EternalKnight
VS刃鎧/贋作者
<SIDE-Alfia->
最後の一歩を踏み込みながら、右腕を覆う篭手にエーテルを流し込む。それによって赤黒い光を放つ右腕を握り締め、渾身の力を叩きつけんと振りかぶる。
踏み込む速度は疾風の如く、その勢いをも取り込む拳の速度は迅雷となる。正面からとはいえ、不意の爆発の隙を付いた迅雷の一撃。それで終わるとは思って居なかったが、相応のダメージを与えられるとは思っていた。
だがしかし――
「どうした? まさかあの程度で隙を付いたつもりだったのか?」
現実にはダメージを与えるどころか――
「っ、それで、SSクラスの反応は、詐欺だろ……」
敵の全身を覆っていた鎧はその形を保ったまま全身の至る所から刃を生やしたハリネズミを彷彿させる様な形に変形して、私の全身を……エーテルを集めた状態の漆黒の篭手をも含めて貫いている。
「しかし、現実にSSなのだから仕方ないだろう? まぁ、そこらのSSと違って少し手を加えているのは認めるがね」
私の体を貫き、動きを封じていた無数の刃が、傷口を抉る様に蠢く。
「っぐ……がァ!」
コレは……全身から刃を生やすだけじゃなく、ある程度なら動かせるのか? ――っぅ! 絶え間なく襲う痛みに耐えかねて痛覚を遮断する。今は策を練る事に集中したい。
(ある程度と考えるのは早計ではないか、アルフィア? 最悪自在に動かせる可能性もあるのだぞ? 可能性としてそれは考慮に入れておくべきだろう?)
頭の中で思考し《誓約》と念で言葉を交わしている間も貫かれた傷口は抉られ続ける。
しかし、自在に動かせるとなると、唯でさえ片腕を代価にした篭手をも貫く様な威力なのに、あの数でそれを自在に動かされたら今のままじゃどうしようも無い。
(此方がどうしようも無いから敵の能力がそれ以下だとでも? そもそも、今の力で届かぬのなら更なる代価を支払えば良いだけの事だろう?)
……兎に角、今は距離を離さないと拙い。痛覚を遮断しているので痛みは感じないが、傷口からはエーテルが漏れ続けている。加えて、傷口の状態が酷くなれば酷くなる程、それを治すのに必要なエーテルの量も変わってくる。
兎に角、全身を刺し貫かれて身動きが取れないこの状況からなんとか脱さないといけない。距離を取り、最低限必要な分だけ傷口を塞ぎ、その上で更なる代価を支払って仕掛け直すにはエーテルが必要なのだ、これ以上無闇に漏れ出させる訳には行かない。
(それも手の一つだろうが、他にも取れる手があるだろう?)
《誓約》が何を言おうとしているのかは分かる。だが、それは……
(自身以外を代価として支払う気が無いのだろう? であれば今のままでも代価は支払えるだろう? 何故態々距離を取る必要がある? 相手の方から自由にさえなれば此方の手が届く範囲まで来てくれていると言うのに?)
そう、別に距離を取る必要等無いのだ。代価にしても貫かれた部分を支払うのに躊躇いは無い。だがしかし、コレだけ強大な力を持つ相手に渡り合うのには、一体どれだけの代価が必要になるのか?
距離を取った所で、その疑問に行き着くのは同じだという事は分かっている。否、それを考えるのを少しでも後にしようと無意識に思っただけなのかも知れない。
何にしても、今のままで力が足りないのなら、足りる様に代価を支払うしかない。代価を支払いさえすれば、何処までだって強くなれる筈なのだから。
「さて、痛がらぬのは痛覚を遮断しているからか? しかし、それでは自身の肉体の現状を把握出来なくて不便でないか? まさか、もう逃れられんと諦めた訳でも無いだろう? 我が見るに、汝はまだそういう目はしてはいない」
腕を組んだ状態で、さも余裕であると言わんばかりに、貫かれている私に視線を向けている鎧の男が此方に話しかけて来る。だが、応じる必要は無い――今私が紡ぐべき言葉は、たった一つしかない。
イメージするのは鎧から生える刃を砕く力、その刃をも弾き返す堅牢な装甲、敵の全身を覆う鎧を破壊する自身――
「《Pledge》」
紡ぐのは《誓約》の唯一無二の能力の名。私を遥か高みまで引き上げてくれる力――無論、代価は要求されるが構わない。このまま戦っていても勝利などまるで見えないのだから、この選択に間違いは無い。
どんな代価で有ろうと支払い、目の前の敵を打ち倒す。それ以外に望む物は無い。

<SIDE-Kuonn->
アルフィアが敵の能力に捕まった。私達が鎧の敵の意表をつこうとして仕掛け、それによって生まれたかの様に見えた隙を突こうとして、アルフィアは敵の鎧から生える無数の刃の餌食になってしまった。
完全に敵の能力が想定外だった――と言うのは言い訳に過ぎない。
エーテルの保持量なんかから考えれば、私とユーリの遠距離からの攻撃で受けて全くダメージを与えられていないその強度や、アルフィアの腕を覆う装甲を軽く貫いている等、敵の聖具の性能はかなり信じ難い。
聖具を持つ魔獣――その存在がどれだけの脅威なのかを改めて認識させられる。
兎も角、今はアルフィアを助け出さなければいけない――が、遠距離からの攻撃の十八番である爆破術式を仕込んだ諸刃の短剣を打ち出す攻撃は敵にはまるで効いていない。
加えて言うならユーリの魔術も全くダメージになっていなかった。無論アルフィアと同じ目にあう可能性を考えると近接戦に持ち込む訳にも行かない。どう動くのが今の最善であるのかを考えるが、答えは出ない。
私に出来る事はあまりにも少ない。それでも何かしなくては行けない。後悔は、したくないから。一度攻撃が効かなかったから諦める? その程度で諦めてどうするって言うのよ? どの道他に手が無いなら自分に出来る最善を実行するしかないじゃない。
一応手間だけど他に手がない訳じゃない。だけれど、それを使う前にもう一度、本当に効果が無いのか確認したい。
「ユーリ、もう一度……効果があるまで何度でも、敵に仕掛けるわよ。分かってるだろうけど、アルフィアには当たらない様にね?」
「任せてくれクオンちゃん――彼に当てない様にすれば良いんだろ?そんなに難しい事じゃないさ」
言って、ユーリは《探求》より引き出した知識を元に「――風よ」力を発現させる為の言霊を紡ぐ。それを追う様に、私も「《Copy》」《模倣》の力を発現させる為の言霊を紡いだ。
紡ぎ終わるの同時に、無数の諸刃の短剣が中空に発生する。見えてはいないだけで、恐らく風の刃も形成されているのだろう。それ等の全てが、アルフィアを捕らえている鎧を纏った敵に向かって放たれる。
試そうとしていてなんだけれど、私の起爆短剣に関しては先程のモノとなんら変わりはないので結果はまず同じでダメージを与えられないのはほぼ分かっている。
だけど、ユーリの放った攻撃は違う。先程の火のLv5は私の短剣の術式と同じく爆発だったけれど、今回は風の刃による一撃だ、効果があるとすればそちらに成る筈だ。
私も、効果の無い起爆短剣の射出ばかり行っていても仕方ないのは分かっている。だけど、他の能力の技にはある程度準備が必要になるのだ。準備が必要な術式の行使に戦い方は隙も大きい。
一度起爆短剣でダメージを与えられなかったからと言って、すぐさまそちらにシフトさせるよりは、本当に効果が無いか確認しておいて損は無いだろう。そう言う意図で、もう一度だけ起爆短剣を模倣し運用したのだが、やはり結果は変わらなかった。
起爆短剣をマトモに受けて居る筈なのに、まるで動じない。ユーリの風の刃も同様だった様で「クオンちゃん、お兄ちゃんの術式じゃ駄目みたいだ――少なくとも第六までの力じゃダメージになる気がしない」申し訳なさそうなユーリの声が聞こえてくる。
……コレは本当に、面倒な手順を踏んで術式を組むしかなさそうだ。その為には「《Copy》」先ず最初に術式を運用する為に必要な筆を模倣する。言霊を紡いで数秒、意識を集中させる事で、私の手元に使い慣れた握り心地の複製の筆が握られる。
さらに続けて「《Copy》」言霊を紡ぐ。《模倣》の能力はコレ一つしかないけれど、私はそれでずっとやってきた。
言霊を紡いだ事によって次に現れた複製は一枚の札――永遠者となる前、生きていた頃に使っていた魔術的に特別な工程を幾つも施した呪術札、その完成目前の状態である札だ。
模倣の力を持ってすれば、魂に関わる概念以外のあらゆる状態を複製出来る――だから本来は一枚数ヶ月掛けて用意される呪術札をものの数秒で複製出来る。後は、完成目前であるこの札に、先程複製した筆を用途に合わせ奔らせるだけで良い。
ただし、今回は一枚で組む呪術式ではない為、これだけでは終らない。準備をしながらも隣にいるユーリに意識を向けると、ユーリにしては珍しく、此方が意識を向けた事にも気付かずに言霊を紡いでいた。それほど集中していると言う事だろう。
それだけ確認して、自分のすべき事に意識を戻し「《Copy》」言霊を紡ぐ。中空に複製された一枚目の呪術札を掴み取って、二枚目の呪術札を複製するのに必要な数秒で、一枚目の札に筆を奔らせる。
そうして完成した一枚目の呪術札を中空に投げて「《Copy》」三枚目を複製する言霊を紡ぎながら、複製された二枚目の呪術札を掴み取って筆を走らせ「《Copy》」三枚目と「《Copy》」四枚目にも筆を奔らせる。
続けて五枚目の複製に筆を走らせる――が、そこに一呼吸置いて「《Copy》」最後に同じく完成目前の結界札を複製する。
後はこの結界札に筆を走らせ、言霊を紡げば術式は完成する。再びユーリに意識を移すとユーリは未だに意識を集中させ、言霊を紡いでいる。どうやら、ユーリよりもこちらの方が先に終るらしい。
それだけ確認して、術式の完成前にアルフィアと敵の状況を確認しようとして――気付く。
「おや、随分と熱心に何か用意していたので最後で邪魔でもしてやろうと思っていたのだが、どうやら気付いてしまった様だな?」
視線を向けたその先には誰も居らず、背後から声が聞こえる――術式の構成に意識を向けすぎてそれに全く気付かなかったのは私の落ち度としか言い様が無い。
今更間に合うかは分からないが、振り返る事もせずに全力でその場から――背後に居る敵から距離を取る為に前方へと――飛び出す。
だが、特に敵が私を追って攻撃してくる様な事は無く、前方へ飛び出して敵との距離を取った私は、振り返りながら結界札へと筆を走らせる。
「そんなに逃げなくても良いだろう? そもそも先程まで我には十分汝等を始末するチャンスがあったのだぞ? 逃げるのは今更だろう?」
振り返ってみれば、私に向けて声を発した際に気付いたのか、ユーリも私と同じ様に鎧の男から距離を取っているのが確認出来た。敵が明らかに此方を舐めているとは言え、最悪の事態は回避出来た。
今この状況で一人でも戦力が欠けるのは拙い。いや、そもそも――
「そこの鎧の貴方――アルフィアは、貴方と戦っていた彼はどうなったの?」
この鎧の男と相対していた彼はどうなったのか? 私が最後に見た限りでは、アルフィアは刃の鎧に貫かれ動きを封じられて居た筈だがそこから十秒に満たない時間目を離した間に影も形も無く消え去ったというのはどういう事なのか――
「さてな、我にも分からん。何事か呟いた後、エーテルを散らす事も無く薄れて消えた者の事など我に聞かれても分からぬよ」
特に何の感情も込める事無く、だからこそ嘘には聞こえない、男の並べた言葉が引っかかる。何か呟いた後、薄れて消える、エーテルを残す事も無く?
そんな現象には見覚えがある。だけど肝心のアルフィア自体が完全に消えてしまった事が分からない。そして、何も起こっていない事に説明が付かない――それでは釣り合わないから。
「寧ろ彼奴がどうなったのか此方が知りたいぐらいだが……まぁ、居なくなった者の事などどうでも良い。我の役目は汝等をこの場で散らす事だからな。所で、片腕しかない彼奴に接近戦を任せたぐらいだ――汝等にはその心得が乏しいと見るが、どうかな?」
確かに、私もユーリも近接での戦闘は得意ではない。《探求》の力で多くの知識を持つユーリは技術的な意味ではアルフィアを凌駕していても不思議ではない。しかし、ユーリにはその技術を活かせるだけの身体能力が無い。
そして、言うまでもなく私自身なんて論外だ。多少なら出来なくも無いが、アルフィアには技術面でも身体能力の面でも負けているぐらいだろう。
だけど、少なくとも私にはユーリには無かったモノがある。《模倣》の能力と、敵の能力に関するある程度の知識と、強力な武器の存在だ。
「さて、それはどうかしらね? 呪い結べ――《布都御魂剣》」
言霊を紡ぐと同時に最高位の呪術札五枚によって編まれた莫大な呪力が、最高位の結界札に御されて強大な力を持つ刃となって私の手元に顕現した。

UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

<Back>//<Next>

62/118ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!