EternalKnight
VS刃鎧/探求者
<SIDE-Kuonn->
布津御霊剣――可能な事なら使いたくなかった、実戦で使うのは初めてになる最凶の切札は深淵を思わせる程の暗黒の刃となって圧倒的な存在感を放ちながら、私の右手に顕現した。
遥か昔、宝具すら無かった頃に私の出生世界で人外を討つ為に使われていたとされいる最強の力。切断と言う概念を極限まで特化させた概念呪装。
そしてその強大な力故に、少なくとも私の生まれた頃には既に伝承としてしか残っていなかった最凶の力。それが布津御霊剣だ。
振るえば万物を断ち切る極限の概念呪装は、その余波としてか代価としてか、振るう者自身か、或いはそれに関わるモノをも同時に切断する。故に最強にして最凶――そう伝えられている。
少なくとも、以前組み上げ、試し斬りした範囲では何かを斬る度に自分の体にも浅い切り傷が刻まれたと言う事だけは確かだ。何を斬っても浅い切り傷で済むのか、或いは斬ったモノに応じて代償が変化するのか、それは私には分からない。
この力を編み出した血族がその後の数代で偶然か否か絶えてしまった事を知って居たから……有り余る時間を使って伝承だけを頼りに完成させて、試し斬りで自分の体が切れた時に――私はこの力を可能な限り使わないで居る事を決めた。
何か強大なモノを斬って、私自身ではなく、私に関わる何かを斬ってしまうかもしれない――それが何よりも恐ろしくて、私は完成させたこの力を今まで一度も実戦で使った事が無かった。
だけれど、そうしてずっと封じてきた力だけれど、今この瞬間には必要な力だと思った。だから使う、この最強で最凶だとされる力を。私に関わる何かを斬ってしまうのは怖い――それでも、此処で諦めて逃げる訳にも行かない。
そもそも逃げ切れる自信なんて無いけれど、だからこそ真っ向から戦いを挑むしかない。代償は全て私が背負う――念じれば、願えば、それは適うと信じている。もっとも、信じる事しか出来ないのだけど。
少なくとも、斬ったモノより大きな代償を求められる事は無い――筈だ、それは試し斬りの時点で概ねハッキリしている。自分よりも強大な力を持つ敵を斬るという事にどれだけの代償を求められるかは分からないけれど……
「威勢の良い台詞を言う割りには体が震えているぞ? それにその黒い刃、大したエーテルを感じんが――汝、あれだけ準備に時間を掛けておいてその程度のモノしか出せぬのなら、興醒めも良い所だぞ?」
大したエーテルを感じない……か。それはそうだろう、そもそもこの力はエーテル等の永遠者にとっての普通とは別の体系の力――呪力で編まれた力なのだ。
全ての源流たるエーテルの力を僅かながらに含むとは言え、呪力と言う概念を知らなければその本質を量れるモノじゃない。
体が震えているのは――まぁ、鎧の男の言うとおりなのだろうが、それは目の前の鎧の男に恐怖しているからではない。否、恐ろしくないといえばそれは嘘になるけれど――私が震えているのは今まで封印してきた最凶の力を使おうとしているからに他ならない。
「本当に興醒めかどうかは、実際にこの布津御霊剣と実際に打ち合ってから決めなさい」
「良いだろう――期待はせずに、手は抜かずに相手をさせてもらおう」
男のその言葉を最後に、会話は途切れ、私と鎧の男の視線が交差する――布津御霊剣と言う切札の存在以外には、あらゆる面で此方が不利だと言う事は理解できている。そもそも唯一の手札といえる布津御霊剣が本当に敵を斬れるという確証は無い。
切断するという概念の極限で有るとは自負しているが、例えば同位の域にある別の概念との衝突があった場合どうなるのか――なんていう事は私には分からない。
物理的な強度を持つ物ならその強度を無視して切断できるだろうが、別の概念がそこに干渉してくると話が分からなくなる。否、兎も角今は自分が完成させた最強にして最凶の力を信じるしかない。
視線を交差させたまま、互いに動かない――否、此方は動けないと言った方が正しい。先手を取られても苦しいが、それ以上に下手に動いて後の先を取られる方が厳しい。
右手に握られた布津御霊剣は強力な切断概念の塊ではあるが、特に身体能力を後押ししてくれる様なモノではないのだ。身体能力では、此方が明らかに遅れを取っている。
先に動く事も出来ないが、先に動かれても苦しい。敵が何故動かず様子を見ているかは分からないが、動かないで居てくれるならそれ以上の事は無い。先に動けずに後から動きたくも無い。そのどちらも満たす私望む理想の初手は、即ち――
「燃え尽きろ――」
視線を交差させた静寂に響いたのは私の良く知る声で――その声が響くのと同時に、鎧の男を中心に熱波を撒き散らす白い球体が出現した。
打ち合わせの無い突然の出現に視界が焼ける――だけど敵の位置は分かっている。男を構成するエーテルによってその位置は手に取るように把握できる。故に私は、その位置を目指して前に踏み出す。
白い球体の正体はユーリの生み出したLv7の炎の魔術で――それは発動と同時に直ぐに消滅する事を知っているから。
踏み出して、彼我の距離を詰める――発生した白い球体は既に消滅しているが、その中心部でLv7の炎の魔術の直撃を受けた鎧の男は流石にダメージがあったのか動かない。
後一歩踏み込めば布津御霊剣が鎧の男を両断出来る、その距離まで詰めた所で、私は最後の一歩を踏み込まずに距離を詰めるのを止めて、布津御霊剣を振るう。
瞬間、男の鎧が一瞬で歪み、全身の至る所からアルフィアを貫いた時と同じ様に刃が伸びてきた。
その刃は踏み込む事無く留まった私を貫く事無く、振りぬかれた布津御霊剣によって断たれ、砕かれ、エーテルの光になってとなって還って行く。
布津御霊剣を振るった代償として、全身に小さな痛みが無数に走る――だけれど、そんな事では止まらない。
先の一振りで作り上げた鎧から伸びる無数の刃の網の隙間へ、敵との距離を詰める最後の一歩を踏み込みながら、返す刃で布津御霊剣を振るう。
狙うのは鎧の男の首筋唯一つ――先程鎧から伸びた刃を砕いた時点で、布津御霊剣であれば男の鎧を断ち切れるという確証は得られた。故に、この一撃で首を刎ねれば勝てる――首を両断されれば大抵の生物は死ぬのだから。
布津御霊剣程の概念呪装を持ってすれば技術など必要ない、唯その首筋に、刃を奔らせてやれば良いのだ。
刃を奔らせてやれば――「……成程」
だけれど、勝利を掴む為の一撃は「もう一人による不意打ちとは、中々悪くない手だ」刃を握る右腕をつかまれた事で呆気なく止められた。
「最初の一人で見せた《刃鎧》の刃をタイミングをずらして回避、それらを一刀の元に粉砕し、それによって生み出した隙間に踏み込んで首を刎ねる――これも悪い手ではないし、汝の言う様にその剣、概念武装なのだろうが、確かに予想以上のモノだ」
だけど、足りなかった……届かなかった。何故か? 考えるまでも無い「だが、スピードが足りない――遅すぎる。その程度の速度では折角の不意打ちで作った隙が台無しもいい所だ」原因はそれ以外に考えられない。
「しかし――幾らスピードが無いからとは言え、我が鎧の刃を軽く砕いたその剣の力は見過ごせないな。元より王より貴様等を散らせと命ぜられている――故、汝には此処で散って貰うとしよう」
私の体をアルフィアの時の様に串刺しにするつもりなのか、鎧が蠢く。アルフィアの装甲すら軽く貫いた刃に、私が耐えられる理由なんて何処にも無い。
距離さえ取れればあの刃の有効圏内と思われる範囲から逃れる事で助かるだろうが、布津御霊剣を持つ右手を掴まれ、その場から離れる事が出来ない。
もがいて掴まれた腕から逃れようとはしてみたが、そんな事で鎧の男の腕は離れない。そもそも身体能力に歴然な差がある上に体格の差もかなりある――逃れられる筈がない。
目前に迫った死を前に、思考は加速し世界は停滞していく――だけれど、それで打開出来る状況ではない以上、どうにもならない。
男の纏う鎧は形を変え、無数の刃となって私の元へと伸びてくる。加速した思考の中では、それは酷くゆっくりに見える――だけれど、その迫り来る死を前に、唯どうする事も出来ずに待つ事しか出来ない。
そんな、諦めの感情が心を支配しかけた、その瞬間。
「そ――」聞き慣れた、聞き飽きた声が、凄く近くから聞こえて「の――」気付けば、鎧の男に掴まれていた腕は開放されて「手ェ――」いつの間にか、目前まで迫ってきていた筈の無数の刃も、目の前から消えていた。
そして、迫った死を回避した事によって、意識の加速が終わり、思考速度が普段の域へと落ち着いていく。
「――離しやがれェ!」
そんな叫びと共に、甲高い金属音が耳朶を打つ。鎧の男から解放されて、周囲の状況に意識を向けられる程度に心が落ち着いて所で、私が目にしたのは――
アルフィアの右腕を覆っていた装甲と同じ漆黒の装甲を全身に身に纏った誰かが、私を庇うような位置関係で、鎧の男と対峙している。アルフィアの鎧を身に纏っては居るけれど、それが誰かなんて考えるまでも無い。私はつい先程、その声を聞いたのだから。

<SIDE-Yuri->
「――故、汝には此処で散って貰うとしよう」
鎧を纏った男が、クオンちゃんの一撃を止めたままの状態で、そんなふざけた事を口にした。クオンちゃんを散らす? それは殺すって事か?
(状況的に考えてそうだと思うが? と、悠長には言っておられんか……贋作者が殺されてしまえば残っているのは我々だけだ。汝には探し求めるモノがあるのだろう? ならばこんな所で死んではならぬ、敵が贋作者にかまけている間に此処を離れるべきだ)
殺される? クオンちゃんが? 殺す? あの男が? クオンちゃんを? 何だ、それは? そんなふざけた事は認められない。あぁそうだ、認めちゃいけない。絶対に――絶対に認めない。
(汝に認めてもらう必要等彼奴には無い――故に、贋作者はここで散る。随分古い仲の相手だが悲観する事は無い、贋作者は汝の探し求めたモノではないのだろう? ならば見つければ良いのだ、生き延びて、汝の求めるモノを)
何だよ、それ……お前はクオンちゃんがどうなっても良いって言うのかよ!
(当然だ、我が求めるのは汝が求める至高の一、唯それのみ。そうでないモノに興味など無い――それとも何か? 贋作者が汝に取っての至高の一だとでも? 汝自身が我がそう問うた折に否定したではないか?)
そんなの分かんねぇよ! 至高の一だとかなんとか。そりゃもっと俺にとってツボにくる子が居るかも知れない、だから至高の一なんて決められない。けどな《探求》俺は彼女を放って置けない――このまま見捨てて逃げるなんて、絶対にしたくない。
(……と、我が契約者殿は言って居るが、気に入ってくれたかな?)
《探求》? 一体何を言って――
【気に入るも何も他に選択肢が無いから最終的には頼むつもりだったが――そうだな、性格に少々難が有るかと思っていたけど、そうでも無いみたいで安心したと言う所かな、私としては】
俺と《探求》との念話に割って入ってきたのは、聞き覚えのある声で――だけど、彼は先程消滅してしまった筈ではなかったのだろうか? 否、そもそもどうして俺と《探求》の念話に割り込んでこられる?
【その質問の答えなら簡単だ、私が永遠の騎士から聖具に近い存在になったから、唯それだけの事さ。契約者の居ない聖具は、契約者を探す為にこうして念を送ったりしている――《探求》と契約しているんだから分かるだろ?】
待て、永遠の騎士から聖具に近い存在になったってのはどういう事だよ?
【説明をしてやりたい所だが――私と話していて良いのかい? このままだとクオン殿が殺されてしまうぞ?】
そうだよ、こうして話している場合じゃない、クオンちゃんを助けに行かないと――
【行った所で君の力で何が出来る? あの鎧の男と戦うには、今の君ではあまりに心許無い】
だったら見捨てろって言うのか、あんたも《探求》と同じ様に!
(単に煽っただけだろ――汝が素直にならぬから煽ってやったと言うのに、何故未だに自覚出来ぬ。傍から見ればもう答えは出ている様なモノだぞ……)
何の話をしてるかわかんねーが、兎も角――俺はクオンちゃんを見捨てたりしないからな!
【別に私は見捨てるなんて言っていないだろ、今の君では心許無いと、そう言っただけさ】
回りくどい言い方はやめろよ、クオンちゃんを助けるには時間が無いんだ。
【では手っ取り早く――契約を交わそうじゃないか、ユーリ殿。それで君は恐らくあの鎧の男と戦えるだけの力を手に入れられる】
契約って、アンタは永遠の騎士だろ? そして俺も永遠の騎士だ契約なんて――
【言った筈ですよ、今の私は聖具に近い存在になった、と。理由は、説明すると長くなるので後にしましょう。兎も角私と契約すれば鎧の男と戦える様になる、それだけは確かです――だからさぁ、契約を】
(我も契約すべきだと思うぞ。複数の聖具と契約と言うのは我としては反対したい所だが、コヤツは聖具として不完全だ、一度鎧の男と戦えばそれで崩壊するだろう――故に、今は戦力を強化する為に利用する。贋作者を助けたいなら、方法はこれしかない)
分かった――けど、契約するならどうしてクオンちゃんじゃなくて俺なんだよ。別にクオンちゃんを戦わせたい訳じゃないけど、アンタは俺の性格に問題があると思ってたんだろ?
【クオン殿には、私用に作り上げた鎧は纏えない――君を選んだ理由はただそれだけさ。それじゃあ始めよう、内容は簡易で済ませるが、問題ないかな?】
問題ない。我が名はユーリ=モルドギルフ。汝と契約を結ぶ者だ。汝の名は?
【普通は聖具から名乗るから逆なんだが、まぁ仕方ない。我が名は《誓約》汝と契約を結ぶ者なり――契約は此処に成立だ】
アルフィアのそんな声が脳裏に響くと同時に、俺の体は黒い鎧に覆われていた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

63/118ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!