EternalKnight
VS我欲/想いの力
<SIDE-Aren->
だがしかし、今のままでは勝てない、何がどうあっても届かない。それだけはハッキリと分かった。
では、どうすれば良いのか? 望む結末は敵を倒す事ではなくリズィを助け出す事だが、どちらにしてもそれを掴み取るまでのヴィジョンが見えない。
何にしても、エーテルが足りない。挙句エーテルがどうにかなった所で自力の差が埋められない。が、この問題をどうにかする方法は無い訳ではない。
だが、それに頼るつもりは無い。そもそも、頼った所で力添えなどしてくれない筈だ。では、この状況を打破するにはどうすれば良いのか――答えはとてもシンプルで、だけれど途方も無い難度になっている。
とは言え、少なくとも今のままで敵と戦って、リズィを助け出し守り通すという事に比べれば、幾分かハードルは低い様に思える。
だから《ソレ》しかない。《ソレ》を成す為にはすべき事は、傷だらけで動く事すらままならないこの体を、なんとか戦えるレベルまで復元させる事だ。それに適した聖具を、俺は知っている。
【ですがアレン様、私に残っているエーテルでは後一度の修復しか出来ません。外傷を治せるのはこれで最後になってしまいますが、それでも構いませんか?】
構わない――寧ろいま動けないのが一番困る。それからもうエーテルが残ってないなら、俺の傷を治してくれたら此処から離れた方が良い。そうすれば、お前は破壊されずに済む筈だ。
悪いが、まだエーテルが残ってる奴等には、もう少し付き合ってもらう事になるが――頼めるか?
【頼めるも何も無いさ、最後まで共に戦わせてくれ、アレン。俺達は全員そのつもりでいるんだ】
【私の能力は役に立たないかも知れませんが、その分エーテルはまだ残っていますし、元より今私達が持っているエーテルは貴方達から譲り受けた分ですから、ギリギリまでは返させてください】
【それでは、私も残らせてください。皆様を置いて私だけ先にこの場を離れるというのは心苦しい物があります――次でエーテルを使い切ってしまう身ですが、最後までお供させてくださいませ、アレン様】
――全員、後悔するなよ?
そもそも《ソレ》を成し遂げられる可能性は高くない。幾分かハードルが低い様に思えるだとか言っておいてなんだが、絶対に達成できない域にあるかもしれない。
それでもやるのだ――《ソレ》しか可能性が残されていない以上、《ソレ》にかけるしかない。
(それで、さっきからもったいぶっている《ソレ》と言うのは? この状況をどうやって打破する?)
決まってるだろ――今のこの状況をどうにか出来るのは《永劫》との契約しか居ない。他の選択肢があるのなら今すぐ教えてくれ。
(否、力は借りないのではないか?)
縋るつもりは無いって言っただけだ。俺は《永劫》に正規の契約者として認めてもらう――それだけだ。
【私が貴方を正規の契約者として認めると思っているのですか?】
思ってるじゃなくて、認めさせるのさ。あんたは俺の事は嫌いじゃないと言った。そしてゼノンさんは俺にアンタを託してくれた。
だったら、認めてもらえないのは今の俺に何かが足りないだけで、ソレさえ埋まれば、可能性は十分にあるんじゃないかって、そう思ったんだ。
だから《永劫》俺がアンタの契約者に相応しいと思ってくれたのなら、契約してくれ――俺がアンタの契約者に相応しい男だって事は、今から証明してみせる。
【確かに、私はとある《想い》をもって居るかを重要視して契約者を選ぶつもりでしたが、選定の基準はそれだけではありません。それに加えて相応の実力がある事が私の望む条件です】
それは、今の俺じゃあ実力不足って事なのか?
【えぇ、その通りです。その意味で、今の貴方に点数を与えるなら50点と言う所ですか。実力だけで言えば後一歩と言う所ですか】
ここまでの分だけが俺の実力じゃない、全部投げ捨てるだけの覚悟で挑めばもう少しだけ戦える、それをアンタに見てもらいたい。
【力は簡単に伸びる物ではありません、ソレが全てを投げうる覚悟の上でもです。故に契約を交わしたいのなら、今の時点では強さを度外視しても良いと思える程の資質を証明するしかありません】
決め付けるぐらいなら見てからでも遅くないだろ? 俺に出せる精一杯、それを見てから決めてくれれば良い。
次でアンタの眼鏡に適わない様なら、仮の契約も解いてくれて良い――そうなったら遅いか早いかの違いでしかないだろうしな。
【そこまでの差があると分かっておきながら、何故挑むのですか? 私を説得すれば、納得させればソレで態々危険を冒さずに済むでしょう?】
まぁ、その通りなんだろうけどさ――とりあえず、一発ぐらいはアンタの力を借りずに叩き込んでやりたいって思ったってだけだよ。
何より、自分の女に手だしてきた野郎に一発叩き込むのに、他の女の力を借りるってのは、ちょっとカッコ悪すぎると思うんだよ、個人的に。
【それだと《幻想》や《再生》も女性の人格だと思うのですが、彼女達は良いのですか?】
メインは俺と《救い》だし、それを言ったら仮の契約とは言え、そもそもアンタの力だった借りてる。
【まぁ、貴方がそれで良いと言うのなら任せますが――個人的には、無理してカッコを付けようとして敗れて殺される方が余程カッコ悪いと思うのですが?】
死ねば終わりなんだから、自分が死んだ後なんて考えたりしないさ。そもそも、負けなきゃ良いってだけの話さ。
【――負けなければ良いと言うのは、絶望的な状況に立ち向かう者の言葉とは思えませんが?】
絶望的な状況に挑む奴が絶望してなきゃいけないなんて誰が決めた? 絶望に足を止めれば、それで本当に終りじゃねぇか。
【では、見せてくださいアレン、貴方の力を】
あぁ、見ててくれ――絶対にアンタを納得させて見せる。
【ではアレン様、傷口の《再生》を始めて宜しいですか?】
すまない《再生》よろしく頼む。他の皆も少しずつで良いエーテルが残ってるなら俺に分けてくれないか?
【言った筈だぜ、アレン? 俺達は全員最後までお前と共に戦うってな? そもそも《幻想》の言う様に俺等の持ってるエーテルは元々お前等のもんだろ?】
【なのでコレは、分けているではなくて《返してる》なんです】
《覚醒》達の言葉と共に、殆ど空っぽだった俺の中に僅かづつだが、それでも確実にエーテルが集まってくる。
すまない――否、ありがとう、皆。
僅かに集まったエーテルを全身に行渡らせ、リズィを襲っている敵に視線を向ける。相手はリズィに危害を加える事に夢中なのか、それとも俺の事は既に眼中にないのか、此方に視線を向けてきてはいない。
後悔させてやる――俺達を甘く見た事と、リズィに手を出した事、その両方の意味で。足りないエーテルは感情の爆発で補う。今の俺の中で渦巻く感情ならば、必ず俺の力の底上げに繋がる筈だから。
理性はいらない。高ぶらせた感情を、押さえ込んできた怒りを、視界の先に居る敵に唯叩きつければ良い。
その後の事は考えない。唯一撃、どんなものでも構わないので全力のそれを叩き込む。唯その為だけに、俺を俺としている全てを乗せる。
(では行くぞ、契約者よ)
《救い》のそんな声を聞きながら、足場を形成し、拳を握り締め、感情を高ぶらせて、唯一点を見据える。まだだ、まだ早い。理性がある内は感情を爆発させる事等出来ない。
故に待つ、《神聖》を破壊され、抵抗することすら出来なくなったリズィが男の手によって衣服を剥がれ、追い詰められていくのを唯見続ける。
守ると誓ったリズィが追い詰められていく様を唯見ている事しか出来ない自分に怒りを覚え、それ以上にリズィを追い詰める男への怒りを募らせる。
感情を押さえ込み、溜め込む――この怒りが許容量を越える瞬間こそが、感情の爆発だから、俺の引き出せる精一杯だから、耐え続ける。
そうしている内に、下卑た笑みを浮かべる敵の手がリズィの身を纏う最後の衣服に伸び――気付いた時には、俺は声にならない叫びを上げながら、足場を蹴っていた。
その叫びで敵も此方に気付いたのか、下卑た笑みを崩してめんどくさそうに此方に視線を向けてくる。
――が、残った全てのエーテルを乗せ、怒りと言う感情を爆発させる事で身体能力を限界まで引き上げた上で放つ俺の右の拳は、視線を此方に移す以外の時間を敵に与える事なく、その頬に叩き込まれた。
残った全てを乗せたその拳を叩き込んだ事で、敵の体をその場から殴り飛ばして、ようやくリズィから男を引き剥がす事に成功する。
その傍に立って、男に引き裂かれた事で一糸纏わぬ姿になった事で両手で体を隠すリズィに自分の上着を脱いで手渡しながら「……悪い、助けるのが遅くなった」謝罪の言葉を紡ぐ。
「私の事は気にしないで、あっちゃんなら助けてくれるって信じてたから大丈夫だよ。でも《神聖》は壊されちゃった……」
悲しそうに、悔しそうにそう呟くリズィに、俺はなんと声をかければ良いのか分からない。完全に破壊されエーテルの塵となった聖具を救う事は流石に《救い》を持ってしても救えない。
だが、干渉に浸っている様な暇は無い。リズィを助け出す事は出来たが、別に敵を倒せた訳ではないのだ。
「何だお前、折角生かしておいてやったのに、何人の邪魔をしてんだ、雑魚野郎?」
ここまで見せた事に無い、怒りに歪んだ表情で男が静かに呟く。
「もう良いから、お前は死ねよ。 俺の邪魔をする奴は認めないし許さない。俺は最強だから、刃向かう奴も目障りな奴も気に入らない奴も全員殺す。俺の思い通りにならない奴なんて世界に必要ねぇ」
そんな自分勝手な言葉を撒き散らしながら、男は背負った巨大な剣の柄を握る。紡がれたその言葉は、遂に敵が本気を出す気になったというサインに他ならない。
唯でさえ圧倒的に負けていた以上、本気の敵と戦って勝てる道理など無い。それでも、俺は戦わなければいけない――敵の標的が俺である以上、戦う事を避ける事など出来ない。
このままでは勝敗など見えている。それを覆すには《永劫》の力しか無いのだが――
【残念ですが、貴方では私の契約者になるには役不足です。実力の程はまぁ、もう10点を追加であげても良いのですが、根本的に貴方には私の求める《想い》が無いようです】
(何故だ、我が契約者は良くやったではないか! 何が足りない、汝の求める《想い》とは何なのだ!?)
【それを答えてしまっては意味が無いでしょう? 重要なのはその《想い》を抱く事ではなく、それが自ら心の奥底から湧き上がる《想い》だと言う事です。答えを知ってしまっては意味が無い】
心の奥底から、湧き上がる《想い》? 俺は何を《想い》何の為に戦っているのか――答えなんて簡単だ。
この手で守れる全ての弱き者達を守る為、この手で救える全ての傷ついた者達を救う為。そして何より、リズィを……俺が共に歩いて行こうと決めた、彼女と生きて行く為だ。
だから俺は、この手で守れるだけの人々を守り、この手で救えるだけの人々に手を伸ばす。
この先ずっと――二人で、未来永劫にそうして歩いて、進んで行きたい。俺の願いは、俺の奥底にある《想い》は、唯それだけだ。
【――60点、と言う所ですか】
ぇ?
【聞こえなかったのですか? 貴方の《想い》は60点だ、と言ったのです】
(今のに、汝の求める《想い》とやらが入っていたのか?)
【ですから、そう言っているでしょう? ですが所詮60点です、満点には程遠い】
それでも60点とは言え《永劫》に認めてもらえる資質が俺の中にはあった。何がその資質だったのかは分からないが、その想いがあったからこそ、ゼノンさんは俺に《永劫》を託してくれたのだろう。
(汝の《想い》を60点と切り捨てられるのにいい気はしないが、それでもその資質があったと言う事実は重要だ。とは言え、この状況下で60点等と半端な評価を貰っても困るのだがな……)
【半端な評価? これは正当な評価です。何より、実力も資質も60点あるのならギリギリですが及第点です。故に、問おう――汝の名は何ぞ?】
俺の実力と《想い》を及第点と評し、改めて此方の名を聞いてくる。その行為が意味する所は、つまり――
(認められたのか――あの《永劫》に?)
「我が名はアレン、アレン=カーディナル」
真っ直ぐに前を見つめて言いながら、ゼノンさんに託されてからずっと背負ったままで居た巨大な剣の柄に手を伸ばし、掴む。
【アレン=カーディナル、その名はしかと刻み込んだ。故に汝も我が名を刻め、我が名は《永劫》――今この一瞬より、汝を我が振るうに値する者と認めよう。契約は此処に成立する】
その《永劫》の言葉と同時に、掴んだ《永劫》の柄より溢れ出したエーテルが限界までエーテルを吐き出して空っぽだった体全体に行渡るのを感じた。
エーテルの量は多くは無いが、それでも自らを構成するエーテル以外の全ては吐き出していたこの体を満たすには、そのエーテルで十分すぎた。
何より、全身に漲る力が先程までとはまるで違う。エーテルがどうと言う話ではなく、根本的な身体能力が凄まじいまでに強化されたのが分かる。
そして今までの常識では異界の法としか呼べないレベルの能力に関する知識が一気に流れ込んでくる。唯、圧倒的な基本性能を持って、あらゆる面において今までの自分の限界を容易に塗り替えられていく。
(身体能力の上がり方だけでも分かるが、これが準最高位の《永劫》の力か……SSとSSSの差と言うのは此処までの物なのかと思わされる反面、この力なら――)
あぁ、負けない。負ける筈が無い。敵がどれ程の力を隠し持って居ても同じだ――SSとSSSの差は覆せない。
そもそも身体能力という意味ではSSとSSSの間に本来そこまでの差は無い筈なのだ、それが今までの自分と今の自分でコレだけの差が出ていると言う事は――
(それだけ私の身体能力への補正が大きいという事です――全ての準最高位を知る訳ではないので実際は分かりませんが、その中では上位に位置している筈だと自負しています)
それだけ《永劫》の力が凄まじいって事か。
(もっとも、《救い》と言う聖具の補正が小さかったというだけかもしれませんが)
(別に高くも低くも無い、SSとしてはあれが標準程度だ)
そんな聖具達の会話を遮る様に「何だ、何だよ、何なんだそりゃ!?」男の絶叫が響く。
「なんだそりゃ奥の手ってやつか? 良いや違うなそれなら今までボコされてた理由にはならねぇ、だったら何だ? 何でこのタイミングで反応が膨れ上がる? ご都合主義も大概にしろよ、雑魚野郎」
ついで、怒りに歪んだ表情のままぶつぶつと喋り始める――確かに相手から見ればこの《永劫》との契約はご都合な展開に見えるかも知れない。
だけれどコレはそんなモノじゃない、ゼノンさんに託され、この戦いの間にようやく認めて貰って手に入れた力をご都合主義だなんていわせない。
「まぁ良い。良いさ別に、どっちにしろ誰も最強な俺には勝てねぇんだよ雑魚野郎――相手よりも必ず強くなると言う特性を持つ俺の力に隙はねぇ、コレは絶対に無敵な最強の力なんだよ」
敵の能力に応じて自身が唯只管に強化される能力。それは極めて単純で、それが故に強力な能力だ。だが――
(無敵なんていう能力があるのなら誰も苦労しません。そもそも自身の肉体を強化する能力である以上、器のとなる肉体には限界が存在する。それを超えれば良いだけの話です)
それに対する答えもまた極めて単純で、敵の限界以上に強くなれば良いと言う、唯それだけの話だった。
故に、俺は《永劫》の力で強化された力で、足場を蹴って短く「《Aeon》」力の名を紡ぐ。
それによって生み出される結果は、自分を除く全ての時間の停滞で――結果として敵がその手に握る巨大な剣を構える前に、俺は《永劫》でその刃を握る男の右腕を肩口から切り落とす。
そのタイミングになって、ようやく相手の力に応じて自身も強化されるという男の能力によってその動きが俺から見て愚鈍と言う域から真っ当な程度の域にまで到達してきたが、もう遅い。
強化の限界を超える云々以前に、相手に応じて強化というプロセスを辿る以上、圧倒的な速さを前に、それは真っ当に機能しない。
《Aeon》で停滞した世界の中で今の俺と同程度の域にまで達せているのは驚嘆に値するが、それでもその程度だ。
「《TimeSlump》」
紡いだ第二の力、時の枷が男の動きをさらに停滞させて、反撃の芽を完全に摘む。そうした上で《永劫》の刃を両手で大上段に大きく振り上げて告げる。
「これで終わりだ――散々好き勝手やってくれたが、あっけない最後だったな」
そして、大上段から《永劫》の刃を振り下ろす。それを――
「誰のあっけない最後だって?」
あろう事か《Aeon》と《TimeSlump》と言う二重の時の呪縛に拘束されている筈の男が回避する。
(これは――《TimeSlump》が効いていない? そんな事が……)
「偉そうな口を叩きやがって、やってる事は所詮敵の弱体化だろうが? 最強である俺に回りくどい絡め手が通じるとでも思ってんのか?」
(つまり、時間自体に干渉する《Aeon》の効果では停滞して、相手に干渉して停滞させる《TimeSlump》では効果が無い、と言う事ですか……面倒ですね)
【私の能力が効かなかったのはそういう事なのね……相手からの干渉は受け付けず、自分より強い相手より強くなるって、どれだけ性質が悪い能力なのよ……】
と、言うか今の一撃を回避されたと言う事は《Aeon》での停滞の中でこっちと戦える所までは強化されたって事だよな……右腕を切り落としたとは言え、相手の特性を考えれば長引かせるのは下策だ。
瞬時に思考を纏めて、回避された刃を切り替えし、今度は大上段の様な大降りではない一撃で敵に切りかかる。
それでも、大剣という武器の特性上、どうしても一撃のモーションは大きくなって――
「ご都合で急に強くなったのは良いが、どっちにしても最強である俺の敵じゃなかったな?」
此方の攻撃は敵に合えなく回避される。その間にも、敵の速度は少しづつ、こちらに追い付こうと加速している。
「つーかどう頑張った所で誰も俺に敵いやしねーんだよ、言ってるだろ、俺が最強だってよ? だからさっさと俺に殺されろよ」
「誰が好き好んで殺されるんだよ、馬鹿かお前は?」
少しだけ距離を取って《永劫》を構えて男の言葉に応じる。そうしている間にも敵の力は俺よりも少し強い域に到達しようと強化されていく。
まだ、右腕を切り落としているだけ此方が有利な筈だが、相手の能力の出鱈目さを考えれば右腕が切り落とされた状態で此方よりも強い状態と言う所まで強化されてもおかしくない。
故に、時間は無い。時間が立てば立つ程相手は強化されていく。ならば、どうする?
《Aeon》の力で時間の流れが停滞しているからこそ相手の強化が遅いのであって、そうでなければ殆ど数瞬で相手の力に追いつく強化能力。流石に自信満々に最強を自称するだけの事はあると言う事か……
最初の一撃で腕ではなく首を刎ねていればこうはならなかったのだろうか――否、今は考えても仕方ない。
今必要なのは、勝つにはどうすれば良いのか、だ。
「大体よぉ、テメェは何人の腕切り落としてくれてんだ? まぁ、お前をぶっ殺すのには左手だけでも十分だがよぉ、いい気はしねぇんだよ?」
真っ当に考えれば《Aeon》の様な能力で数秒でももう一度敵を圧倒できる瞬間を作れさえすれば、その間にあの首を刎ねる事も可能だろう。
(とは言え、流石にそんなに都合の良い能力はありません。そもそも干渉を受け付けない相手を弱体化できる能力と言うのが、数える程もない筈です)
否、弱体化は考えなくても良い。こっちが強化されればそれで事足りるんだ。《Aeon》で停滞した今の状況じゃ、敵がこっちの能力に並ぶまでには時間が必要なんだから。
どっちにしても《永劫》の力で強化されている俺を今以上に強化出来る力なんて無い。《覚醒》の能力ならば通常の強化とは別に上乗せできるが、そもそも既に使用している。
「だからテメェは殺す、絶対に殺す、完膚なきまでに殺す。泣こうが喚こうが関係ねぇ、殺して殺して殺して殺す。俺の思い通りにならないモンは全部消してすり潰してまっ平らにしてや――」
そこで、男の言葉は唐突に止まり、次の瞬間にはその顔にヒビの様な亀裂が走る。
(やはり限界が来ましたか。まぁ此処まで器が持った事の方が驚くべき事ですが。魔獣と言う概念の底が深いのか、或いは囚われている魂が強大なものだったのか――まぁ、今となってはどちらでも良い事です)
……一体、何が?
(先程言ったでしょう? 自身の肉体を強化する能力である以上、器のとなる肉体には限界が存在すると――彼の器は、自身の強化能力に耐えられなくなった、唯それだけの事です)
それはつまり、これ以上は強化されないって事か?
「力が抜けていく? 何だ、何なんだコレは? 俺は最強の存在なんだ、目の前にぶっ殺すべき敵が居るのに、どうして力が抜けていく!」
先程まで自分の気に入らないモノは消すと語っていた男は、失われていく自らの力に同様を隠し切れずに狂乱する。
(見ての通り、その程度では済まされません。自身の限界を超えて強化をしようとした結果、彼の器にはヒビが入った――そしてヒビが入った器は、その中身をこぼし続ける上に、とても脆い)
そして、うろたえる男の速度が目に見えて停滞し始める――俺が居る《永劫》の力によって与えられた領域から転げ落ち、狂乱する男の声は間延びしたモノへと変質していく。
――終った、のか?
(最期は敵の自滅ですが、我々の勝ちです。自滅以外の結末となると、あの能力相手だとこれ以外の勝ち方となると《Aeon》を使用した直後の一撃で首を刎ねるぐらいしかありませんから妥当な結末でしょう)
(否、もう終ったも同然だが、まだ終ってないだろ? 敵もまだ生きているぞ? 流石に能力を失った相手にトドメをさす必要は無い、とは言わないだろ――コイツにだけは?)
まぁ、そうだな。コイツだけはどうなろうが生かしておく訳には行かない。どの道レオン達が《呪詛》を倒せば全て消滅するらしいが、この野郎だけは俺が殺さなきゃ気がすまない。
コイツが居なければ《聖剣》も《神聖》も消滅せずに済んだのだ。もっとも、コイツが居なければ《永劫》とは契約できなかったかも知れないが、それでも感謝したりはしない。
「終わりだ、糞野郎」
《Aeon》の力に囚われ、聞き取れない程に間延びした声と緩慢な動作で怯えたように此方を見ていた男に、俺は《永劫》の刃を振り下ろした。
その一撃で、男の体は両断され、直ぐに金の輝きとなって虹色の空間に融けていく赤いしぶきを撒き散らしながら、崩れ落ちる男の体も次第に金の輝きとなって空間に融けて行った。
「これで、本当に終った――」
呟く様に声にだしながら《Aeon》の力を解除して、元の時間の流れの中に身をおく。
何だかんだで《永劫》の中に残っていた残量の残り少なかったエーテルは《Aeon》の維持に殆ど使ってしまった為に殆ど残っていないが、次の戦闘の事を考えなければ問題になるほど枯渇している訳でもない。
故に、今すべき事は――リズィが消えてしまう前に《神聖》の代わりとなって彼女と契約をしてくれる聖具を探す事以外には無いだろう。
【それなら、適任は私達の内の誰か、ですかね?】
確かに《救い》から開放してしまった《覚醒》《幻想》《再生》の三つの聖具には現状契約者も居ない。そういう意味では、確かに彼等の内の誰かが適任といえるかもしれない。
それじゃあ、お前等の中の誰かに頼めるか?
リズィにはまだ多くのエーテルが残っている筈なので、暫くは誰がリズィと契約するかの話し合いを《覚醒》達にしておいて貰うとしよう。
そんな事を考えながら、俺は俺の上着を羽織っているリズィの元へとゆっくりと向かい始めた。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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