EternalKnight
VS飢餓/略奪の結界
<SIDE-Fein->
「揃って仲良く吸い殺されろ――《Plunderer》」
男がそう紡ぐと同時に、男の居る場所を中心に急速に虹色の世界がその色彩を失っていく。瞬く間に世界は色を失いモノクロに変質する。
それが結界型の能力なのは間違いない――そして力の名を紡ぐ際の男の言葉から、この結界の効果は容易に想像できた。否、想像などするまでも無く自らがその効力を受けたのだから間違いない。
「エーテルの略奪……結界内に居る者からエーテルを無理矢理吸い上げる力か――厄介だな、コレは」
効果範囲が広域になる結界系の能力では、リルの《Genuine》では無力化出来ない。
逆に言えば、男がコレを使うきっかけとなった攻防においては、リルの《Genuine》は男の能力を無力化できたという事でもあるのだが、今それは関係の無い事だ。
「厄介だぁ? 何だお前? 俺の《Plunderer》を打ち破れるつもりかよ? コレを使わせた事に関しちゃ褒めてやるがな、残念だが不可能だぜそりゃ――だから黙って吸い殺されて俺の糧になってろや?」
言葉を交わす間にも、全身からエーテルが奪われて行くのが分かる――そして、吸い上げられた私達のエーテルは、根こそぎ男の元に集っていく。
それは、今この瞬間も自身からエーテルが奪われているのと、同じく保持量が徐々に減っているリルと、その逆に時間と共にそのエーテル量を増やしていく男を見れば容易に想像がついた。
敵の弱体化と自身の強化を同時に行う――エーテルを奪われるスピードがそこまで速くないのが唯一の救いだが、これでは長引けば長引くだけ此方が不利になる。
否、有利不利と言う意味なら聖具のクラス等から初めから不利だったのだ。少なくとも、サナトルヴィアが欠けた時点で多少の無茶をしなければ行けない事は分かっていた事だ。だから――
……レア、新しい法則を作ってくれ。高密度のエーテルを純粋なエネルギーに変える法則だ。制作に掛かる時間は《Disregard》を使ってでも最短でやってくれ。
(フェイン、お前……)
こうなったら覚悟を決めるしかないみたいだからね――協力してくれるだろう、レア? 何、別に死ぬ訳じゃないし……何度目だっけな、さっき削っちゃったから思い出せないけど、初めてじゃないだろ?
(次で三度目だ――が、分かった。それがお前の望みなら、出来る限りに事をしよう)
すまない、感謝する。完成するまでの時間は、なんとかして稼ぐよ。そっちは法則の制作に集中してくれ。
(任せろ――あの野郎を一撃で倒せるスゲェ奴に仕上げてやる)
「悪いが、私達は君の糧になどなってはやれない」
会話をして引き伸ばそうとは思わない。きっとそれで稼げる時間には限度があるから。だけど私には今はエーテルが殆ど無い。
「ほぉ? どうやってだ? 見たところお前にはもうエーテルは大して残ってないみたいだが?」
だけど、私は一人では無い。サナトルヴィアは居なくなってしまったが、それでも一人ではないのだ。
「私にはもうエーテルは残って居ないが、彼女のエーテルはまだ残っているぞ?」
この場には私だけでなくリルが居る。そして彼女は、私が守りたい存在ではあるが、同時に守られるだけの存在などでは決して無い。
「それがどうした? 確かに俺の一撃はあの女に止められたが、エーテルの盾の密度や割り込んで来た際の動きを考えれば、別に恐れる様な相手じゃねんだよ」
「成程、それで君のエーテルを散らした私を先に倒そうと考えた訳だ? だけど……それは彼女を甘く見すぎだ」
【リル――少しだけ時間稼ぎをお願いしたいんだけど、出来るかい?】
彼女自身は確かに、永遠者としてはなんと言うか、思慮が浅く、その思考は幼い――それでも、彼女は今この瞬間まで長く生き抜いてきたのだ。
「問題ないよ、いーたん――《Naive》」
紡がれた、その能力の存在が故に――無論あらゆる状況においてその能力で生き抜いてきた訳ではない。
だがしかし、その力がなければ彼女は間違いなく今この瞬間まで存在していなかった――そう間違いなく断言出来る程の彼女の切札。
「……何の詠唱だ? 何の変化も起きねぇぞ?」
私の言葉でリルに意識を向けた事で、リルの詠唱に男も気付くが、気付ける筈が無い。あの力は、彼女自身の内面に変革をもたらす力なのだから。
「まぁ、何も起こらないなら変更は無しだどの道あの女には爪での略奪が出来ないみたいだし、テメェのエーテルから纏めて全て奪ってやるよ」
言って、男は直ぐ傍に居るリルから目を離し、鉤爪の付いた両手で此方に視線を向けて構えを取る。そんな男に、私は告げる。
「言った筈だぞ――彼女を甘く見すぎだと?」
その私の言葉に男が応じるよりも早く、男の直ぐ傍に居たリルが突然男に飛び掛った。

<SIDE-Stan->
「言った筈だぞ――彼女を甘く見すぎだと?」
男のそんな言葉と同時に《Plunderer》の形成後からは俺の直ぐ傍で動きを止めていた女が此方に飛び掛ってきた。
先程の詠唱による変化は未だ見受けられないが、何かしらの詠唱をした上で動きを見せた以上、何かしら策があるのはまず間違いない。
この女には《飢餓》の爪で引き裂く事によって発生する筈の略奪能力は効かない。だが、だからと言って此方の攻撃が効かない訳ではない。
爪での一撃を盾で防いだ事や《Plunderer》の影響を受けている事を考えればやはり俺の敵ではない。
「甘く見るも糞もあるか! 事実としてこの女じゃ俺の相手にはならねぇんだよ!」
飛び掛って来た女を《飢餓》の爪を身につけた右腕で振り払いながら男に向かって怒声を上げる――そうだ、こんな女の相手をしている場合ではない。
俺の溜め込んだエーテルを散らせたあの男の方がこんな女よりも遥かに危険なのは考えるまでも無い。
そもそもエーテルが無いだのなんだの言っていたが、最初の俺のエーテルを散らす能力を発動させる直前には、どういう理屈か急速にそのエーテル量を増やしていたのだ。
一度出来た事がもう一度出来ない理由など無い。故に、あの男から先に俺の糧に変えなければいけない。
――だというのに、振り払った女は中空で足場を形成し、直ぐに体勢を立て直し再度此方に向かって飛び掛ってくる。
この女はどうでも良いのだ《飢餓》の爪でエーテルを略奪する事は出来ないが、放っておいても邪魔なだけで相手にはならない。
放置していれば《Plunderer》で吸い尽くせばそれで終るのに、爪で屠れないので邪魔なこの糧を処理できない。
再度此方に飛び掛って来た女を今度は左腕で振り払おうと腕を振るえば、振るった腕を――あろう事か、その鋭利な略奪する爪を掴まれて阻まれる。
「邪魔をするな、女ァ!」
叫びながら、空いている右の手で左腕を掴んでいる女に一撃を振り下ろして女を大きく引き剥がす――が、先程から両の手の爪で攻撃している筈なのに、女の肌を切り裂く事は出来ずに居る。
《飢餓》の刃では女からエーテルを奪えず、それどころか打撃としてしかダメージを与えられない。
視線の先には此方を見据えたまま動かない男の姿が見える。力の名を紡ぐ様子も今のところ無い様に見える――では、あの男は何をしているのか?
分からない分からない分からない――分からないが、このまま放置していて良い訳が無い。
故に、女を弾き飛ばした今俺の邪魔をする者は居ない。ならば、早くあの男を――そう思い、前に踏み出そうとした、その瞬間。
「《Storage》――No.8、フェイル」
男は突然、恐らく先程聞いた物と同じ力の名を紡ぎ上げた。

<SIDE-Fein->
(――頼まれていた法則、完成したぞフェイン。No.10……ロエンだ)
感謝するよ、レア――これでこの戦い……私達の勝ちだ。
(なぁフェイン、お前の覚悟を甘く見ているつもりもないが、もう一度だけ確認するぞ? ……本当に全部をエーテルに変換するんだな?)
あぁ、私は私の為に全てを懸ける。それが守りたいモノを守る事につながるからね。
それに私とリル、そしてレア――君やリルの《純粋》を纏めて守れると言うのなら……命に比べれば、私の記憶なんて、安いモノだと思わないか?
(記憶をなくしたら、生き残ったとしてもそれは今のお前じゃない――結果的には生きているのに違いは無いとは言え、それは死ぬ事と、一体何が違う?)
違う、全く違うね。死ねばそれで終わりだけど、記憶ならなくなっても、また新しい思い出を紡いで行けるだろう? だったら私は――それでいいよ。
(……そうだな、お前は何度やり直してもお前のままだろうよ。今回で記憶を使い尽くすのは三度目だが……似た様な事を最初のお前と前のお前からも聞いたよ)
それを聞けて安心したよ、レア。コレで本当に、不安の一つも無くフェイルを使える。
(あぁ、見せてやれ――俺達の力を……お前の覚悟を!)
視線の先には《Naive》の行使によって敵意を抱く存在であり男に只管食らい付き、その足を止めているリルの姿が見える。
何故彼女を守りたいと思ったのか、その記憶はもう残っていない、先程のフェイルの行使で忘却の彼方へと消えてしまった――だけど、彼女を守りたいという気持ちは残っている。だから、大丈夫。
【リル、それから《純粋》――ありがとう、お陰で準備が整った】
《Naive》の使用によって覚醒状態にある彼女の思考を通常の状態に戻させる為に、彼女の心的負担を取り除ける様な穏やかな念を飛ばす。
その念は珍しく一度で彼女の心を落ち着けたのか「邪魔をするな、女ァ!」叫びながらリルを引き剥がした男の元に、体勢を立て直して再度飛び掛る事なく、そのまま弾き飛ばされる。
これで、本当に準備は整った、あれだけ距離が開けば、リルを巻き込む様な事にはならない。
そして今の自分を捨てる事になる言霊を「《Storage》――No.8、フェイル」紡いだ。

<SIDE-LawCode->
「《Storage》――No.8、フェイル」
フェイルが、その言霊を紡ぐ――彼が彼の意思でそうした以上、俺は聖具として、与えられた役割を果す事しか出来ない。
アカシックレコードへ、フェイン=フリードの記憶を使って干渉する。万物の記憶を記録するというその性質ゆえ、アカシックレコードは全ての知識や記憶と少なからず繋がっている。
そして、万物の記憶たるアカシックレコードには、それだけの記録を書き込む媒体として何処にも存在しない筈のエーテルが使われている。
故に、記憶を棄て去るだけの覚悟とそれを成せる方法が有るのならば、記憶や知識と言う不定形の物から本来ありえない逆送という形で干渉する事で、その存在しない筈のエーテル引き出す事が出来。
――フェインの、残っている最古の記憶から、今この瞬間に至るまでの全ての記憶を、この方法でエーテルへと変換し、それによって得た莫大なエーテルを、フェイン自身へと還元する。
(あぁ、私は……記憶を消したのか)
全ての記憶を失っても、知識が残っている。そして――感情も。
(君が私の聖具で、あれは敵――と言う事でいいのか?)
あぁ、そうだ。詳しくは後で全部説明するから、今は俺の言うとおりにしてくれ……勝つ為に記憶を棄てた、前のお前の為に。
(分かった、私はどうすれば良い。どうすればあの男を倒せる? 何も思い出せないが、一つだけ分かるんだ……あの男を倒さなきゃいけないって――)
だったら、紡げ――《Storage》No.10と。そう紡いでくれれば、後は俺がやる。締めにもう一言紡いで貰うが、お前さんがやる事は詠唱だけだ。
(分かった。君と、それなら倒せると判断して記憶を棄てた以前私を信じさせてもらう)
「《Storage》――No.10」
そうして、フェインが託した力の、言霊が紡がれる。故に俺は、聖具として与えられた役割を果してその力を現実にする。

<SIDE-Stan->
聞き覚えのある詠唱によって爆発的にエーテル量を膨らませた男は、少し間をおいて「《Storage》――No.10」今度は聞き覚えの無い詠唱を紡ぐ。
今ので二度目となる詠唱の正体は、エーテルを爆発的に増加させる能力で間違いない。
その理屈は分からないが、此処に至るまで二度しか使用していない事を考えると、使用には何かしらの条件かリソースが必要なのだろう。
非常に興味深い能力ではるが、今はそんな事を気にしている場合ではない。莫大なエーテルを発生させた上で、何かしらの詠唱が行われたと言う事は、それだけのエーテルを用いた何かが発生する筈なのだ。
一度目は忌々しくも俺の溜め込んだエーテルを霧散させる事に使ってきたが、詠唱が違う以上は別の現象が発生すると考えた方が良い。
そもそも、今現在も続けて男女からエーテルを吸い上げ続けているとは言え、現状で俺の持つエーテル量はそこまで多くは無い、その事から考えても、狙いは別にある筈だ。
考えられるのは《Plunderer》の展開によって長引くだけ不利と見て取って、全力の一撃を俺にぶつけてくると言う動きだが……
なんにしても、あれだけのエーテルも用いて発動する能力を今受けるのは拙い。溜め込んでいた分を散らされていなければどうとでもなったのだろうが、今のエーテル量では不安が大きすぎる。
かといって、不用意の動くのもまた得策ではない。ならば……俺はどう動くべきなのか?
そんな風に思考している間に、男は何らかの方法で生み出したエーテルを徐々に消費して《何か》を実行していく。
そして、気付く――その《何か》が一体なんであるのか。
それは俺の予想通りの全力の一撃を俺にぶつけてくるという答えで――しかし予想を超えた力だった。
「なんっ……だとぉ!?」
気付いた時には既に遅かった。否、男が力の名を紡いだ瞬間から、恐らく逃げ場など無かった。
男が展開した力――それは俺を中心とした、巨大な球形の立体型の魔方陣で、俺が中心点になっている以上、逃げる事など出来はしない。
俺には最早、この魔方陣が完成し、それの発動する瞬間を待つ事しか出来ない。
「否……まだだ」
そうだ、それでも、可能な限り防御を固め、被害を最小限に止める為に動く事ぐらいは出来る。
故に、今現在も敵対者の糧から吸い上げられてくるエーテルをも随時己が防御に回して、自身の周囲に多重のエーテルの防御膜を形成していく。一枚でも多く膜を形成し、男の放つ力に耐える為に――
この一撃に耐えれば俺の勝ちはもう目前なのだ、こんな所で諦められる筈が無い。
そうだ、俺はこの一撃に耐える。耐え切る、生き残る――俺は、この穢れた体のまま消える気なんて無いのだ。
この力を使い終われば男にはもうエーテルは残っていないだろうし、女の方は端から問題ない。どちらも《Plunderer》で吸い殺せる雑魚になるのだから、耐え切りさえすれば良い。
耐えれば勝てる、その確信がある。だから俺は絶対に――
「――ロエン」
男がそう紡いだ次の瞬間、全てが白に染まって――黒に沈んだ。

<SIDE-Fein->
自分の聖具に言われるがままに「《Storage》――No.10」紡いだその言霊によって、私の内に渦巻いていた莫大な量のエーテルは次々に消費されていく。
(消費量が多いのは我慢してくれ、お前が記憶を削ってまで生み出した莫大な量のエーテルは、きっちり奴を倒す為に使ってやりたいんだ)
分かった、それが前の俺の意志だって言うのなら、それを尊重する。エーテルを徐々に吸われているから使い切られると厳しいが――あの敵が消えればこの現象も止まるんだろう?
(あぁ、お前からエーテルを吸い上げてるのは敵の能力だ。奴が消滅すれば必然的にそれも止まる)
だったら問題ない――存分にやってくれ。良く分からないけど、あの敵だけは倒さなきゃいけないって言うのは分かってるから、多少無茶する分には問題ない。
(ならば得と見ろ、No.10、ロエンの内に格納された力を!)
聖具のその念と同時に、敵対者の男の包む様な巨大な球形の魔方陣が展開される。
「なんっ……だとぉ!?」
突如として出現した魔方陣にその内に囚われた男は驚愕の声を上げる。
だが、直ぐに驚愕に歪んだ表情をきつく引き締め「否……まだだ」と呟き、見た限りそう多くない残ったエーテルを使って防御の膜を次々に生成していく。
(ムダだ――魔方陣の内にいる相手に莫大なエーテルで生み出された極大のエネルギーで蹂躙するこの法則は、あの程度で防げる程、弱くは無い。さぁ、仕上げだフェイン……《ロエン》と紡いでくれ)
そして私は、再び聖具に促されるままに「――ロエン」言霊を紡いだ。その瞬間、巨大な球形の魔方陣が白い極光に包まれる。
魔方陣の内側を満たす極光は、その内に存在する全てを滅ぼしつくすかの様な荘厳なる輝きを数秒程放って収束していく。
そして、極光が完全に消え去る頃には、それを外に漏らさぬ檻として存在していた魔方陣も消滅しており、それが展開されていた場所には、男の手に付いていた爪の一部だと思わしき刃の破片だけが残っていた。
それを確認した私の聖具は(終ったな、我々の勝利だ)そう告げてくる。
だけれど――まだだ。まだ、終っていない。何故なら、私は今この瞬間もエーテルを奪われ続けているのだから。

<SIDE-Starvation->
渇く、足りナい、エーテルが――
満たされない、渇く、渇く渇クカワクかわく渇クカワく渇くかわクッ!
エーテル、エーテルが足りない、満タサレナイ、渇ク、足りないタリナイたりない足リナイッ!
近クニえーテるノ塊ガあル、何故あレは俺ノジゃなイ? 俺ノじャナイノなラ奪エば良イ。
寄越せ、ヨコセよこせ寄越セヨコせッ!

<SIDE-Fein->
それは、異様な光景だった。僅かに残った刃の破片――男が見につけていた鉤爪の先端の一欠片、その欠片が脈動する様に震えて、次の瞬間には、その破片から鉤爪が生えてきた。
破片から本体が生えてきたとしか言い様の無い異常な光景に、思わず何をするでもなくその光景を息を呑んで見つめてしまう。
そして、今度は鉤爪からそれを身に着けた腕が生えてくる――が、その腕は鉤爪の契約者である男の者だとは思えない程にボロボロな肉塊だった。
驚愕――思考を支配していたのは唯それのみで、刃の破片からボロボロな状態とは言え腕まで生えてきているのに、今この瞬間に至るまで、それをどうにかしようと言う所にまで思考が回らなかった。
何か分からないが、兎も角止めなければいけない。だけれど、何も分からない私には、何をどうすればそれを止められるのかが分からない。
そうしている間に、今後は腕から体が、体から残った四肢と頭と思わしき何かが生えてくる。
「足リナイ……エーテル、ヨコセ!」
肉塊の頭の様な部分の口と思わしき部分が開き、呟く。そうしている間にも、エーテルは徐々に体から失われていく――否、体からエーテルが抜ける速度は寧ろ加速している様にすら感じる。
(ロエンに耐えたというのか? 挙句に、此処に来て略奪結界の略奪速度の加速だと? 拙いぞフェイン、このままでは……)
確かにこのままでは拙いとは思うが――そもそも私には策を練れる程の記憶がない。それ以前に、先程の一撃と加速した略奪能力のせいでエーテルが殆ど残っていない。
(お前が記憶を棄ててまでやって、コレだと? こんな事があって堪るか! リルは――駄目か……向こうもエーテルが殆ど残ってない)
そうして悩んでいる間に、肉塊が動き出す――片方だけになった鉤爪を身に着けた右腕を振り上げ、頭の様な部分から除くギョロリとした眼の様な球体で此方を見据えて、その腕を振り下ろす。
外見からは想像出来ない程の動きだが、それでも速いという訳では無い――そんな速度で振り下ろされた一撃を、残り少ないエーテルしかない体を動かす事で回避する。
――否、待て。そもそもさっき呟いていた時、眼なんてあったか?
そんな疑問を感じて、直ぐ傍に居る肉塊に視線を向けると――先程まで崩れかけた肉塊だった右腕は、既に人間らしい形に整っていた。
(我々から奪ったエーテルを使って、肉体を再生させているのか……しかし、この速度で治癒して聖具の反応はSSだと? 否、魔獣としての能力と言う奴か?)
そうしている間にも体からどんどんと力が抜けていき、相対的に敵の肉体はより整った形へと変質していく。
(駄目なのか? 否、記憶を全て投げ打って戦っても駄目だったなんて、そんな事があって堪るか……)
「エーテルを寄越せ、満たされないんだ、渇くんだ、お前等エーテルで出来てるんだろう? だったら俺の贄になってくれないか? 足りなくて、渇くんだ」
今度ははっきりとそう言葉を紡ぐ。爪の欠片から再生を始めて、そして今は肉体を完全に復元させて、残った左腕の鉤爪が再生し始めている。
此処にいたるまでの過程や何の目的で戦っていたのかは分からない――分からないけれど、前の私が残した想いを汲むなら、勝たねばならなかった筈の戦いなのに、届かなかった。
エーテルを奪い続けられているせいで、既に禄に動けもしなく成っている……次にさっき以上の速度で仕掛けられると、それを回避する自信が無い。
唯でさえエーテルが残って居ないというのに、ここで一撃でも貰えば待っているのは死だけだ――だけれど、どうする事も出来ない。
「お前を贄にして吸い尽くせたら、次はあの女を吸い尽くす――そうすれば少しは俺の渇きも癒えるかもしれない」
それだけは防がなきゃいけない筈なのに、もうどうする事も出来ない。
そして――鉤爪を身につけた男が再びその右腕を振り上げる。
(やはり、二人と言うのに無理があったんだ……サナトルヴィアの奴はなんで突然逃げたりしたんだ、アイツが居ればこうはならなかったかも知れないと言うのに――)
私の聖具が何か言っている――サナトルヴィアとは誰なのか、私には分からないが、なんにしても、もう打つ手が無いのは明らかだった。
そして、私の命を終らせるであろう男の右腕は、何の慈悲も無く振り下ろされた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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