EternalKnight
VS軍勢/0
<SIDE-Keizi->
押し寄せる軍勢を屠りながら《軍勢》本体の反応を目指して只管前に進む。
シークスの作り上げた煙の兵が、押し寄せる敵の流れを塞き止め、少しでも俺が前に進み易い様にと援護してくれる。
そのお陰もあって、考えていた速度よりもずっと早く《軍勢》との距離が縮んでいく――動き出した地点より、今で丁度半分ぐらいと言う所だろうか? 或いは、まだ半分と言うべきなのかも知れないが。
しかし、今の時点でもあっちは元の位置から動かずか……罠があるのか距離を詰めきれる筈がないという自信か――どちらにしても動かないのなら接近できれば勝ちがほぼ確定する俺からすればありがたい話だ。
両の手に持った得物と己が両足、時には肩からの体当たりで、倒してもほぼ無限に現れ続け、途切れる事なく道を阻んでくる軍勢を屠り、掻き分け唯只管前へと向かう。
それにしても、もう既に何百の敵を倒したのかも分からない程だが、それでも敵が途切れる気配が無いのは流石は《軍勢》と言う名なだけはある。
しかし、どれだけ多かろうが、個々の質がこの程度であるならなんとかならない訳では無い。もっとも、流石に延々と戦い続ければ先に此方が折れるだろうが、今の時点でもまだまだ折れる程ではない。
何より、折れる云々以前に他の敵か味方が現れればパワーバランスは一気に変わるのだから、実質此方が折れて負けるというのはあり得ないのだろう。
敵の増援が来るのが速いか、味方の増援が早いか、或いは俺が《軍勢》の元にまで辿り着くか――恐らく決着はこのどれかで付く。
(現時点で一番可能性が高いのが我等が《軍勢》の元に辿り着くという結末だが――それも《軍勢》の隠し玉次第でどうなるか分からんからな)
まぁ、何にしても俺達に出来る事はこのまま《軍勢》との距離を詰める事ぐらいしかないし、今は唯、やれるだけの事をやるしかねぇ。
そんな念話を《虚空》と交わしながらも、此方の進路を阻む敵を次々と一撃か二撃で屠りながら、少しづつだが確実に《軍勢》との距離を縮めていく。
そして、これまで通りに目前に現れた今までと何の違いも無い《軍勢》によって生成された敵の手駒を一撃の下に片付けようと放った俺の一撃は――
「悪いが、お前の快進撃は此処までだ」
――初めてその口から言葉を紡いだ敵の手駒の一つに、他の敵と何の違いも無い敵の一人に、片腕であっさりと止められた。
「なっ!?」
その一撃は本気の一撃では決して無い。本来止められた所で手を抜いた自分が悪いという程度の一撃でしかない。
だがしかし、それは何百もの敵の雑兵を倒しながら調整した、《軍勢》によって生成された雑兵一体を一撃、或いは二撃で倒せる程度の力の一撃だったのだ。
それをあっさりと止められた。敵の反応は他に無数に居る雑兵と変わらない筈なのに、だ。
(否、違うぞケイジ。確かに今お前の攻撃を止めた敵の反応は他と変わらない。だがコイツ等の反応のデカさは今までの《軍勢》から生成された雑兵とは、まるで違う――何より《軍勢》の反応が、消えている)
馬鹿な、敵の反応が跳ね上がったのなら、なんで気付けなかった? それに《軍勢》が消えたってのは一体全体どう言う事だ? 否、それ以前に何故目の前の敵は急に言葉を発した?
否、そんな事は全てどうでも良い、兎も角、此方の攻撃を止めた敵を倒さなければ――
(それを一体倒してどうなる? 此処の力がどの程度かは分からんが、周囲に居る敵の反応は全て今の攻撃を止めた固体と同じなんだぞ?)
だったら、このまま黙ってこの敵の群れの中で無抵抗で居ろってか? そっちの方が御免だ!
エーテルの反応から考えりゃ一体一体はさっきよりも強くなってるかも知れねーが、倒せない程じゃないんだ、だったら戦うしかねぇだろ!
(策も無くなく戦うのは危険だと言っているのだ、確かに敵の個々の戦力は我等よりも下である可能性が高い。だが、その性能の相手が数百も居るのなら話は別だ)
こんな状況で、策もクソもあるかよ!
(無抵抗で居ろとは言っていない。だが、動くのなら策を練ってから動けと言っているのだ。そも《軍勢》を見失った時点で策は消えたのだ、この状況で方針も無しに動くのは無駄以外の何物でもない)
――悔しいが、確かにその通りだ。《軍勢》を見失った以上、俺達の勝ち筋は無くなったも同然なのだ。
ほぼ無限に敵を発生させられる《軍勢》を相手にしている今、勝利へのビジョンが全く浮かばない行動は此方が消耗するだけの無駄な動きでしかない。
そんな事を考えながら、右手に握られたトンファーを掴み取った敵の腹部に、左手のトンファーを全力で叩き込んで弾き飛ばし、背後から迫る敵には開放された右腕の肘を叩き込む。
更に肘を叩き込んだ勢いにのせて上半身を右に捻り、それを元に戻す勢いを利用して、右腕を伸ばし、その手に握るトンファーで周囲の敵を薙ぎ払う。
相手がどの程度の攻撃に耐えられるのか分からない為、一連の動きの全てを可能だと考えられる最高の力で実行した。
――だと言うのに、正面から腹部に一撃を加えた一体こそ、腹部から金色の粒子を撒き散らして消滅し始めるが、それを除く他の個体は、ダメージこそある様に見えるが、倒せてはいない。
確かに、コレでは策の一つでもなければ厳しい――が、策を練れとは言われても、こんな状況下で一体どんな策が練れると言うのだろうが?
「クソっ一体どうすりゃ良いんだよ、この状況!」
「諦めろ」
「どうする事も出来んさ」
「これ以上の抵抗は無駄だ」
「お前も俺の仲間になるだけだ」
「お仲間は今、諦めて死んだぞ?」
「近い内に王が全てを支配するんだ、早いか遅いかの違いしかない」
思わず漏らした言葉に、周囲に居る無数の敵が一斉に、口々に言葉を放つ――その中に、聞き捨てならない物が混ざっていた。
「シークスが、死んだ、だと?」
呟きながら、自然とその反応を溢れかえる敵の反応の海の中に探すが、確かにシークスの反応は見当たらない。
「あぁ、死んだな」
「殺してやったよ」
「一人で何が出来る?」
「お前も素直に諦めて殺されれば良い」
「死んだが、それは始まりに過ぎない」
「そうだ、そして今で一対四百九十五だが、まだ抵抗するのか?」
そしてまた、呆然と漏れ出した俺の声に、周囲の膨大な数の敵が紡いだ言葉が耳障りな雑音として俺の鼓膜を振るわせる。
(落ち着けケイジ――気持ちは分かるが熱くなるな。挑発にのっては敵の思うツボだ)
あぁ、分かってる、分かってるさ。別に仲間を失うのは初めてじゃねぇし、そもそもアイツとは少し前に会っただけで、この戦いが終ったらもう会う事も無くなる様な、そんな仲だったんだ。
だから俺は、あんな安い挑発になんか乗ったりはしない。唯、一つ……一つだけ今の野郎の煽りで心に決めたぞ、《虚空》。
(……)
野郎は絶対に俺が殺す。完膚なきまでに叩き潰す。シークスの事は残念だったとは思う。だが、奴はそれ以上に言っちゃならない事を言った。
ふざけた事を抜かすのもいい加減にしろよ、あの野郎。俺は、俺達は、ずっと二人で戦ってきたんだよ、永遠の騎士に成った、その瞬間から。
それを『一人で何が出来る?』だと? そういう風に言えるのは、間違いなく自分の聖具を道具程度にしか見ていないからだ。
許せない、一番自分に近い場所に居る仲間を、道具程度にしか見ていないその心を、許せる筈がない。
そもそも、聖具の力が無ければ大した能力も無いくせに、高々最高位の魔獣でしか無いくせ、よくもまぁそんな傲慢に考えられる物だと、関心すらする。
(いや、汝の気持ちはありがたいが、それはもう挑発に乗ってるのと同じではないのか? しかも相手が思ってみない方向に)
問題ない、挑発には乗ってないさ。唯、許せねぇってだけだ――そもそも、そんな考えだから昔の知り合いを簡単に手に掛けれたんだろう?
(……もう何も言うまい。仲間を助けるのに理由は要らない、手が届くなら助ける、助けられなかった者は決して忘れない、それがお前の生き方なのだからな――だが、状況は変わってはいないぞ?)
いいや、相手が無駄口を叩いてくれたお陰で、突破口は見つかりそうだ――と、そんな念を《虚空》に送って、俺は目前の敵の胸部に全力で右拳を叩き込む。
その一撃を両手を交差させて受け止めてた敵の隙だらけの頭部に、左拳を叩き込んで殴り飛ばし、すぐさま両の手を引き戻しながら、背後から迫ってくる敵に右足を叩き込む。
(待て、そんなに飛ばして戦って大丈夫なのかケイジ!? シークスがやられたというのなら彼奴と戦っているのは我々だけだ、そんなに全開で戦っていては直ぐに限界が――)
少しは俺を信頼してくれよ《虚空》――大丈夫だから、暫くは俺に任せてくれ。
(分かった、汝に任せるぞケイジ――だが、無茶はしてくれるなよ。汝の死は我の死でもあるのだからな)
そんな念話を交わしながら、次々と迫ってくる敵の群れに対抗する――その途中で十数程の敵をエーテルに還してやったが、五百近く居るらしい中の十数体を倒した所で焼け石に水でしかない。だが……
「つーか、多すぎだろお前……一体何体居るんだよ!」
「知りたいか?」
「お前も俺に殺されろ」
「いったいどこまで持つかな?」
「個の力で群である俺に勝てるつもりか?」
「教えてやろうか? 残りは四百八十一体だ」
「《紫煙》の契約者よりは頑張るじゃないか?」
やはり、減っている。そして何より、コイツは一人でしかない。後は、確信さえあれば――
「残り四百八十一だぁ? さっきから数が減ってるぜ、お前? そのまま増えないなら、俺がお前の数を一にまで減らして《軍勢》がどこに隠れたか残った一体に吐かすぞ?」
「俺は隠れてなどいない」
「減っているからどうした?」
「お前も相応に消耗しているだろう?」
「後四百八十体も倒す体力が残っているのか?」
「此処にいる全てがアルカス=シェル=ダルシオラであり、同時に俺の軍勢だ」
「残った一体も何も無い、どの固体が残ろうが、そこから再び俺は軍勢となる――まぁ、そもそもそこまで俺の数が減るとも思えないがな」
(……成程、そう言う事か。全てが本体なら、どの固体に触れても発動か可能と言う訳だ。しかし、そうであるなら何故もっと早い段階で仕掛けなかった?)
確証があった訳じゃねぇからな。アレは消費が結構馬鹿にならないから、不発させる訳には行かないだろ?
けどまぁ、相手が馬鹿で助かったよ。多少は誘導したが、聞いても居ない事をこんなに早く自分からゲロってくれたんだからな。
それじゃあ、折角自分の能力の秘密をゲロってくれた事だし、さっさと勝負を決めるとするか。
「さて、どうだろうな? 直ぐに最後の一体まで減ると思うぜ?」
挑発する様に、そんな言葉を紡ぎながら、安も間もなく迫ってくる軍勢の中の一体の頭部を、左手のエーテルで出来たトンファーを自らに還元する事で空いたその手で、捕まえる。
「馬鹿が、捕まえるという行為は同時に自らの動きも制限するのだぞ? 数で負けている側が相手を捕まえてどうする?」
「どうするって、勝つ為にやってるに決まってるだろ」
言っている間にも、武器を手放し敵を掴んだ左手側に居た敵が一気に攻撃を仕掛けてくる――だが、遅い。
それ等の敵の軍勢の攻撃は「《EmptyWorld》」その言霊を紡ぐと同時に発生した空間の壁にかき消された。

<SIDE-Alcas->
俺の中の一人を捕まえていた男の紡いだ「《EmptyWorld》」と言うそれだけの短い言霊で、掴まれていた俺以外の全ての俺が消滅した――いや、全てが俺の俺という一つの固体の中収束させられた。
「何だ、何なんだ、コレは! テメェ俺に一体何をしやがった!」
言いながら、一つの固体に収束させられた事で上がった力で頭を掴んでいた男の腕を振り払い、後方へと跳んで距離を開く。そして、直ぐに異変に気付いた。
いつの間にか、周囲は門の外の虹色の空間ではない異界へ、剣や銃等の様々な武器が転がる赤茶けた荒廃した大地と、黒ずんだ空に覆われるそんな世界へと変貌していた。
これは、亜空間型の結界能力か。恐らく自分が触れた相手のみを引きずり込むタイプの結界だろう。
「別に、勝負を二対二のフェアな状態にしただけだ」
「二対二のフェアな勝負だと? そんな戦いが出来るとでも思っているのか?」
先程まで展開していた軍勢は確かにこの結界内に進入できずに俺と言う一固体に収束したが、ならば展開しなおせば言いだけだ。そもそも、自分が一人であるのに何が二対ニなのか。
「思ってるさ。寧ろお前に聞きたいな、此処は俺の聖具《虚空》の作り出した結界だ、そこでどうして自分のやりたいようにやれると思ってるんだ?」
――何?
「此処は俺達の作り出した亜空間型結界《EmptyWorld》……魂と言う核を持たない全てのエーテルは分解されて世界の養分になる、そんな異界だ――要するに、お前は数の力で戦えないって事だ」
敵の言葉を否定するように「何を馬鹿な、そんな事が……在る筈が無い、その証拠を見せてやる《Army》!」言霊を紡ぐが、それが現れる気配は無い。
馬鹿な、そんな馬鹿な、反応から察すに相手のクラスはSかSS程度だ。それがどうして此処までの能力を――
「まぁ、とは言え条件は俺も同じだ――流石に相手にだけ能力の使用を制限するだなんて言う反則な結界じゃねぇんだ。だから、二対ニでフェアな勝負だ――武器は転がってるのを好きに使えば良い」
条件は、同じ? ならば、俺が負ける道理は無いのではないか? そうだ、聖具のクラスがほぼ対等であるなら身体能力の上昇値もさして変わらない筈、ならば魔獣である此方が負ける道理は無いに決まっている。
二対ニと言うのは恐らく自身と聖具をあわせて二人と言う事だろう。聖具など所詮俺の力を上げ、能力を使う為の道具でしか無いが、奴がこだわるというのなら好きにさせていれば良い。
何が『どうして自分のやりたいようにやれると思ってるんだ?』だ。お前は自分の思い通りに出来ると思い上がっていた世界でこの俺に無残に敗北するのだ。
「どうした? 武器は要らないのか?」
赤茶けた荒廃した大地に転がる自分の得物と似た様な武器を拾い上げながら、思い上がった馬鹿はそんな事を聞いてくる。
元より聖具の補正を受けた魔獣である俺に、聖具の補正を受けただけの人間の奴が勝てる道理などない。
無論、武器など必要ないし、此処は敵の用意した舞台だ、どんな罠が仕掛けてあってもおかしくない。それにムザムザ引っかかる程、俺は馬鹿ではない。
反応を返さない俺に、馬鹿は「そうか――ならさっさと始めよう」そう言って、赤茶けた大地を蹴って此方に突き進んで来た。
そうして、一方的な戦いの幕は上がった。

<SIDE-Keizi->
戦いは、一方的だった。それは勝負と呼べる物ではなかった。そもそも慢心しすぎていたのだ――目の前に赤茶けた大地に倒れ付す馬鹿は、自身が魔獣であると言う事実に。
四肢を全て砕き、抵抗の意志を奪った所で仰向けで倒れた馬鹿は此方に言葉を投げてくる。
「何故だ、互いに聖具を持っているという条件なら、最高位の魔獣である俺が、唯の人間の貴様に負ける筈が無いのに、何故……」
「何故って、決まってるだろ。テメェが一人で戦ってたからだよ。そしてこっちは二人だった。後、強いて言うなら鍛え方の違いだな」
そもそも聖具と契約する以前から第二位階の魔獣となら戦えた俺に聖具の補正が乗れば、能力の使用さえ禁じて身体能力頼りの戦いに持ち込めば大抵の相手には勝てる。
もっとも、だからこそ、そして発動条件が厳しい故に、この能力は俺の切札なのだが――
「鍛え方、だと?そんなモノで人間が魔獣に勝てる筈が――」
「勝てる筈が無いって? そうは言われても実際に勝ってるもんは仕方ねぇだろ? 或いは、お前が魔獣として飛びぬけて弱かったって線もあるがな?」
その言葉で馬鹿は押し黙る――まぁ、そんな事はどうでもいいのだ。問題は――
「じゃあ、下らない話題は終らせて本題に入ろうか」
「……何の事だ? 貴様、俺に聞きたい事でもあるのか? 悪いが王の情報は何一つ話さんぞ?」
王の情報? 何だそりゃ。
「そんな事はどうでも良いんだよ、俺が聞きたいのは二つ。何でテメェは自分の聖具を道具扱いにしてた? それから、どうしてシークスを殺した、元々仲間だったんだろう?」
どんな答えが返ってきた所で、こいつはもう確実に殺すつもりだけれど、それでもコレだけは聞いておく必要がある。
――仲間を道具として扱うと言う事と、仲間を殺すという事、それは、俺の中にはない考え方だから。
「何でも何もない、聖具は道具だろう? そして《紫煙》の契約者も唯の知り合いであって仲間ではない。もっとも仲間であった所で王の命令なら殺していたがな」
当然の様に、馬鹿はそう言い切った。
きっとこういう奴がどうあっても意見が噛み合わない相手なのだろうと、俺は理解して「そうか――もういいから、お前は死んでろ」そんな最後の言葉を投げ掛けながら、その頭部に叩き割った。
最後の瞬間、その頭部が砕かれ脳漿が弾け飛ぶ直前に。馬鹿の表情が何かに安堵した様に見えたのは、きっと気のせいだろう。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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