(なんや、色々と考えよーねんなぁ……まぁ、ウチとしちゃ、ちゃんと能力使ってくれるんなら文句はあらへんかね?)
そう――それじゃあいい加減動きましょうか……貴女と無駄話をしている間に少し時間を食ってしまったから、敵との距離が少し縮まってしまったじゃない?
(どうせ全速力で距離詰めて相手をビビらせるだけやろ? だったらちょっとした距離の違いなんてあって無い様なもんやろ?)
そんな《災渦》の気に障る声を聞きながら、私は踏みしめた足場を蹴って私が倒すべき怨敵の元へと一気に加速した。

<SIDE-Kyoya->
唐突に女の足が止まる――それにあわせて、俺とトキハも足を止めた。
「何だ……?」
何故此処にきて唐突に足を止める? 此方から視認出来ていると言う事は、向こうからも此方の姿が視認出来ている筈だ。その距離まで詰めて、あえて足を止めてその場で立ち尽くす意味が分からない。
「キョウヤ殿、あれが……手前共の戦う相手、なのですよね?」
「ん? あぁ、そうだが――」
まぁ、外見は少女と呼べる程度の相手なのだから、気持ちは分からなくは無い。だが、外見など永遠の騎士としての力には殆ど関係が無い。
「外見に関しちゃ気にするな。クオンだってあのぐらいだろ? 外見に惑わされるなよトキハ。俺達永遠の騎士にとって、外見なんて飾りみたいなもんだろ?」
「確かに、その通りですが、手前はあのような外見的にやりにくい相手と戦うのは初めてなので……」
いざと言う状況で躊躇うかも知れないって事か? けどまぁ、その心配は無いだろうとは思う。
「俺だって前にあの女とやった時が始めてだったさ。けど、そんな事を考えられる様な相手じゃないから心配する必要はない。殺らなきゃ殺られる状況なら、大抵の事は迷わずに出来る、そう言うもんだ」
こうして共に戦う仲間の心配を取り除いてやるのも重要だとは思うが、今はそれよりも態々動きを止めた敵にどんな狙いがあるのかが問題だ。
何かの能力を使う為に足を止め、エーテルを収束させているのなら、此方は足を止めている暇などないのだが、エーテルの反応を見る限り別に劇的に収束をしている訳でも無い様に見える。
下手に近付くのは危険では無いかという疑念と、このまま放置してもいいのかという疑惑が胸中で渦巻くが、止まった状態から此方から踏み込み状況を動かそうという気力が沸いて来ない。
魔獣としての能力がなんであるか分からない現状、下手な動きは取れない。否、そもそも魔獣としての能力と言うのがどの程度の力まで再現可能なのかがそもそも分からないのも問題ではある。
流石に万能であらゆる願いを叶えられるという訳ではないのは分かるが、その上限がどのあたりなのかは察しが付かない。
しかし、相手が動きを見せるまでこのまま待ち続けるというのもどうなのだろうか? それこそ敵の術中に嵌っているのではないだろうか?
かといって、此方から踏み込み何かしらの被害を被るのもまた躊躇われる。躊躇われるが、これ以上ここでこうしていても相手のペースに嵌るだけだ。故に――
「トキハはここで待機してサポートに回ってくれ――けどまぁ、状況次第で自由に動いてくれていい。俺はこのまま踏み込んで相手の出方を見る」
この場は、あらゆる概念攻撃を無力化出来、基本的な性能においてもSSSであるが故にトキハよりも高い俺が踏み込むのが正解だろう。
もっとも、それもどちらか一方が踏み込むならと言う前提の話で、どちらも距離を詰めに行くという選択や、このまま待ち続けるという選択が無い訳でもない。
もっとも、戦いの場における正解、不正解など実際に戦いが終るまで分からない物だとは思うが。
「承知致しました。とは言え、手前に出来る補助等精々《ProfoundTheWorld》で視界をある程度封じる程度ですが……」
「十分だ。俺には能力の底上げぐらいしか他の誰かを補助できる能力なんてないからな」
トキハにそう言い残して、俺は組み上げた足場を蹴って敵との距離を詰める為に前に踏み出した。
その瞬間、俺が足場を蹴り、勢いを得て前に踏み出した瞬間に、立ち止まっていた敵が、女が唐突に動きを見せる。
俺が踏み出したとの同じ様に、しかし俺とは比べるまでも無い程の速度で視界の先の女は踏み出して加速する。それはここまでの距離を進んで来ていた速度とはまるで別次元の速さで――
元の女のスピードから、ここまでを全力で向かってきていたのだと思っていた俺の想像を遥かに超えたスピードだった。
カノン程速い訳では無い。それでも《融合》を使ったクロノと同じかそれ以上という驚愕に値する速度だ。目では追えるが体がついていかない。
加速する思考の中で、そのスピードこそがあの女の能力なのかと、そんな風に思った。しかしその考えも、一気に距離を詰めてきた敵のの放った拳を受けた瞬間に、違うのだと納得できた。
加速の乗った一撃、加えるなら此方も前に向かおうと踏み出していたのだから、此方の速度も実質上乗せされているのだろうが――それ以上に、その一撃は重かった。
その一撃で後方に殴り飛ばされながら、今度こそ正確に女の能力の正体を理解する。身体能力の強化――魔獣として上乗せされた能力を更に魔獣としての能力で底上げしている。
でなければ、あれ程の速度が出せるとは思えず、何よりあれだけ重い一撃で、単に魔獣として強化されただけだったというのなら、元がどれだけの馬鹿力なのか、と言う話だ。
加えて言うのなら、俺と戦うつもりであったなら、あの選択支は間違いなく正しい。故に、俺を恨んでいるであろう彼女が身体能力の強化を魔獣としての能力として選んでいても何の不思議も無い。
「まぁ……俺達の側からすると大問題なんだけどな……」
呟きながら、エーテルの壁を作りそれを足場に殴り飛ばされた勢いを殺して体勢を立て直す。
腹に貰った重い一撃が痛む。内蔵も今の一撃で大半が潰れただろう――が、人間としての機能は人として生きていた頃の名残でしかない。
その治癒にエーテルを割いている余裕は今この瞬間にはありはしないので、痛みだけ遮断して、その重い一撃を俺に叩き込んだ相手が居る方向へと視線を向ける。その先には――
「――はぁ?」
トキハが巨大な鎌を首筋につき立てられたまま、少女に唇を奪われているという、謎の光景が広がっていた。
その光景を前に一瞬放心仕掛けたが、トキハの唇を開放した少女がそのままトキハの耳元で何かを囁きかけたのを見て、正気に戻る。
今の光景の意味を考えるなら、トキハが少女に――敵に、何かを飲まされたと、そんな所だろう。或いは、能力の発動にそういう手順が必要だったと言う線も考えられなくは無い。
それ以外では幾ら状況として有利だからとは言え、流石に意味も無くあんな事をしても仕方が無い筈だ。
或いは、此方に行動の意味を思考させ、その隙を突こうという線は……まぁ、相手の方が速い状況下ではそれも可能性として考える必要は無いだろう。
等と考えをめぐらせている間に、トキハの首筋に押し当てていた大鎌の刃は離され、身動きが出来ない状況から開放された。だが、トキハはその場を動かない――その場から一歩も動こうとしない。
やはり先程何かをされたのか? 自身が有利な状況で人質もクソも無いとは思うが、それに近い状況を作っておいて何もせずに開放するとは流石に思えない。
少なくとも、念で何のメッセージもトキハから届かない時点で何かがあったと考えるべきだ。否、動きを見せないトキハの背後で少女がニヤついている時点で、何かがあった事だけは間違いないと断言出来る。
それが何なのかは、分からないが、少なくともトキハに関する何かであるのは容易にわかった。だが、トキハに何をしたのかまでは分からない。
だが、少女自身がトキハの前に出てこない事から、何かをトキハにさせようとしている事だけは分かった。だが、その何かがなんなのか分からない。
操って俺と戦わせようと言うのなら、こうして黙らせたまま、動かさない理由が無い。開放したと言う事は何かしらをトキハにさせるつもりなのだろうが、何をするでもなく、トキハは俯いたままで居る。
そのままの状態で、十数秒程俺とニヤついている少女の視線がぶつかり合う。そして、俯いていたトキハの顔がようやく上がる。その視線の先には俺が見据えられていて――
そして、俺の耳に届いたのは「申し訳ありません、キョウヤ殿――私は彼女の側に回らせてもらいます」予想外の言葉だった。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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