EternalKnight
VS我欲/誓いの力
<SIDE-Aren->
「おいお前、女ってのはリズィの事か?」
「リズィ? あぁ、あの女はそんな名前なのか――まぁ、名前なんてどうでも良いんだ。一目見て気に入った、だから俺のモノにする。唯それだけの事だ、おかしな所なんて無いだろう?」
へらへらと笑いながら、まるでそれが当然の事だとでも言いたげに、そんな風に言葉を紡ぐ。
「まぁ、あの女がお前さんの女ってのは今の態度で確定な訳だが、何俺に状況から察させてんだ、テメェ? どうせお前には殆ど価値も無いんだから、俺の問いには直ぐに答えろよ」
やはり、この男には付いていけない。そして付いていく必要を感じない。この男はどこまでも、自分の事しか考えていない。
自分が全ての中心で、自分が必要としないモノは全て無価値だと決め付けている――己が欲望にだけ忠実で他の事などまるで見ていない。
コイツとはマトモな会話を成立させられるとは思えない。故に言葉を返す必要を感じないし、そもそも返すだけ無駄だと分かった。
「答える気はねぇって訳だ? まぁ何だっていいさ。どの道お前は殺すって決めてたしな? つーかそもそもテメェさ、俺に勝てるとでも思ってんのか? 最初の一撃で察せよ、お前じゃ俺には勝てないってよ?」
確かに、初撃には反応する事すら出来なかった。だが救世主の剣を顕現させた今の状態なら、そんなヘマをする事はない――筈だ。
とは言え、基礎の差はどうにもならない。相手が此方を舐めて掛かっている内になんとかしないとマトモな勝負にならない恐れがある。
【……相手が油断している内にその隙を突いてなんとかするのが、貴方達の言う強さなのですか?】
何とでも言えよ、油断している分には相手が悪いんだ。つーか、元から負けるつもりなんて無かったし、勝つ気では居たけどさ……負けられなくなっちまったんだよ、絶対に。
眼前でへらへらと笑う男がリズィを狙っている。敵としてではなく、下種な意味で。故に負けられない、リズィを守り救うのが俺達の願いなのだから。
【まぁ、言う様に油断している相手側にも非があるのは確かですね。それでも、その油断を突いて勝利を収めたとしても、それは貴方達の強さではない】
分かってるよ、そんな事は。だけど、言った様に絶対に負けられないんだ。どんな卑怯な手を使ってでも、俺はこの戦いにだけは勝たなくちゃいけない。それを強さだとか言う気は無い。
「分からないなら分からせてやるしかねぇか……面倒なのは嫌いなんだが、まぁ仕方ねぇ」
頭を掻きながらそんな風に呟いて、頭を掻いていたその手で、背負っていた巨大な剣の柄に手をかける。そして――
次の瞬間には、男が足場を蹴って急激に此方との距離を詰めその背から巨大な剣を抜き放って振り上げるのが見えた――初撃の様に見えない訳ではない。
見えてはいるのだが、速い――圧倒的と言って良い。救世主の剣を握っていても、辛うじて目で追えると言うだけにすぎない。それでも、なんとか凌ぐしかない。
振り下ろされる刃が俺を両断するであろうと予測される軌跡を阻む様に、必死で救世主の剣を振るい、甲高い金属の衝突音を響かせる。
救世主の剣で上段から放たれた一撃目をなんとか防ぐが、無論相手の攻撃がそれで収まる道理は無い。
軌道を曲げられた敵の振るう刃は、直ぐに別の軌道に乗って、今度は左手側から薙ぎ払う様な一撃となって俺に迫ってくる。
一撃目を防いだ救世主の剣は右手に握られており、且つ一撃目を防ぐ際に弾かれた関係から左手側を防ぐ事には使えない。
だったら、救世主の剣を一度解き、左手側にも相手の一撃を防げる武器を用意するまでだ――が、武器を出す為の詠唱を紡ぐ時間すら無い、それでもやるしかない。
(無理だ、間に合わん――だが、開放ならば詠唱はいらん)
っ……なら《聖剣》を開放してくれ《救い》!
(それが汝の選択ならば、我は黙って応じよう)
《救い》のそんな言葉と共に、敵の振るう剣の軌跡を妨げる様に、俺の左手に《聖剣》が顕現する。
【遂に、終りが来ましたか……貴方達に救って貰ってから、ずいぶんと長い間、陰ながら共に居させてもらいましたが――悪くなかったですよ】
懐かしい《救い》で救済を与えた時以来久しぶりに聞く《聖剣》の声は、穏やかなモノに聞こえた。だから――守りたいと思った、救いたいと思った。
故に、可能な限りのエーテルを込めて《聖剣》の能力を発動させようとするが――目前まで迫った巨大な刃を前に、それが間に合う筈も無い。
開放された《聖剣》は巨大な剣の横薙ぎの一撃の進行を一瞬だけ停滞させて、あっけなく砕かれる。
だが、その一瞬で救世主の剣をなんとか敵の一撃を防ぐ軌道へと引き戻して、横薙ぎの一撃を弾いてやり過ごす。
必死で凌ぎきった此方の都合等知りはしないとでも言わんばかりに、敵は弾かれた刃でそのまま振り上げる様な軌跡の三撃目の軌道へのせる。
【気にしないでください。救世主殿、あの時消えていた筈の命ですから、後悔はありません。最後に多くの同胞を救っている貴方達を守れて良かった――】
《救い》の内側から開放され、その直後に砕かれて散って金色の霧へと変化していく《聖剣》との別れを惜しんでいる暇は、与えられない。
三撃目を防ぐのは難しい事じゃない。既に救世主の剣は迫る三撃目の描くであろう軌跡の上に構えてある。
――だが、それはあくまでこの一撃を凌げるというだけの物であって、恐らく四撃目があればそうは行かない。だったらこのまま待っているだけでなんて居られない。
だがしかし、救世主の剣を展開している以上、他の聖具を展開することは出来ない。
無論、開放すればその限りではないのだが《救い》の内に内包された聖具を開放するという事は、救世主の剣の弱体化を意味する。
とは言え、既に《聖剣》を失っているが内包している聖具の数は百数十に及ぶのだから、敵の大剣と打ち合うだけならまだ幾らかの聖具を開放しても問題は無い筈だ。
と、なれば……開放すべき聖具は《聖剣》に並びよく使っているあの二つが妥当なところだろう。
《救い》、《幻想》と《覚醒》を開放してくれ。
(了解した――だが、分かっているかアレン? 開放した聖具は既に我が内部にて傷を癒している、散り行く際の聖具しか救えないのだから、この戦いに勝った所で二度と開放した聖具は使えなくなるのだぞ?)
分かってるさ――それでも、この状況を打破する方法なんて俺にはそれしか思いつかないから、だからやるんだ。後悔はしない。
(愚問だったな。では、これ以上は何も言うまい。この戦いの間は、必要な聖具の名を伝えてさえくれれば直ぐにそれを開放しよう)
悪い、助かる。
(何、その心を救う為に尽力するのは我にとっては望む所だという物だ。では受け取れ、汝が所望した《幻想》と《覚醒》だ)
《救い》のそんな言葉と共に、俺の右腕には手甲が顕現し、その周囲には霧の様な靄も同時に発生する。
【久しぶりだな救世主……《聖剣》はもう逝ったのか?】
すまない、俺が不甲斐ないばっかりに……
【別に悪いとは言ってませんよ。元より私達は遥か昔に消滅していた筈だった、それを救ってくれたのは貴方であり《救い》だ、貴方達が滅びれば我々も命運を共にする訳ですから、力を貸すのは当然ですよ】
【だから《聖剣》だって満足だっただろうさ――お前達を守る為に散れてな。もっとも、出来る事なら折角お前達に救ってもらった命は大切にしたいがな】
すまない――ありがとう。お前達の力を貸してくれ。
話している間に敵の振るう剣が迫ってくる――だが《覚醒》の力によって身体能力がさらに強化された俺には、その一撃に十分に対処する事が出来る。
迫る剣の一撃を、救世主の剣で正面から迎え撃つ。衝突の瞬間には甲高い金属音が響き火花が散り、それに続いて刃が擦れ合う鈍い音が剣を握る腕から伝わってくる。
ぶつかり合う力は五分で、スピードこそまだ向こうに部があるが、それも決して対処できない程じゃない。ならば、後は《幻想》の能力で撹乱して勝利を此方に引き込むだけだ。
しかし、この距離では《幻想》の能力を有効には活用できない。故に、先ずは距離を開く必要がある。
そうと決まれば、このまま鍔迫り合いをしている意味は無い。早速俺は中空に足場を作り上げて、それを蹴って後方へと下がる事で敵との距離を取る。
「急にスピードが上がりやがったが、なんだ今のは? あぁ否、どうせ答えないだろうしどうでも良いさ。どうしたって結局俺の方が速い。そもそも、どんな小細工をしようが関係ねぇ、勝つのは俺だ」
確かに、ここまでは俺の方がやられていた訳だが、今はもう違う。《覚醒》と《幻想》の力があれば奴に負けたりはしない。
【さて、本当にそう上手く行くのでしょうか? 相手はまだまだ余裕を見せているようですし、貴方も《救い》も周りが良く見えていない様ですが?】
相手が油断している内がチャンスなんだよ、だからこれで問題ない筈だ。つーか回りが見えてないってのはどういう――《永劫》の言葉に講義しようとして、自分の愚かしさに死にたくなる。
「そもそも、追い詰められて回りが見えなくなってる様な奴には負けねぇよ、俺は?いや違うな? もう自分の女じゃなくなったって認めた上での行動か? まぁ、俺としてはどっちでも良いけどなぁ?」
先程の一合で、俺と敵との立ち居地が変化した、その事は分かっていたが、肝心な事を意識の外に置いていたのだ。リズィの今いる位置――それを全く考えずに動いていた。
リズィを守る、その為に戦っているというのに。今の俺とリズィの間には下種な笑みを浮かべた男の姿をある。
「どの道お前は殺すつもりだったんだが、そうだな――少しばかり面白い事を思いついちまったぜ」
そんな風に言いながら、男が俺に背を向ける――当然、男の向いた先にはリズィが居る。男の言う良い事と言うのが何を意味するのか等考えたくもないが、嫌な予感がする事だけは間違いない。
だがしかし、リズィを守る為に彼女の元へと駆けつけようにも、男の方が遥かにリズィに近い位置に居る上、そもそも男の方がリズィに近い位置に居るのだ。どう頑張っても、間に合う訳がない。
――だけど、だからと言って諦める訳にはいかない。俺はリズィを守る為に今までずっと戦ってきたのだから。
あの男の好きにはさせない。そして、絶対にリズィに危害を加えさせたりはしない。
どう考えても此処からでは男とリズィの間に割って入る事など出来ないが、男の方もリズィを傷つける事が目的では無い筈なので、その点に関してだけはまだマシといえるかもしれない。
もっとも、マシだとは言っても最悪ではないと言う程度でしかないのだが。
(心配であるなら、直ぐにあの男の手から救い出せば良いだけであろう。多少の無茶になら、我も《覚醒》も《幻想》も付きあうさ――《永劫》にそのつもりはない様だがな)
【私としては、仮契約の範囲内で力は貸しているつもりなのですが? そもそも、契約者に相応しい所を見せてくだされば、いつでも正規の契約を結ばせてもらうつもりでいるのですが?】
(何をもってして汝の契約者であると認めてもらえるのか分からん以上、今はそんな事をしている場合では無いのが見てわからんか?)
【……そうですね。では、仮契約を結んでいる仮の契約者殿に助言を致しましょうか。小手先の能力や技能では覆し様のない差と言うものは、確かに存在しているのだ、とね】
それは、俺達ではアイツに勝てないって事か?
【えぇ、勝てないですね。小手先の能力や技能で覆しえるのは圧倒的な差が無いからこそ発生しうるのです。貴方達は切札の剣を抜いて尚、敵との差が余りある――結果は見えています】
(そんな事、やってみなければ分からないだろう? 現に《覚醒》の能力で敵の動きには追いついたであろう?)
【追いついた? それは今の相手の状態に追いついたと言うだけでしょう? そもそも、此方は全力の上の、一度きりの奥の手まで使っていると言うのに、敵はまだ手札らしい手札を見せていないのですよ?】
……お前の言う事は分かるよ《永劫》確かにお前の言う様に勝機は無いのかもしれない。
それでも、俺はやらなきゃいけないんだ。リズィを守る為に戦うと、彼女の心を救う為に戦うと――そう遠い昔に誓ったから。
勝機があるならなんとしても掴み取る、無いと言うのなら作り出す。唯、それだけだ。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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