EternalKnight
時の迷宮
<SIDE-Alcath->
「さて――また面倒な事を任された訳だが、どうしたモノかな……」
王が《輪廻の門》の入り口付近に作り上げた《時の迷宮》の中に放りこまれてからもう既にどれぐらいの時間がたったのか――私はただ無数の扉で区切られ、それが延々と続く世界を真っ直ぐに進んでいく。
その行為に意味が無い事は既に分かっているのだが、それでも動き続ける必要があった。少なくとも立ち止まって考える事は許されない。
此処では時間と空間の概念が歪んでいるのだ――立ち止まって思考にふけるという行為を数秒でも行おうモノなら外でどれだけの時間が経っていてもおかしくは無い。もっともそれは動いていても同じなのかも知れないが――
可能な限り急いで事を成し遂げろと王は私に命じた。故に、無駄な時間を使う訳には行かないし、時間の流れの狂ったこの世界で足を止める訳にもいかなかった。
動き、行動していたという事実がある限り、その記憶を遡れる限り私の中の時間軸は一定に維持される、確証がある訳ではないが、そうとでも思わないとこの空間ではやっていられない。
時と空間のねじれたこの迷宮ではどれだけ探索しようと、どれだけ探索しなかろうと、結果を出さなければ全て等しく無意味なのだ。
この世界から外に出た時、どれだけの時間が経っているのはそれこそこの迷宮を作り上げている《時空》にしか分からないのだから。
延々と真っ直ぐに進みながら「王は私になら攻略できるとそう言った、その言葉の真意はなんだ?」時には言葉に出しながら思考する。
そもそもこの時間と空間的にねじれた世界はどの程度の広さなのだろうか?同じ場所を延々と巡らされている気しかしないのに、途中で区切られた世界の中につけた目印が存在したりしなかったりする。
延々と続いているのなら、ある程度の感覚でループしていると考えるのが分かりやすいのだが、そのループの中に目印が存在している場合としていない場合があるのだ。
ループはしている、では何故目印が存在しない場合があるのか? 確かに同じ場所の様なのに目印が存在する場合と存在しない場合があるのは何故なのか――歩みを止める事なくそれについて考える。
考えて、気付く。ここは時間と空間のねじれた場所なのだと。つまり目印の存在していない場所は即ち私が目印を残す前の時間の中に存在しているのだと。
しかしそう考えると目印など何の役にも立たない――ではどうするべきなのか? そもそも何故私にこんな任が与えられたのか?
私になら攻略できるとはどういう意味なのか? そもそもこんな時間と空間のねじれた場所ではどれだけ《軍勢》を展開した所で意味など無いのだ。寧ろ入り乱れて面倒な事になるだけだろう。
――いや待て、本当にそうなのか? そもそも何故時間と空間がねじれているのに私は此処に至るまで過去ないし未来の自分を見かけなかった?
特に過去だ。同じく過去の現象である所の目印は残っているのに過去の自分に今尚めぐり会わないというのはおかしい。否、過去の自分が今の私に出会っているなら今の私が未来の私にこれまで出会わなかった事に対する説明が付かない。
では、仮に今の私が未来の私に出会った場合はどうなる? そしてそうなったとしてその場でかわした会話とは別の会話を未来で過去の自分とかわした場合はどうなる?
そうなるから、意志のある存在、或いは魂を持つ存在と言うべきか? 兎も角それらは過去の自分にも未来の自分にも接触出来ない。
要するにタイムパラドックスが発生しない様にこの空間は構成されていると考える事が出来る。そしてどんな方法で生み出されているにしてもここが一つの世界である事に変わりは無い。つまりはその広さは有限であるという事だ。
で、あるならば私の《軍勢》を持ってすれば確かに攻略は可能だといえる。否、《軍勢》かそれに類する力等、或いは相当数の人員がいなければ此処を攻略する事は出来ないだろう。
故に、私に任せたという事か――確かにこれなら私が居なくても攻略は不可能では無いが、それでは相当数の数を使った力押しでしかない。
何故予め攻略方法を告げなかったのかが気にはなるが、今となってはもう過去の事だ、気にするべきでは無いだろう。そんな事よりも、今は一刻も早く目的を済ませてしまうべきだろう。
これを成した所で、私が自由になれるかは分からない。否、寧ろ功績を挙げた事によって自由は遠のくかもしれない。だがそれでも私にはこうする他に道は無いのだ。
「考えても仕方ない……まぁ、今は私に出来るだけの事を成すだけ、か」
呟いて、私は《軍勢》の力を用いて忠実なる軍勢を呼び出した。
恐らく立方体であると思われる空間は四つの扉によって構成されており、最初に数度右の扉や左の扉に試しに入ってみて以降は只管に直進を続けていたのだが、此処からそうして闇雲に進む訳ではない。
直進していても元いた場所に戻るのは単純に扉が境界線となり、それが閉じられた瞬間に扉によって隔絶された空間はその空間的な位置を入れ替えられる。
扉はその構造から開けたままにしておく事は出来ない。そして立方体の広さの関係から開けたまま別の扉を開ける事は出来ない。――それが一人であれば。
無論数人程度でどうこうなる物でも無いのは言うまでも無いだろうがそれが数百、数千に及べば、何れ限界は訪れる。
広さは有限なのだ。例えどれ程空間の歪みを利用したとしても数千の数を用いて扉を開き続けられている限り、何れ逃げ場は無くなる。
そして扉が開き続けている限り他と繋がった空間の時間軸は一つとなり、時間的な作用も意味を無くす。
過去と現在と未来、それ等の何れかが交差するには、互いに相手側に存在する情報を持たない事が絶対の条件になる。故に、立方体にフロアは区切られていた。
そうして明確な区切りを儲けなければいくら最高位の《時空》が作った世界だとは言っても干渉した過去と未来によってパラドクスが起こる可能性が高いからなのだろう。
最高位とは言え限界はある――か。まぁ、当然と言えば当然なのか。
そんな事に思考を巡らせている間にも、私の軍勢は数を増やしていく。命令も既に下してあるので、発生した軍勢は次々と先に現れた軍勢が開けた状態にしている扉の向こう側へと移動していく。
既に相当数の軍勢が展開されている筈なのだが、限界は未だに訪れないらしい。とは言え広さは有限なのだ、展開する軍勢の戦闘能力さえ問わなければ限りなく無限に等しい量の軍勢を展開できる私にこの迷宮を攻略できない理由は無い。
程なくして、時間と空間を操る事により相応の広さを持つ空間を過去未来に渡って運用する事によって事実上無限の広さを再現していた《時の迷宮》は、私の軍勢に埋め尽くされる事でその機能を失った。

<SIDE-Leon->
アルアの《宿》で協力してくれる事になった仲間達を連れて宮殿に戻ると、想像通り大変な事になっていた。
しかし封印状態だった《創世》が覚醒してしまう程の自体であったにも関わらず、被害はそこまで大きいとは言えない。
負傷した者も多くいたようだがその面々は既にフィリアによって治療されて居るらしく、目で見て分かる被害と言えたのは、セディアと言うSクラスの戦力を失った事だけだった。
そして、SSクラスだったグレンの聖具は最高位の《創世》となり、Sクラスだったアリア聖具もまた準最高位の《神光》となっている。
守護者全体としてみた際のエーテルの総保持量こそ減っているが、今回の襲撃によって守護者の戦力は強化されたと言っても問題は無いだろう。
セディアの件は残念だったし、襲撃者に逃げられたというのは痛いが、それでも戦力がこのタイミングで強化されたのはありがたい、と言った所だろうか?
いや、仲間が殺されてるんだぞ? 例え今がどんな状況だったとしても、それをありがたがるなんてどうかしてる。一瞬でもそんな事を考えてしまった自分が情けない……
しかし、ゼノン達はまだ戻ってこないんだろうか? 俺達と時を同じくして出発した筈のゼノン達はまだ戻ってこない。
確かに距離的にも《宿》よりも遠いだろうし、シェディに聞いた情報を元に協力者を探しているだろうから、多少遅くなるのは分かっていた事だが、いつ《呪詛》が行動を起こすか分からない以上、此方も出来るだけ早く動き始めたい所なのだが……
とは言え《宿》に残してきたアルア達もまだ此方に辿り着いていないので、どちらか片方とでも合流出来るまでは、焦っても意味が無いのだが。
(と、言うか両方と合流できるまで動けないのだからそもそも焦る事に意味が無いだろ。焦った所でどうなる訳でも無いしな)
……今回は少し早かったな、シュウ? 別にお前にツッコまれる程変な事言った訳じゃないだろ?
(いや、十分にツッコむべき箇所だったぞ、今のは。まぁ少し前に比べれば随分と基準が下がっているのは認めるがな。まぁ、やるべき事が片付いて俺が暇になった、と言うだけだがな)
やるべき事? お前黙ってた間に何かしてたのか?
(なに、大した事では無いさ。ちょっとした保険の様なモノだ――それに、片付いたのは情報を集める所までであって、情報の最適化なんかはまだ終わっていない。まぁ、情報収集まで終わればお前にツッコミを入れる事ぐらいは容易だがな)
善意で黙ってたくれたのかと思ったてたのに、違うんだな……
(いや、そこまで落ち込むほどの事か? 情報収集とは言ったが基本的に俺自身の中にある力の情報の俺も良く分かってない部分を洗い出してただけだから、基本的にはいつでもツッコめるのを黙ってたんだぞ?)
だから、それは他にすることがあったからスルーしてたってだけで善意で黙っててくれたのとは違うんだろ、結局?
(まぁ、そういう風にも取れるな。と、言うか今更俺とお前の間に善意もクソも無いだろ?)
そうだけどさ、なんかこう、お前がツッコんでこない状態ってのが楽でさ、これからまたツッコまれ続けると思うとどうしてもモチベーションが下がるって言うかさ……
(お前が普段からどれくらい俺のツッコミをめんどくさがってたのか改めて思い知ったわ……つーかなレオン、そこまで嫌がられるとフリにしか思えないんだがな、俺には?)
フリじゃねぇよ! 本気で嫌がってるんだよ!
(いや、そこまで全力で否定しなくても良いだろ……お前との付き合いも長いし、ちゃんと分かってるさ――まぁ、だからと言ってツッコむのを止める気はさらさら無いがな。まぁ、適度に加減はしてやるさ)
『加減、ねぇ? まぁ、今までだってホントに大切な話をしてる時なんかは絡んでは来なかったから大丈夫だってのは分かってるんだけど、暫く絡んでなかったから反動が怖いんだよなぁ……』
可能な限りツッコむのとか弄るのとかは加減してもらえると嬉しいんだが……
(まぁ、それは俺の気分次第だ。とは言え、さっきも言った様にまだ集めた情報の最適化が終わってないからな、もう暫くは今とそう変わらんだろうさ。全部終わった後はまぁ、以前に近い感じに戻るんだろうがな?)
以前に近い感じ、ねぇ? 俺としてはあの頃から既に辛かったんだが……まぁ、ロイド達が居た世界に引きこもってた時なんかは話し相手としては良かったんだけどな。まぁ、それはそれで飽きるんだけど。
(戦いが終わったらまた引きこもるつもりで居る様に聞こえるがそれは無理だろ? もう守護者のトップになってしまったのだから、この戦いが終われば此処に居る事になるんじゃないのか? まぁ、そうすれば飽きる事は無くなりそうではあるが?)
あー、その辺どうなんだろうな? 確かにフェディスが殺されちまった今は守護者の首領の座を降りる理由も無いしなぁ……まぁ、その辺は終わってから考えようかね。
(少なくとも引きこもっているより断然良いだろ、引きこもっていても本当にやる事なんて無いしな)
それは同意する……動き回るわけにはいかなかったとは言え、特にする事が無い日々ってのはそれはそれで凄く辛いしな。
『どちらかと言えばシュウの暇つぶしで弄られるのが一番辛かったのだが――それをシュウに知られる訳にはいかない。この先暇になった時に嬉々として弄ってきそうだし』
――とかなんとか考えている間に、アルア達の反応が宮殿に迫ってきているのを捕らえる。その数は、アルアとベアトリスを含めて四人分で、残りの二人の反応も俺の知ってるモノだった。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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あきゅろす。
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