EternalKnight
再会-二つの牙-
<SIDE-NameLess->
《呪詛》が居る《輪廻の門》を目指して、只管に虹色の世界を進む。俺が魔獣であるせいか、或いは唯の偶然か――俺の周囲は不自然に開けていた。否、不自然な開け方と考えるのは意識しすぎか。
俺達のチームはレオンが細かい作戦は組むだけ無駄、互いに邪魔をし合わない様に《呪詛》に仕掛ける事だけ考えればいいと言う大雑把過ぎる案で移動の開始と同時に話し合いを終えたが、他のチームは今もって話し合いを続けている所も多い。
まぁ、俺達は《呪詛》以外なら最高位二人でゴリ押しという形で勝利をつかめるのだから、多対多を想定する必要が無いのである意味レオンさんの言う通りなのだが。
兎も角、今現在は作戦と言うか戦法を練り終わったチームは少なく、その中でさらに仲の良い相手が居ない俺がこうして孤立してしまうのはある意味当然なのかもしれない。
その時、俺の傍に近寄ってくる反応を感じ取る――そのエーテルの反応に覚えは無い。否、そもそも俺が今ココで見分けが付く反応等、特別反応の大きいレオンやグレンを除いて存在したりしない。
そして迫る反応はそのどちらでもない。だがしかし俺にはその反応が誰なのかを予想する事は容易い事だった。そう、話相手は居ない訳ではない――寧ろ俺の元に来るのが遅すぎたぐらいだ。
「……もっとはやく来ると思ってたが、案外遅かったな」
「話が合うからチーム組む事になった相方と能力の相性が絶望的に悪くて少しもめてたからな――話を纏めるのに時間が掛かったんだよ、コレでもこっちが譲歩して急いで切り上げてきたつもりなんだが?」
随分と話し方が偉そうになった――聖具のクラスはSSだったか? まぁ、その域の聖具と契約してここまで生きてきたのなら、多少増長するのも教え子の成長として認めてやっても良いかもしれない。
「それ以前に《宮殿》を出る前の時点で時間はある程度あっただろ?」
「俺は、アンタは死んでるモンだと思ってたからさ……《呪詛》を殺したらあんたは死んじまうんだろ? そんな状況突きつけられるとさ、こっちも色々と思う事があったんだよ」
思う事、か……コイツはコイツなりに、俺の事を心配してくれているらしい。だけど――
「成程、けど俺はもう一回死んでるんだ、目的を果たせずにな。だから――何の因果かもう一度与えられたこの命で目的を果せるのなら、それでいいと思ってる」
「アンタならそう言うだろうと思って、俺もアンタと話をしに来たんだ。今を逃せば、もう機会は無いだろうからな」
違いない《呪詛》達との戦いを目前に控えた今以外に、俺達の道が交わる場所はもう来ないだろう――《呪詛》との戦いの結末がどうであれ、それだけは揺るがないのだ。
「まぁ、そうだろうな。しかし、背格好は変わらないのに、暫く見ない間に随分と逞しくなったじゃねぇか、ケイジ?」
聖具の契約者である事を除いても、あの頃とは比べ物になら無い程の実力を身についているのは見れば分かる。そこに聖具の加護なんかを加えれば、俺よりもケイジの方が強いかもしれない。否、純粋な実力でも既に追い抜かれているかもしれない。
「そうでも無いさ――今でも聖具の加護なんかを除いた純粋な実力じゃまだアンタに勝てるとは思えないしな」
「おいおい、聖具の加護があれば俺に勝てるとでも言いたげだな?」
それは果たして謙遜なのか、事実なのか――或いは、ケイジの思い出の中の俺の実力が、時の流れに誇張されただけなのか。
「まぁ、一応SSクラスと契約してるからな。それぐらいは言わせてくれても良いだろ? 実際に試す訳にも行かないんだし」
……手合わせの一つでもすれば分かる事だが、ケイジの言うように今はそんな暇はない。そして、今を逃せばそのチャンスは二度と訪れない。
「と、言うかどっちが上か、なんてこの際どうでも良いだろ? 俺もお前も、あの頃から考えれば強くなったって、それだけ分かれば十分さ。争う訳でも競い合う訳でもないんだ」
「そうだな――アンタも俺も強くなった、それだけで十分だよな」
俺の実力は聖具の加護や魔獣としての基礎能力の向上を除けばあの頃から殆ど変わっていない。早い話が、俺の才能には伸び白が残されていなかったと言う事だ。
その点、あの時点では俺に及んでいなかったとは言え、伸び白があったケイジの今の実力は計り知れない。もっとも、俺があの頃居た領域に届く前に頭打ちしてしまったという可能性も無くは無いのだが。
もっとも、どうであれ四位の魔獣の力にCクラスの聖具の力が乗った程度でSSの聖具に届くのかと言われれば、はっきり言って厳しいどころの騒ぎではない――故に戦うまでもなく殆ど結果は見えている。
確定とは言い切れないのは、単に《滅び》――否《無銘》の能力の特殊性故だ。暴発した事が原因であるとは言え、世界一つを消し飛ばす程の威力は当たれば勝負を十分に決められる。
……否、単にどっちが強いかを決める模擬戦の様な場でそんな力を使う訳にはいかないだし、結局戦えば負けるのは俺なのか。
「――そういえば言い忘れてたけどさ。つーか、そんなになってまで《呪詛》を追ってるアンタにはどうでもいいかもしれないけどさ、昔の俺達の目的って覚えてるか?」
「俺達ってのは《復讐の牙》の事か? そりゃ覚えては居るけど、それがどうした?」
あの頃から、俺の目的は繋がっている――途中で少し方向は変わったが、俺の人生を歪めた元凶である《呪詛》を殺す事が目的である事に変わりは無い。
その過程として、あの世界を牛耳っていた連中の下らない望みによって生まれた下らない計画を潰す事が当時の俺達の目的だった訳だが――
「あれさ、俺一人で片付けといたよ。つっても黒幕だった《呪詛》が手を引いた後だったし《虚空》も居たから簡単だったけどさ」
確かに《呪詛》が手を引いたのなら魔獣は政府の戦力ではなくなるし、そう考えれば後は機動兵器以外に恐れる戦力は無い、そしてその機動兵器にしても基本的に制圧の為に使われる物であり、突出した強さの人間大の大きさの敵一人と戦う為には作られていない。
で、あるならSSと契約しているケイジにそれを殲滅できない理由は無い。
「少なくとも俺は皆の理由を知らなかったけど、俺個人の理由もあったけど、何より皆の意思を継ぎたかったんだ。アンタの望みに関しちゃ、関係なかったみたいだけどさ」
確かに、全ての現況たる《呪詛》を殺す事のみが目的な俺にとっては殆ど関係ない事だ。だが、そもそもあの世界であんな事が計画されなければ、俺はもう人として天寿を全う出来ていたのかもしれないと考えると、完全に無関係だとは言えない。
元凶は《呪詛》だが、その元凶が俺の人生に関わってきたのはあの計画のせいなのだ。それで無くとも、ケビンやケイジ――ラビやセリア、そしてもっと多くのあの世界の人々を不幸に導いていたあの計画が潰えたというのなら、それは喜ぶべき事なのだろう。
「俺は別に良いとして、お前の判断は間違っちゃ居ないと思うぜ? 少なくとも、ケビンやラビ、セリアの望みはたぶん果せてるんだろうからな」
「そう言って貰えると助かる。今あの世界がどうなってるかは分からないけど、少なくとも世界を牛耳ってた腐った頂点は全部俺が始末しといた。つっても、結局頭を潰す以外に方法が見つからなかっただけなんだけどさ」
あの頃、絶望的な壁に見えた五聖天の打倒は強大な力によりあっさりと成された。どんなに強大な壁でもそれを上回る力があればねじ伏せられる――それは、ごく単純な世界の法則。
だけど、今の俺には力が足りない。今更力を求めても間に合う訳が無い。――否、少なくとも俺には今大きな力がある。それはケイジであり、レオンであり、グレンであり、守護者メンバーであり、その協力者達であり、ケビンでもある。
俺には今、協力してくれる仲間が居る。だったら乗り越えられない壁なんて存在する筈がない、この仲間達と共にねじ伏せられない壁なんて存在する筈が無いんだ。
「ありがとよ、ケイジ」
そのことに気付かせてくれたケイジに礼を言う――無論、その礼の意味をケイジが正しく理解してくれるとは思っていない。だけど、それで良いのだ。寧ろそうであってくれないと小恥ずかしい。
「アンタに礼を言われる事じゃない。言った様に俺が個人的にどうしてもあの計画をぶっ壊したかったってのが一番大きい理由だったからな」
「お前がそう言うならもう俺からは何も言わねぇよ――らしくないってのは自分でも分かってるしな」
《輪廻の門》までの距離は暫くある――戦いが始まるまでの最後の時間をケイジと昔の話で盛り上がるのも悪くは無いだろう。

<SIDE-Leon->
宮殿を出発して随分立つが、未だに《輪廻の門》には到着しない。それどころか俺の知覚範囲にすら入らないのだから、到着にはまだまだ時間が掛かるだろう。
「それで《呪詛》達の反応はどうなってる?」
守護者において――そして恐らくこの広域次元世界で――最大の知覚能力を持つセトに、俺がそう問いを投げかける。
「特に目立った動きは無いみたいよ――さっきも言ったけど、SSS以上の反応が6つもあるくらいよ。後は、SSの反応が5つかしら?……なかなかにめちゃくちゃな比率だと思わない? SS以下の聖具の反応もひとつも無いのがなんか不気味なのよね、私的には」
やはり聖具持ちは11人で決まりか、時間を置いて二度確認している以上、間違いである可能性は少ないだろう。しかし、セトの言う様にSSが5つでそれ以下が無いというのも気になるな……
「確かに、準最高位以上が6つもあって、それ以下の上位聖具が5つ、それもSSのみって言うのは変だな。まぁ、お前が観測してその数しか認識出来ないなら間違いは無いんだろうが――」
――否《呪詛》が《根源》と《時空》を抑えているのならそれだけで最高位の枠は2つ埋まる事になるのだから9人になるのか? 残りの3つのSSSは前回の襲撃時に見た三人よ《呪詛》だと考えれば納得が行く。
どちらにしてもセトの言う様に酷い比率だ。EXが2つ、SSSも4つ、SSが5つと言う比率はかなりおかしい。それだけの数のSSS以上が集まるなら、もっと多くの上位聖具も集まると思うのだが……
(既に準最高位の者を魔獣にした、と考えればおかしな話ではないだろ? それに、今SSが5つしか無いからと言って、それ以下も含めて5つしか集められなかったと言う訳ではないと思うが? 相手が量よりも質を選んだと考えればおかしな話ではないだろ?)
!? そうか、クラスの低い聖具は破壊して手元にある聖具の質を上げたと考えれば、比率がおかしい事にも納得が行く。だけど、そう考えるなら――
(エーテルの保持量や能力の質が高い連中ばかりと言う事になるだろうな。俺達の相手は《呪詛》だからどちらにしろ関係ないが、他の連中が戦う相手の質が跳ね上がると言う事になるな――最も、負けていると思っていた数でこちらが有利になるがな)
数の利を捨ててまで質を選ぶって事は、個々の戦力に相当の自信があるって事だよな? それに、流石に人数が9人ってのは少数に戦力を絞りすぎてる。
こちらは総数が30人なので数で言えば、敵1人につき3人当ててもまだ3人余る計算だ。
此方の人数が相手の予想以上に多いのか、それだけその少数の戦力に自信があるのか、或いは単に此方が攻め込むのが早かった事で《呪詛》側が万全の状態でないか……実際に戦いが始まるまでそれは分からない。
(確かに、実際戦ってみなければなんとも言えんな。とは言え、実際にその連中と事を構えるのが俺達でない以上、注意を促す事ぐらいしか出来んがな)
「そうだな、とりあえず全員に伝えるだけ伝えておくか……まぁ、教えた所で敵の強さが変わる訳でも此方が強くなる訳でもないがな」
予想を遥かに下回る相手の数の少なさに、油断が生まれる可能性もある。否、油断は無くとも安堵の心さえも隙になりうるのだ、予め伝えておいて損は無いだろう。
「じゃあ全員に私から念を飛ばすけど、内容はどうしておく?」
「そうだな……敵は予想より遥かに少なく俺達よりも少ない、だがそれが意味するのは個々が強大な戦力であると言う事に他ならない。数の少なさに油断、安堵を覚えずに気を引き締めて闘ってくれ――っと、こんな感じで頼む、言い回しは任せる」
まぁ、注意を促す事にどの程度の効果があるかは分からないが、何もしないよりは良いだろう。
「オッケ、内容は分かったわ。えっと、それじゃあまず全員の反応を捕捉してっと――って、ちょっと待って?」
不意に何かに気づいた様に声を出したセトに「何だ? どうかしたのかセト?」と問いを投げる。
「それがね、今まで《輪廻の門》の観測に集中してて見落としてたんだけど、こっちに誰かが近づいてきてるみたいなのよ――敵だとは思うんだけど、一人しか居ないみたいだし唯の偵察でしょ、たぶん」

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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