EternalKnight
VS軍勢/2
<SIDE-Siix->
ケイジと薄紫色《紫煙》の兵達を引き連れながら、俺達は爺さんの元を目指して押し寄せる《軍勢》の兵を片っ端から薙ぎ倒す様に進んでいく。
しかし、動き出した時点で百にこそ届かないだろうが、凡そそれに近い数展開されていたその兵達の全てを倒すのは簡単な事でもなかった。
俺達が進みながら敵兵を薙ぎ倒している最中にも絶え間なく《軍勢》の兵力は展開され続け、、そのお陰か湧き出す様に現れる兵達の数は果たして減っていっているのかすら疑問に思えてくる。
今の時点でも、圧倒的な数を前に足を殺がれて、爺さんとの距離が埋まらない所か、兵を展開しながら距離を取る様に兵を展開しながら立ち回っている爺さんとの距離は寧ろ開いていく。
そもそも、湧き出てくる兵の数を確実に削れているのは俺とケイジだけであり、俺の展開した《紫煙》の兵は実体が無いその特性を活かして一体も倒されてこそ居ないが、敵を減らせている訳でもなかった。
とは言え、《紫煙》の兵が居なければより多くの敵に囲まれ、今以上に身動きの取れない状態になっていただろう事から考えると決して無駄だとは言えないのだが。
兎も角、俺達は圧倒的な数の暴力の前に、なす術こそあったが爺さんの良い様に踊らされていた。
一体一体の敵の強さは大した事も無い。《紫煙》の兵には不可能だが、俺やケイジで有れば一撃か二撃程度で消滅させられる。
だが、一体を消滅させようが、それと同等の速度で爺さんが敵の数を増やしている為、戦況は一向に良くならない。
否、爺さんが兵を展開する速度が此方が敵を屠る速度を上回っていた場合、状況は刻一刻と酷くなっていっている事になる。
もっとも、何十と言う兵に囲まれながらそれを屠り続けている俺達に敵が増えてるか否かを確かめる術は無い。と、言うかそもそも俺にもケイジにも広範囲を纏めて一掃出来る能力が無いのが厳しすぎる。
せめてどちらかがそういった能力さえ持っていれば、ここまでジリ貧の様な戦いを強いられる事も無かったのでは無いだろうか?まぁ、ない物をねだっても仕方ない事は分かってるんだが――
「おいケイジ、このままじゃジリ貧なんだが、なんか手は?」
迫り来る何十もの軍勢に、互いの背中を守る様に、立ち向かうケイジに駄目元で言葉を投げるが「悪いが何も無い。つーか、あったらもうとっくの昔にやってる」当然返って来たのは予想通りの応えだった。
そんな受け答えをしながらも、迫り来る軍勢を片っ端から《紫煙》の能力で形作った煙の刃で両断していく。と、言うか一撃で一体の兵を倒しているのに数が一向に減ってないってのはどう言う事なのだろうか?
それでも、聖具の能力として兵を展開している以上、一体につき幾らかのコストが生じている筈なのだ。このまま現れる兵を倒し続ければ、いつかは爺さんのエーテルも底を尽きる、筈だ。
もっとも、いつエーテルが尽きるかなどわからないし、そもそも尽きるまで俺達は今のペースで敵を休み無く屠り続けなければならないのだが。
(それ、正直無理じゃね?)
……だろうな。一体の展開にどの程度エーテル消費してるかは知らないが、そう易々とエーテルが無くなるほど燃費の悪い技じゃないのは間違いないだろう。
(じゃあ、どうすんのさ?)
それを今考えてるんだよ――ってかお前もなんか一緒に考えろよ《紫煙》。
(嫌だよ、ってかそもそも俺が少し考えたぐらいでどうにかなるってんなら、もうとっくお前かケイジがなんか思いついてどうにかなってんだろ?)
二人よりも三人で考えた方が良いだろ? いや、恐らくケイジの方は聖具も協力的に打つ手を考えてるだろうから、三人より四人、って言うべきか?
(えー、三人居るならもういいんじゃね?)
……三人居てもどうにもなってねぇから言ってるんだが?
(俺に考えさせる為に俺を説得する時間でテメェで考えた方がよっぽど効率良いと思うぜ? つーかよぉ、そもそも状況が膠着してるなら無理に動かす必要とかなくね? 俺等の目的って敵の足止めだろ?)
状況は動いてないつっても相手は能力を使って戦力を増やし続けるだけで、俺等は徐々に疲れてくるんだぜ? 先に均衡崩すのはどっちかなんて目に見えてるだろ?
(それは、ほら根性で耐えろよ)
否、ちょっと待てよ? ひょっとしてあの爺さん、それが狙いなんじゃないのか?
(あん? それってどれだよ?)
だから足止めだよ、足止め。そもそもあの爺さんは俺と同じで本質的には面倒事は嫌ってる筈なんだ。だから簡単に決着が付かないこんな方法で攻めてきてる。
万が一均衡が崩れて勝ちが取れるならそれでもいいし、親玉同士の決着が付けばたぶん争う理由が無くなるから戦いを放棄してよくなる。つまるところ自分が一番生き残れる選択支を取ろうとしてるんだ。
自分お命が一番大事で、面倒事は極力避ける――俺達はそういう意味で馬が合ってたんだから、多分間違いない。
(あー、うん。んで、それが分かったから何なの、状況は変わんの?)
……いや、変わらないけど。少なくともこうして足止めされた上で大技用意された殺されるって線は無いって分かったぐらいか。
(結局殆ど変わってないな――ってか何、このままあの爺さんの思惑通りずるずると戦うつもりか?)
そりゃ出来るならなんとかしたいが、打つ手がねぇのにどうしろってんだよ?
俺の能力じゃ今の煙の兵を十人も同時に展開するのが限界で、実際に見た事は無いが、聴いた話だとケイジの能力は相手に触れられないと使えないらしいから、このままずるずると戦ってるしかないだろ?
まぁ、此方の目的も足止めなのだから、問題ないといえば問題ないのだが。
その場合は親玉の決着が付くか、どっちかの応援が来るか、或いは俺達が疲労で今の均衡を崩すかのどれかが決着の付く条件となるだろう。
部の悪い賭けだが、このまま粘るしかないのか――ってか考えてみればこっちの味方が来ても強力な範囲攻撃とかがないと結局ジリ貧な気はする。
まぁ、手が無い以上多少分が悪いのは仕方ない事だと割り切るべきだろう。
そう思っていた矢先「このままじゃ埒があかねぇ――多少無理をしててでも切り込むから、援護を頼む」ケイジがそんな事を言い出した。

<SIDE-Keizi->
延々と湧き出てくる敵を一撃で倒し続けながら、考える――このままで本当に良いのか、と。
無論、敵を足止めして、ネスさん達が《呪詛》と戦うのに他の敵の邪魔が入るのを防ぐ事が俺達の本来の目的なのだから、このまま此処で不毛な戦いを続けているのも選択肢の一つとしてはありなのだろう。
だけど、その答えには俺自身が納得できなかった。ネスさんが命を懸けて戦っているのに、こんな所で延々と作業の様に戦って居る自分と言うのを許容出来なかった。だから――
「このままじゃ埒があかねぇ――多少無理をしててでも切り込むから、援護を頼む」
策の一つも無いのに、背中を預けて同じ敵と戦っているシークスに、そんな言葉を投げかけていた。
そして「何か、策でも出来たのか?」そんな当然の疑問を投げ返される。
その問いに「策なんかねぇ――が、いい加減雑魚の相手をさせられるのには飽きたんだよ、だから勝負に出たい」本心で応えると「成程……まぁ気持ちは分からないでもない」そんな曖昧な言葉が返ってくる。
「それで、援護してくれるのか? まぁ、援護が無くても一人でやるつもりでは居るけどな」
ダメ押しの様に、自分の意見を押し付ける――否、この場合は押し付けるのでは相手の意見を無視して動くの方が正しいのか。
「それって俺に拒否権が実質ねーって事じゃないか? お前が勝手に特攻してやられたら残ってるこの軍勢全部俺一人で相手する事になる訳だし。まぁいいぜ、仕方ない俺に出来る事ならしてやるよ」
そんな俺の言葉に観念したのか、或いは延々と雑魚と戦い続けるのに飽きていたのは向こうも同じなのか、兎も角シークスから色の良い返事が返って来た。
そのまま続けざまに「で、仕掛けるって具体的にどうするんだ?」と言う当然の疑問がシークスから返って来る。
「だから、策は無いって、強いて言うなら力技で溢れかえる軍勢を掻き分けて《軍勢》本体に接触する――ぐらいか? まぁ、近接戦に持ち込めばまず勝てる。だから問題はどうやって距離を詰めるか、だな」
現状では言った様に力技で敵の山を掻き分けて進むしか無いだろう――そもそも。この問題をどうにか出来るのであれば俺もシークスもとっくにやっているだろうから、その辺は期待なんぞしていないが。
「策が無いのはさっき聞いたさ。だから策なしでどういう無謀な手を打つかを聞きたかったんだが――成程この数相手に力技で正面突破か……自分がやるんじゃないなら、そういう手は嫌いじゃない」
「嫌いじゃないのに自分でやるのは嫌なのか?」
「俺の実力と能力じゃ正面突破は基本無理だからな――無茶と無理を一緒にするのは良くない」
と、言う事はシークス的には俺が正面突破を仕掛けるのは無理じゃなくて無茶な訳だ。どっちにしたって仕掛ける事は変わらないが、少しでも期待されてる方がやる気も出ると言う物だろう。
「それじゃあ適当なタイミングで仕掛けるんで援護の方頼むぜシークス?」
「仕掛ける合図とかすらねーのかよ……まぁ、そういうのも悪くは無い、か。つーか、とりあえず爺さんの所までの道を開きやすくすれば良いんだよな?」
「そうだな、それで頼む。つーか敵掻き分けて進むだけなんだからタイミングも糞もねぇっての――それじゃあ、行ってくる」
そう言いながら、無数の反応の奥に存在する敵を目指して、止めどなく押し寄せる軍勢を掻き分ける様に、俺はそれまで留まりながら敵を屠っていた地点から動き出した。

<SIDE-Alcas->
一地点に留まって軍勢と戦っていた敵の反応に、ついに動きが現れた――動きを見せたのは私の見知らぬ方の反応だった。
シークスならこのまま王達の決着がつくまでの間ここで時間を消費するだけの不毛な戦いに付き合ってくれると思って居たが、シークスと共に居た見知らぬ敵はそれに納得が行かないかったらしい。
私の軍勢を掻き分けて此方に向かってきた居るのか……しかし、果たして辿り着けるかな?
既に《軍勢》の能力で展開した私の配下は、三百を超えている――そして、今この瞬間も敵に屠られているがそれを上回る速度で増え続けている。
そう、動くなら最初からそうしていれば良かったのだ。だが、もう遅い。そもそも範囲攻撃も持たずにたった一人で私の軍勢に挑もうと言う考えが片腹痛い。
それが通用するのは此方の展開数が五十に満たない程度しかいない間だけだ。既に三百の軍勢を展開している俺にとって、そんな抵抗は無に等しい。
敵は軍勢を掻き分ける様に私の元に攻め込んで来るがそもそも私には同じ場所に留まっておく理由がない、敵が軍勢を掻き分けながらゆっくり進んくる間に私が移動すれば、敵が此処まで辿り着く事は無い。
そう、辿り着ける筈が無いのに――そんな事は考えれば分かりそうな事なのに、見知らぬ敵は、唯我武者羅に行く手を阻む私の軍勢を屠りながら前へと進む。
そして、あろう事かその見知らぬ敵の進軍を、シークスが呼び出した煙の兵が守る様に、助ける様に動いていた。つまりは、あの行動は見知らぬ敵が独断で起した事ではない、と言う事だ。
挙句、シークス自体は背中を預ける仲間を失い、自らの戦力だった煙の兵を失い、自身の独力で押し寄せる軍勢に対抗しなければいけなくなっており、暴力的な数を前に苦戦を強いられている。
何故、彼等はここまでするのか? 私と同じ様な考えを持っていた筈のシークスは、何を考えて今の様な行動を取ったのか? 判らない、分からない、解らな――否、そんな事を今考えても仕方ない。
それこそ否だ、状況的にはまだ余裕はある。ならば、何故シークスがそんな行動を取ったのかを考える必要が【否、そんな事を今考えても仕方ない】
……なんだ、今のは?【そんな事を今考えても仕方ない】
何だ、コレは?【そんな事を――って、流石にもう騙し通せないか】
頭の中に声が響く――それは《軍勢》や王との念話とは違う、異質な響きだった。否、異質であるかどうかはこの際関係ない。何よりも問題なのは頭の中に響くその声が私自身の声だと言う事だ。
【当然だろ? 俺は、お前なんだからな?】
私が、お前だと? なんだそれは? 判らない、分からない、解ら【解らないなら教えてやる。俺はお前が魔獣化した事で授かった能力で作り出された、もう一人のお前なんだよ】
何を、言っている? 私は未だ魔獣としての能力に等目覚めて居ない。そもそも、魔獣の能力は本人の願望が形になる物だろう? どうしてそれで貴様の様な存在が生まれると言うのだ?
【王の言いなりになる、奴隷の様な立場から開放されたい――それがお前の願いだろう?】
その願いから生まれたのが、お前だと?
【そうだ、だからお前の中に俺が生まれた。俺と言う人格がお前の代わりに王の命に従う奴隷となり、お前と言う人格は王から開放されてその命に従う必要が無くなる――なぁ、お前の願い通りだろう?】
何だ……それは――
【だから、お前の願いを形にした、お前の魔獣としての能力だよ。お前は随分と昔から魔獣としての能力に目覚めていたって事だ、良かったなぁ?】
……こんな、こんな事があっていいのか?
【残念だが、これが現実だ――まぁ、おしゃべりはもういいだろ。俺が王の命令を果たしてやるからお前は俺の奥底に沈んでろ】
そんな言葉が頭に響くと同時に、私の意識は薄れて――

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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