EternalKnight
VS飢餓/法典の力
<SIDE-Stan->
失敗した、選択を誤った――そう気付いた時には既に遅かった。俺が目前に見えた敵を戦うべき相手に選んだ理由の一つが、俺の意に反して裏切られた。
これでは駄目だとは思うが、既に他の連中は相手を見繕い終わっており、殆どの戦場で戦いが始まっている――今更相手を変える事等出来る筈が無い。故に、失敗したと、選択を誤まったと言い切れる。
俺が目の前の敵を戦う相手に選んだ理由は二つ。
先ずは此処の反応が強く無い事……即ち、俺が容易に勝利できる程度の相手である事。まぁ、コレは良い――寧ろこの条件に関しては楽になったぐらいだ。
そしてもう一つは、その数が多い事だ。敵を楽に倒せるのならそれに越した事は無いが、俺には多くのエーテルが必要なのだ。故に、足りない分を数で埋めようと思っていた。
だからこそ、強い反応が混ざっていないグループの中では最大の三人と言う彼等を相手に選んだのだ。
だと言うのに、俺が敵の前に辿り着いた時には、一人が減っているとは何事なのだろうか? 人数が減った以上、想像よりも遥かに容易に勝負は決まるだろうが、その分手に入るエーテルの量も少なくなる。
俺が俺として新生出来るのは一体いつになるのか――そう考えを巡らせた所でその瞬間が近づく訳ではない事は分かっている。だからもう諦めて、自分の不運に嘆きながら目の前の敵を手早く処理しよう。
先程この場からいなくなったもう一人を追おうにも、既に反応を全く感じ取れない以上、追いかける等不可能な事だった。だから諦めるしか無い――諦めて残っている敵を俺の糧にする事しか出来ない。
目前には武器らしい武器を持っていない男女が互いに一人づつ……反応から察するに、男の方は眼鏡が聖具で女の方は右腕の腕輪が聖具、と言った所か。
武器の形状を取っていない以上、基本的には能力依存の戦闘スタイルと考えて間違いなさそうだ。まぁ、そんな事はどうだって良い――どうせ事が始まれば分かる事だ、思考を巡らせる様な事では無い。
此方の手札は両の手を覆う巨大な爪を思わせる刃のみで、余計な能力などエーテルをムダに消費する為使う気が無い。故に俺の取る戦術は一つ、両の手を覆う爪で切り裂いて奪う……それだけだ。
故に、相手との距離を詰めねば勝負にならない――だから俺は、中空に生み出した足場を力強く蹴って、目前に見える敵の元へと加速した。

<SIDE-Fein->
目前の敵に注意を払いながらも、脳内で術式を組み上げていく。サナトルヴィアが居なくなってしまった以上、私とリルの二人で巨大な鉤爪で両手を覆う男を倒さなければならない。
故に、その為に必要だと考えられる術式をレアのサポートの元、脳内で可能な限り全速で組み上げていく。
九つ目のスロットであるナオに格納する私達が勝利できる可能性を引き上げる為に必要だと考えられる術式――あくまで可能性を引き上げられる物であって、二人である以上厳しい事には変わりは無い。
それでも、可能性を引き上げられるのであれば是非は無い。少なくとも二人では、今まで組み上げてきた術式だけでは厳しいのだ。
迫る敵と戦う為に新しい術式を用意するぐらいの下準備が無ければ、きっと私達は敗北してしまう。それは認められない――認めたくない。私自身と、無邪気な彼女を守るた為。
(自分自身を守りたいと思うのなら、尚更フェイルは使うべきじゃないんじゃないか? まぁ、状況的に四の五の言ってられないと言うのは分かるんけどさ)
出来れば私も使いたくないけどね、使っても厳しいかも知れないんだから、使うしかないとは思ってるよ――何処まで削るかとかはナオに収納しようとしてる術式の効きしだいだけどね。
(しかし、此処まで組んでおいてなんだがこの力――使いどころが微妙じゃないか? 確かに莫大な量の敵のエーテルを削る事は重要だが、一度削ればそれきりだろう?)
まぁ、そういう能力として組み上げてるからね。変に付加能力を付けると法則の制作にも余計に時間やエーテルが掛かるし、運用する時にだって余分にエーテルを消耗するだろ?
(まぁ、それはそうだけども……)
だからこれで良いんだよ、大部分を削る事が出来れば今のストレイジしてる分だけでも十分にやれるさ。必要なら新しい力を組み上げれば良いんだしね。
(いや、組み上げれば良いって――直ぐに組み上がる物じゃないから今こうして組み上げてるんだろ?)
大丈夫、なんとかなるさ――否、絶対に何とかしてみせる。
レア、君はもう少し自分の能力に自信を持つべきだ。これだけ有用な能力なんだ、少なくとも、私自身は君を使って負ける程無能なんかじゃないと言う事ぐらい証明させてくれ。
(その自信の程に何の根拠も無い事は分かるが――信じさせてもらうぞ、フェイン?)
無論さ――そっちも、サポートの方をよろしく頼むよ?
(それこそ無論だ、その為に我々聖具は存在してる)
等と念話を交わしている内に、九つ目の能力が組みあがり格納される――これで、準備は整った。
(今からもう一つ組むのは……少し厳しいか?)
――そうだね、それにもう一つ組むにしてもアイデアが無いんだから組みようが無い。実際戦いが始まれば何かしら必要になってくるかもしれないけど、そうなったらよろしく頼むよ?
(それに関してはさっきも応えたぜ、フェイン?)
あぁ、そうだったね。まぁ、それは兎も角として――来るよ?
(見れば分かる。それで、最初はナオでいいんだな?)
――いや、フェイルからだ。
(いや、おいフェイン? 結構な消費量だが、別に今使えるエーテル量でも十分にナオは使えるぞ?)
大丈夫だよ、古い分を削るだけさ。それに、どうせ途中で足りなくなるのは目に見えてるんだ、途中で余計な工程を挟まなくて済む様に、先に使ってしまった方が良い。
(……それがお前の判断だって言うのなら、分かった――で、その次はナオだな?)
当然さ、最初の一撃として使う為に態々組み上げたんだからね? 彼の為に組み上げた出来立ての新作だ――しっかりと味わってもらおうか?
っと、その前に――
【リル、少し私から離れていてくれないか――最初の攻撃は私が対処する。私か敵のどちらかが下がったら、その後の近接戦は任せるよ】
言葉で伝えるよりも早く済む様に、念でリルにそう伝えながら「《Storage》――No.8、フェイル」力の名を紡ぐ。
「わかった、任せるよいーたん」
念話で伝えた私のメッセージに、リルは言葉で返事をしながら、私の伝えた様に私から少し距離を取ってくれる。
細かい説明をしなくても私の言葉を信じて任せてくれるリルの存在は非常にありがたい――そして、私を信じてくれるそんな彼女だからこそ、なんとしてでも守りたいと、そう思ってしまう。
そんな事を考えている間にも、言霊を紡いだフェイルの効果は処理されているのか、体の奥底から今の私の総保持量に匹敵する程のエーテルが湧き上がってくる。
もっとも、私の総保持量は敵対している敵の半分にも満たないのだから、その全てを持ってしてもエーテルの量では届かない。
その為に犠牲になった物を思い出すことはもう絶対に出来ないけど、それでも量の上では届かない。だけど――エーテル量だけが、強さの全てではない。
「《Storage》――No.9、ナオ」
満ち溢れるエーテルを使って、組み上げたばかりの法則を開放する為に言霊を紡ぐ。
何を守る為に戦うのか、何を犠牲にして戦うのか――犠牲にした何かは思い出せなくなったけど、何を守る為に戦うのかは今もこの胸の中にある。だから私は負けられないし、負けない。
その思いを胸に、此方との距離を詰めて来る敵を見据えて、もっともらしい構えを取ってみせる。近接での戦闘なんていうのは苦手だ。それでも、ナオの法則で敵を削るには私がこうして前に出るしかない。
敵が此方の効果園内に入ってくれればそれで良いが、その効果範囲がそれほど広くない。効果が適用されるまでの時間も考えれば、最悪でも敵と一度は正面から向かい合うぐらいの事はしなければならない。
相手が近接戦を得意としているだろう事は、聖具の形状を見れば分かるけど、それでもやらなければいけない――私達が勝利を掴む為には。

<SIDE-Stan->
組み上げた足場を蹴って俺の糧となる二人組みとの距離を詰める。その間に、女は何か男と言葉を交わして後ろへ下がる――何を伝えたのか、等どうでも良かった。
何でアレあれは俺の糧となるモノだ、エーテルの保持量から考えても、俺が奪う者で奴等が奪われる者だという図式は揺るがない。
今まさにこの瞬間、男の保持するエーテルの量が急速に膨れ上がったが、それも意に介さない。倍になったところで、それでも俺には届かないのだからそもそも意に介す必要が無い。
だから、結局の所どちらからでも良かった。女が下がったのなら先ずは男から、その程度の認識で俺はその場に立ち止まったままの男から俺の一部と成るべきエーテルを奪い取ろうと、右腕を伸ばしてた。
その腕が届く前に「《Storage》――No.9、ナオ」男が何か、言霊を紡ぐ。
そして次の瞬間に、俺の爪が男を引き裂く前に、その異変は起きた……あってはならない異変が。
俺を満たしていた、俺を新生させる為の、俺のエーテルが、俺のコレまでの長い時間掛けて集めてきたエーテルが、俺の全身から金色の光となって漏れ出していく。
全身を覆う程の奔流――視界を塞ぐ程の金色、それだけの量のエーテルが、俺の溜め込んできたエーテルが、俺の意志とは無関係に、俺の体から抜け落ちていく。
何だ? 何が起こった? 俺のエーテルは? 俺が元に戻る為に集めたエーテルは何処に消えた? 何故消えた?
分からない――分からない? そんな訳が無い、理由は分からないが、誰がやったのかなんて考えるまでも無い。
あまりの出来事に、あまりの絶望に、男を引き裂く直前で留まっていた右腕がワナワナと震える。
「……お前か?」
問うまでも無い質問が、憎悪となって喉の奥から溢れ出る。
「――お前だな? お前だ、お前か、お前が、お前ェェェェエエ!」
俺がこの穢れた体を捨てる為に集めたエーテルを目の前の、俺の糧でしかなかった屑が無茶苦茶にした。許せない、許さない、認めない、絶対に、絶対に、絶対にだ。
引き裂く直前で留まった右腕では速さが足りない、故にその右腕を引き戻しながら、勢いを乗せて左腕を男の頭部に放つ。
一撃で殺してしまえばこの怒りを何処にぶつけるべきか分からなくなるかもしれないが――それでもそうせずには居られなかった。
失ったモノはもう戻らない――ならば、目の前の糧から可能な限り吸い尽くすしかない、それでも、失った分を考えれば足りはしないが。
煮え滾る感情を乗せて放った左腕は、しかし男の頬を掠めるだけに終る。どうして俺はこいつ等を糧に選んでしまったのか、そもそもそれが間違いだったのだ。
数を目当てに来てみれば一人が尻尾を巻いて逃げた後で、いざ始まってみれば俺の溜め込んだエーテルの大半を持っていかれた。
何だコレは? 何の冗談だ? どうしてこんな事になった――俺が、何か悪い事でもしたと言うのか? していない、そんな覚えは無い。
様々な感情が渦巻く己が内に結論を出さぬまま、俺は考えを纏める事を放棄して、両の手の巨大な爪で男を引き裂く為に掠るだけに終わった左に続けて、引き戻した右を振るおうするが――
男はニ撃目が放たれるよりも前に、組み上げた足場を蹴って大きく後退する。無論、逃がすつもりがない俺は、男を追う様に距離を詰めようとするが――
「後は任せて、いーたん《Genuine》!」
そんな風に力の名を紡ぎながら割り込んできた女に、それを阻まれそうになるが――関係ない。
邪魔な女を退かそうと右腕を振るう――この程度のエーテル量の相手等、俺にとっては取るに足らない雑魚だ。雑魚でなければ、いけない筈なのに……
何の能力でもなさそうな、エーテルを固めただけの盾に俺の爪は止められた。俺の爪が《飢餓》が、よりにもよってエーテルを固めただけの盾に防がれた。そんな事はあり得ない話だと言うのに。
エーテルが減って、力も速度も落ちたのは間違いない、だが《飢餓》が《エーテルで出来た》盾を引き裂けないというのは道理に合わない。
《飢餓》の力は、引き裂く対象のエーテルを吸い上げる事だ。故にエーテルで構成されているモノでさえあればどんな物でも引き裂く事が出来た。
あらゆるエーテル物質を引き裂く爪、引き裂いたついでにその分のエーテルを略奪する、それが《飢餓》の力なのに、どうしてエーテルで出来た盾が引き裂けないというのか?
「何だお前は? 何なんだお前等は? 何故俺の邪魔をする? 俺の糧でしかない分際で何をしやがる! あぁ……もう良い、もう良いぞお前等。揃って仲良く吸い殺されろ――《Plunderer》」
そして俺は、エーテルを消費するが故に使用を封じていたもう一つの力の名を紡いだ。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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