EternalKnight
開戦間際
<SIDE-Leon->
――待て、それはかなり拙いんじゃないか? 否、《剣皇》がこちらに向かってきているのをセトが捕捉しただけかもしれない。
(……言っちゃなんだが、その考えは甘えだと思うぞ?)
「……どうして敵だと思うんだ、セト?」
「どうしてって、じゃあレオンは味方が気配を消して近づいてくると思う? そりゃ平時なら脅かそうとしたとか色々あるだろうけど、今は非常時でしょ?」
成程、それは確かに味方だとは考えにくいな……しかしそうだとすればかなり拙いな。否、接近に気付けたのだからまだマシだ。最悪仕掛けに行こうとしてるこっちが奇襲を受ける所だったのだから。
「成程、それなら全員に伝える内容を追加だ、セト――もうすぐ敵の方から仕掛けてくるから全員チーム毎に固まって、いつでも動ける様にって指示を出してくれ」
「向こうから仕掛けてくるって、相手は偵察らしき相手一人よ? 気配を消してるからクラスまでは分からないけど、こっちには最高位のあなたやグレンが居るのよ? そこまで警戒する様な相手?」
そういえばアレの事はこっちから仕掛けるから必要ないと思って皆には伝えてなかったのか……
「一人だけじゃないんだよ、それが――兎も角、事情は後で説明するから今は全員に連絡を頼む」
「分かった。さっき全員捕捉したから直ぐに済むわ」
言って、目を閉じて俯く事数秒――「これで全員に伝わったわ」そう良いながらセトは顔を上げた。
「それで、一体どういう事なのよレオン?」
「セト、破壊者が宮殿を襲撃してきたあの時《呪詛》は転移能力で宮殿の深部に現れたんだ――奴の部下を引き連れてな」
「それは知ってるけど、何かしらの制限があるんでしょ? そもそも自由に転移が出来るなら、レオン達が居ない間に宮殿を攻めてこれば良かった訳だし? って、そういえばレオンはなんで制限があるって知ってたのよ?」
「ネロに聞いたんだよ、つってもそのネロも他の魔獣に聞いただけだそうだがな。本題に戻すが《呪詛》の転移能力には制限じゃなくて条件があるんだ」
そして、だからこそ話せなかった。ネロが居る手前他の皆にはどういう条件で《呪詛》が転移を行えるのかの説明が出来ず、かといって皆にネロが敵でないとクロノの能力心を読んだ事を説明する訳にも行かなかったのだ。
「どっちでもあんまり変わらないと思うけど……それは兎も角、その条件って言うのは?」
「魔獣が転移先に居る事、だ。もっともその魔獣の側にも拒否権はあるみたいだけどな。だからネロが居る事によって《呪詛》がいきなり転移してくる事は無い」
そもそも《呪詛》が全ての魔獣の位置を把握しているとは思えないので、ネロの居場所に転移と言う選択支が《呪詛》の中に存在しているとは思えないのだが。
「成程ね――それで気配を消して単騎で近づいて来る敵を一人だけじゃないって言った訳ね……って言うかそうなると事実上《呪詛》の率いる軍勢と此処で開戦って事になるわよね?」
「あぁ、そうなる――だが寧ろ此処である事は喜ぶべき事だろ、相手の本拠地である《輪廻の門》で闘う訳じゃない以上、少なくとも地の利が相手にあるって事は無い訳だし」
もっとも、その地の利を捨ててまでこのタイミングで仕掛けようとしてきている時点で《輪廻の門》で闘っても対して変わらないのだろうが。
それでも、少なくとも地形的な相手の策を警戒しなくても良くなるという意味では喜ぶべき事だろう。
「でもちょっと待って、魔獣が居なきゃゲートが開けないならゲートを開かれる前に倒しちゃえば良いんじゃない? 超長距離から一撃でズドン、って感じに? 少なくとも私しか相手の位置を補足出来てないなら相手だってこっちの動きは分からない筈でしょ?」
まぁ、それが出来ればそれに越した事は無い訳だが――
「それはどうやってお前しか位置を補足出来てない場所に超長距離から一撃をズドンと届かせる気だ? 一発で当てれなきゃ相手もこっちの意図を察してゲートを展開してくると思うぞ?」
「私がしっかりと座標を教えてあげればいいでしょ?」
座標指示だけで細かく狙えるなら誰も苦労しないと思うが――そもそも座標は広すぎる虹色の世界を移動する為の目安に過ぎない、それを的にするなんて正気の沙汰じゃない。
「そもそも、未だに俺の知覚範囲内に入ってない相手に、それも一撃で仕留められる程の攻撃を届かせれると思ってるのか?」
「攻撃が届く距離まで近づいてくるのを待ってば――「待ってる間にゲートを展開されたらどうする? どの道戦う事は避けられない相手で、だったら敵の根城で戦うよりも此処で闘った方が良い。少なくとも俺はそう判断した」
「どうせ此処で戦うつもりなら長距離からの一撃を試す事ぐら「駄目だ、エーテルを無駄に使わせる事は出来ない。そもそも、お前はどうしてこの場所で戦うことを避けようとする?」
セトの言葉を遮って、強めの口調で彼女に問う。
「……別に、此処で戦うのが嫌って訳じゃないわ――もう何千年と生きてきたけど、情けない話怖いのよ。死ぬかもしれない戦いって言うのが」
「死ぬのが怖くない奴なんて居るのか? 否、そりゃこの広域次元世界は広いから探せばそういう頭の螺子が外れてる様な奴も見つかるかもしれないけどよ……普通は誰だって怖いだろ?」
「特に私は、宮殿の深部に篭ってただけで戦った経験なんて殆ど無いから余計に怖いのよ――だから覚悟を決める時間ぐらいは欲しい、そう思っただけよ……今まで十分にその猶予はあった筈なのにそれを先延ばしにしていた私が悪いんだけどね」
「戦闘の経験があるとかないとか、そんな事は関係なくさ」
誰だって普通なら死ぬのは怖い――だが、だからと言って目の前の事象から逃げては行けない。それは逃避であり、何の解決にもならないから。だけどそれは俺の中にある理屈で、それを他人に押し付ける気は無い。
「それになセト、言っただろ? 逃げるなとは言わないってな? お前がどうしても戦うのが嫌だって言うのなら逃げてくれたって構わない。俺にはそれを止める権利も非難する権利も無い。お前の命はお前の物だ、好きに使えば良い」
「負けられない戦いなんでしょ? 私達が負ければ広域次元世界がどうなるかは分からないんでしょ? だったら、自分だけ逃げる事なんて出来る訳ないじゃない」
そうだ、セトの言う様に自分だけ逃げるなんて選択支を選べる奴はきっと守護者には居ない。そういう選択が出来ないからこそ、彼等は守護者になったのだから。
「そうだよな、確かに逃げるなんて皆には選べる訳無かったよな……」
だけど――例えどれ程俺が卑怯な奴だとしても、この戦いだけは負けられないのだ。後悔はしないと、そう決めたのだ。だから俺は、自分がどれだけ卑怯な男だと自覚しても、立ち止まらない、立ち止まれない。
「心のどこかで分かってたんだよそんな事。俺はこの戦いに勝つ為に、皆を利用してる。出来る事なら俺一人でやるべきなのは分かってる、だけど俺の力じゃ足りないから、だから皆の力を借りるんだ……どれだけ卑怯な言い回しで皆に力を借りたとしても」
「……卑怯な言い回し? 何よそれ、私達が貴方の言い方に惑わされて手を貸してるとでも思ってるの? 例え貴方が何を言おうと、例え貴方が居なかろうと、私達は絶対に《呪詛》と戦う……貴方の言う様に逃げるなんて私にも皆にも選べないから」
「セト……」
「死ぬのは怖いけど、絶対に逃げたりはしない――私は普段から戦いを避ける様に宮殿の深部に篭って、それで居て宮殿が危機に晒されれば転移能力でその場から離脱するわ……けどそれは逃げじゃない」
あぁそうだ、知っている。お前は自分がどれだけ守護者を支えているのかを知っている。
「私が死ねば、この広域次元世界の片隅で起こっている横暴を発見できなくなって、皆の想いと力が万全に振るえなくなる――だから私は自分の身の安全を優先してきた。言い訳じみた言い方だけどそれが私が戦いを避けて来た理由……」
だからお前は自分の身を守る――少なくとも、自分の事しか考えない様な奴に薄暗い宮殿の深部に篭って延々と探索を繰り返す事なんて出来はしない。
「けど、今度ばかりはそれを理由に戦いを避けない。私の力は微弱かもしれない、それでもこの広域次元世界を守る為に何かをしたい――だから私は戦う、絶対に逃げたりしない。ありがとうレオン、貴方のおかげで覚悟が決まったわ」
「別に俺は礼を言われるような事なんてしてないさ――とか言ってる間にも敵が近づいてきてるみたいだな、俺の方でも今捕捉した。まぁこっちも《輪廻の門》へ向けて移動してるんだし、当然と言えば当然か」
敵との距離は急速に縮まっている――反応が薄いので警戒していなければ気付けないだろうが、先程臨戦態勢で居る様に指示を出したので、距離がもう少し詰まれば気付く者も出てくるだろう。
問題はどの程度の距離で魔獣側が展開してくるか、なのだが……相手が幾ら奇襲狙いだからと言っても、セトの提案した長遠距離からの攻撃を警戒していないとは思えない。
俺が把握している範囲で守護者の中で最大の攻撃距離を持つのはクロノだ――が、その能力は広範囲を殲滅する能力であって超遠距離に居る敵を攻撃する類のモノではない。さらに距離を伸ばせば伸ばすほどその威力は減衰する。
俺の知覚範囲に入ってきた程度の距離まで攻撃を伸ばそうとすれば、その威力は高が知れている程度にまで減衰すると見て間違いない。
とは言え、敵が此方の最大攻撃距離をどの程度だと思っているのかが問題であり、遠距離からの攻撃を視野に入れていない以上、此方の実際の最大攻撃距離は関係ない。
いや、と言うか此処で戦うつもりなのなら今から展開している方が良いのか? だが、下手に展開しても相手に気づいた事に気付かれるだけで、向こうも展開を始めてしまう。
とは言え、警戒する様に全員に指示を飛ばした時点で展開していなくても向こうに気取られる可能性は十分にある。
相手の奇襲の裏をかいて逆に此方が奇襲を掛ける形にできるのが理想だが、そう簡単に事が運べば苦労しない。相手の奇襲に気付けただけでも良しとして展開してしまう方が、下手に賭けに出るよりは無難なのもまた間違いない。
そもそも、俺の判断で全員が動くのだ。実質全員の命を預かってるに等しい以上、無茶なマネは出来ない。
「……悪いセト、もう一度全員に連絡を頼む。内容は敵が直ぐそこまで近づいてきている事、この場で敵を迎え撃つ事の二つだ――それが終わったらお前も自分のチームに戻れ、俺もグレンとネロに合流する」
「わかったわ、私の方は直ぐに終わるからちょっと待ってて」
言いながらセトは瞳を閉じる。全員の反応を補足する為だろう。実際に、先程も数秒で補足できた事を考えると、ある程度皆が合流している今、補足するだけならさらに短い時間で済むだろう。
そんな事を考えている間にセトは瞳を開きながら「連絡、終わったわよ」と告げてきた。
「悪いな――それじゃあ、行くか……セト、死ぬなよ?」
「それはこっちの台詞よ、レオン。貴方こそ死んだりしないでよね――貴方達が負ければ全部終りなんだから」
「あぁ、分かってる。負けはしないさ――絶対に」
負けない、負けられない。この広域次元世界の為にも、そこに住まう全て命の為にも、仲間の為にも、俺自身の為にも――絶対に、負けられない。
「それじゃあ頑張って、私も頑張るから」
言って、セトは俺に背を向けて飛び出す。彼女の見つめるその先には、アリア達の反応がある。セトのチームは最大人数の四人チームで、しかも覚醒したばかりとは言え準最高位のアリアが居る、心配はないだろう。
「さて――それじゃあ俺もグレン達と合流するか……」
俺しか居なくなったその場で俺は小さく呟いて、此方に向かってくるグレンとネロの反応との距離を縮める様にその場から移動した。

<SIDE-Curse->
開戦を間近に控えて、周囲に集まった下僕達に改めて視線を向ける。
杖を持った初老の男アルカス、身の丈程の大きさの突撃槍を持った女フェナハ、そして巨大な鎌を肩にかける女トクォ。
槌を背負う男ダージュ、その肉体を聖具とする男、ケビン、俺の隣に立つ少年、レイビー。
そして、カノンが抜けて六人となった王下を支える、王下に選ばれなかったが十分な実力を持つ、五人。
紅の羽織を纏う女、ラクスタ、全身を鎧で覆った姿の男、フレド、爪型の聖具を身につける男、スタン、巨大な剣を地面に突き刺し、腕を組む男、レイブ。
最後にこの場には居ないが、先行してゲートを開く役目を担った、その身を獣へと転じさせる男、ヴェルガ。
そしてこの俺を含む十二人が完全なる六の残り四つの内の三つを手に入れる為に俺が用意した戦力だ。
「さて我が下僕どもよ、先行したヴェルガがゲートを開くまでもう暫くだ。故に、もう暫くの我慢だ。時が来れば、存分に暴れろ――敵は守護者、相応の実力者達だ、貴様等も存分に楽しめるだろう」
その俺の言葉に、10人はそれぞれの反応を見せる――
詰まらなさそうにため息を吐くアルカス、いつも通り笑みを絶やさずに居るフェナハ、楽しげに表情を歪ませるトクォ、無表情のままでいるダージュ、何か考え込んでいる様な表情のケビン、そして唯静かに目を閉じて聞いているレイビー。
苛立たしげにしているラクスタに、鎧のせいで表情の読めないフレド、待ちきれない様子のスタン、最後に面倒そうな表情のレイブ。
見る限り、戦うことを望んでいない様な者も見て取れるが下僕共が何を考えていようが俺には関係ない。その身が呪われている限り、彼等は俺の下僕でしかないのだ。
【ゲートを開く準備が出来た――が、奇襲は無理だ、気付かれてる。連中陣形を組んで待ち構えてやがるぜ、王様。こっちもこの距離で展開しとかねぇと逆にゲートを開いている間に仕掛けられるかもしれねぇ】
そんな事を考えている内に、ヴェルガからゲートを開く準備が整ったとの念が届く。その内容は、期待ハズレな物だった。……まぁ良い、どの道俺が相手をしなければいけない相手は奇襲程度で倒せる訳がないのだから、下僕共の労力が増えるだけだ。
【そちらの状況は把握した。まぁ、その様な状況なら仕方がないだろう――それではヴェルガ、そちらへのゲートを開け】
【了解だぜ、王様】
「さて、今しがたヴェルガから念が届いた。どうやら相手に気付かれた様で、奇襲ではなくなったらしい――が、貴様等のやるべき事は変わらん」
言っている間に、並び立つ俺達の目前にゲートが形成される――準備は、整った。
「存分に俺の与えてやった力で狂い乱れろ――行くぞ下僕共、開戦だ。俺に刃向かう者共を一人残らず貴様等の同類にしてやれ」
言いながら、俺は先頭を切ってゲートへと足を踏み入れた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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