EternalKnight
VS軍勢/10
<SIDE-Alcas->
見覚えのある敵と、見覚えの無い敵――この二人を同時に相手にするには最低百は軍勢を展開しておきたい。
数は多すぎても無駄であり、質と量を兼ね備える事が重要なのだが、質を突き詰めた所で相手が永遠の騎士である以上、所詮は雑兵に過ぎない。
元より、質云々で言うなら五百程度までなら落ちる心配も無いのだが。
故に、百は兵を展開する必要がある。もっとも可能なら二百は欲しい所だが、流石にそこまでは待ってはくれないだろう。
ここまで兵を展開しなかったのは、予め展開すればそれだけ多くの敵が此方に向かってくる恐れがあったからだ。どうせ戦わなければならないなら、敵は少ない方が良い。
私が多くの敵を引き付ければ、結果として他の連中が敵の数を減らして全体としては勝利に近づけるのかもしれないが、そんな事は知った事ではないし、他の連中も期待などしていないだろう。
数を展開できるとは言っても、個々の力は三位の魔獣程度でしかない雑兵なのだ。
永遠の騎士でない下位の聖具所持者ですら倒しうる様な雑兵を幾ら展開しようと、基礎性能ですら勝てない上に多種多様な能力を持つ永遠者の前では大した戦力たり得ない。
十人も経験を積んだ永遠の騎士が集まれば、それを押さえ込む手段は私には無いし、直ぐに展開した兵は全て屠られ、私自身が殺されるだけだろう。
経験を詰んだ上位聖具の契約者達が相手で有れば、一人当たりに最低五十は当てなければあっけなく私の兵は屠られる。
それも相手の実力次第であり、場合によっては個々の性能と兵数における最大戦力である五百全てで波状攻撃を仕掛けるなりしても、足止め程度にすらならない場合まである。
もっとも、そこまでの戦力となると《刹那》クラスの相手になるので、仕方ないといえば仕方ないのだが、兎も角場合によっては一人の相手をする事すら出来ない程度でしかない。
総数が五百を超えれば後は数を用意すればする程、個々の性能は落ちる一方なのでどうしようもなくなる。
所詮私の能力はその程度でしかない。最大まで兵を展開すれば現状三十万の軍勢を展開できるが、そこまで数を増やせば個々の力は聖具を持たない人間一人分程度でしかなくなる。
無論、そんな戦力に意味など無く、展開するだけ無駄でしかない。そもそも数が増えれば増える程、唯でさえ戦力としての質が落ちるのに細かい指示を出すのが難しくなる。
詰まる所、はっきりと言ってしまえば、私の能力は特異でこそあるが、強い能力等では決してないのだ。
そんな私が、何故他の連中が有利になる等と言う下らない事の為に危険に晒されなければならないのか? 正直、私は自らが無事に生き残れるのなら、他がどうなろうが知った事ではない。
求める理想はこのまま王から解放される事だが、恐らく私の理想が叶う日は訪れない。それを目標に王の下で奴隷として行動していたが、今回の戦いの為に戦力が集められた時点で気が付いてしまった。
私が王下の一員とされているのは、単純な強さが起因してでは無い。
単純に特異な能力、数を用意するという意味だけなら他の追随を許さない《軍勢》の能力を買われて王下の末席に名を置いているにすぎないのだ。
故に、どれだけ私の代わりとなる戦力を集めても意味は無かったのだ。少なくとも、王が目的を叶えるまで、全ての最高位を手に入れて王が絶対の存在になるまでは、私が解放される事無いだろう。
そう考えなければおかしいと、ようやく気付いた。そもそも私程度が王下七魔獣の一角で在る筈が無いのだ。
見ただけで私より上の力を持つであろうと判断出来る王下ではない魔獣が、今回の戦いには参加しているのがその最大の根拠といえる。
否、下手をすれば私は今回王が用意した戦力の中で最弱という可能性すらある。
そもそも、つい数日前まで第四位であった私が、そして未だに魔獣としての能力に目覚めていない私が王下の末席に名を置いていること自体が不自然だったのだ。
今となっては何故自分でもその程度の事に気付かなかったのかと不思議に思う。こんな状態で、このまま王の奴隷として生きて行く事にどれ程の意味が――否、そんな事を今考えても仕方ない。
脳裏に過ぎったそんな言葉を自ら否定する。そう、意味があろうが無かろうが、私は決して死にたい訳ではないのだ。
王に背けば待っているのは死しかあり得ない、いかに私が得意な能力を所持していようと刃向かう者を生かしておく道理が無い。
そもそも、その特異な能力と言うのも――否、そんな事を今考えても仕方ない。
……呪われたこの魔獣の肉体では、真の自由など永劫訪れないと分かってはいる。それでも、せめて常に王の下でこき使われる王下という枠からは開放されたい――そう願うのは、いけない事なのだろうか?
そんな事を考えながら兵を展開している内に、此方がようやく兵を八十程展開し終わった段階で、遂に敵の片方――見覚えの無い方が動き出す。
寧ろ、敵の目視が可能になった段階から兵の展開を始めてよく八十も展開するまでの間動きを見せなかったものだ、とも思うが。
まぁ、事前に十分用意出来た様な事を態々目視出来る距離まで近づいてから時間の掛かる兵の展開を始めたと言う辺りで、罠では無いかと敵に錯覚させられたのかもしれないが。
何にしても、今のままでは兵の数に少し不安が残る――永遠の騎士二人を相手にするには八十体の兵では戦力不足だ。
幸い、見覚えのある敵の方はまだ動く気配が無い――しかし、懐かしい顔だ。私が破壊者と言う立場を捨てる事になった直前にあっていた筈なので、凡そ二千年ぶりと言う事になるのか。
妙に馬の合ったかつての同胞――しかし、彼との再会を喜ぶ事は出来ない。守護者も破壊者もハグレも無く、私達は……《呪詛》に率いられる魔獣の軍勢は、今は全ての敵でしかないのだから。

<SIDE-Siix->
「あぁ糞、悩んでも仕方ねぇ――相手に策があろうが無かろうが知った事かよ!」
そう、吐き捨てる様な言葉を紡いで、ケイジが爺さんの元へと向かっていく。俺は、その後に続くような事はせずに、冷静にその光景を見つめる。
爺さんの方に策があるのか無いのかはコレで分かる――流石に、罠の可能性が高い所に先陣を切って飛び込もうと思える程俺は勇敢でも馬鹿でもない。
(その勇敢で馬鹿な行為は共に戦うケイジに押し付ける訳だ――お前性格悪くね?)
別に押し付けてなど居ないさ単にケイジが痺れを切らしただけで、俺はアイツに命じた訳でも頼んだ訳でもない。それに、あの数を相手に戦うには、準備がまだ整っていない。
(整ってねーってお前、未だなーんも準備してねぇ癖にどの口で言ってんだよ?)
別に口では言っていないが?
(……そー言うの揚げ足取りってんだぜ?)
事実を述べたまでだろう? そもそも今まではイメージを整えて居たんだ、未だ準備が出来て居ないのは大目に見ろ。
(ってー事はイメージは出来たのかい?)
あの爺さんみたく何十ってのは無理だったがな、そもそも一度に何十人分の形なんてイメージ出来ねぇよ。自分の得物の事考えながらだと、十人が限度だった。
(十人ねぇ、あのアホみたいな数相手に、その数で役に立つかね?)
そりゃやってみなきゃわかんねぇよ――けどまぁ、こっちが二人しか居ないよりは、十も数が増えれば戦力としては微妙でも随分マシだろ?
そもそも、アホみたいな数を出してきてるって時点で個々の力は大した無いのは間違いないだろ――個々のエーテルの反応も小さいしな。
(まぁ、それもそうか――それじゃあ、イメージを形にするけど準備はいいか、シークス?)
《紫煙》のそんな念に応じる様に、俺は「モチのロンだ――《VisionOfSmoke》」イメージを煙で再現して形に変える、そんな力の名を紡いだ。

<SIDE-Keizi->
組み上げた足場を蹴って、未だに戦力を増やし続けている敵の下との距離を詰める。
その最中、右手に握られた《虚空》と対になる形状にエーテルを収束させて空いている左手でそれを掴み取り、臨戦態勢を取る。
そうしている間にも当然の様に距離は詰まっていくが無論このまま《軍勢》本体の元まで辿り着けるとは思っていない。
案の定、既に何十と展開されている兵の中から十数体が動き出し《軍勢》の元へ一直線に向かう俺の進路に割り込んでくる。
エーテルの反応を見る限り、個々の性能は大した事は無い様に判断できるが、必ずしもエーテルの反応が薄い事が即ち弱い事には繋がる訳ではない。
故に、その兵との接触の前に加速の勢いを一度殺して、再度形成した足場を蹴り直し、初速を出来る限り生かした状態で、進路を阻む敵兵との接触に望む。
足場を蹴る事で生まれた加速力に、腕を大きく振りかぶって振るう事によって生まれる遠心力を乗せて、一撃を放つ。
さらに右腕に掴んで《虚空》の持ち手を握る力を少し緩めて、手首を返す事でトンファー型である《虚空》は反転し、生み出された加速力と遠心力は《虚空》の長身部に集約させる。
そんな一撃が、道を塞ぐように現れた敵兵の一人の頭部に直撃する。その一撃で、無数の兵の内の一体の頭は容易に体と別れを継げて、虹色の空間の彼方へと吹き飛びながら金色の光へと還っていく。
頭を守ろうとすらしなかったのは、防御が間に合わなかったからか、頭を守る必要が無いかのどちらかなのだろうが――脳裏に過ぎったそんな疑問への回答は一時保留として、今は先にやる事がある。
今ので足場を蹴って得た加速の全てを使いきった為、目前に居る無数の兵から距離を取る必要があるのだ。その為の足場を素早く形成して、それを蹴る事で一端後ろに下がって兵達との距離を作る。
そうしてとりあえずの安全を確保してから、俺は先程の一撃の結果を確認する為に意識を一撃を叩き込んだ敵兵の方へと向ける。
保留にした問題の答えは、果たして直ぐに俺の目の前に現れた。頭部を吹飛ばされた兵の残った体も、先にエーテルへと還った頭部と同じ末路を辿っている。つまり――
(数だけの木偶という訳か――もっとも、全てがそうであると言う確証も現時点ではないがな)
確かに《虚空》の言う様に今の一体だけで判断するのは早計だろうとは思う。
だが、最初にぶつけてきたのが先程の様な相手である辺り、この後数対続けて似たような強さの相手なら、恐らく強い固体と言うのはまず存在しないのでは無いかと考えて問題なくなる。
でなければ、この程度の相手ばかりぶつけてくる理由が無いのだ。自身の周りに強い数対を侍らせておくというのも手の一つだとは思うが、それならそれでここまで展開する理由も無い。
少なかろうが何だろうが確実にエーテルを消費してまで用意しているという事は《軍勢》にとってはコレでも戦力なのだろう。
もっとも、大した相手ではないとは言え、ここまで数が多いと面倒な事この上ない。
ヒットアンドアウェイによる一撃離脱で一体倒しただけの現状ではなんとも言えないが、個々の戦力は概ね能力に目覚めていない三位の魔獣相当の強さだと見て良い。
それがこの数となると些か面倒であるが、まだ相手に出来ないという程度でもないだろう。そもそも最低限の性能さえあれば、多すぎる数は敵にとっても味方にとても邪魔にしかならないのだから。
もっとも、この数の敵がもう少し強いと流石に面倒を通り越して手に負えなくなるのだが――まぁ、考えても見ればそこまでの性能をSS程度の聖具が持っている筈もないのだが。
これだけの数を制御できる時点で十分に驚嘆に値する能力なのだ、これで個々の力が強いとなるとそれはもうSSSの域だろう。そして、エーテルの反応から見てそれは無いと断言出来る。
何にしても、面倒だが正面突破は可能だと分かった――ならば、いつも通り力技で乗り切るしかない。自身の中でそう考えを纏めながら、踏み出す為の足場を形成する。
そんな俺の直ぐ傍を、薄い紫色の煙の塊が背後から追い抜いて敵の下へ向かっていく。
「一人で先に突っ込むなよケイジ、俺も混ぜろ。ちょいとイメージに手間取ったし、数では圧倒的に負けてるがこっちも数を用意してみたんだが、どうよ?」
無数の人型の煙の塊が俺を背後から追い抜く中で、そんな声が聞こえてくる。煙でイメージしたモノを創り出せるとかなんとか言ってたが、まさかこんな事まで可能だったとわ流石に思って居なかった。
「いや、純粋に驚いた――で、一つ聴きたいんだがあの煙の塊はどの程度の戦力なんだ? 《軍勢》の展開してる兵は一体辺り能力に目覚めてない三位の魔獣ぐらいだったぞ?」
「三位の魔獣か、それだと若干こっちの方が上って事になるんじゃねーかな、多分」
多分って――そんな適当な……
「何にしても《紫煙》の兵隊は煙で出来てるから、物理攻撃とか効かないし、相手が能力無い三位魔獣程度だってんなら十分な戦力になるさ」
まぁ、少なくとも《軍勢》の兵が一気に押し寄せてくる事は無くなるんだろうし、戦力は無いよりもある方は良いに決まってる、か。
そんな風に思考を纏めて「まぁ、そう言う事ならお前の用意した煙の兵には期待させてもらうよ」シークスにそんな言葉を送る。
そして「それじゃあ気を取り直して《軍勢》本体を獲りに行こうか」シークスと自分自身に言い聞かせるよう呟いて、俺は組み上げた足場を蹴って《軍勢》の元へと向かう跳躍を再開した。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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