EternalKnight
VS外神/アザトース
<SIDE-Fenaha->
んじゃまぁ、能力を失くして落ち込んでる敵にトドメの一撃でもプレゼントしてやろーかね?
そんな事を考えながら、あては両断されかけていた体を繋ぎ合わせて《外神》を構える。
予想通りというかなんと言うか、鋭すぎる一撃で生み出された断面は驚くほど簡単に、何の苦も無く、辛うじて繋がっていた状態から、本来あるべき状態へ――その一撃を貰う前の状態へと戻る。
完全に両断されていたならこんなに簡単に傷口を繋げる事は出来なかったと思うと、或いは繋げる事は不可能だったと思うと、ぞっとしねーでもないけれどそれはそれだ。
色々な偶然が重なったとは言え、あては現実としてこの体を両断されなかったのだから、もしもを考える事に意味なんてねーし。
今はツキにツイていて現状はあてらが優勢だけど、あの尋常じゃない一撃が存在する以上、一瞬でも流れが向こうに傾けば、綺麗に真っ二つにされて優劣なんぞ一瞬で逆転する。
そういう意味じゃ、ちまちまと優位を稼ぐんじゃなく、一気に状況を固められる《魔王》を引きてー所だけれど、幾らツイているとは言えそれは流石にそれは望みすぎと言う所だろう。
ランダムゆーても引きには何かしらのムラがある。特に低いのが《魔王》で、次点で低いのが《門にして鍵》、そこからは多少の差は有れど大きな差という程じゃねーのだが。
そもそも《魔王》を引く確率はやばいくらい低い。紛れも無い《外神》の最強の力でなのだが契約者であるあて自身も引き当てた事は今まで両手で数えられる程しかねーのだ。
まぁ、言ってもランダムはランダムだ、今引く可能性が無い訳じゃーない。何より《外神》の能力はこの《GateOfOuterGod》しか存在しねーのだ。
だから、攻める為に、勝つ為にエーテルの続く限り何度でも力を使うしかねー。
普通なら突撃槍と言う形状である《外神》で戦うという選択支も存在するんだけど、あの尋常じゃない速さの一撃を持つ男を相手にするのに自分から近づくなんて真似はぜってーにしない。
そういうのは、男を消滅させた後、ツレの女を消滅させる時で良いのだ。
(では、再度《GateOfOuterGod》を使うという事で宜しいですか、マスター)
それでよろしく頼むわ。引きにもよるけど、あのまま敵が呆然としててくれれば次で終る可能性がたけーけど、まぁ、流石にそれはないっしょ。
まぁだから、発動と同時に後方に跳んで敵との距離を維持する、ぐらいはするべきだろう。
能力の使用の隙に距離を詰められ、例の一撃をもう一度貰う事になれば、今度は都合よく助かるとも思えんし。
だから、距離を維持して優位を維持する。そうしてれば少なくともさっきみたく急な加速でギリギリの橋を渡らなくて済む筈だ。
まぁ何にしても《GateOfOuterGod》だけを攻め手にすると決めた以上、決着は近い――さて、次は何を引くのかなっと。
そうしてあては「《GateOfOuterGod》」力の名だけを短く紡いで構えた状態から《外神》を男の居る場所に向けて突きつけた。
それと同時に、全身を廻るエーテルの少なくない量がそれを握る腕を通して《外神》へ伝わり、さらにその突撃槍の周囲高密度の収束しながら渦巻いて――世界に孔を穿ち、その向こう側の力を引き出す。
(コレは、まさか……)
驚きの様な感情が《外神》からあてに伝わってくる。それが意味する所は――
(《魔王》を、引き当てました)
――今のあてがいかにツイているかを、そして相手の男がいかにツイていないかの証明だった。

<SIDE-Chrono->
《銀河》……《夢幻泡影》を通してエリスと話をする事は出来るか?
(それは可能だが――急にどうしたのだクロノ? 遺言を残すつもりであるとか、そういうつもりであるならそんな事はさせんぞ?)
心配するな、そんなつもりはないし、エリスに心配をかけるついもりも無い。少しばかり、策を思いついただけだ。その策の為にエリスの力も必要だと、それだけの話だよ。
まぁ、とは言え、この策を使うの自体は初めてではないのだがな?
(今残っている能力と、エリスの力を借りる事で敵を妥当しうる策……成程アレか――いや、だがしかし少しばかり難度が高くないか?)
それでも、現状他に手は無い。呆けた振りをして誘っても敵が乗ってこず、遠距離から再び能力を使って来ようとしている今は、他に選択肢が無い。
距離を詰めようにも《天之川》が無くなった今、先程の様に敵の隙を突いて一気に距離を詰めれない。距離が詰められなければ、私自身の切札である神速居合いは意味を成さない。
もっとも、既に構えを取って能力の発動が秒読みな時点で《天之川》が残っていた所で最低もう一度は敵の攻撃を乗り越えねばならないのだが。
(わかった、エリスと話が出来る様にしてやろう――しかし、手短に頼むぞ。汝が言った様に敵の能力の発動は秒読みだ)
分かってるさ――直ぐに終る。
【――クロ? 一体どうしたの? 遺言とかなら、私は聞かないわよ?】
《銀河》と同じ事を言われた……いや、まぁ確かに先程はこの身が滅びようと敵は倒す等と考えてはいたが――
【ではそうではないので聞いてくれ、コレは勝つ為に必要な手段の伝達だ――とは言え、もうコレしか手が無いというのもあるのだがな】
【手が無いって、そんなに追い詰められてる状況だったかしら? 遠目にはさっきの敵を両断しかけた神速居合いとか、悪くなかったと思うんだけど?】
いかんな、前提条件として《星屑》《天之川》《星廻り》が使えない事を伝え忘れている。確かに、あの三つは――特に《天之川》の有無は大きい。
【あぁ、確かに先程までと同じ状態なら悪くは無かったのだがな。先の一合で《星屑》《天之川》《星廻り》は封じられて使えなくなってしまったのだ】
【そんな、さっきので三つもなんて……でも、一体いつそんな事になってたの? 私には全然分からなかったのだけど?】
【――悪いエリス、今は敵が次の能力の発動を備えているから、そのあたりの話はまたこの戦いが終った後にしてくれ。そして手短に伝える。《超新星》を使う、座標は今敵が居る地点だ】
流石に話し込んでいる時間は無い。もとより伝えたかったのはそれを使うという事実とどこに使うか、だけだ。
【今居る場所、ね――わかったわ】
――後はエリスなら上手くやってくれる。故に問題は、私が次の一撃を受けながら《超新星》を維持できるかどうか、だ。
恐らく、チャンスは一度きりだ。敵の心が読めない以上、発動のタイミング等のもろもろは何一つ分からない。そんな中で不可視の攻撃を回避するのは実質不可能なのだから、当然だろう。
何より《超新星》を使うには多大な集中が必要になる、その事からチャンスは一度も無いという可能性するありえる。
要するに、敵の攻撃に耐えた上で《超新星》を狙った位置に出さなければならないと言う事だ。現状手は無いのなら、それを実行に移すしかない。
出来る出来ないではなく、それ以外に手が無い以上、成すしかない。このまま何もしなければ、私達は一方的に敵に負ける事になる。それは認められなし、許容できない。
だから――無茶でも、無謀でも、そして無理かもしれなくても、出来る事はしておきたい。エリスと共に、この戦いに勝利して生き残る為。
そんな思考の最中に「《GateOfOuterGod》」敵が例の力の名を紡いだのが聞こえた。
それと同時に最低限のエーテルの障壁を目の前に展開して「《Super――》」《超新星》の発動とその維持に、己が全ての神経を集中させる。
全身の痛覚を遮断し、瞳を閉じて外界からの全ての感覚を遮断し、唯意識を《超新星》を設置する一点に注いで集中させた。
だが、しかし――全ての外界からの感覚は遮断した筈なのに、何かを……理解不能な何かを、きっと理解してはいけない何かを感じ取ってしまった。
なまじ全ての感覚を遮断しているぶん、その何かを背筋に走る悪寒などと言う分かりやすい現象に変換出来ず、魂に直接その理解してはいけない何かが干渉してくる。
それは表現の仕様の無い様などうしようもない感覚で、恐怖と言う一言では決して片付けられない、私の/俺の魂を犯す様な……その表現すらも生ぬるい、名状しがたい未知の感覚で――
その中で、冒涜的な恐怖の一言では片付けられない理解不能な干渉の中で、辛うじて《超新星》の維持を続けられたのは――
(っ……集中しろ、クロノッ!)
俺と同じ様にどうしようもない未知の干渉に晒されながらも俺に激励を飛ばしてくれる《銀河》と――
【頑張って、クロッ!】
俺達とは少し離れた場所で、俺達よりはマシでも、それに近いこの未知の干渉の中で俺の事を呼んでくれる、俺が/私が守るべきエリスの存在のお陰だった。

<SIDE-Fenaha->
「《Super――》」
あてが《魔王》を引き当てた事で勝利を確信しとる間に、対する男も何かの能力を発動させたのが分かった――が、何であろうがもう遅せー。
《魔王》を引き当てた以上、油断でもして隙晒して、その隙を付かれて一撃で殺されでもしない限り、あての勝ちは揺るがない。
そして、それを理解している以上、油断して隙を晒すなんてヘマをする事はあり得へん。
そんな、揺ぎ無い自信に満ちる中で《外神》の穿った空間の孔から、その向こう側に座す、名状しがたき盲目痴愚なる魔王の力が堰を切ったように溢れ出した。
あまりにも冒涜的で圧倒的なその存在は、姿を隠して目に映る事が無かろーが、そこに在ると言う事実を強烈に周囲へと叩きつける。
他の神性にしてもそれは同じやけれど《魔王》は他の神性とは明らかに一線を画している。常人なら何の加護も持たねー人間なら、目に見えぬこの状態でも発狂物の衝撃の筈だ。
けどまぁ、相手も悠久の時を生きとる永遠者であるなら、この程度で発狂したりはしないやろう。
姿を隠す力を解除すればまた違うんかも知れんけど、その場合はこっちの方が発狂しかねねーし、そこまでする必要も感じねーし。
そう、敵対する男は、溢れ出した《魔王》のその冒涜的で圧倒的な存在感を前に、身動き一つ取れなくなったのか、何の抵抗も無く《魔王》が伸ばした無数の触手に左腕と下半身を消し飛ばされていた。
まぁ、とは言え最後の抵抗が無いとも思ってねーけどもね。さっき発動したらしい能力が何なのかも分かって――
(マスター!)
《外神》の叫びと共に、あての周りを渦巻いているエーテルの動きから、先程男が発動させた能力が此方を狙っていた事に気が付いた。
もっとも、元より能力の発動と同時に後方へ下がるつもりで居たあてにとって、それをかわす事は難しい事では――いや、思ったよりも展開が早いっぽいか? このままじゃ少し掠るじゃんかよ……
瞬時にそんな事を考えながらも、あては能力の発動と同時に始めていた足場の形成と体重の移動をそのまま実行する事しか出来ない。
つっても、力の名だけで展開出来る能力である以上は、掠るだけじゃ大した被害はないと思うんやけど、あての持つ《外神》がそもそも特例の聖具な訳やし、他にそういうのが居る可能性は否定せんけども――
少なくとも幾つも能力もっとる様な聖具がそんな特例な訳ねーし、仮にどうであった所で掠るのはもうほぼ間違いない以上、あとはなる様にしかならん――ってな。
そしてあては、男との距離を取る様に後方へと跳ぶ最中に敵の発動させた能力を見て、僅かながらその能力に触れた。触れたが、予想通り、流石に掠っただけじゃあ大した影響力じゃない。
寧ろ僅かやけど掠った事で、男の能力として発生したその視覚的には薄く透けた黒い球体の内がどうなっているのかを知る事が出来た。
球体の中心に引き寄せる重力異常、ってとこかね? 恐らく中心に近づく程その力は強くなるんやろうけど、一番外側に掠ったただけのあてには大したダメージを与えるには至らなかったっと。
とは言え、その結果もあてがSSSクラスやからって所か――下手な聖具じゃ掠っただけでも引き込まれて後は中心部に近づく程重力が増す訳やから逃げられねーと……そういう能力を今使ってきたのは謎やけども。
何にしても、先の抵抗は失敗に終った訳だ。まだ抵抗してくる可能性はあるが、流石にあの状態では最も警戒すべきあの一撃なんぞ放てる筈もねーし、勝負は殆ど決したと言っていい感じだろう。
《魔王》を呼び出した孔はもう塞がっていて、その圧倒的な存在感はもう無いが、まぁ精神的ダメージに加えて腕一本と下半身丸ごとを持っていけたんなら十分な成果じゃねーかな。流石は《魔王》って所かね。
もっとも、こんな状況だろーと……ちげーなこんな状況だからこそ、調子こいて油断してあっさり負け、なんて無様を晒す気はねー訳だけども。
にしても……男の展開したあの薄黒い重力球は、いつまで展開してるんだろーか? そこそこ維持にエーテルも消費する筈だと思うんだが、維持し続ける意味でもあるのか?
設置型の罠――つっても男は満身創痍で女の方はSSSクラスのあてと満足にやれるとは思えねーし、置側の罠を有効活用できる状態でもねーと思うんだが……
つっても、意味の無い能力を展開し続けてるとも思えねーし……そもそも小型のブラックホールぐらいの重力異常じゃなきゃSSSクラス倒せねーと思うんだが、あれは明らかにその域には達してねーし。
何が狙いなんかさっぱりわかんねーけど、下手に近づくのは愚策だって事ぐらいは分かる。なら、あの薄黒い球体に近づかずに、遠距離から能力と使い続けるだけだ。
(男の方はもう近接戦など出来そうに無い状態ですが? エーテルの消費等を能力を使わずに戦った方が良いかと思いますが?)
まぁ、それはその通りなんやけどさね――あては言った筈やで《外神》油断はしねーってね。少なくともSSSクラスの男の方の命とるまでは気を抜くつもりはないねん。
(そうですか、それがマスターのご判断なら異論はありません)
あても自分で警戒しすぎなんじゃねーかとは思っとるんやけどな、どうせやから最後までそれを通そう思ってな。
なんて考えている間に、男の後方から此方に向かって近づいてきている反応が一つ――言うまでも無く女の方な訳やけど、何を今更しゃしゃり出て来てんだ、あれ?
いや、この位置関係は……なんだ、流石にあれ相手に能力使うのは愚策かとも思ってたけど、今の位置関係なら男と女を同時に捉える事が出来るじゃんか。だったら、使わない理由はどこにもない。
しかし、なんで態々直線状に入ってきたんだ、あの女?
確かにこっちの能力は不可視だったので何が起こったかなど理解できていないだろうが、それでも態々一直線上に近づいてくる意味が分からない。
その直線状に薄黒い球体が在る事も気になるにはなるし――そもそも何を狙っているのかがまるで分からん。こっちが能力を使うのを誘っているとも取れるんだが……
あの黒い球体が能力を反射するとか? それはねーと一度掠ったからこそ断言出来る。あれに重力異常を生み出す以上の機能は無い。だったら狙いは何になるのか?
いや寧ろ、あてにこうして考えさせて能力を使わせねーってのが目的なのか?
だが、どの道このまま接近を許してタイマンに近い状態で戦っても、能力があろうが無かろうが魔獣であり準最高位を持つあての方が有利な筈だ。
じゃあ敵の狙いは? 一体何が狙いでこんな事をしる? 策なんかねーヤケか? それも考えられない訳じゃないが……等と考えている間にも女は少しづつあてとの距離を縮めて来ている。
あぁ、もういいもう面倒だ、策があろうが無かろうが《外神》の能力でねじ伏せればいい。そもそも《外神》の能力は何が起きるかランダムの代物なのだ、それに対して策等練れる筈が無い。
何かあった所で、あてがそれに対処すれば良い。唯それだけの事だ。だから――
「つまんねー事して無駄に考えさせやがって……何を仕掛けて来ようがSS程度であてに勝てる思うなや!」
《外神》を構えて向かってくる女に向けて悪態を吐きながら、エーテルを収束させる。その最中女が何かを呟いた様に見えたが、関係ない。
そしてあては能力を発動させる為に一歩前に踏み出すように《外神》を突き出して――次の瞬間、その腕が突然前方へと強く引かれたバランスを崩れて前のめりになり、気付くとあては薄黒い球体の内側に居た。
「なっ!?」
何が、起こった? なんであてがこんな所におんねん? 否、それよりも今は全身に掛かるこの重圧が問題か?
状況から考えるに恐らく此処が中心部なのだろうが、流石に掠った時とは別次元の重圧だ……が、それでも動けねー程じゃぁない。
突如として身に起こった異常事態に焦りはしたが、落ち着けばこのぐらいなんともねー。だけども、今はもここから抜け出す事を最優先に考えるべきだろう――
そして落ち着きを取り戻しさえすれば、脱出をさほど難しい話ではない――そう、思っていた。
「《――Nova》」
だがしかし、その考えは低く呟く様なその声が聞こえた瞬間に――否、言霊が紡がれ、薄黒い球体が崩壊し始めるのを認識すると同時に意味の無い物になった。

<SIDE-Elis->
【今居る場所、ね――わかったわ】
クロから《超新星》を展開する位置を伝えられると同時に、私は《夢幻泡影》の力《SpaceCompress》の術式を頭の中で練り上げ始める――勿論その間もクロと敵から目を離したりはしない。
本来なら、《SpaceCompress》の行使には複雑な思考を必要としない。
単純に空間を圧縮して局地的なショートカットを作るとか、その圧縮空間に敵を巻き込んだりする、寧ろ感覚的に使う能力なのだけど、少し術式を弄って工夫すれば、特殊な使い方が出来るのだ。
もっともその使い方は敵を強制的に転移させる《ForcingTransfer》の存在から実際殆ど必要にはならない。
しかし今回の使用法に関しては《ForcingTransfer》では無理なのだ。あれは転移先に何かが存在している場合には利用出来ない――もっとも、出来たら出来たでとんでもない強さの能力なのだけれど。
まぁ、それは兎も角、そういう理由で《SpaceCompress》の術式を弄る必要が出てくる訳なのだ。
基本的に《SpaceCompress》は自分の周りを始点にして、目視範囲内の一点を終点と決め、その始点と終点を空間を捻じ曲げて圧縮する事で移動ないし挟み込みを行う能力なのである。
だから、此処では始点を敵の居場所として、終点を《超新星》の中心点に設定してやればいいのだ。当然、それは簡単な話ではないのだけれど――成さなきゃいけない。
それが出来れば、後は《超新星》の崩壊寸前に敵を引き寄せ、始点から終点に飛んでもらえば全てがうまく行く。
けれど、当然の様に私はそんな使い方には慣れていない――それにクロの《超新星》も展開から完全な状態になるまでに時間がかかる。故に、今敵が構えて放とうとしている部分は甘んじて受けるしかない。
そんな事を考えた矢先、武器を構えていた敵が「《GateOfOuterGod》」力の名を紡ぎながらその得物を前に突き出してそれに応じる様にクロが「《Super――》」が言霊を紡いぐ。
――次の瞬間、私は名状しがたい冒涜的な感覚に包まれた。
何も見えないのに、何も聞こえないのに、その感覚だけが私に襲い掛かってくる――それでも、術式を組み上げるのをやめない。
コレが敵の能力の余波だと言う事はコレまでの攻撃で分かっていた事だ。例え今私の元に届いている余波が先程までの数倍は強烈なモノであっても、その本質は変わらない筈なのだ。
だからこそ、目には見えなくても、これだけ距離が離れていてもコレだけの余波を撒き散らす現象とはどんな厄を引き起こすのか、それがクロの安否と言う意味で気になった。
そして、クロと敵を意識の中においていた事で、その強烈さをもっとも知りたくなかった形で知る事になった。
引き抜かれる様にクロの左腕が肩口からもぎ取られ、締め上げられる様に下半身がねじ切られる。それも、ほんの一瞬でだ。
まるで初めからそう壊れると決まっている玩具の様に、クロの体が壊されていく――それでも《超新星》の維持に全てを費やしているクロは反応を見せない。
そんなクロの為に今私が出来る事は何か? 《SpaceCompress》の変則術式をしっかりと仕上げる事? そんなのは当然やるべき事であって、頑張っているクロの為に出来る事じゃない。
だから、私は――解除する事を忘れていた為に未だ繋がったままだった《銀河》と《夢幻泡影》との繋がりから、唯一言【頑張って、クロッ!】クロに思いを投げ掛ける。
今の私がクロの為に出来る事はそれぐらいしかない。私は私で成すべき事があるから――私が失敗すれば、クロの苦労が水泡に帰してしまうから、だから今は術式を完成させる事に集中する。
大丈夫、クロは絶対にやってくれる。だから私は信じて術式を完成させて、敵を引き込むだけで良い。
左腕と下半身を失った状態でも、クロは動かず集中して《超新星》を維持している。傷口から溢れ出す血がエーテルの金色になって虹色の空間に融けていく事も気にせずに。
敵の方はと言うと、クロの展開した《超新星》の重力球から逃れる様に後方へ下がったまま、動かずに此方の出方を見ている――が、この状態が続く様なら動いてくるのは彼女だろう。
そんな状況分析を行いながらも、遂に私は《SpaceCompress》の変則術式を仕上げる事が出来た。終点を先に術式に組み込み、始点を自信の回りではなく指定した座標に設置する変則型の《SpaceCompress》――
後は、クロが《超新星》の術式を仕上げる事と、始点を上手くあわせられるかどうかだけだ。だけれど、相手が動いていてはまず合わせる事は出来ないのは分かりきっている。
かといって設置して敵を誘い込もうにも聖具の能力である以上、始点に設定した座標はエーテルが僅かに滞留する事で看破される恐れがある。
――だから、私は相手が立ち止まって前に踏み出す一瞬を狙う事にした。
立ち止まり、急に動き出す訳ではなく、前に踏み出す瞬間――そんな状況は普通戦いの場ではありえないけれど、彼女にとってはありえない事じゃない。何故なら、それは彼女が能力を使う時の動きだからだ。
だけれど、彼女はさっきから能力を使おうという気配を見せていない――その理由の一つは、エーテルの残量を気にしてと言う所なのは間違いない。
あの能力が相当量のエーテルを消費するのはこれまで行使の際に確認している。そんな能力を満身創痍なクロと聖具の位階が格下の私相手に使うか否か、きっと彼女はそんな事を迷っている――
そして私は彼女が能力を使う瞬間を狙っている、だったら……やるべき事は一つだ。
相手は能力の使用を渋っているだったら――相手が能力を使いたくなる様な状況を作れば良い。例えば、私とクロを二人同時に倒せそうな位置関係を相手に見せれば、使ってくる可能性は高い、と思う。
それでも使って来ない様ならそれはその時に考えれば良い。と、なれば後は相手が能力を使わないという選択をして動き出す前にクロの準備が終ればいつでも始められるのだけれど――
【――此方の準備は整ったぞ、《夢幻泡影》の契約者よ】
そんな絶妙なタイミングで狙い済ました様に《銀河》から念が届く。
クロではなく《銀河》が私に伝えてきたのは意味のある念を思考すれば其処に意識が散って折角仕上げた《超新星》が不発になってしまう可能性があるからだ。兎も角、これで準備は整った。
後は敵が私の誘いに乗ってくれるかどうか――だけれど、大丈夫……クロもその十分の一にも満たない程かもしれないけれど私も、二人とも頑張ったのだ。それが報われないなんて事はあっちゃ行けない。
そして私は、巨大な突撃槍を持つ敵に対して《超新星》の重力球とクロの二つを挟む様な位置にまで移動してから、真っ直ぐに彼女の元へと進み始めた。
真っ直ぐに、一直線に敵に向かって進んでいく。だというのに敵は/彼女は動きを見せない。
能力を使うか否か悩んでいるのか、それとも何か別の事を考えているのか――それは私には分からないけど、何を考えているとしても私がやるべき事は、私に出来る事は一つだけしかない。
そして、遂に「つまんねー事して無駄に考えさせやがって……何を仕掛けて来ようがSS程度であてに勝てる思うなや!」彼女は痺れを切らしてそんな叫びを上げた。
ならばこの後彼女がとるべき行動は自らが持つもっとも強い、或いは唯一の聖具の能力の行使に他ならず、その行動こそが私が待ち望んだ一瞬だった。
巨大な突撃槍が構えられる、その槍の周囲に高密度にエーテルが収束していく。
私は編み上げた術式を脳内に描きながら「――《SpaceCompress》」言霊を紡ぐ。
そして、彼女は能力の開放の為に槍を突き出す様に前に踏み出して――その一歩が私の能力の始点に触れて圧縮された空間を跨いで終点に繋がる。
終点はその中心部へと万象を引きずる込む重力の檻の中で、何の心構えもなくそこに足を踏み入れた彼女は、始点から圧縮された空間を越えて終点へと引きずり込まれた。
これで、私の役目は終わりだ。後は此処まで耐えに耐えて《超新星》を完成させたクロが終らせてくれる。
彼女が始点から終点へと空間を越えて移動するのと同時に「《――Nova》」クロの《超新星爆発-SuperNova-》がその真の力を解き放たれた。
その爆発で生まれた閃光で視界は白く焼かれ、爆音で鼓膜が破れたのか音も消えたその中で、超新星爆発の中心点で、彼女と彼女の聖具のエーテルの反応が消滅するのを私は確かに捉えていた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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