EternalKnight
VS我欲/意志の力
<SIDE-Aren->
「随分と頑張るなぁ、お前? こんだけやられて勝てないって何でわからないのか、俺には理解しかねるぜ。まぁ、最強である俺には、雑魚の気持ちなんざ全くわかりゃしねぇけどな?」
嘲笑うような男の声が聞こえる。それでも、俺はボロボロになり、既に痛みと言う感覚すら麻痺した体で男と対峙する。
俺ではこの男に勝てないというのは、もう十分に理解している――だけど、それが何だというのだ。
「つーかよ、マジでさっさと諦めてくれねぇか? お前殺しちまうとやりたかった事が出来なくなっちまうけどよ、別にそこまでそれに固執してる訳でもねぇんだよ、俺は」
男の声など聞こえない、男の言葉になど耳を貸さない。この男が何を考えていようが俺には関係ない。
俺が相手をしている限りこの男はリズィに手を出さない筈だから、一秒でも多く訪れるか分からない可能性にかけて、俺は生き永らえなくてはいけない。
「つまりだ、何が言いたいのかつーとだな……飽きたから、お前はもう死んどけって事だ」
男が何か言うのと同時に、その右手に握られる巨大な刃にエーテルが収束していくのが分かる。
階位が同じSSであるのだから、一撃で開放できる量に大した差は無い筈だが、保持しているエーテル量に開きがありすぎる。
可能な限りエーテルを込めた攻撃など、俺は後数発が限度だ――男の方には、何度打てるのか等と言う事を考えるだけ無駄だとしか思えない程のエーテルがある。
唯でさえ基礎の能力に差があると言うのに、そこに暴力的な量のエーテルでの力押しが加われば、その先に待つ結果がどうなるのか等、態々考えるまでも無い。
「それでも――」
それでも俺には、男と対峙する事しか選択肢に無い。否、男は俺を殺すつもりになったのだから此方に選択権など初めから存在しないのかもしれない。
(だが、まだ終ってはいない。最後まで付き合うぞ、アレン)
【おいおい《救い》一人でかっこつけてるんじゃねよ――救世主、俺だって最後まで付き合うぜ】
【では私も――とは言え、私の能力は敵には効かない様ですので、あまり意味はないかもしれませんが……】
【私も、皆様と同じ様にアレン様に最後までお付き合いさせていただきます】
俺に力を貸してくれた聖具達が口々にそう言ってくれる――《永劫》を除いて。
【最後ですか――嫌いな言葉です。そもそもまだ終ると決まった訳ではないのですから、そんな言葉は使うべきではないとは思いませんか?】
視線の先の敵が持つ刃に暴力的な量のエーテルが収束している。それをどうにかするのは難しいし、不可能な様にも思える。
だけど――まだ、終ってない。だから最後なんて言葉を使うには、確かに早いのかもしれない。
どっちにしても、俺のやるべき事は決まっている。下手な小細工が利かない相手だと言う事はここまでで良く分かっている。故に、正面から迎え撃つ――唯それだけだ
残っているエーテルを救世主の剣へと収束させ、向かい合う敵と視線を交差させる。
「何? やる気? まぁ、勝つのは最強の俺だし、別に好きにしろよ?」
言って、男は極大のエーテルを纏った刃を構え、俺もそれに応じる様に救世主の剣を構える。
「もう良い、もう良いよあっちゃん! 私の事はもう良いから、あっちゃんだけでも――」
向かい合う俺と敵の姿を見て、敵を挟んだその先に居るリズォが叫ぶ。だけど、リズィの頼みでもそれだけは聞けない。
「良くねぇ! 俺が良くねぇと思ったから、今こうして戦ってるんだ――待ってろ、今コイツを倒して、助けてやる」
それは単なる強がりに過ぎない。勝機が限りなく零に近いのは分かっている。それでもそう叫ばずにはいられなかった。
「あぁ、お前を殺さなきゃいけねぇのが残念で仕方ねぇよ。半殺しにしたお前の前であの女を犯したら、どんな気分になれるかと思うと残念でならねぇ――良い声で鳴てくれると思ってるんだが、どう思う?」
眼前の敵が何か言っているが、その内容を理解しようとは思えない。どうせまた下らない事を言っているに違いないのだから。
男の声は聞き流し、救世主の剣を構えた体制から、直ぐに踏み出せるように腰を落として前に出した右足に重心を傾け、エーテルを集める。
「まただんまりかよ――つくづくつまんねぇなお前? 命乞いでもしてくれりゃ楽しめたんだろうが、そんなもんはお前みたいなのには期待するだけ無駄か……まぁ、何でも良いさ。テメェはもう死ね」
さらに男は言葉を紡ぎ、言い終わると同時に、足場を蹴って一気に此方との距離を詰めてきた。
十分に警戒していたつもりなのに、男の言葉になど耳を傾けても居なかったのに、反応し遅れた。数瞬遅れて、重心を乗せていた右足で足場を蹴って、俺も敵に向かって正面から加速する。
出し惜しみはしない、一撃に込められる限界量のエーテルを救世主の剣に収束させて、迎え撃つ。
二つの巨大な刃が甲高い金属音を響かせて激突する。威力は――互角だ。だがしかし、それだけで、救世主の剣に込めていた大量のエーテルが霧散する。
同じ位階の聖具が一撃に込められる限界量同士をぶつかり合わせた結果としてはそれは当然の結果で、だからこそエーテルの保持量で圧倒的に負けている俺には絶望的な現実。
それでも、止まれない。常に限界量のエーテルを繰り出さなければ、一方的にやられるのは目に見えているから、だから限界が直ぐそこまで迫ってきていると分かっていても、他には選択肢が無い。
そうして、二撃、三撃、四撃と巨大な刃を打ち合わせて、五撃目の為にエーテルを収束させようとした所で――当然の様に、エーテルの保持量に限界が訪れた。
それでも止まる訳にはいかず、纏わせているエーテルの量が足りていない刃をそのまま振るい、男の巨大な刃と激突させる。
五度目の刃の激突と同時に聞こえたのは、金属同士がぶつかり合った様な甲高い音ではなく、鈍い、何かが砕ける音だった。
その音が何から発せられた物なのかは態々見なくても分かる。エーテルを込める量が足りていないまま振るった時点でこうなる事は分かっていた――それでも俺にはこの道しか選べなかった。
握っていた救世主の剣が、その中程で折れた刃は、崩れる様に光の粒子になって散っていく。エーテルも、もう殆ど残っていない。少なくとも救世主の剣を再構築する程のエーテルは残っていない。
「ついてるなぁ、先に聖具の方が壊れやがった――って事は、これで半殺しにしてやれば、俺の目的が達成できる訳だ。良いねぇ、最高じゃねぇか」
言いながら、エーテルの殆ど残っていない俺の胸倉を男は左手で掴み、自分の元に引き寄せて、巨大な剣を手放した事で空になった右手を握り締めて作った拳で、引き寄せた俺の顔を殴りつけてきた、
痛みは、無い――痛覚を遮断している訳ではないが、少し前から全身から痛みと言う感覚は消失している。
此処に至るまでに受けていたダメージを考えれば、もう動けなくなっていて当然だった。それを気力でなんとか動かしていたのだが、それもそろそろ限界なのかもしれない。
そんな事を考えている間にも、顔面に叩きつけられる男の拳は止まらない。視界は赤く染まり、歪んでいくが、それでも痛みと言う感覚は帰ってこない。
……諦めたくない、リズィを守りたい、そう思う気持ちはあっても体が動かない。
殴り続けても変化の無い俺を見て飽きたのか、不意に男が俺の顔を殴りつけるのも止めて、俺から離れたリズィの元へ向かう。
男が俺を半殺しに出来たと認識したのだろう。殴られ続けたせいか、音も、遠い――先程までは聞き流していた男の声も今は純粋に聞こえない。
エーテルの残量は殆ど無いに等しく、傷だらけで体には痛みすら感じない。終わりなのか――俺は、此処で? リズィを守れずに、こんな男にリズィを奪われて、終るしかないのか?
(っ……すまない、我が力が及ばないばかりに)
【お前だけのせいじゃねぇよ《救い》。力が足りなかったのは、《永劫》以外の全員に言える事だろ?】
【それは端的に、私にアレンと契約しろ、と言っているのですか《覚醒》? 私に縋る様な真似はしないと言ったのは他ならぬアレンですよ?】
【それでも、力を貸してくれてもいいじゃないですか、貴方は私と違って何も出来無い訳じゃないでしょう?】
やめてくれ《救い》《覚醒》《幻想》、悪いのは俺の未熟さなんだ、だから気にしないでくれ。
それからすまない《永劫》――俺はお前に縋るつもりは無い。こんな状況であっても、それは違うって、そんな事じゃリズィを本当に守れた事にはならないって、そう思うんだ。
(契約者よ、今はそんな事に拘っている場合ではないのでは無いか? お前のリズィに対する気持ちと言うのはその程度の物なのか!)
そんな訳ねぇだろ……縋ってでも助けたいに決まってる。だけどそれじゃあ駄目なんだ。俺自身が納得できない形で手に入れた力じゃ、きっと勝てない。
――それに、ここまでコケにされて、お前は良いのかよ《救い》?
(……何を言っている? 我等の力では届かなかったのだ、それは事実であり、覆しようが無い)
事実がどうだとか、そういう話をしてるんじゃない。俺たちの力、俺たちが救ってきた力、その全てを、自分が最強だなんていうふざけた野郎のふざけた願望に負かされたって事にお前は納得できるのか?
(――それは……)
納得なんか出来ないだろ? だから、思い知らせてやろう。俺達の力を、俺達の力で――
エーテルは無いに等しく、全身は傷だらけで痛みすら感じない。だけど、痛みが無いのは寧ろ好都合だ。
リズィを守りたい、俺達の力をコケにはさせない、そんな胸の奥にある想いから漲る気力だけで、体を動かす。
組み上げた足場は不安定にぐらつき、その上に立つ足にも力は入らない。それでも尚、立ち上がり赤く染まった視界に敵を収める。
そんな俺の姿を見て、リズィが涙を流しながら何かを叫んでいる。
その声で俺に気付いたのか男も此方に視線を向けて、呆れたように何か呟いて、やがて興味を失った様に俺から視線を外してリズィの方へ向き直る。
どちらの声も、全ての音が遠く聞こえる今の俺には聞こえない。
(――何の策もなく戦うのは無謀だ、そんなボロボロの状態で戦ってどうなる!)
そんな事、知るかよ。唯、俺にはまだ立ち上がる力が、気力が残されているから、だから立ち上がる。理由なんて、リズィを守りたいと言う一心だけあれば十分だ。
そこに、コケにされて許せないという意志が加わっている今なら、何度でも立ち上がれる、そんな気がするのだ。
それでも、意志の力で強引に動かしているだけの体では立ち上がるだけでやっとで――
赤く染まった視界では、男がリズィの纏う法衣――《神聖》に手をかけるのが見えた。
《神聖》を男に掴まれたリズィは必死に抵抗するが、直後に殴りつけられた事で抵抗は弱まるが、それでもリズィは微弱ながらも抵抗を続ける。
どうして俺は、リズィを助けにいけない? 今すぐにでも助けに行きたいが、ふらつく体では立っているのがやっとで、満足に動く事も出来ない。
これじゃあ立ち上がった意味が無い。だけど今の俺には足場を蹴ってリズィの元へと跳ぶ力さえ残っていない。
そもそも、跳べた所で意味があるのか、脳裏にそんな疑問が浮かぶ。俺では、リズィを救えないのではないか? 結局俺が弱いから、昔も今も何も救えない。
俺が弱いから、体が動いてくれない――そう、そうだ、今は気力で体を強引に動かしているのだから、動かないという事は意志が弱いと言う事になる。
ぐらぐらと揺れる赤い視界の中で、男は抵抗を続けるリズィに痺れを切らしたのか、彼女がその身に纏う服を、法衣型の聖具である《神聖》毎引き裂く様に剥ぎ取った。
リズィの服が引き裂かれた?
《神聖》が引き裂かれた?
それは、一体何を意味する?
聖具を失えば、その契約者は聖具の加護を失う。
聖具の加護を失った永遠の騎士は、どうなる?
エーテルを新たに取り入れる事が出来なくなり、近い先に消滅する――
消滅、する? リズィが、死ぬ?
なんで?
――聖具が破壊されたから。
なんで?
――誰も彼女を守れなかったから。
なんで?
――俺の力が足りなかったから。
「ぁ、あ……」
声が喉の奥から漏れる。
また、守れなかったのか? 唯一守れたと思っていた者さえ、守れなかったのか?
俺は、俺は――
(アレン! しっかりしろ、まだリズィが死ぬと、消滅すると決まった訳じゃない。それまでの間に別の聖具と契約を結べばなんとかなる――お前が諦めてどうする、守るんだろ、リズィを!)
そうだ……まだ、諦めるには早い。《救い》の言うように他の聖具を見つければ良いのだ。俺達が今まで救ってきた聖具は百を超えるのだ。リズィを認めてくれる聖具もその中にはあるだろう。
だから、その為には――アイツを《神聖》を破壊した奴を、この手で倒さなきゃいけない。
こんな体で、こんな状態ででもやらなければいけない。成さなければならない。リズィの為に俺自身の為に――

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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