EternalKnight
並列励起
<SIDE-Curse->
しかしどうやって確認すれば良い? そもそも何故《時空》は長らく契約者が不在であったにも関わらず新たな契約者を求めない? 契約者を選り好みしているのか、或いは何か事情があるのか……それとも、コレは《時空》では無いと言うのか?
「まぁ良い、《時空》がどういうつもりなのかは俺が調べる――《時空》を置いてお前はもう下がれ」
その俺の言葉に「では、失礼させて頂きます」と短く答えてアルカスは《時空》を置いてフロアの外へと出て行った。
エーテルの密度や保持量を考えれば準最高位以上なのは間違いない――が、既に手に入れている《根源》と比べると、密度も保持量も劣っている。
レイビーの持つ《禁忌》は同程度のエーテルを保持しているし、カノンの《刹那》は同程度の密度だった。どちらも準最高位としては最高域の聖具ではあるが、それでも準最高位で到達できる領域なのだ。
その領域にある物を時の迷宮の深部にあったからというだけで最高位と断定するのは早計だろう。特に、間違いが許されないのなら尚の事だ。
《時の迷宮》に《時空》を封じたのは過去に最高位四つと同時契約を交わしたとされる聖主だ。そしてその四つの内には《時空》自身も含まれている。
オリジナルに近い反応の偽物が《時の迷宮》の偽りの深部に置かれていたとしてもおかしくは無い。その場合、その偽りの深部の奥に真の最深部が存在している事になるのだが……
否、それではおかしい。偽物であるならアルカスを相手に黙っていた理由にならない。そもそも《時の迷宮》事態が真っ当にやれば攻略不可能な壁なのだ、その最も奥に封じている《時空》を手に入れられている次点で相応の知識か実力があるのは間違いない。
契約して力を行使すればすぐにバレる程度の偽物を態々置いておくとは思えない。俺に限って言えばその契約して確認するというプロセスを踏めない訳だが、そんな可能性を考慮しているとは思えない。
《七鍵》は俺の作ったモノであって《時空》を封じた聖主はその存在すら知らないモノだ。その存在を考慮して作られる偽物などあってたまるか。で、あるなら――今俺の目の前にある聖具は《時空》で間違いないという事になる。
疑ったのは時間の無駄だったか? こうしている間にも敵が近づいてきているのだ。本物であるなら早く《七鍵》に取り込んで慣らしておかなければ、最高位二つを相手にするのは難しい。
だが、ありえないだろうが偽物だった場合はどうする? その場合俺の目標の為には《七鍵》を作り直さなければいけなくなる。否、そもそも今この場にある《時空》が偽物であるなら最高位二人にどうやって戦う? 逃げるしか道が無いのではないか?
……やはり、考えていても仕方が無い。コレが偽者であるなら本物の他の最高位が見つかるまでは逃げるしか無いのだ。少なくともココを離れれば追われる事はなくなる筈だ。
《七鍵》に取り込むまでの間に最高位同士の共鳴で位置が割れたと考える他に、この場所が俺の拠点であるとバレる筈が無いのだ。で、あるなら《七鍵》に《根源》を取り込み終えた今なら場所さえ移せば撒ける可能性はある。
とは言え、それは可能性の話であり、撒けなかった場合は現状の戦力で最高位二人とその取り巻き達と戦うことになる。それに勝つ自信があるのなら、こうも悩んでは居ない――つまる所、勝てる見込みが無いのだ。
最高位が此方に二つ揃えば、三人が相手でも戦う事は可能だ――が、一つでは相性の良い相手でなくては話にならない。
《根源》があるとは言え、根本的には《七鍵》に封じてその力を引き上げているに過ぎない。故に本来引き出せる力に比べて出せる力は劣るのだ。
二つ以上の最高位を取り込めたのなら、その二つの力を同時に一つの意思で行使できるという絶大なアドバンテージを得られるが故に、引き出せる力が本来の最高位に劣っていた所で二人や三人を同時に相手にしても勝てる見込みが出来てくる。
圧倒的な力を持つ個には、数の力では対抗できない。そういう理屈だ。
――もっとも《時空》が本物でさえあれば二つの最高位を《七鍵》に取り込んでいるという状況が完成するので、逃げる等というみっともないマネをする必要もなくなるのだが。
《時空》が偽物なら《七鍵》を作り直さなければいけないが、今決断し動かなければ最高位の二つに俺は殺される可能性がある。そうなれば《七鍵》を作り直すどころの騒ぎでは無い。
転生するが故に何度でもやり直しは出来るが、今更初めからなどやっては居られない。《七鍵》の再製造など一度完成させた今なら五十年もあれば出来るのだ。その程度の事の為に大局を見誤る訳にはいかない。
何より、転生した所で状況は不利になるだけなのだ。俺が死んだ所で、俺を殺した最高位が死ぬ訳では無い。
そして最高位は順に覚醒を始めている。転生してそれから再び今ほどの規模の勢力に戻そうと考えれば掛かる時間は途方も無いのだ、それだけの時間を掛けてしまえば最悪最高位全てに契約者が居る状態になってしまってもおかしくは無い。
「悩むだけ無駄という奴、だな」
《時空》が本物であれ偽物であれ、どんな方法であっても本物か偽物かが分からなければ動けない。どう動くべきかは判断を下せない。ならば、今俺がすべき事は唯の一つしか無い。
そもそも偽物である可能性の方が低いのだ、今更躊躇ってなど居られない。
「では、始めるか……」
呟いて、俺は自らの内に沈み込ませた《七鍵》を取り出す為に右手を胸の中に沈みこませた。

<SIDE-Leon->
守護者のメンバーと協力者達を引き連れて虹色の空間を移動している最中、強く鼓動が脈打つ。この反応は恐らく……否、間違いなく――
(《時空》が《呪詛》の手に落ちたと見て間違いないだろうな。一応封印の際に《時の迷宮》から掘り起こされても決して契約しようだなんて考えるな、とは言い聞かせておいたんだが……)
まぁ、《完全なる六》の内の三つはほぼ此方の手にあり、《真理》の封印は他の全てが活動状態にならねば解けないのだからそれ以外には考えられない訳だが。
つーか、確かに言ってはおいたが、アイツがそれを律儀に守り続ける様な奴だったと思うか、シュウ?
(まぁ、守らんだろうな――他の誰かになら兎も角《根源》を持つ《呪詛》に契約を迫られれば喜んで契約するだろ、アイツの性格だと。常に自分が安全になれる様、有利な側には簡単になびくからな、アイツは)
脅してる相手が俺達だからな……そりゃ俺達に相性の上では優位に立てる《根源》を持ってる相手には媚びへつらって取り入ろうとするだろ、普通に。
そういう意味で《時の迷宮》は最後の砦だった訳だが、その最後の砦は思ったよりもずっと早く攻略さえてしまった様だった。
シュウの力を使う以外に《時の迷宮》の攻略するなら、相当の数の統率された戦力が必要な筈だが《呪詛》にはそれほどの戦力があると言うのだろうか?
まぁ、あれに必要なのは質よりも数だし、雑兵の群れだとは思うが……例え雑兵だろうと数が揃い、そこに秩序があれば最低限の戦力の足しになる。
もっとも、数が集まっても最低限の戦力でしか無い上、元より厳しい戦いなのだ、あまり気にしていても仕方が無い。
敵が魔獣である以上、呪いの源泉たる《呪詛》が消滅すれば他の魔獣も消滅する。要するに、全員を……それが無理でも一人でも多くの仲間と協力者達を生き残らせるには俺達が《呪詛》を倒す必要がある、と言う事だ。
(《時空》まで《呪詛》の手に落ちている以上、簡単には行かぬぞ? 人数では三対一、最高位の数でも三対二ではあるが、最高位を二つ持っているが故の強さもある。お前ならよく知っているだろう?)
最高位の能力の並列励起による単体の限界を超えた力の事か? SSクラスの聖具程度ならまだしも、最高位のアレは制御できる様な物じゃないだろ?
直列励起と違って聖具側に条件がある訳じゃないし、負荷も直列励起に比べりゃ圧倒的に低いけど、それでも俺には出来なかった。
否、あんな物誰にも出来る訳が無い。あれだけの力の奔流を制御できる魂があるとすりゃ、それこそ広域次元世界の意思に愛された選ばれし者って奴だろ――少なくとも俺はそういう存在じゃなかった。
お前の契約者として広域次元世界の意思に選ばれた俺でも、単に最高位四つと同時契約を結べただけで、その内の二つを並列励起させる事は出来なかったのだ。
(そもそも四つと契約出来ただけでも奇跡の様な魂の強度なのだがな――)
……無茶をした代償は大きかったけどな。つーか、それだけでも奇跡だと思うなら《呪詛》が並列励起を使ってくる可能性なんて考える必要あるのか?
(普通ならそうだろうが、お前には最高位全てを手に入れるだとか吹かしていた《呪詛》が、何の準備も無しに単に全ての最高位と契約しようとしているだけだと思うか?)
そう言われりゃ確かに、何の考えもなしって可能性は低いな。
(そもそも俺なら《呪詛》に奪われた所で絶対に奴とは契約しない。契約にも契約の解除にも基本的には両者の同意が必要だし、一方的に契約を結んだり破棄したりと言うのも無い事も無いが、少なくともそれは聖具側に与えられた権利だ)
その理屈で言えば《時空》は兎も角、正規の契約者であるフェディスを殺され奪われた《根源》も簡単に《呪詛》と契約したって考えると確かに妙な話だな。
(そう、妙なんだ。その辺りから《呪詛》の手元には聖具を複数個、それも強制的に取り込み自らの力にする方法があるんじゃないかと考えてる。後は《根源》をその場で取り込まなかった事からの推測だが――)
成程、すぐに取り込めるって訳じゃないって事か。そういえば、《根源》をセットするだのなんだの言っていた様な気がするが、それの事だったのか――
(あくまで推測だがな――と、言うかそうとでも考えないと理に適わん)
けど、それなら何で他の聖具を大量に取り込むとか、最高位が揃うまでの間十分に戦える程度に聖具を揃えてなかったんだ? 否――それが出来ない理由があったって考えるほうが自然か?
(だろうな、以前対峙した際に他の聖具を取り込んでいる様には見えなかった事から考えても、取り込める数に限りがあり、且つ一度取り込むと捨てれない、程度の制限がある可能性は高いと考えられる)
成程――つってもまぁ、どれだけ予想としても可能性止まりで、実際どうなのかは少なくとも今の俺達には知る由は無いんだけどな。
(とは言え、推測とは言えど情報があるに越した事は無い。状況から考えればそうである可能性は非常に高いんだ。流石に全面的に今の推測を正しいと思っておく必要は無いが、可能性として考慮しておいても悪くはないだろ?)
考慮しておいた所でどう役立てるんだ、その情報? 並列励起を使ってくる可能性ってのを予め推測に入れれた事以外は別に戦う上で必要な情報じゃなくないか? 実際に戦いが始まれば、推測に過ぎない知識なんて役にはたたないだろ?
そもそも、並列励起を使ってくるかもしれないと言う情報だけあっても、実際に《根源》と《時空》の並列励起が成された場合その脅威の度合いは完全に未知数なのだ、考慮していた所で意味があるとは思えない。
(完全に未知数と言う訳ではないだろ? お前も過去に最高位の並列励起を試そうとしただろう? だったら、ある程度なら想像出来るのが道理だろ?)
……無茶言うな。最高位の力が二つ交じり合うってのをイメージ出来なかったから俺には並列励起が出来なかったってお前だって知ってるだろ?
まぁ、イメージ出来たとしても制御が出来たかは分からないし、やっぱりアレは完全に未知数だ。その気になれば世界一つを破壊し得る最高位の力を並列励起させた力を想像しろだなんて言われても、俺には無理だ。
だけど俺は――《呪詛》がどんな力を使って来ようと負けるつもりは無い。敵の力が未知数である事なんて戦うのなら普通の事だ。その未知数がどれ程強力でも関係ない――俺は唯、全力を持って《呪詛》に挑み、その野望を砕く。
それが、広域次元世界の意思に与えられた使命であると同時に、俺自身の望む結末だから。
(そうか――否、そうだな。どうであれ俺達のすべき事が変わる訳では無い。相手がどんな力を使って来ようと関係ない。ただそれを超えて勝つ……それが全てだったな)
言っただろ、迷うのはもう終わりだって?
シュウとそんな風に念話をかわしながらも目的地へ向かって移動するペースは落とさない。そこへ近付けば近付く程、この大規模な戦いの開幕も近付いてくる。だけれどペースは落とさない……否、落とす理由が無い。前へ、前へ、前へ――唯只管に前に進む。
決戦の地を《輪廻の門》を目指して――

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――5/7
PerfectSix――4/6
KeyToSeven――3/7
――to be continued.

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