EternalKnight
VS炎陣/開幕
<SIDE-Racste->
王が展開したゲートを通り抜けた先には私達以外の無数の反応があった。予め分かっていた事だけど、その数は私達よりも多い。だけど敵は聖具の契約者でしかない唯の人間の魂でしかない。本当の地獄を経験して来た私達が負ける相手じゃない。
「……ほぉ? 陣形を組んでいるとは聞いていたが、丁度良い具合に12組に分かれているじゃないか……ならば丁度良い、一人一組をノルマとしようか。どの組と戦うかは早い者勝ちと言う事で良いだろう――あぁ、無論最高位が居る組は私が相手をするがな」
最高位と言うのは敵陣の中央に居る強大な反応が二つある組の事だろうか? 相手が誰であろうと関係ないけれど、王が言うのなら仕方がない。私達は、王には逆らえないのだ――此処から居なくなりたくないから。
まぁ、王が相手をすると言っているの居ないものとして考えていれば良いだろう。私は私に与えられた仕事をこなすだけだ――ノルマだけで燃やし足りないと感じたのなら、適当な世界でまた飽きるまで燃やし尽くせば良いのだから。
私の感じた地獄には劣るけど、近いモノを――あの地獄を知らずにのうのうと生きているだけの屑共に教える必要がある。否、そもそも、屑は燃やす為に存在しているのだ、燃やす事に理由なんて必要ない。
焼いて、燃やして、灰にする。何かをそうしている瞬間だけが、苛立つ私の心を癒してくれる。
「さてお待ちかねの開戦だ、下僕共――周りの雑魚の足止めは任せる。俺と最高位達との戦いに邪魔が入らない様にしろ……あぁ無論、雑魚共に関しては殺しても構わん、好きにしろ」
王のその言葉に、私の体は自然に動き出した。焼いて燃やして灰にする標的をいち早く確保する為に。
――それでも、私は何人かの同類に追い抜かれていく。私よりも先に獲物にありつける彼等に怒りを覚える。苛立ちが膨れ上がっていく、あぁ早く、早く早く早く、私の心を癒して欲しい。この苛立ちを止めて欲しい。
兎も角、今居る場所から一番近い、まだ誰も手をつけていない獲物の元へ、私は自分に引き出せる最高のスピードで駆け抜けた。

<SIDE-Vass->
セト殿からの連絡を受けて一分と立たぬ間に、凄まじい速度で此方に向かってくる反応を補足する。その数は五人――八人……否、合わせて十二人まで補足できた。以降後続が現れる気配は無い。
数が少なくなるとは先程聞いたが此処までとは。しかし、十二人か――此方が分けたチームと数が同じなのは偶然なのか、必然なのか……
とは言え、此方としては他チームとの連携等を考えていなかったので各チーム毎に戦えるのは悪くない事ではある。
(仮に内通者が居たとして、此方の数に合わせた理由が分からぬ。そもそも我々は特に考えなくチームを組んだ結果12組になったのだろう? 加えて言うのなら組み分けが決まった時点から今までではあまりに時間が短すぎる)
と言う事は偶然と考えた方が良いか――かと言って完全に忘れて良い内容でもない。元々守護者だった者達と拙僧自身を除けば誰が敵側であってもおかしくはないのだ。否、元から守護者のメンバーだった者達すら絶対に白という訳ではない。
もっとも、疑うだけでは連携も何もない。少なくとも偶然である可能性の方が高いのだから気に留めておく程度で問題ない筈だ。
考えている間にも敵の反応が迫ってきている。もう既に戦いが始まってしまっている場所さえあるが、少なくとも拙僧達を狙っていると思われる反応が此処に到達するまでもう暫く時間があるようだ。
「さて、そなた達ももう補足出来ているだろうが、そろそろ敵が来る――準備は良いかな、二人とも?」
「あぁ、俺達の方は問題ないです、ヴァーシュさん」
拙僧の問いに応じるのは、異質でありながら違和感のない声――拙僧と同じハグレの男女だ。男の名はウィルフレッドと言い、女の方はシャルと言うらしい。
彼等に拙僧を加えた三人で一つのチームと言う事になっている。敵の数が此方のチーム数と同じ事を考えると、少なくとも敵を一人を我々三人で相手にしなければならないと言う事になる。
「落ち着いて、予定通りに戦おうぞ、二人とも。少なくとも数では勝っているのだ、反応の強さから見ても敵との差はそこまで大きくない、我等三人でなんとか出来る筈」
反応からそこまで絶望的な差では無いと予測出来るので、三人で勝てない場合でも只管に時間を稼ぎ、敵を倒した他の組の協力を待てば何とかなるだろう。まぁ、そうはならない様に頑張らなければいけない訳ではあるが。
敵の反応が迫ってくる。既に知覚可能な距離に入り数十秒経過している、敵の速度を考えれば目視可能な距離に入るまで十数秒、戦いが始まるのはその数十秒後と言った所だろうか? どちらにしても一分もすれば戦いが始まる。
「では敵も本格的に接近してきた事だしそろそろ始めようぞ二人とも――この世界の全てを守る為の戦いを」
言って、それに続けるように「《AttainEnlightenment-悟り-》」自らの能力の名を紡ぐ。それと同時に知覚している世界は、様々な形に変質したエーテルと言う因子が無数に連結されて構成された異界へと変貌する。
既に見慣れた異界――だがそう見えるだけで世界は何も変わっては居ない。力を発動させた私の眼がこの広域次元世界の本質を映し出しているだけに過ぎない。ウィルフレッドも、シャルも、敵も、自身も――全てはエーテルの塊に過ぎない。
能力を発動すれば常識を捨てられる。人であった頃の肉体の法則から解き放たれる――これにより効率良くエーテルで出来た体を運用出来る。人であった頃の肉体の法則が枷となって普段は使えないその術を。

<SIDE-Wilfred->
ヴァーシュさんの詠唱を最後に、俺達三人は全員各々の構えを取り、唯静かに敵を待つ。防御に関してはもっとも優秀な防御能力を持つシャリーが対応する事になっているが、迫る敵は遠距離からの攻撃の兆候を見せていない。
良し――俺達三人の組み合わせだと一番厄介な相手は遠距離から仕替えてく来るタイプだったが、この様子ならそれはなさそうだ。
とは言え、完全に中距離の間合いに入ってくるまではなんとも言えないが、彼我の距離と一向に落ちない接近速度から考えてそれは無いと俺は断定した。
どの道俺の役割はヴァーシュさんが請け負う近距離戦のサポートか中距離での戦闘だ、遠距離攻撃への対応はシャリーに任せるしかない。
まぁ、彼女が近距離か中距離で戦うタイプなのは間違いないな――遠距離で戦うなら、ここまで間合いを詰める必要なんてないしな。
そんな風に思考を纏めながら、俺の攻撃範囲に入るまで後もう少しの距離で停止して此方を観察する様に見つめる、腰まで届く灰色の長い髪の女に視線を固定する。
長い髪とその身に纏った透けるような薄紅色の羽織、そして何よりその苛立たしげな表情が目を引く――この段階において武装らしい武装は見当たらない事を考えると、彼女の聖具は身に着けている何かか、或いは形を持たないタイプだと考えられる。
一番怪しいのは現状あの羽織だが、聖具の形状から能力が全く読めないのだから現状敵の能力は一切不明だと言って良い。否、此処に至ってはほぼ関係ない話だが、遠距離での攻撃手段が無いと言う事はまず間違いないのか。
そこまで思考を展開した所で女の唇が呟く様に動いたのが見えたが、元々呟いていたのと距離があるのとで、その内容は分からないが、一つだけ分かった事があった。
――同じ言葉をずっと繰り返してるのか?
俺がそれに気付いたのと同じタイミングか或いはそれに少し遅れて、呟く様に動いていたその唇が完全に閉じて、彼女は生み出したであろう見えない足場を蹴って俺の攻撃範囲内に飛び込んできた。
それにあわせる様に「《ShuffleSharp》」と短く紡ぎ、片手に四枚づつ白いカードを顕現させ、そのまま両手で合わせて八枚のカードを女に向けて投げつける。
相手がどんなタイプの聖具を持っているか分からない今は、属性を付与した《TrickShuffle》より切れ味のみの此方の方が確実な牽制になる。
放たれた八枚のカードは猛烈なスピードで真っ直ぐに女の下へと飛んでいく――この攻撃をどう対処するかで俺の続けるべき行動が決まる……効果がある様なら続けて《ShuffleSharp》を使い続けるし、効果が薄いか無い場合は他の方法止めせば良い。
《TrickShuffle》を用いれば属性を含んだ攻撃も可能なのでどこかで敵の能力に対して有効な攻撃にはなる筈だ。兎も角、今は《ShuffleSharp》がどの程度あの女に効果があるのかを――
「紙切れで、私を止められると思った?」
此方に聞こえる様にはっきりと、女は言葉を口にして――速度を落として体勢を整え、右手を迫る八枚に翳し、苛立たしげだった表情を崩して口の端を吊り上げる。
次の瞬間、俺の放った八枚のカードは女を切り裂く事無く、中空で炎に焼かれて灰となった。
防がれたが、相手の使う属性は分かった。炎、相手は炎使いで間違いない。それも放たれた《ShuffleSharp》を中空で全て同時に燃やせる程に正確無比で強力な火力でありながら、尚且つ複数個所を同時に狙えるレベルのだ。
能力は強力だが考えが甘い。あれだけ強力であるなら他の属性は使えないと自己申告している様な物なのだ――露払いの為に見せて良い物じゃない。
属性や能力の方向性が割れれば戦い方は幾らでもある。例えば、相手が炎を使うのならこちらは――
考えている間に女は再び中空を蹴って動き出す、その標的となっているのは先程仕掛けたからなのか間違いなく俺に向いている。だが俺はそれを気にせずに視線を女から外し、シャリーの方へ視線を向けて合図を送る。
その俺の視線に気付いたシャリーは、直ぐに察して頷いてくれた。それを確認しながら「《TrickShuffle》」力の名を紡ぎつつ視線を元に戻すが、その先に女の姿は無く、右拳を突き出した状態のヴァーシュさんの姿だけがあった。
「直情型な性格だな、彼奴は――まぁ、お陰で不意をつけた訳ではあるが……しかし、信頼してくれているのは今ので伝わったのだが、幾らなんでも戦いの最中に敵から視線を外すのは、如何な物かと思うが?」
「最悪の場合はシャリーが盾を張ってくれる手筈だっただろ? だから身を守る事よりも次の攻撃に繋げる一手を選んだだけだよ、俺は」
言いながら先程の詠唱で顕現した八枚の青いカードを、ヴァーシュさんの視線の先に居る体勢を崩したままの女に投げつける。それに応じる様に、体勢を崩したまま女は「何度やっても紙切れで私は――」叫びを上げて迫る青いカードに視線を向ける。
ノーモーションで行けるのか――なら最初に手を翳して発生させたのはフェイクか? だが……一度破られた技を状況が違うからと言って二度も使う程、俺は馬鹿じゃない。
中空を進む青いカードは、女の力によって発火させられる前に拳大の氷塊へとその姿を変える――そして次の瞬間には氷塊を炎が覆い、女の下に届く前に全て溶けて固体から液体、即ち水に変質する。
此処までは計算通り、そして俺達にとっての本命は――「水よ、貫け」俺よりもさらに後ろで一節の言霊を紡ぐシャリーの一撃に他ならない。
敵の属性たる火に対してもっとも効果が期待出来る水の属性、そのLv5たる彼女が紡いだ言霊の通りに、溶かされ中空に舞う水は形を成して槍となり、至近距離から炎の女に向けて放たれる。
アイコンタクトで伝えた作戦は完全に俺の考えたとおりに実行される――遠距離からの水の槍なら、到達する前に何度も炎に晒されれば蒸発してしまう恐れがあった、故に至近距離からしかける必要があったのだ。
属性としての有利さを利用するのは戦いの定石だが、それは所詮有利なだけで在り、決して覆せない訳ではないのだ。
女は「全て、燃えろ」と呟いて、怒りに苛まれた表情を歓喜に歪ませる、瞬間、水の槍が女を貫く前に炎が女を覆う――それに数瞬遅れて水の槍がその体を貫く。体の表面を覆う様に炎の幕を用意した所で、その程度で水の槍は止まらない。
そして、先端がその体を突き抜けた事を示す様に、女の背から生えている。流石にこれで終わりだとは思わないが、相応のダメージは与えられた。水属性の魔術によって編まれた水の槍は確かに炎の女を貫いている。
――だと言うのに「無駄よ、全て」貫かれたまま、燃え上がる女は何事も無かったかの様にそう断言する。その宣言が合図だとでも言う様に女を貫いていた水の槍は蒸発して消えてなくなる。
そう、これはごく自然な事だ。根底に力の差があるならば、有利不利などという目安は何の意味も持たない。
「もう貴方達の攻撃は私には届かない――三人纏めて、焼いて燃やして灰にしてあげる」

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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