EternalKnight
VS軍勢/100000
<SIDE-Siix->
ある程度短くなるまで吸った《紫煙》の煙草を握りつぶしてエーテルへと還元させ、懐から《紫煙》の煙草の箱を出して、そこから新たな一本を咥える。
それに、火属性の魔術で指先に灯した力で火を付けて、俺の準備は整った。もっとも、もう少し時間は在るようだが。
「何箇所かはもう始まったみたいだな、シークス。俺等の相手は、まだ辿り着いてないみたいだが」
直ぐ傍から、己が得物こそ握っているが、構え等を取らずに力を抜いた姿勢でこの場での相方となるケイジのそんな言葉が投げ掛けられる。
確かに、此方に向かって来ている反応はあるが、その反応は他の連中と戦っている反応に比べると幾分か遅い。加えて、反応自体の強さもそれ程大きいとは思えない。
それにしてもこの反応、どこかで覚えがある気がするのだが――
(そりゃ他の敵やら味方やら反応が全体的にでか過ぎて感覚が麻痺してるからっしょ? こっちに向かって来る反応だって俺等の倍とは言わねーけどもそれに近い量のエーテルを保持してるぜ?)
でも合わせりゃ俺とケイジの方がエーテルの量は多いんだし、何とかなるだろ?
(だと良いな――まぁ、何とかならなきゃ俺等は殺され壊されお終いなんだけどよ)
「足が遅いのか、やる気が無いのか――まぁ、どっちだって俺等としては楽だろうからありがたい限りだけどな」
とは言え、やる気が無い方に関しては状況によっては本気になるだろうし、足が遅い方だってそれを補う能力がある可能性は否めない。結局戦いの場に楽も糞ないと言う事だろう。
(つーかお前、荒事とか嫌いなのによく連中に協力する気になったな?)
いや、丁度一緒に飲んでたケイジがやる気になってたみたいだからつい、な? まぁ、この広域次元世界全体がその《呪詛》だかのせいでヤバイって言う話も、手伝おうと思った理由ではあるんだけどよ。
結局の所、荒事には出来るだけ巻き込まれたくねぇって考えは変わってねぇよ。面倒な事はやらねぇ、誰かがやってくれる事は丸投げする、そう言うスタンスは曲げてねぇつもりだ。
今回のは単純に、この先ヤバイ事があるのが分かってるなら、守護者の連中と協力して今そのヤバイ状況をどうにかしようって考えたってだけの話だよ。
たぶん本当にやばくなったら守護者だの破壊者だのハグレだのって垣根無く、全員が動くんだろうが、そもそもそんな状況になる前に動いた方が楽だろって、唯それだけの話だ。
少なくとも今は、自分達から仕掛けておいてダセェったらねーが、破壊者は守護者との争いで壊滅的な打撃を受けてて数が居ない。
次点で数が多い守護者は、今回の戦いで全戦力を当ててきてる。そこから考えれば、今以上に動くのに適したタイミングもねぇだろ?
(それにお前が関わる理由は? 今回だって丸投げの任せっきりでよかったじゃねぇか?)
だから言った様に、丁度その時に一緒に飲んでたケイジがやる気になったから、だよ。
後、強いて言うなら、守護者が《宿》にまで顔を出して破壊者とハグレを垣根なく仲間として受け入れてたって所か? それだけするって事は単純に頭数に不安があったって事だろ?
だったら、少しでも戦力は多い方が良い。例えそれが面倒な事でもな。
(まぁ、お前がそれで良いのなら良いんだけどよ。そもそもこの戦い、俺達程度が関わったぐらいでそこまで大きな変化が起せるとも思えねーんだが?)
それは少しばかり前から俺も思ってたが――流石に此処まで付いて来ておいて引き上げるってのは、ビビッて逃げ出したみたいでカッコ悪すぎるだろ?
(あぁ――それは確かにダサすぎるな。まぁ、精々死なない様に、ダサくならない様に、頑張るとしますか)
そんな風に念話をしている間に、此方に近づいてきていた敵が、ようやく視認出来る程度の距離まで迫ってきていた。その姿は――
「おい、マジかよ……何やってんだ、あの爺さん? つーか成程なぁ、道理で覚えがある反応な訳だ」
こんな所、こんな形で出会うとは思っても見なかった、俺の見知った顔だった。

<SIDE-Keizi->
「おい、マジかよ……何やってんだ、あの爺さん? つーか成程なぁ、道理で覚えがある反応な訳だ」
ようやく相手の外見の情報が読取れる程度にまで距離が縮まった段階で、直ぐ近くに居たシークスがそんな声を漏らした。
確かにシークスの言う様に、あの見た目なら、爺さんと呼んでもいいかもしれない。だが、漏れ出した言葉が敵の容姿に対する反応ではない事は明らかだった。
故に俺は「知り合いか?」とシークスに視線を向けずに言葉を投げる。
「あぁ、それなりに馬が合った元同僚だ。長らく姿を見なかったからくたばったのかと思ってたんだが、まさかこんな所で再会するとは思ってなかった」
「それで? いきなり知り合いとは戦えない、とか言うなよ? 相手の能力次第だが、単純計算エーテルの保持量が倍な奴とタイマンなんて嫌だぞ、俺は?」
と、言うか知り合いなら戦う前から相手の能力は分かるって事か? まぁ、どうせ始まったらすぐにお互いの能力なんざ割れるのだろうが、それでも情報があるに越した事は無い。
とは言え、知り合いである事が必ずしも相手の能力を知っている事には繋がらない。事実、面識はあっても相手の能力を把握できていない相手なんていうのは俺にだってごまんと居る。
「まぁ、能力的に面倒な相手だからちょっとばかり萎えたたが、別に戦えないとか言うつもりはねーよ」
「そうか、要らねぇ心配だったな――それは兎も角、能力的に面倒な相手って言ったよな、今? って事は知ってるのか、あの爺さんの聖具の能力?」
その俺の言葉に「あぁ、知ってるよ。つっても聖具の能力の一つを知ってるってだけだから、他の能力が無いとは言い切れないがな?」シークスはそんな風に言葉を返してくる。
一つだけ、か。それでもシークス曰く面倒な能力が先に知れるなら意味は十分にある。
「その能力について教えてくれ――細かい説明は要らない、何が起きるのかだけ分かれば良い」
「何が起きるのか分かれば良い、ねぇ? じゃあ簡単に説明するとだな、あの爺さんの聖具《軍勢》はその名の通り軍勢を作り出せる」
そのシークスの言葉に「軍勢を作り出せる? 命令に従う人形が量産出来るって事か?」そう問いを投げると「あぁ、そうだ。その解釈で大体間違ってない」頷きながらその俺の推測を肯定した。
「それで、軍勢って事は数は半端じゃないって事でいいのか? 少なくとも、十や二十程度じゃないんだろ?」
「事実かは知らないが、二千年程前に聞いた次点だと最大で十万だったか? なんでもそこまで増やすと質が落ちて使い物にならんとも言ってたな」
使い物になるならない以前に、十万って数がヤバイだろ……要するに戦力外の雑魚でも肉壁なら十万枚用意できるって事だろ、それ?
つーかどうでもいいが二千年前って……コイツ案外長く生きてるんだな。まぁ、今は本当にどうでも良い事だが。
「最低限の戦力としてなら五百が良い所だとも言ってた筈だ。それが事実なのかは知らないし、あれから二千年は経ってる上、魔獣化した事による影響も分からないから、その情報が役に立つとは思えないがな」
しかし、言動から察して展開する人数が此処の戦力と反比例していくって能力か。確かに面倒な能力だな、それは――基本的に相手と接触できるかで勝敗が分かれる俺とは相性が悪い部類に入る。
最低限の戦力としてなら五百という発言も、どのラインを最低限の戦力として考えた居るのかが分からない以上、何の基準にもなりはしない。
まぁ、それでも相手の展開してくる軍勢の一人と戦って、その次点で展開されている人数を確認できれば、ある程度戦力を見極める事も出来る――か。
何にしても、一人や二人の相手をするのに何百もの兵を展開してくる訳がないし、仮にされた所で意味は無い。
確かに数の差と言うのは単純に戦力差を広げられるが、一人の相手に対して十人の兵を用意するのと百人の兵を用意するのには大きな差など無い。精々絶え間なく相手攻め立てられる程度だ。
しかし、その意味においても兵をエーテルの続く限り無尽蔵に展開出来る能力を持つお思われる《軍勢》の担い手からすれば、一人やられれば次を出せばいいだけであり、必要以上に展開する意味は無い。
まして此処の性能が展開している軍勢の数に反比例しているなら尚更だろう。
(シークスの事を疑っている訳ではないが、その仮定は本当に信用できる物か? シークス自身が当てになる情報ではない、と言っているんだぞ?)
そうは言うが、能力のヒントがそれ以上無いならそれについて考えるしかないだろ?
(大まかな情報が分かっただけでも十分であろうが? 本来は情報なしで戦い始めるのが普通なのだ、少しでも情報があれば無理に対策を考えようとするのは汝の悪い癖だ)
対策があるならそれに越した事は無いだろ?
(中途半端な情報で対策を立てるのが一番危険なのだと、何度も言っておるだろう?)
それでも、相手と距離を詰めなきゃ大して出来る事がねぇ俺達にとっては、策を練るのは必要な事だといつも言ってるだろ?
(今までは上手く言ったが今回もそうとは限らんと、いつも言っているだろう? 普段と違い今回は味方も居るのだから少し冷静になれ、ケイジ。状況はまだそこまで切迫しておらん)
……確かに十万って数字を聴いて焦りすぎてたかもしれない――が、状況が切迫してからじゃ遅いって事も考えろよ《虚空》?
(それは言われずとも承知している。汝と我は運命共同体なのだ、我とて危機には陥りたくはない)
つっても、大体戦いながら考えた策はまともに機能しないで状況が切迫してからゴリ押しで距離詰めて勝ちをもぎ取って来てるんだけどな……だからこそ、情報があるなら策を立てたい所なんだが
「おいケイジ、黙って考えこんでる間に展開を始めたぜ、あの爺さん――ったくこっちが気付いたんだから向こうだって俺に気付いてるだろうに、躊躇う素振りは一切なしかよ」
そんなシークスの声で《虚空》との念話を切り上げて意識を外に向ける。そして俺は、此方とある程度の距離を保ったまま《軍勢》とやらの能力を使う敵の姿を目撃した。
その光景は、どことなく《門》を通って世界を行き来する俺達永遠者の世界移動に似ている。
三つ展開された《門》の様な出口から、次々に黒い人型のシルエットが規則正しくきびきびと現れるて隊列を組んでいく――その数は今の時点で数十といった所だろうか?
「初っ端から数十も展開してきやがったか。だが……」
それが意味する所は、少なくともその程度は展開しても質と量のバランスは取れている、と言う事だ。
とは言え、事実かどうかはさておき二千年前の時点で五百で最低限の戦力になると言っていたらしいあたり、この数を展開してくるのもおかしな話ではない。
此方が二人である事を考えれば先程までの予想よりを上回る数ではあるが、それ以上に一体を展開する速度は予想よりも随分と遅い。
そこから考えれば、敵が用意しているのはその上での数が適正なのかもしれない。
あの展開速度では、軍勢の個々の戦力がどの程度かにもよるが、此方が敵を一体倒すのと一体の兵力を用意されるのに掛かる時間次第では此方が消耗する前に相手の兵が尽きる可能性があるからだ。
もっとも、今の時点で兵のストックは五十を優に超えている。と、言うかこうして思考している今も増え続けているのだが、敵は果たしてどの程度の数を用意してくる気なのだろうか?
いや、そもそもストックの為に兵を増やしているのなら、今この瞬間にでも打って出るべきではないのだろうか?
このまま敵が展開を続けているのを黙って見続けている理由もないのだから、そうするべきなのだろうが――
どうして、ここに来るまでの間に展開を始めていなかったんだ? 脳裏に過ぎったそんな疑問が、打って出ようと囃し立てる自身の心を律して止める。
(真っ当に考えれば何か策があって、と言う線が妥当なのであろうが、かといってこのまま敵の数が増え続けるのを見てるだけと言うのも――)
「あぁ糞、悩んでも仕方ねぇ――相手に策があろうが無かろうが知った事かよ!」
結局ウダウダ考えるより、いつも通りゴリ押しで距離詰めた方が早ぇ!
俺は、回らない頭で考えるのを放棄して、足場を瞬時に形成して蹴りだし、今尚《門》に似たモノから黒いシルエットを増やし続けている敵の方向へと加速した。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

79/118ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!