EternalKnight
VS刃鎧/誓約者
<SIDE-Alfia->
こちらに迫ってくる気配を感じる――数は一つ、反応の強さの大した物だとは思うが、他の者達の元へ向かった気配と比べるとその中では下の方に位置する程度のエーテル保有量でしかなさそうだ。
チーム毎の戦力を見て敵が割り振られていると考えれば、まず妥当な判断だと言えるだろう。
私達のチームは、Sクラスの《誓約》を持つ私と、同じくSクラスの《模倣》を持つクオン殿とBクラスの《探求》を持つユーリ殿の三人で構成されている。
聖具のクラスから考えれば、十二組みのチームの中では我々の戦力は低い方だと見られても仕方が無い。
もっともそれは聖具のクラスだけを見ればの話であり、《誓約》を持つ私が居る以上、このチームの戦力が低いと言うことは無い。
相応の対価を求められるが故に強大な力を引き出せるのが《誓約》の特性であり、それが特性であるが為、強力でありながらその能力は多様性に満ちている。
どんな事であろうと、それに釣り合う対価さえあれば理屈の上では《誓約》に不可能な事などない。もっとも、対価を先に求められる事と、どんな些事にでも対価を求められると言うのが最大の問題点なのだけれど――
接近してくる敵を《模倣》と《探求》の力を借りた上で倒す為に必要な対価はどのくらいになりそうか分かったかい《誓約》?
(そう急かしてくれるな、アルフィア。まだ視認出来る距離ですらないだろう? 少なくともある程度戦って見ぬ事には何も分からん。エーテルの保有量などから相手の実力を見る為に必要な力を得るのに必要そうな対価なら決まったがな)
そうか……念の為に言っておくけど、協力して戦うとは言え彼女達に対価を求めたりはしないでくれよ《誓約》。契約者はあくまで私一人であって、力を振るうのも私一人なのだから。
(まだあの時の事を気にしているのかアルフィア……何、もう同じ事はせんさ、心配するな。まぁ、反応から察する所では必要な対価は腕の一本程度だ、実際に戦ってみない事にはそれだけで事足りるとは断定出来ぬがな)
分かっているなら良いさ――だけど、腕一本か……対価を支払わねば戦えぬ以上支払うしかないのだけれど、果たしてこの対価は安いのか高いのか。結果は戦ってみなくては分からないと言うのが辛い所だ。
(まだ完全に腕一本分の対価と決まった訳ではないがな――足りなければ追加で対価を貰うし、足りていても支払った対価は戻ってこんぞ?)
その説明は何度目になるんだい《誓約》?
(さて、何度目だろうな――何、癖の様なモノだ。と言う掛け合いも何度目なのだろうな?)
まぁ、兎も角――敵が来る前に準備を済ませて置こうか《誓約》。代価となる腕一本、それだけの代価は久しぶりだから、早めに慣らしておこう。
(心得た――ならば唱えよ、汝の誓いを胸に)
思い描くのはまだ見ぬ敵に打ち勝つ自身の姿、その光景を再現する為の力を望み「《Pledge-誓約-》」紡ぐ。
詠唱と同時に、慣れ親しんだ体の一部を持って行かれる感覚が左手に広がって――次の瞬間には慣れ親しんだ消失感と共に左腕は肩口から消えてなくなり、その代償として腕輪型の《誓約》を填めた右腕は漆黒の装甲に覆われていた。
左手の消失を代価にして得たその漆黒の装甲――否、篭手と言うべきか、兎も角それ――からは強大な力を感じる。もっとも腕一本を代価にしたのだ、このぐらいであってくれなくては困る。
そんな事を考えながら、代価として持っていかれた左腕の肩口からエーテルが漏れ出すのを防ぐ為に、持って行かれた左腕をイメージしながらエーテルを肩口に集中させる。
持っていかれたとは言え、それはその時点で左腕を構成していたエーテルを根こそぎ代価としたにすぎない。概念自体は生きているのだから、エーテルを集めて時間を掛ければ修復出来る――最も、今はその時間が無いので傷口を塞ぐだけなのだけれど。
程なくして左の肩口の傷は閉じ、エーテルの流出も止まった。そこで改めて、右の二の腕を覆いつくすその装甲を見つめる。
《誓約》の力で編まれた漆黒の装甲――このサイズとして構成されるのは随分と久しぶりだ。普段の力の行使は大抵の場合拳を覆う程度のサイズになるのだから、それだけ敵が強大であると言う事なのだろう。
それでも過去最大に展開された時と比べれば篭手程度のサイズなど大した事は無い。腕一本分程度の代価の要求は過去に何度もあった事に過ぎないのだ――
「ねぇアルフィア、貴方の能力の行使に何かしらの代価が必要だとは聞いてたけど、腕一本分の代価って相当重いモノなんじゃないの?」
腕一本を代価にして漆黒の篭手を形成させた私を心配するように、紅白の服を着たクオン殿が私に声をかけて来る。
「気にしてくださる必要はありませんよ、クオン殿――腕一本程度の代価は払い慣れていますから」
肩口まで代価として使う事は最近では殆ど無かったが、経験の浅かった頃には幾度も経験している。それに、拳だけが装甲に覆われる際でも、左手の拳を持って行かれるのだ、片手を使わないで戦う事には慣れている。
「そう、貴方がそう言うなら――無理をしている訳じゃないのなら、それで良いわ。それで、貴方が前に出て敵を食い止めて、私とユーリで援護って事で良いのよね?」
「えぇ、それで問題ありません。私も遠距離への攻撃手段が無い訳でなないんですが、普段一人で戦っているので、飛び道具の類はどうも慣れていないんですよ」
代価さえ支払えば不可能な事などない《誓約》でなら遠距離への攻撃手段を用意する事は容易い――が、態々不慣れな方を選ぶ理由も無い。聞いた所ではクオン殿も近距離での戦闘が出来ない訳ではないらしいが、その程度でしかないらしい。
ユーリ殿に関しても、近接戦闘より圧倒的に遠距離への攻撃手段の方が強力であるらしい。で、あるなら私が前に出るのがもっとも理に適っていると言う所だろう。
「蒸し返すのもアレだけど、前に出るのに片手が無いって言うのは本当に大丈夫なの? 遠距離からなら兎も角、近接戦で腕が一本無いって結構致命的だと思うんだけど?」
「本当に心配してくださらなくて良いですから。相応に自負はありますし、基本的に戦う際は片腕なので――本当に慣れているんですよ。それに、前に出て戦うのは私が一番適役だという結論は既に出ているでしょう?」
その私の言葉にクオン殿は諦めた様に溜息を吐きながら「分かったわ、蒸し返したりして悪かったわね」と言って視線を私から外して彼方――敵が迫ってきている方へと向ける。
そのまま視線を私へ戻さずに「だけど、厳しいと感じたら直ぐに言いなさいよ、貴方。私も少しは戦えるつもりだから前に出て戦うわ――どれだけ力になれるか分からないけどね」そう言って来る。
気持ちはありがたいが、恐らくそんな事にはならない。力が足りなければより多くの代価を支払い力を得れば良いだけなのだから。もっともそれを馬鹿正直に告げれば話が拗れるだけなのは目に見えている。
故に「そうさせてもらいますよ、クオン殿。それからユーリ殿も、援護の方をよろしくお願いします」話が拗れない様に、そんな形だけの言葉を返した。
もう敵は直ぐそこまで迫ってきている――今、話を拗らせていても仕方ないのだ。
「あぁ、俺もクオンちゃんに心配されたいなぁ……」
ポツリと、今まで一言も発さなかったユーリ殿がそんな事を呟いたが、それが彼のいつも通りだと聞いている私は、その言葉を聞き流す事にした。
「否、寧ろあれだよ、クオンちゃんに虐めて貰って、その後やりすぎちゃったかなぁ?とか心配してしてもらうのが最高なんじゃないか? ちょっと待って、そのシュチュエーションマジ最高じゃね?」
――と、言うか彼は今の状況を正しく飲み込めているのだろうか……共に戦う上でそれだけが心配だった。クオン殿はクオン殿で完全に無視を決め込んでいるようだし……
(性格と実力は関係ないぞ、アルフィア。性格がどれだけ酷かろうが戦力に成れば良いだろう?)
いや――だから私は戦力になるかどうか心配をしている訳なのだが?
(それについては問題なかろう、仮にも守護者なのだ、戦いが始まればそちらに集中してくれるだろうよ)
まぁ、そうであると信じるしかないか……
等とそんな事に思考を巡らせている間に、敵の姿がいよいよ視認出来る距離に到達する。
全身を銀の鎧で纏った男が此方に近づいてくる。体型から考えてまず間違いなく女と言う事は無い、絶対にとは言い切れないが、背丈はかなり高く肩幅も広い事からほぼ断言していい。
もっとも、性別がどっちらであっても関係ない事ではあるのだが――
「クオン殿、此方では敵が視認できましたが、そちらは?」
私の投げた言葉に「――こっちも今見える様にしたわ。随分ゴツイ感じの相手だけど、行けそう?」そう軽く返して来る。
「無論です。そも、相手の体格など殆ど関係ないでしょう? 重要なのはエーテルの保持量と聖具や自身の能力、後は精々経験程度……見た限り保持量では及ばぬでしょうが先も言ったとおり腕に自負はあります。貴方達の支援もありますしね?」
「なら、その期待に応えられる様に此方も頑張ろうかしら――ユーリ、行けるわね?」
「クオンちゃんのお願いならお兄さん何でも聞いちゃうよ! で、行くってどこへ?」
……彼は、本当に大丈夫なんだろうか?
(我も少し心配になってきたぞ……)
「戦いに行くのよ――ってかもう敵がそこまで来てるの、アンタ状況分かってる?」
「冗談だよ、クオンちゃん。幾らなんでもそれぐらいは分かってるさ。まぁ、お兄ちゃんにはまだその敵の姿って言うのが見えないんだけどね……っと、ようやく見えてきたよ――なんだかアレだね、凄く硬そうだ」
大丈夫、なんだよな? 否、大丈夫だろう、そう信じるしかない。
「それでは、私は今から敵を迎え撃ちに行きますので、援護をよろしくお願いします」
「援護の方は任せなさい」「何で男の援護なんて――否、逆に言えばクオンちゃんと二人で共同作業が出来るって事じゃね? 何それ、スッゲーテンション上がるんだけど」
――大丈夫、少なくともクオン殿はマトモだから大丈夫。そもそも、代価を支払えばどうにでも成る。
(それなんだがなアルフィア、ユーリとか言う馬鹿を代価に使用するのは駄目なのか?)
……否、駄目だって言ってるだろ。
《誓約》の提案に一瞬心が揺らいだが、それを振り払って足場を作って蹴り、銀の鎧を纏った男の元へと向かう。
そうだ、幾らなんなのでも駄目な物は駄目なのだ――私は二度と誰かを代価にしたりしない。かつて未熟だった頃の自身にそう誓ったのだ。
(まぁ、汝がそうだと思うのなら無理強いする気は無い。他者と言うのは汝自身よりは代価としては軽いからな――効率が悪い手段を使いたがらぬのは我にも理解出来る)
そこの所でお前と分かり合える日が来るとは思っていないさ、私は。効率がどうとかではないんだよ。
(ふむ? 効率以外に気にする事などあるのか?)
もうその話は終わりだ《誓約》そろそろ良い頃合の距離だ。
(あぁ、了解だ。それでは我等の誓約を果すとしようか、アルフィア?)
《誓約》のそんな言葉を聞いている間にも彼我の距離は詰まっていく。
そして――「汝等三人が我の標的か? ふむ、一人が前に出て足を止めて残りは支援か……成程、陣形としては悪くない」後一歩踏み込めば攻撃園内に届くかと言った所で銀の鎧を身に纏った男はそんな事を問いかけてきた。
投げ掛けられた言葉に、つい動きが止まる。銀の鎧は顔まで覆っているのに、その声はやけに明瞭に聞こえる――とは言え、どんな仕組みであった所で今気にする事ではない。
「しかし、片腕しかない者を前線に立たせるとはどういう事だ? あぁ――もっとも、両腕が有った所で結果は変わらんのだがな」
余裕を見せている今がチャンスと取るべきか? 単に誘っているという可能性もあるが……あの男の聖具があの銀の鎧である事はまず間違いない。武器も持っていない様なので、私と同じ近接格闘で戦うタイプと見て良い筈だ。
「ふむ……我と話し合う気は無いか。まぁそれも良かろう。先ずは汝から散してくれようではないか」
言いながら、銀の鎧の男は両の手を握り締めて構えを取る――明らかに誘っているのは見聞きしていれば分かる。が、此方から仕掛けてやる理由など無い。今の私には、援護をしてくれる仲間が居るのだから。
そんな風に思考を巡らせた瞬間、鎧の男の目の前の空間に突然爆発が起こり、その次の瞬間には何処からともなく現れた諸刃の短剣が、銀色の鎧に向かって放たれ、その短剣の接触と同時に更なる爆発が起きる。
それをチャンスと見て取った私は、鎧の男を攻撃範囲に捕らえる為の最後の一歩を踏み出した。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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