EternalKnight
VS凶獣/二対一
<SIDE-Velga->
追尾してくる槍をへし折り、敵対する反応の元へと移動しながら、俺は「《FrameworkTheBeast》」呟く用に力の名を紡ぐ。
それは聖具である俺が、同化して取り込んだ契約者の肉体を動かしやすい形へ変質させる為の力だ。
人型を棄てて、獣に近い形へと骨格から変化させる力――無論脆弱な人間と言う形を遥かに凌駕する、凶悪なる獣へと進化させる《凶獣-俺-》の唯一にして最強の能力だ。
先程の追尾してくる槍の性能は中々侮れない、同じ事を何度されようが、同様に対処する自信はあるが、敵があれを初手として使用してきた事が問題だ。
あれを一手目として使ってきた以上、相手は高い確率であれを超える力を持っていると考えた方が良い。そうなった場合に、元の状態のままでその力に対抗できるという保障は無い。
追尾する槍にしても、今の状態ではギリギリ捌ける程度の性能なのだ、それ以上となると今のままでは無理だろう。
故に、力を使う――もし先程の槍が正真正銘の切札なら随分と力の無駄遣いと言う事になるが、無駄になる分は少々勿体無くはあるが問題では無い。
もう一人に関しては、此処に至っても遠距離から俺を攻撃をしてきていない時点で何も気にする必要は無いだろう。
近接での戦闘で俺に勝つ事は奴等には――否、誰であろうと不可能だ。今はもう存在しない契約者が願って手にした力は、そういう物なのだ。
敵との距離が縮まる一方で、自らの肉体が変質していくのを感じる。二足に適した人から四足に適した獣へと、凄まじい勢いで肉体が作り変えられていく。
そして――敵との距離が互いの攻撃園内に入る直前で、後ろ足で組み上げた足場を蹴って、俺は一気に加速した。

<SIDE-Jiltm->
「《FrameworkTheBeast》」
敵がそう呟くと同時に、その姿を人の物から獣の物へと変質させていく。人型に近い魔獣よりもより獣らしいフォルムへと体の構造が組み変わっている。
(あの変わり様から考えて、恐らく骨格レベルから肉体を作り変える能力だろうね――聖具の能力か、或いは魔獣としての能力か……どちらにしても身体能力を上げる系統の能力なのは間違いない)
なぁ《断罪》? やっぱりアレを試すべきじゃないのか?
(くどいねジルトム、さっきも言った筈だよ僕が今のままでは無理だと判断したら使うってね?)
いや、さっきまでの状態でも厳しいだろうって判断なら今はもう無理なんじゃないのか?
(それを判断するのは僕だよ、ジルトム。どちらにしても今は僕に体を使う権利があるんだし何よりアレは僕等の間に意見の相違があれば使えないだろ?)
……頼むから無理はするなよ。それは俺の体だし、それ以上にお前一人に無理はさせたくない。
(悪いね、君がそう思っているのと同じくらいに、僕も君に無理はさせたくないと思ってるんだ――だから危険な賭けは出来ればしたくないと思ってる)
そんな風に俺に念を飛ばしながら、相棒は向かってくる敵に対する為に構えを取る。
そして――彼我の距離が互いの攻撃園内に入る直前で、迫ってきていた敵が急激に加速した。
「なっ!?」
俺の声音で相棒の驚愕の声が響き、敵の――獣の右手の鋭利な爪が相棒を引き裂こうと振り下ろされる。
回避できない? 否、《断罪》なら回避できる、回避してくれる筈だと信じるが――
振り下ろされた右腕の一撃は、回避しようと仰け反った俺達の体を嘲笑うかの如く容赦なく捉え、逆袈裟の傷跡が刻まれる――が、その僅かな回避動作が功を奏したのか致命傷を呼ぶ程の傷にならずに済んだ。
この傷なら、暫くすれば完全に塞がるだろう。傷口の自動治癒も《Transformation》の力の一つだ。
だがしかし、その一撃だけで敵の攻撃が終る筈も無く、振り下ろされた右腕に続いて、今度は薙ぎ払う様に残った左腕は振るわれる。
――が、この二撃目は突然の加速から放たれた一撃目とは違う、最初の一撃に反応できた《断罪》であれば、回避し、一度距離を取る事は容易な筈だ。
(距離を取ると言う選択肢は確かに存在するが、僕はそれを選んだりしないよ、ジルトム?)
俺の念に《断罪》が念を返してくる――俺の言葉に応じたのは、逆袈裟の傷が想像以上に酷い事を隠す為に無理をしているのではなく、余裕の表れだと思いたい。
(傷はあまり宜しくない感じだけれど、それを隠す為に無理をしている訳じゃないさ)
再度俺の念に応じながら、薙ぎ払う様に振るわれた獣の左腕の一撃を腰を落として体勢を低くして回避する。
人型の敵であれば、足技で蹴り飛ばされそうな位置関係だが、今の敵は四足の獣で、さらには左右の前足をそれぞれ使って一撃を繰り出している以上、その回避手段を追撃する方法は無い。
故に、薙ぎ払う様な一撃が頭上を通り過ぎた後、ニ撃を繰り出して無防備になっているであろう敵の頭部へと右の拳を握り締めながら立ち上がりながら――
(先ずは一撃――任せたよ、ジルトム)
そんな事を言いながら「《Transformation-Punishmentform》」俺への交替を告げる言霊が紡がれる。
確かに――この絶好の攻撃のチャンスならば《断罪》の一撃よりも、回避され様が無いこの状態なら俺の一撃の方は効果はある。
(一撃入ったら直ぐにまた僕に交替してくれよ、ジルトム――こうやって頻繁に入れ替わりながら戦えば、アレを使う必要なんて無いないだろう?)
そんな相棒の言葉に応じる前に、俺は拳を改めて硬く握り直して、目の前に獣へと拳を叩き付ける為にその拳を突き出した。
その一撃を「無駄だよ、お前じゃ俺は倒せない」一撃目で振り下ろした右の前足掴まれる。振り下ろしたその前足――否、右腕を一体いつ引き戻したというのか?
少なくとも俺にはいつ戻したのか分からなかった――否、正しく言うのなら見えなかったというべきだろうか?
(馬鹿な、そんな筈無い。確かに僕にもいつ戻したか分からなかったが、そんなにこの敵が速い筈が無い。それだけの速度が出せるなら、そもそも僕達なんてとっくの昔にやられている筈だ)
と、言う事は何らかの能力か? 単純に手を抜かれているとは流石に考えたくない。
等と考えている時間すら、俺達には与えられない。
「ボサっとしてたら死ぬぜ、お前? まぁ、さっさと死んでくれると俺ももう一人に集中できるからありがたいんだけどな?」
右手で右拳を掴んで此方の動きを止めたと言う事は即ち左手は残っているという事で、その残った左腕が再び此方を引き裂こうと構えられる。
(発言や行動から、手を抜かれているという訳ではないと思うけどね、僕も)
そんな悠長な事言ってる場合かよ相棒!
(忘れたのかいジルトム? 今回僕等は二人で戦っている訳じゃない)
《断罪》のそんな念と同時に、リゼツが敵の背後から現れ、その右手を伸ばして「《Trishula》!」言霊を紡ぐ。
その力は、リゼツと戦った時に見た力だが、アレでは敵に回避されるのは目に見えている。《相棒》の速度で回避が可能な攻撃が、この相手に通じるとは思えない。
背後からの攻撃とは言え、ほぼ回避不能な筈のタイミングで此方の攻撃をかわした相手に、威力こそ高いが、速いとは言えないあんな攻撃が通じる筈が無い。
そんな事は、リゼツも分かっているだろう――では、一体どうしてその力を使ったのか?
脳裏に浮かんだ疑問の答えは、リゼツの動きを察知して敵が俺の右手を離して、距離を取った瞬間に導き出された。
(ありがたいにはありがたいけど、もうすこしマシな方法は無かったのかと後で問い詰めたくなるね)
俺が気付いたのとほぼ同じタイミングで、相棒もリゼツの狙いに気付いたらしい――今の状況を脱するのに必要な手とは言え、無茶は勘弁して欲しい。
確かに一度受けた技だが、何もそんな事に使う事は無いんじゃないだろうか? と、言うか《断罪》障壁の展開、間に合いそうか?
(並みの障壁なら間に合うけど、あれの威力を考えると今から完全に防ぎきる障壁の展開は間に合わないね――まぁ、やれるだけやるさ)
そんな事を考え《断罪》と念をかわしている間に、リゼツが伸ばした右手から放たれた第一の槍は放たれる。
そして、前面に展開した障壁をなんなく突き破り、俺達の体を貫いて、その衝撃で俺達の体は後方へと弾き飛ばされた。

<SIDE-Rezeth->
かなり追い込まれていたジルトムを救う為に敵の背後から仕掛け、なんとかジルトムを敵から引き剥がす事に成功はしたが――
俺自身はこっからどうするか……ジルトムを《Trishula》で弾き飛ばして敵から距離を取らせた事で、今度は俺が敵に目をつけられてしまった。
獣の様に変質した、魔獣と呼ぶに相応しい――否、凶獣と呼ぶべき敵が此方に視線を向けている。
(お前が狙われてちゃ切札の準備も糞も無いだろ? 一体此処からどうする気だよ?)
どうするもこうするもあるかよ《貫通》、そもそもあそこでジルトム達がやられてたらどの道その次にこの凶獣とサシでやんなきゃいけないんだから一緒だろうが。
せめてあいつ等が助かった方が、まだ可能性はある。あいつ等にだってなんか大技の一つや二つあるだろ――たぶん、だがよ?
だったらそれが準備できるまでの時間は俺らが稼いでやるしかねぇだろ?
(あるかどうかも分からん物の為に時間を稼ぐってお前……そもそも俺等は基本的な性能的にコイツとやるのは無理だろ? 俺らより速かったジルトムの聖具でも無理そうなんだぞ?)
知るかよ、びびってんじゃねぇよ《貫通》。出来るか出来ないなんか関係ねぇ――やるんだよ!
(どうなっても知らんぞ? 全く、あれさえ打てれば勝機もあると言うのに、どうして無茶をするのだ、お前は……)
《貫通》とそれから敵にも聞こえる様に「ハッ、愚問だな《貫通》。それが俺だからに決まってんだろ! あんな犬野郎にビビる俺じゃねぇんだよ」声に出してそう言い放った。
さて――できる限り早く戦線に復帰してくれよジルトム。流石に切り札見せてないのに退場なんて嫌だぜ、俺は?
「犬野郎か、中々舐められたもんだな俺も? だがそういう気が強い奴は嫌いじゃねぇぜ? だから一つ教えてやるよ、お前等は俺に勝てない――だから、黙って殺されてくれねぇか?」
戦い始めて初めて、凶獣が言葉を紡ぐ。だが、その内容は『はいそうですか』とう頷ける様な物ではない。
「それで首立てに振る奴が居ると思ってるんなら、テメェは相当な馬鹿だぞ?」
「だろうな――だが、結果は同じでも過程が随分と変わるぜ? 俺と戦って甚振られて殺されるのと、負けを認めて楽に死ねるのとじゃな?」
その態度から感じ取れるのは圧倒的な余裕――まぁ、ここまでの展開から考えればこの凶獣の態度はおかしいものじゃない。まぁ精々油断してペラ回して時間を潰してい居れば良い。
その間にジルトムが戦線に戻ってこれば二対一だ――なにより、言霊を必要とせず、唯発動前に集中が必要な俺達の切札を準備する時間としても悪くない。
会話に応じなくてならないのが集中を妨げるが、それでも緊張の糸を張り巡らせて戦っている最中よりはよっぽど集中できる。
「なんでテメェが余裕で俺らを甚振れるって話になってんだ?」
「決まってんだろ、お前等が遅いからさ? まぁ、最初の槍は少々俺も焦ったが、他はまるで全然駄目だ。相手になりゃしねぇ」
……《Gungnir》には焦った、ね。つーことはあれを打てさえすれば勝てる可能性もまだまだあるって訳だ――それはありがたい情報だ。
「つーかお前、頭大丈夫か? そんな速度で俺に近接戦挑むなんざ馬鹿のする事だぜ? 素直に最初の槍投げ続けてた方がよっぽどマシだったぞ? まぁ、マシだっただけで結局俺に殺されてたんだろうけどな?」
「俺一人だったらそうかもな――だが、俺達は一人じゃねぇ」
そんな訳で早く復帰して来いジルトム――お前俺とサシでやったとき、直ぐに《Trishula》で開けた孔なんて塞いじまったてたじゃねぇか。
「一人じゃねぇってお前、さっきお前が自分で自分の仲間をぶち抜いといてよく言うぜ。つーか、仮に二人揃ったと所で芽はねぇよ――諦めろ。近距離での勝負じゃ、誰も俺には勝てないんだからな?」
「誰も勝てないとは随分強気に出たな、お前? 下っ端の分際でよく言うぜ――それとも何か? お前程度の奴が噂に聞くなんちゃら七魔獣のトップだってのか?」
保持している聖具のクラスはSS――場合によっては反応が強いS程度の反応だ。そんな奴が敵の主力で在る筈がない。まぁ、その主力じゃない奴相手に二対一で押し切られそうになってるのだが。
「確かに、俺はお前の言う通り下っ端だ――が、近距離での勝負なら誰にも負けねぇ、コレは事実だ。この器の願望はそういう力なんだよ」

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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