EternalKnight
VS災渦/キョウヤ=トラフィシア
<SIDE-Tquo->
「さてお待ちかねの開戦だ、下僕共――周りの雑魚の足止めは任せる。俺と最高位達との戦いに邪魔が入らない様にしろ……あぁ無論、雑魚共に関しては殺しても構わん、好きにしろ」
王様のその言葉に、同類共の大半が一斉に動き出す――中には動こうとしない連中も居ったが、そんな事は私には関係ない話だ。
残った連中が何を考えて居ようが、私の邪魔にならないのなら好きにすれば良い。私の倒すべき敵は、唯一人だけしか居ない。
私を一度殺した男、あの男だけは、絶対に私がこの手で絶望の淵に追いやって殺さなければ気が済まない。
《災渦》の力は相性が在り得ない程最悪すぎて、あの男にはまるで通じなかった。私がずっと磨き続けてきた力は、相性と言うくだらない理由で一切奴には通じなかった。
存在を否定される様な感覚……私の積み重ねてきた全ては無駄で、無意味だったと言わんばかりに、相性と言う絶対的な壁は私を淘汰した。
だが、今は違う。私には新しい力がある。相性などと言う下らないモノに引きずられない力を、今の私は持っている。
「まっとれよ、いけ好かんクソ野郎……今度こそ絶対に、オノレをウチの手でブチ殺したるさかいなぁ?」
故に――この身を魔獣に落としてまで手に入れたこの力で、私は絶対に奴を殺してやるのだと、自らに誓いを立てる。
望みを叶える力。望みを形に変え己の力へと変質すると言う魔獣の特性――それが万能で無い事など、少し考えれば馬鹿にでも分かる事だ。
言うまでもない事だが、そんな事が出来るんならその力の源である王様の力は、万能を超える全能だと呼べるからだ。
けども現実はそうじゃない。王様の力は全能ではなく――寧ろ万能とすら呼べない。だからこそ私達の様な手下を必要とした。全能なら何を望む必要も無く、万能なら手下等要らなかった筈なのだ。
故に、私達の存在そのものが、私達に与えられた魔獣としての能力とやらには限界があると言う事を示していた。
だから、最強の存在になりたいだとか言う曖昧な願いは、その願いの内容に比べて脆い物になる。最強、絶対、無敵、究極――それ等が示すのは追随する物が何一つ存在しない局地だという事だ。
つまりは、相対的な価値感によって生まれる力。最強でありたいと願う者は、自身を絶対存在だと語る者が現れた時点で矛盾を孕んで崩壊する。
故に、私が望んだのは絶対的な価値感に基づく力だ。
最強である必要は無いし、絶対者になどならなくて良いし、無敵を名乗りたいとも思わないし、究極の座になんて興味がない。
私が望むのは相対的な力なんかじゃない。何を基準にするでもない、魔獣として新生した自身に引き出せる限界を引き出すという、たったそれだけの力を望んだ。
実際はそれで十分なのだ。能力だ何だと言って拘るから偶然の相性の差で敗北するなんて言う間抜けな事が起こる。
元より準最高位で、そして魔獣としても四位と言う域にある私が最善の力を引き出せれば、負ける事の方が確率としては低いのだ。
純粋に自己を強化する類の能力――それこそ《刹那》の様な能力とかち合わない限り、絶対的な基礎能力の差は埋められない。
万一相手がそうで合った所で、元より私が持っていた《災渦》の力があれば、そういう相手と渡り合うのも難しくはないのだ。
そして、ウチがブチ殺したい相手の聖具の能力は、《災渦》の持つ様な特殊な能力を受け付けないといった類の、攻めよりも守りに徹した能力だった。
だからこそ奴には《災渦》の力が通じない。だが、それは裏を返せば、奴にはほぼ攻め手となる能力がないという事に繋がる。
一度見たフォースの刃を伸ばす力等の存在から、完全に攻め手が無いとは言わないが、それでも魔獣として強化された身体能力を最善に引き出せる今の私の力ならば、あの男を殺す事等造作も無いだろう。
造作も無かろうが何だろうが、一度殺された恨みは絶対に晴らす。否、殺された恨みなんて言うのは単なる方便に過ぎず、それが一番分かりやすいからそう言っているに過ぎない。
私は単に、あの男が気に入らないのだ。私の力を、あらゆるモノを殺せると自負し当てれさえすれば絶対の一撃になると信じて疑わなかった私の力を正面から否定した、あの男の事が。故に――
「あの男だけは、他の同類共には絶対にくれてやらん……あれはウチの獲物や!」
男ともう一つの小さな反応が待ち構える地点へ、私は叫びを上げて、更に加速した。

<SIDE-Kyoya->
いつか戦った少女の反応に似た反応が、凄まじい速度で此方に迫ってくる。
(似た反応、ではなく件の少女が魔獣化して少し変質した反応だと認めたらどうだ、契約者よ?)
……まぁ、これだけ似てる反応だとそういう判断になるか。だけど彼女は確か俺が倒した筈だろ? どうして魔獣になってるんだ?
(倒したとは言え消滅の瞬間を見た訳ではなかろう? 汝があの場を離れた後、魔獣が現れ止めを刺した、と考えるのが自然ではないか?)
そう言う事になるよなぁ……つーか、迷う事なくこっちに向かって来てるのって、俺を狙ってって事なんだよな、コレ?
(まぁ、そうであろうな。モテる男は辛いな、契約者よ?)
否、何でそうなるよ? と、言うか命狙われてる状況をモテてるって判断するお前の思考回路がどうなってるのか気になるわ……
(何を今更、我が汝を知るように、汝も我を良く知っているでは無いか? かれこれ4000年以上の長い付き合いであろう?)
あー、うん、そうね。言い回しが真面目そうなだけで、戦ってない時で絡む程のネタがあれば大体そんな感じだったな、お前は。
けど今回は流石に絡むにしちゃ不謹慎じゃねぇか? 仮にももう直ぐあの女と戦う事になる訳だしさ?
(何を言う、不謹慎だからこそネタにするのであろうが?)
うわぁ……いや、つーかそもそも、少女ってなんだよ少女って? 外見がどうであれ、永遠の騎士である以上は新米を除けば俺も含めて全員どうしようもねぇ年寄りだろうが?
(全員纏めて年寄りだ等と、汝には夢が無いな契約者? 全員同じ長く生きた存在であるなら、外見は個性を主張する為の大事な要素であろうが?)
まぁ、言わんとしている事は分かる。外見だけで見るなら、こちらに向かって来ている女は少女と呼んでもおかしくは無い。
記憶している限りだと、クオンと同程度かそれよりも少し上ぐらいだった筈だ。外見的特長で言うなら、真っ先にその契約時の若さが目に付くだろう。
まぁ、クオンの場合はあの紅白の衣装を着ている事も外見的な大きな特徴だろうとは思うが。
(あの紅白の服は目立つからな――巫女服と言ったか? クオン達の出生世界ではあまり着られこそしないが、有名な服装ではあるらしいな。女性の祈祷師の正装と言う所か)
まぁ、そもそもクオンはそういう生まれらしいからな。だからこそあの若さ……と言うか外見があの程度の頃に永遠の騎士となったのだろうが。
そういう意味では、こちらに向かって来ている少女もまた、そういった特殊な事情で若い内に永遠の騎士となってしまったのだろうか?
(どうであれ、それを知る事は我等には出来ん。もっとも、知った所でどうなるものでも無い事だ、あまり考えるべき事では無い)
……まぁ、そうだな。どういう出生であろうと、どんな経緯で永遠の騎士になったのだとしても、それは俺には関係無い。
事実として少女は既に魔獣で、そうなる前から敵対する破壊者の一員だったのだ、俺と少女との関係は倒すか倒されるか、その二択でしか無い。
(――しかし、再戦と言うのは些か面倒ではあるな。特にあの少女の様な者との再戦は非常に厄介だな)
こっちの能力が割れてるのは……まぁ、元々受身つーか防御的な能力だから別に良いとして、問題なのは間違いなくあの少女が別の力を得ているって所だよなぁ?
(その上で我等の元へと向かって来ているという事は、つまりそういう事なのだろうな?)
流石に《至高の心》への対策があるからこそ、向かって来ていると考えて間違いないだろ。
つーかそもそも《至高の心》自体、効く相手には効くが効かない相手には何の意味も成さない様な能力なのだから、対策は難しくないだろう。
要するに、小細工を使わずに正面から力技でかち合われると、無駄にエーテルを消費するだけの力に成り下がってしまうのだ。
なによりも問題なのは、それが《至高》の最強の能力と言うか、準最高位として与えられた特権だという事だ。即ち、他の能力が無い訳ではないが、軒並みどれも普通の能力でしか無いと言う事だ。
まぁ、特権云々で言うのなら相手の聖具の特権は此方の特権で無力化出来る。故に問題となるのは、少女の魔獣としての身体能力の補正と願いより産み落とされる能力の存在だ。
特に、魔獣としての能力は願望を形にするという出鱈目だ。流石に願えばなんでも出来るという天井知らずという事は無いだろうが、厳しい事には変わりは無い。
なにより、願望によって生み出された力が、まず間違いなく概念に干渉する類では無いであろう事が分かりきっているのが辛い所だ。
寧ろ、俺と戦う為に能力を得ている可能性すらある。そうであった場合は……成程、確かにモテる男は辛いと言う事か。
何にしても、此方は未知の能力を手に入れた少女を相手に、二人分の手札で挑む事になる。そして、此方のカードが相手に把握されていると言う事は、鍵となるのは彼女と言う事になる。
そんな事を考えながら、視線を少し離れた所で、瞳を閉じて意識を集中させている仲間に向ける。
SSSクラスの戦いにAクラスを巻き込むのもどうかとは思うが、Aクラスと言えど彼女は決して弱くは無い。
相手が準最高位としての特権を行使してこなければ、十分にやりようはある筈だ。もっとも、俺に効かないからと言って絶対にそれを使ってこないとは断言出来ないのが怖い所なのだが。
「敵が近付いてきておりますね、キョウヤ殿。この反応の大きさ、速度――準最高位の聖具使いと見て間違いないかと手前は考えますが、どう思われますか?」
閉じていた瞳を開き、此方に視線を向けながらトキハが此方に問いを投げてくる。どうやら彼女の方でも敵の反応を捉えたらしい。
この距離で気付けたと言う事は、彼女の知覚範囲はAクラスとしてはかなり広いという事になる。場合によっては下手なSS以上の知覚範囲だと言っても過言では無いだろう。
もっとも、知覚範囲の広さが戦いにおいて重要かと問われれば、別にそういう訳では無いのだが。まぁ、それはそれとして――
「あぁ、この反応はSSSクラスで間違いない――と、言うか知ってる相手だ。つっても相手が魔獣になる前の話で、しかもついこの間戦ったってだけだけどな」
「であれば、魔獣としての能力以外は把握出来ていると言う事になるのでありましょうか?」
そこが難しい所なのだ。少なくとも聖具や本人の能力としてはあの死の概念攻撃以上が無いのは間違いないのだが、だからと言って他の手札が無い訳では無い。
その辺は本人が言っていたのだから間違い無い。ブラフだったという可能性も無いと考えて良いだろう。
幾ら強力な能力だとは言え、SSSクラスでありながら能力を一つしか持って居ないというのは早々考えられる話じゃない。
「悪いが答えはノーだ。魔獣化前の時点での一番強力な能力に関しちゃ分かってるが、それ以外に関しちゃほぼ何も分からないって具合だ。期待に添えなくて悪いがな」
「そうでありますか……では、その分かっている能力だけでも構いませぬので手前にお聞かせください」
いや、別に頼まれなくても説明してやるつもりだったんだが……まぁ、あまり説明を長引かせる訳にもいかないし、そもそも俺にしたって細かい所までは分からないんだから掻い摘んで説明すれば十分だろ。
「分かりやすく言うなら《死》の概念を内包した攻撃だな。黒いフォトンの刃に触れると《死》の概念を貰って死ぬ――否、刃限定じゃなく形を崩す事は出来たみたいだが、細かい制御は出来てなかった筈だ」
そもそも細かく――と言うか不定形を自在に操れるとしたら、それこそ俺の様な根本的に効かない様な者以外ではどうしようもない化物になっていただろう。
自在に形を変え、縦横無尽に広がる《死》の概念攻撃等、反則どころの騒ぎでは無いだろう。
「《死》の概念攻撃でありますか……確かに強力な能力なのでありましょうが、成程――故に敵はキョウヤ殿に勝てなかったのでありますね?」
「そういう事だ。そして、敵は此処に俺が居ると分かった上で向かって来ている筈だ。故に、魔獣としての能力はそれに関する物ではない、と言う事が予測できる――まぁ、それ以上の事は分からないがな」
或いは、俺の反応など覚えておらず偶然に俺の居る場所を選んだという可能性も零では無いが、その場合は前回の焼き直しをすれば良いだけだ。まぁ、それは流石に無いだろうが。
「さて、話してる間にいよいよ本格的に敵が近付いてきたぞ。覚悟を決めろよ、トキハ」
「言われるまでもありませぬ、覚悟等、宮殿を出る折より決まっておりますよ、キョウヤ殿」
その掛け合いを最後に、俺達は言葉を紡ぐのをやめて、迫ってくる敵の反応に備えて意識を集中させ始めた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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