EternalKnight
VS我欲/不屈の力
<SIDE-Aren->
【どれだけ貴方の意志が強かろうが、意志の力だけで勝てれば誰も苦労はしません】
(と言うか《永劫》よ、汝は先程から勝てぬ勝てぬとばかり言っておるが、そこまで言うのならその勝てぬ我等は何をすべきかと言うのを是非教授してもらいたいのだが?)
【勝てない事と、今あなた達がどう動くべきなのかは別の事でしょう? それこそその行動に対して敵がどう動くかが分からない以上、最善の手など未来でも見えねば分かりはしませんよ】
(では何か? 汝は我等に諦めてあの男に殺されろ、とでも?)
【そこまでは言ってません。どう戦っても勝ち目は無いと言っているんです】
……何が違う?
【勝てない事と殺される事は違いますよ。勝てないのなら、逃げれば良い――少なくとも誰かと合流できれば、それだけ生き残れる可能性は上がっていきます。もっとも、逃げる事も簡単ではありませんが】
――逃げたりなんかしないさ。少なくとも、リズィと二人で逃げられる状況を作るまではな。
【二人で、となると逃げる事も限りなく不可能に近くなりますよ?】
一人で逃げて何になる。そんなの、仮に生き残れてもこの先ずっと後悔するだけだろ。
【では二人纏めて殺されますか? 彼女もそんな事は望まないでしょう?】
それは俺が負けて殺されたらの話だろう? だったら、負けなきゃ良いだけの話だ。アンタは俺達に勝てないとは言ったが、負けるとは言ってないだろ?
【では言い直しましょう――貴方達では無理だ、負けて殺される事しか出来ない。それだけ力の差が開きすぎていると言っているんです】
確かに、リズィは一緒に殺されるぐらいなら俺だけでも逃げて欲しいと考えてくれるだろう。
どちらかが犠牲になる事でどちらかが助かるのなら、どちらか一方の死が残った方の生に繋がるのなら、リズィは自分の身を捧げてでも俺を助けてくれるだろう。
だからこそ、救いたいし守りたいのだ。そして何よりも、俺自信がそれを許容できない。両方が助かる可能性というのを諦められない。
だから戦う。お前では勝てないと、戦っても負けると、散々言われ続けたが、その程度の事で折れるつもりはない。
例え勝利の可能性が零だったとしても、リズィを助けられれば勝つ必要すらない。元より、リズィを守っていく事がロギアへの復讐を果した俺の生きる意味なのだから。
【そこまで言うのなら、もう止めはしません。今の状態と特に変わる訳ではありませんが、仮契約の範囲で可能な限りの力はお貸ししましょう】
圧倒的に不利な状況を前に、極限まで加速した思考の中での《救い》と《永劫》との会話は終わり、リズィを守る為に死力を尽くすべき瞬間が訪れる。
会話の間に脚部に溜め込んだエーテルによって強化された脚力で中空に生み出した足場を蹴って、リズィの元へと向かう為に加速する。
《救い》の力と、救世主の剣の力と《覚醒》の力、そして仮契約ではあるが準最高位の《永劫》から力の補正を受けて、その速度は今までの最高を遥かに凌駕した速度に達する。
さらに、その加速の中で《幻想》の能力を行使し、敵を欺く為の幻影を展開する。
だがしかしそれでも俺と敵の距離は縮まない。距離が開く一方ではないだけ、先程よりもマシかもしれないがそれでも過去最高に達している今でさえ、同等の速度しか出ていないらしい。
このままでは敵が先にリズィの元に辿り着いてしまう――が、俺の速度の限界が今である以上、それはもう割り切るしかない。
幸か不幸か、敵の今までの発言を鑑みるに、すぐさまリズィに命の危機がある訳ではない筈だ。故に――何かをされる前に俺がリズィを助け出せば良い。
視線の先のリズィには此方の戦いをマトモに捕捉出来ていないのか、不安そうな顔をしている――あんな顔をしているリズィを少しの間だけでも敵の手に落としてしまう自分の不甲斐なさが情けない。
そんな事を、リズィの元まで辿り着くまでの僅かな時の中で思考する。そうしている間に、敵は此方よりも先にリズィに手が届く程の位置にまで達する――俺が同じ地点に辿り着くには後数秒の時間が必要だ。
――だが、その数秒で何が出来る? 傷つけるだけならその数秒で可能だろうが、そのつもりがないのなら数秒では大した事なんて出来ない筈だ。
そんな風に自分に言い聞かせながら、俺は数秒後の敵との接触に備えて救世主の剣を構える。《幻想》の能力によって幻影を展開している為、敵には此方の位置が少しずれて見える筈だ。
姿を完全に隠し、別の場所に俺が居る様に幻影を見せた所で、エーテルの反応を探れば位置がばれてしまう。故に、僅かにずらした状態の幻影を見せる。
こうすればエーテルの反応的にも違和感はなく、完全に不意打ちとまではいかないが、ある程度なら敵の裏を掻く事も出来る。
もっとも、《幻想》の能力に気付かれればそれまでなので、精々数回相手の裏を掻く程度が限界だとは思うが――
兎も角、敵はリズィに何かしらをする可能性が高い――故に、狙うのならその瞬間だ。リズィが何かされる瞬間をチャンスだと思っている自分に嫌気が刺すが、俺にはそうする事ぐらいしか手がない。
――え?
そんな風に自分の成すべき事を思考していた矢先に起こった敵の行動でによって、一瞬思考が止まる。
予想外といえば予想外ではあるが、冷静に考えてみれば当然の行動を相手は取っただけなのに、咄嗟に体は反応してくれない。
手を伸ばせばリズィに届く程の距離で、敵はリズィの目の前に足場を生み出して、それを蹴って一瞬で方向を転換したのだ。
無論その方向は真逆――即ちリズィの元に向かう俺と正面から向かい合う形だ。
反転を自ら意志で行った敵と、不意打ちに近い形で敵の攻撃を受ける自分――どちらが有利であるか等、態々考えるまでもない。
加えて、思考の停止によって生まれた空白も致命的で、俺は敵が反転と同時に振りかぶった巨大な刃に、何の抵抗もなせる事なく袈裟切りにされた。
《幻影》で此方の姿は正しく捉えられていない筈なのに、完璧なタイミングで斬られた。
僅かであっても、踏み込みが甘いという事も深すぎると言う事もない、狙った様な一撃、その一撃に切り裂かれ致命に近いダメージの中で疑問を覚える。
疑問はあるが、その答え等出る筈もなく。直ぐ近くに居る筈なのに、リズィの叫び声と、敵の癇に障る笑い声が、遠く聞こえてくる。
――そうだ、こんな所で倒れる訳にはいかない。俺はリズィを助けなければいけない。だから《救い》……《再生》を開放してくれ。
(……承知した)
【能力らしい能力を見る事もなく此処までやられてしまいますか……やはり、力の差は絶望的ですね。加えて《幻想》の能力に効果がなかったのも痛い――或いは、そういう類の能力なのかもしれませんが】
《永劫》のそんな声を聞きながら《救い》に内包された《再生》を開放する。
【お久しぶりです、アレン様に《救い》様――どうやらかなりの強敵と戦っているご様子ですが、大丈夫ですか?】
(否、悪いが大丈夫なら汝を解放したりはせんよ《再生》)
【つーかかなりの強敵どころか、どうしようもない化物だ――《救い》と俺と、仮契約とは言え準最高位の身体能力強化を上乗せしてようやく追いつく程の速度を持ってて、《幻影》の幻がまるで効いてない】
《永劫》の言った様に、敵はまだ能力らしい能力を見せてすら居ない状態でコレだ。こんな化物を相手にリズィを救い出す事等出来るのだろうか?
――否、出来る出来ないの問題では無い、助けるのだ。心が折れたら、諦めたら、本当にそれで終わってしまう。
【申し訳ありません、どうにも私では貴方の力になれないみたいです――そんな訳ですので《再生》、私のせいで傷を負ってしまったアレンさんの傷口の修復、お願いできますか?】
【えぇ、お任せください。元より私の力は何かを治し、元に戻し、癒す為の力ですから――お世話になっていたアレン様の傷の修復ならば、喜んでさせていただきます】
そんな《再生》の声と同時に、敵に刻まれた傷口が塞がっていくのを感じる――流したエーテルこそ返っては来ないが、致命傷と言っても過言ではないダメージを素早く修復出来るのは流石だ。
これでまだ戦える――けど、どうすれば良い? これ以上の身体能力の強化はまず無理だろうし、エーテルだってさっきのダメージでかなり失っている。《幻影》の能力が効果を示さなかった理由も気になる。
もう勝ち負けなどどうでも良かった――唯、リズィをあの男に渡してはならないと、その想いだけで戦いを続けようとしている。
「なんだ、再生能力まで持ってるのかよめんどくせぇなお前? お前殺して、泣き叫ぶ女を犯してやろうと思ってたのに台無しじゃねーか――否、半殺しにしたテメェの目の前で犯るっての悪くねーな」
癇に障る声で、癇に障る言葉を紡ぎだし、癇に障る下種な表情でニヤつく敵を前に怒りがこみ上げてくる。無論そんな敵の存在その物に対する怒りと、無力な自分への怒りだ。
「つーかよ? お前幾つ能力持ってんだ? デカイ剣とか普通の剣とか手甲とかの形成に、良くわかんねー靄生み出す能力に傷を癒す能力だろ? 多すぎじゃねぇか? まぁ――どれも俺から見りゃ塵だがよ」
守っていくと決めたのに、救いたいと思ったのに、俺にはあまりにも力がなく、無力だ。
「途中で少しだけ早くなったのは評価してやらねぇ事もねぇが、他は総じて塵だな、くだらねぇ――要らない能力を無駄に抱え込むから力が落ちるって事がなんでわからねぇ?」
眼前で喋る男の言葉は全て聞き流しながら、どうしたら目の前の男からリズィを守れるかだけど必死で考えるが、何一つとして方法が思い浮かばない。
「炎と同化する力、聖具と融合し操る力、超速で再生する力、誰にも接触されない力、何でそんな事を求める?どいつもこいつもアホなのか? 自らが最強でありたい――願うならそれ一択しかねぇだろ?」
かといって、何の策もなしに突っ込むのは愚の骨頂だ。《再生》の能力で傷などは塞がっているし、これから負う傷も塞ぐ事は出来るがエーテルは有限でしかない。無策に突っ込んでも仕方ない。
どれだけ思考しても策は沸いてこない。否、そもそも策でどうにかなる力の差では無い。そんな事は分かりきっているし何度も《永劫》がそう言っている――だけど、それでも何とかするしかないのだ。
「他には何も望まないし望む必要が無い。他の事なんざ最強である事で叶えられるんだ、望む必要がそもそもねぇ。だから最強である俺の力でやりたい事をやる……だから、お前は今から半殺しだ」
追い詰められた思考は正常には働かず、延々と同じ、答えになっていない結論を導き出し続ける。これでは駄目だと分かっているのに、それ以外の結論を導き出す事が出来ない。
【分かっては居た事ですが、やはりこうなりましたか……主殿が私の仮契約者に選んだ相手と言う事で多少は期待していたのですが、やはり無理な物は無理ですか】
諦めと失望をないまぜにした声色で《永劫》がそんな言葉を紡ぐ。
(そう《永劫》だ――アレン、汝が《永劫》と正規の契約を結べばリズィを救い出す事も不可能ではない。我の力が足りぬというのなら、アレの力を借りれば良い)
駄目だ《救い》――それだけは出来ない。そもそも《永劫》は俺なんかとは契約を結ぶ気が無い筈だ。
(だからと言って諦めるのか、汝は救う事を、守る事を、あの日の自らへの誓いを破ると言うのか!)
誰が諦めるかよ、俺は絶対に諦めない。唯《永劫》に縋る様なみっともない真似はしないってだけだ。
【成程、良い心がけです。少しだけ気に入りました、変わらぬ不変の想いと言うのは私の好む所です。まぁ、本当に少しだけですが。しかし、このままでは後が無い訳ですが、どうするつもりですか?】
(そうだ――意地を張っている場合では無いのだぞアレン。お前がそうして意地を張り続けて、結果的にリズィに被害が及んでは元も子もないであろうが)
その点は問題ない、とりあえず敵の目的は俺を黙らせる事になったみたいだから、俺が倒れなきゃリズィに危害が及ぶ事は無い筈だ。
それも、敵の気分次第ってのが実につらい所だけど……
【ですが、それは唯の時間稼ぎでは無いのですか? 時間を稼いだ所で味方が応援に来るとは限らないのですよ?】
あぁ、それは分かってるさ。けど、俺には他に出来る事なんて無い。
だから少しでも多く時間を稼いで可能性を繋ぎたいんだ――だから《救い》《永劫》《覚醒》《幻影》《再生》……お前達の力を俺に貸してくれ。
(言われなくてもそのつもりだ、少なくとも汝と付き合いの長い我と《覚醒》それに《幻影》や《再生》はな)
【私も主殿との約束ですから、最後まで仮契約の範囲でですが、お手伝いさせてもらいますよ】
「すまない、ありがとう」
力を貸してくれる五つの聖具と、消滅してしまった《聖剣》に、呟く様に礼を言って俺は正面に立つ敵に視線を向けた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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