EternalKnight
VS刃鎧/継承者
<SIDE-Fred->
漆黒の剣を作り上げた女を庇う様に、漆黒の鎧を身に纏った男が我が前に立ち塞がる。その鎧には見覚えがある――が、その使い手は先程消滅した筈だった。
鎧を纏っているのは、残っていた男で間違いない。声だけでの判断ではあるが、少なくとも消滅した筈の男ではない筈だ。それでは何故――あの鎧を身に纏っているというのか?
「一体なんだ、その鎧は? 先程散った筈の片腕が身に纏っていたモノと同じに見えるぞ?」
「テメェに説明してやる理由なんざねぇし、そもそもテメェには話すだけ無駄だ――どうせ直ぐに俺がぶち殺すんだからな。クオンちゃんに手ェあげようとした罪は、重いぞこの屑野郎」
確かに、敵に馬鹿正直に説明する理由など無い。しかし、クオンというのはもう一人の永遠者の女の事と見て間違いないのだろうが……
「殺す? 我を? 汝が? 中々面白い啖呵を切るではないか。汝の何処にそんな力がある? 先の一合で仕留め損ないはしたが、我が刃は汝の鎧を侵し得る――そして、汝の力では我が鎧を傷つける事すら出来ない。これが意味する所等一つしかないと思うが?」
「確かに、このままじゃテメェの自慢の鎧には傷はつけられ無い。だが忘れてる訳じゃねぇだろ? テメェはクオンちゃんの持ってる剣に斬られた――速さも力も今の俺にには劣ってるクオンちゃんの持ってる剣にな」
男が女の持つ概念武装を手に取って戦う――か。確かにそうすれば我と対するために目前の男に唯一欠けている攻撃の手段と言う部分は埋められる。
だが、そんなモノは付け焼刃に過ぎない。そんな事で勝てると思い上がっているのなら、思い知らせてやる必要がある。
「それがどうした? 確かにその女の持つ黒い刃を危険だとは認識したが、それが有れば我に勝てるとでも思っているのか? 思い上がるなよ――どれだけ武器の質が高かろうが、使い手がそれを使いこなせぬならばそんな物は宝の持ち腐れだ」
「思いあがってるのはどっちか、すぐに分かるさ――それまでにテメェが死んでなけりゃな」
自信に満ち溢れた声で男が言い放つ――無論、舐めて掛かる気など無いが、奴は本当に我に勝てるとでも思っているのだろうか?
片腕の男に戦闘を任せて自身は後方から魔術を行使していただけでなく、その前線の一人が潰えてもまだ、概念武装は強力な物であったが、近接戦闘が得意とは言えなかった様な女が先に前に出ざる様な状況を作らざるをえなかった様な男だ。
最初の男と同じ物だと思われる鎧を身に纏い身体能力を底上げして、女の作り上げた特級の概念武装で攻撃手段を確保した所で、目前の男には経験が圧倒的に足りない。
鎧をどうやって手に入れて身に纏ったのだとしても、最初からそうして来なかった事を考えると何かしらがこの戦局であった事によって彼は今の力を手に入れた事になる。
そして女の剣も、出し惜しんでいた事や、此方はまだ一撃も入れていない筈なのに女の頬が切れている事から、過去にそう多く使用していない物だと推測できる。
急に身体能力が底上げされ、使い慣れていない武器で、慣れていない近接戦を行う――それで勝てると本当に思っているのなら、おめでたい思考回路だとしか言い様が無い。
不意を打たれた先の一合ですら、初撃と続くニ撃目を防ぐ為に受けに回った以外は此方からの攻撃を相手が被害を最小限に止めようと捌いただけに過ぎない。真っ向から戦えば勝敗等見えているに等しい。
とは言え、此方の攻撃を最小限の被害で捌いていると言うのもまた事実だ。舐めたりはしないし、油断もしない――確実に堅実に、持ちうる全ての力を持って絶対に討ち取り、その命を此処で散らす。
視線は交差し、互いににらみ合ったまま動かない――男の手には未だに概念武装は握られていない。此方に視線を合わせたまま概念武装を受け取ろうと手だけを背後に伸ばす男の手元に、女がそれを渡さない。
女は男に庇われる様にその場に立ち竦んでいるだけで、動きを見せない。もっとも、何かしらのデメリットを含んでいるであろう概念武装だ、誰かに託すのを悩む気持ちも分からなくは無い。
少なくとも使用者か、或いはあの剣を組み上げた女自身か――振るえば、或いは何かを断ち切れば、そのどちらかも傷を負う、恐らくそういう類の呪いとも呼べる効力を付与したが故にあそこまでの概念武装に至ったと考えるのが自然だ。
そもそも我が聖具《刃鎧》にも不破の概念は付与されているし、変質して生じる刃には切断の概念が付与されている。それ等を打ち破られると言う事は、単純にあの刃に付与されている概念が此方の概念を上回っていると言う事の証明に他ならない。
そして、クラスから考えれば普通の聖具とは一線を画す筈の《刃鎧》に付与された概念を破れるのならば、それぐらいの事をしていなければ理に適わない。
どちらにしてもあの剣に付与された概念は危険だが、それを振るう者の実力に問題があるであろうと言う事実には違いない。
そもそも、このままにらみ合いを続ける理由は此方には無い。渡しあぐねているのなら、受け渡しが終る前に男を散らす――正面から戦っても負ける気等しないが、楽に安全に勝てる方法があるのなら、それを選ばない理由など無い。
そう考えを纏めると同時に、我はにらみ合ったまま続く均衡を破る様に、生み出した足場を蹴って男との距離を詰めにかかった。

<SIDE-Yuri->
鎧の男と視線を交差させたまま、すぐ後ろにいるクオンちゃんの方へ、右手だけを伸ばして、念を飛ばす。
【クオンちゃん、話は聞いてたよね? その剣、俺に貸してくれないかな?】
クオンちゃんの作り上げたその漆黒の剣を少なくとも俺は初めて見る。
【……ねぇユーリ? 他に、手は無いの? この剣は、布津御霊剣は出来るなら使わない方が良いわ】
仕事でどうしても一緒にいられない時以外は基本的にずっとクオンちゃんを見てきたつもりの俺が見た事の無い剣。それがクオンちゃんにとって特別な何かなのは、考えなくても分かる。だけど――
【ごめん、クオンちゃん。クオンちゃんのお願いは聞いてあげたいけど、俺には他に手なんて思いつかないだ。クオンちゃんを守る為にはそれしかないと思ってる】
そう、他に手なんて思いつかない。そして何よりも――
【だったら、私がこの剣で戦うから……だから、貴方が纏っているその鎧を私に貸して】
【ごめん、それも出来ない。コレはこういうサイズだから、サイズの変更は聞かないってアルフィアが言ってたんだ。だからクオンちゃんには着れない――何より、俺がその剣でクオンちゃんを戦わせたくない】
俺のみる限りではクオンちゃんは鎧の男から一撃も貰っていない筈だ。なのにクオンちゃんの頬には既に癒えかかっているが微かに切り傷が残っている。
単に俺に敵の動きが見えていなかっただけかもしれないけど、もし本当に斬られていない頬が斬れているのだとすれば、それが意味するのは――
【ユーリ、貴方……気付いてたの?】
振り返ったりは出来ないけど、きっと驚いた表情をしてるんだろう。あんまり俺には見せてくれないからつい振り返りたくなったけど、今振り返るのがどれだけ危険かぐらいは分かっているから、振り返らずに念話を続ける。
【確証はなかったけど、今確信したよ。やっぱり、それを使うと使った奴も傷つく――そうだよね?】
【――違うわ。使用者じゃなくて、コレを作った私が傷を負うの。コレはそう言う概念呪装だから。だから貴方には使わせれない。貴方は私を守りたいんでしょ? そんな貴方にはこの剣は振るえない】
クオンちゃんはそう念で伝えてくるけど、俺には分かる。少なくとも、本当の事であるなら、あんな所で間が出来たりはしない。
【嘘はいけないよ、クオンちゃん。俺はずっとクオンちゃんを見てきたんだ、クオンちゃんの言ってる事が嘘かホントかぐらい分かるよ。その剣を使えば使った奴が傷つく、そういう物なんでしょ?】
【違うわ、仮に貴方の言う通りなんだとしたら、私が貴方に使わせたがらない理由にならないじゃない】
使わせたがらない理由? そんなの、決まってる。
【クオンちゃんは優しいから。俺なんかの事も心配してくれてる――だから俺にその剣を貸してくれない、違うかい? 言った筈だよ俺はずっとクオンちゃんを見て来たんだ。クオンちゃんの優しさは、よく知ってる】
そんなクオンちゃんだからこそ、俺は――
【だから俺は、そんなやさしいクオンちゃんを守りたい。大丈夫、俺は負けたりしないしその剣の呪いで倒れたりもしない。ずっとクオンちゃんの傍に居たいから】
この気持ちはきっと、小さい子が可愛いからとかどうとかとは違う。だけど――どう違うかはまだ良く分からない。
【ユーリ、あなた……それって――】
クオンちゃんが何か言い淀んだ所で、鎧の男がにらみ合いを放棄して、こちらとの距離を詰めにかかって来る。悩んでいる時間はもう無い。このままでは数瞬の後に共倒れだ。
「クオンちゃん!」
念ではなく言葉に出してそう叫ぶのと同時に、俺の右手にクオンちゃんから布津御霊剣が手渡される。
コレで――戦える。剣を使って戦った経験は俺には殆ど無い。だけど剣を使った戦いの知識なら、《探求》の内に膨大な量が眠っている。
かつて己が望む剣の道を探求した《探求》の先代以前の契約者が残した知識。今まではその知識群を使えるだけの身体能力が無かった――だけれど、アルフィアの鎧の力で基礎能力が上がっている今の俺になら、それらの知識を有効に活用する事が出来る。
身体能力、知識量とそれに基づく技量、そしてそれらによって最大効率で運用される布津御霊剣、これだけ揃って居て、負ける理由など何処にも無い。
勝てる――否、勝つ。俺自身が生き残る為にも、クオンちゃんを守る為にも勝利以外はあり得ない。
そして俺は、鎧の男を正面から迎え撃つ為に、クオンちゃんを激突の余波に巻き込まない為に、布津御霊剣を手に前に踏み出した。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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