EternalKnight
VS刃鎧/勝利者
<SIDE-Fred->
此方が距離を詰めきる前に、女から黒い剣を受け取った男が動き出す。動き出した方向は、此方に向かっての直進――どうやら真っ向勝負が望みらしい。
男が剣を受け取った事によって、楽に勝てると言う未来は潰えたが結果は変わらない。望むのならば正面から、力の差と言う奴を教えてやる。
互いの距離が詰りきる前に、全身を覆っていた鎧を変質させて殆どを両の手に集める。どの道あの剣に斬られれば鎧等あっても無くても等しく両断されるのだ、ならば最低限だけ残してそもそも斬られぬ様に攻撃に力の大半を動因する。
鎧を腕に集約する事で、融化して醜く歪んだ顔等を見られるが関係ない――此処で散る彼等に見られる事に抵抗など無い。
両の腕は鎧を集約させた事で歪に肥大化し、その両腕からは鎧を集約させる事でより強力な不破と切断の概念を内包する我が意のままに動かせる無数の刃が生み出される。
両腕を合わせて、可能な限り質を高めた六枚の我が最強の刃――同じ質のモノをもう少し用意する事も不可能では無いが、それ以上の数では精密な制御には向かない故に必要ない。
そして、彼我の距離が此方の攻撃園内へと入ると同時に、先ずは両の肩口から生える二枚の刃で黒い鎧を身に纏う男に斬りかかった。
その刃を男が漆黒の刃で切り払うのを見計らって、両の肘から生える二枚の刃で追撃をかける。
此方の刃は六枚、男の刃は一本、質は兎も角としても数が違う――仮にこのニ撃目を凌げても両手の甲より生えた残る二枚が男を貫く、六枚の刃を防ぐ手段等、男には有りはしない。
だがしかし――肩口からの刃を切り払った男は最小限の動きで払った刃を切り返し、続けざまに放ったニ撃目の刃をその黒い剣で正面から迎え撃ち、両断してくる。
切り払われた肩口からの二枚を再度男の元へ向かわせつつ、砕かれた肘の二枚を素早く作り直し、手の甲の二枚で肘の二枚を両断した勢いに乗せて我を両断しようと迫ってくる黒い刃を引かせる為に男の喉元に伸ばす。
手の甲の刃が自ら首を狙っている事を察したのか、男は我を両断しようと進ませていた剣を引き戻して守勢に回る。
守勢に回られた事で首筋に伸ばした手の甲の刃は切り払われたが、その隙を畳み掛ける様に、肩口の刃で男に追撃を掛け、その間に肘の刃を新たに生み出しつつも、払われた手の甲の刃を再び男の元へと向ける。
肩口の刃、手の甲の刃、肘の刃、手の甲、肩口、肘、肩口、手の甲、肘――守勢に回った男を再度攻勢に回させぬ様に続けざまに絶え間なく攻め立てる。
付け焼刃とは思えぬ程に、高い身体能力と強力な概念武装を使いこなして此方の猛撃に耐え続ける男には驚嘆を覚える。こうして戦いが始まる前の男の態度にもコレなら納得が行くという物だ。だが、もう長くは続かない。
今尚此方の攻めは続き、男は防戦一方のまま徐々に此方から受ける傷を増やしていく。
それで無くとも男の振るう刃は斬れば斬るだけ自らを傷つける呪われた刃なのだ、僅かな傷でも傷である事には違いなく、攻撃を捌く際に此方の刃を両断する事で自らに刻まれた傷が足を引き、その動きは徐々に鈍っていく。
まだ致命となる様な傷は動きから見て無い様だが、それも時間の問題に過ぎない。そもそも此方にこれだけ攻めさせながら考える余地を与えている時点で、勝敗の天秤は此方に大きく傾いていると考えて良い。
そして、遂に――肘から伸びる刃の一本が、男の刃を握る右腕の肩口に深く突き刺さる。
勝った――予想外の男の剣の腕にてこずらされたが、コレでようやく我が勝利だ。そう思った矢先に、背後から何かが我が背に刺さり、爆発する。
仕掛けてきたのは男の仲間の女だろうが、鎧を最低限にまでして腕に集めて攻撃に集中させている今でさえ、それでは大したダメージにはならなかった。
だが、僅かに生まれた隙を付かれ、男はその手に握る剣で肩口を貫いて己を縫いとめている刃を両断して、距離を取る様に後方へと飛ぶ。
もう少しでトドメをさせた所をまんまと逃げられたが、仕切りなおしとは行かない。既に男の全身は呪いによって受けたであろう無数の傷と、何よりも肩口を貫いた先程の傷がある。
だと言うのに、此方に向けられている強い敵意からは諦めの色が感じられない。もっとも、此処まで楽しませてくれた相手にこんな事で諦められると、此方としても興醒めなので丁度良いのだが。
再び視線を交差させる様に睨み合う――もう一度此方から動いて畳み掛けるのも手だが、どうしたものか……
悩んでいる内に、男の身を覆う黒い鎧の隙間より漏れ出していた金色の光の流出が止まったのが分かった――鎧のせいで傷口こそ見えないが、なんらかの術で先程の肩口の傷を塞いだのだろう。
やはり畳み掛ける様に動いているべきだったかと今更ながらに思うが、あれだけ深々と刺さった傷口がそう簡単に癒えたとも思えない。精々傷口からエーテルが漏れ出すのを塞いだ程度だろう。
そもそも、傷口をそう簡単に癒せるのなら、男の仲間である女があの剣を渡す事を躊躇わなかっただろうし、先程までエーテルを垂れ流していた事にも説明が付かない。
何より、容易に回復出来るのなら、もう少し守りを薄めて攻めて来ている筈だ。故に、やはり仕切り直しにはならないだろう。
これ以上睨み合いをして折角刻んだ勝利への標を失うのも馬鹿らしい、仕留めに掛かるかと、そう思ったのも束の間――此方が動く前に、男がこちらに向かって動き出した。
何か策があるのか、それとも捨て身か、或いは此方の予想に反して完全に傷が癒えたのか――どういうつもりかは分からないが、どうでも良い。向かってくるのなら迎え撃つのみ。
先程此方のチャンスを潰してくれた女は、此処にいたるまで先の介入以外をしてこなかった事からさして気に掛ける必要も無いだろう。
今度は、不意打ちを受けても動じずにトドメを刺す。それだけを念頭に入れて、男を迎え撃つ為に六枚の刃に意識を集中させて、此方も前へと踏み出す。
互いに距離を詰めあう事で、幕開けは直ぐに訪れる。先の幕開けと同じ様に此方から仕掛けようと、手の甲の刃を男に伸ばそうとした、その瞬間――目の前が突如爆発し、視界が焼かれる。
これは、鎧と剣を手に入れる前に男が使っていた魔術。あの時は動じる事すら無かったが、今は鎧を腕に集約させているが為にその爆発によって多少の隙が出来る――とでも思ったのだろうか?
確かに不意の爆発に僅かに揺らぎはしたが、それは隙と呼べる程の物ではない。視界にしても焼かれた所でエーテルの反応を頼りにすれば何処にいるのかなど手に取る様に分かるのだ。
故に、目前に迫る強大な反応に六枚の刃全てを突き刺す様に差し向けた。全ての刃が黒い鎧を貫く感触が伝わってくる。だが、コレは――
「手応えが、軽い?」
思わず声に出してそう呟いた次の瞬間、鋭い痛みが背から胸の中心へと駆け巡る。その痛みの正体を、爆発の閃光から立ち直り初めたボヤけた視界が映し出す。
痛みの正体――それは、自らの胸の中心から生えた黒い刃だった。

<SIDE-Yuri->
貫かれた事によって出来た傷口からあふれ出す血を止める為に、《探求》の知識の中にある地の魔術による治癒強化を最大にして、ようやく傷口を塞ぐ。
傷口を塞ぐまでの間、鎧の攻めてこなかったのは運が良かったとしか言い様が無い。先程までの状態で仕掛けられていれば、正直かなり拙かった筈だ。
もっとも、傷口が塞がっただけで腕の動きはとてもじゃないが良好とは言えない。もう一度打ち合えと言われても正直話無理だろう。
故に狙うは一発逆転。この布津御霊剣があればそれも不可能では無い――もっとも布津御霊剣を使って勝利を掴もうとする以上、その逆転には相応の代価が必要とされるだろうが……構わない。
(本当にさっき纏めたプランで戦うのか? 私自身はどうせ長くない故にどうなっても構わないが、私が居なくなっては困るのではないか?)
そうならない様に、一撃で決めるつもりだ。大丈夫、クオンちゃんの布津御霊剣の切れ味は抜群だから、仕損じる事なんて無いさ。
(まぁ、布津御霊剣の切れ味に関しては最早疑う所はないがな。仮に仕損じれば本当に後が無いと言うのは分かって言っておるのだろうな?)
分かってるさ《探求》どの道このままじゃジリ貧なんだし、思いついたんだから試すしかないだろ?
(分かった、汝がそういうのなら止めはせん――好きにするが良い。アルフィアよ、汝も異論はないのだな?)
(私は本来なら既に死んでいる身ですから、異論などないですよ《探求》殿)
「なら始めようか――クオンちゃんと、俺自身を守る為の最後の一手を」
自分自身にしか聞こえない程度に口の中で呟く様にそう言って、俺は前に踏み出す――勝つ為に、守る為に。
そうして動きだした此方に続いて、鎧の男も動き始める――向かう先は互いに同じ、唯一直線に自らの敵の下へ、だ。
距離が詰まっていくにつれて、鼓動が早くなっていく。《探求》の言う様に失敗すれば後など無い、一度きりの大勝負。だけれど、それに勝たなければクオンちゃんを守れない。
だから勝つ――必ず、絶対に。
そして互いの距離が近接戦闘の有効園に入る直前で、俺は《探求》の知識より火属性のLv5の力――即ち、任意の場所を突如爆発させる力を解放する。
目標は鎧の男の目の前、規模は大きめで、威力を絞ってでも派手さを重視する。イメージは視界を焼く程の閃光。
一瞬の間も無くイメージ通りの爆発が鎧の男の目の前で起こり、男はほんの一瞬動きを止める。それは隙と呼べる程のものではない――が、爆発に少なからず効果があった事を確認するには十分だ。
これで、男の視界は暫くの間封じられた。後は――
(では、手筈通りに……武運を祈るよ、ユーリ殿)
そんな言葉を残して、俺の全身を覆っていた鎧がすり抜ける様に体から外れ、鎧だけで動き出す――アルフィアの最後の力だ。
鎧がすり抜ける様に体から外れていく最中に、俺は空属性のLv4の力――気配を一時的に遮断する力を解放する。
後は、気配を消したまま鎧の男の背後に回りこむだけだ。
そして視界を潰された鎧の男が、意気揚々と黒い鎧を……アルフィアの最後の力をその腕に纏わり付く無数の刃で貫いて、異変に気付いたのか「手応えが、軽い?」と不思議そうに呟く。
俺は、既に鎧の男の背後に回りこみ終えている。後はもう、力も速さも要らない、必要なのは右手に握られたクオンちゃんに託された剣だけだ。
そして俺は、鎧の男を背後から、クオンちゃんに託された布津御霊剣で貫いた。その一撃で、手元には確かな手応えがあり、胸元には激痛が奔る。
「そうか……その為の、傷口の治癒に、爆発か……中々……悪くない手だ――だが、この程度では……我は、死なぬぞ」
胸を貫かれたまま、鎧の男が呻く様に言葉を紡ぐ――そう、コイツの言う通り、まだ終ってはいない。
だから、終らせなければいけない。この手で、布津御霊剣で――
胸元に奔る激痛に腕が震え、脳裏には考えたくない疑問が渦巻く。このまま刃を振り上げる成りして男を殺せば、その代価として俺はどれ程の傷を負うのだろうか?と。
「だったら、俺が殺してやるよ――言っただろ、クオンちゃんに手ぇ上げた罪は、重いってな」
言いながら、背から胸を貫いている布津御霊剣を振り上げて、胸の中心から頭頂部に掛けてを分断し――それと同時に訪れた場所がどこかも自分では分からない程の激痛で、俺は意識を失った。

<SIDE-Yuri->
「――ユーリ」
クオンちゃんの声が聞こえる。
「ユーリ?」
凄く心配そうなクオンちゃんの声が聞こえる。あぁ、たぶんコレは夢だ。夢の中ではクオンちゃんは俺に優しくしてくれるから。
「ユーリ!」
今にも泣きだしそうなクオンちゃんの声が聞こえる。なんだろう、クオンちゃんのこんな声を聞くのは初めてだ。
だけど、そんな声で俺を呼ばないで欲しい。クオンちゃんを悲しませたい訳じゃない、俺は唯クオンちゃんに笑っていて欲しいから。
「ちょっと、ねぇ、起きなさいよユーリ。今はまだ良いけど、そのままだと死んじゃうわよ!」
死ぬ? 俺が? 何で? だけど、無性に体が重くて、何故か胸がとんでもなく痛いけど、クオンちゃんが俺に起きてというのなら、俺は無理してでも起きなきゃいけない。クオンちゃんに良い所を見せたいから。
重い目蓋を開けてみると、目の前にクオンちゃんの泣き顔が見えた。何で泣き顔なんだろう? 誰がクオンちゃんを泣かしたんだろう?
凄く腹立たしいけれど、それ以上に体が重くて痛くて、俺は何も言えない――開いた目で周囲を見渡してみれば、そこは虹色の空間で、見える範囲の周りには誰も居ない。
だったら、クオンちゃんを泣かせているのは俺なんだろうか?
「目ぇ覚ますのに時間掛かりすぎよ、ユーリ……心配したじゃない」
赤く腫れた目を擦りながら、クオンちゃんがそんな事を言って来る。どうやらクオンちゃんを泣かせていたのは俺らしい――俺は何をやっていたんだろう?
そういえば今まで何をしていてこんな事になったのかさっぱり思い出せない。だけど、クオンちゃんが俺を心配してくれるんだから、きっと相当な事があったのだろう。
思い出そうにも頭が重く意識が判然としない――頭まで血が回っていない様な感じだ。
「なんか良く分からないけど、心配掛けてごめん……クオンちゃん」
「謝るよりも先に、自分の体の心配をしなさい。それで、治癒促進の魔術は使える? 無理でも使ってくれない困るんだけど……」
クオンちゃんが言うのなら、自分の体を心配すべきなのかもしれない。確かに体は痛くて重い……だけど、こんなになるまで俺は何をしたんだろうか?
「使える――と思う」
とりあえず、クオンちゃんの質問には応えておく。
「良かった――私に出来る応急処置じゃ時間稼ぎにしかならなかったけど、治癒促進があるならなんとかなりそうね。だったらとりあえずそれを使って落ち着くまでじっとしてなさい。意識がハッキリして全部思い出したら色々説明してもらうから」
喜んでいる様な怒っている様な、そんな表情でクオンちゃんがそう言って来たので、とりあえず治癒促進の魔術を使う――これだけ体が重くて痛いと、全部大丈夫になるのはいつになるか全く想像出来ない。
だけどまぁ、泣きそうな顔ではなくなったので、今はコレで良いだろう。
「ところでクオンちゃん……クオンちゃんも全身傷だらけだけど、大丈夫なの? 俺は自分の事なんかより、それが心配なんだけど?」
そう聞いた俺に、クオンちゃんは此方に背を向けながら「誰のせいで傷だらけになったと思ってるの?」と、何故か少しだけ嬉しそうな声で応えた。
言い方から考えて、きっと俺のせいなんだろうけど、俺がクオンちゃんを傷つけるなんてありえない。
だから、クオンちゃんの言葉の意味は良く分からないけれど、クオンちゃんが嬉しそうならそれで良いかと納得して、判然としない意識ではそれ以上考えるのもしんどくて、俺は考えるのを止めた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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