EternalKnight
四人の永遠者/断罪VS神槍
<SIDE-Aren->
「おいアンタ、さっきは乗り気だったくせに急にやらないたぁ、どういう了見だ?」
苛立ちを隠そうともせずにリゼツが声を荒げるが、どういう了見も何もさっき言ったとおりなのだが。
「さっき言っただろ、デカイ戦いが控えてるから無駄なエーテルは使いたくないって――俺の変わりにジルトムがお前の相手をするのなら俺が態々戦う必要は無いだろ?」
「一番強い奴と戦いたいって言ったんだよ、俺は! それとも何か、お前よりもそこの黒髪の方が強いってのかよ?」
どうしてこうも誰が一番強いかに拘るんだ? 別に永遠の騎士どうしの戦いなんて余程の位階差がなけりゃ相性とが殆どだと思うんだが。
……まぁ、一応本人の身体能力や戦闘経験なんかも重要な要素の一つではあるだろうが、相性の悪さや相当な位階差を埋めれる程のモノじゃない。
「へぇ、お前の目には俺の方が弱く見える訳だ? いや、そりゃ階位こそアレンよりも俺の方が下だけどな、階位差は十分に覆しうるってのはお前が言い出した事だろ?」
「お前等のどっちが強いかなんてどうでも良いんだよ――俺がその強い方よりも強い事を証明できりゃそれで良いんだからな?」
まぁ、今までの会話の流れから考えればこの流れが一番自然か。俺はエーテルを消費せずに済み、リゼツとジルトムが互いに納得するにはたぶんこの方法が一番だろう。
「だから二人で仕合えば良いじゃねぇか――俺は負けで良いよ、お前等の不戦勝だ。勝った方がこの中では一番強い、それで良いだろ? 俺の事は敵の前から逃げ出したチキン野郎だとでも思っといてくれ」
「何か釈然としねぇが――お前がそういうなら俺はそれでも良い。で、リゼツだったか? どっちが勝っても恨みっこ無しの一本勝負、意識を奪うか降参の宣言で勝敗を決める、それでどうだ?」
「銀髪はイラつくがテメェみたいな奴は好きだぜ、黒髪? 良いぜ、それでやろうじゃねぇか――もうこの際誰が一番かなんてどうでも良い。強かろうが戦えるときに理屈こねて戦わない野郎には興味はねぇ、黒髪、どっちが強いか白黒はっきりさせようぜ」
(酷い言われようだな、主よ……我等は別段間違った事は言っていないと思うのだが?)
まぁ、何にしても俺と戦うのは諦めてくれたようで何よりだ。俺の、俺達の力は仲間と小競り合いする為にあるんじゃない、誰かを救い、助ける為にあるんだ。協力してくれる彼等と戦わずに済むならそれに越した事は無いさ。
(済むに越した事は無い、と言う事はやむをえなければ戦っていた、と言う事か?)
そりゃまぁ、仕掛けられたら応戦するしか無いだろ?
等と《救い》と念話をしている間に、ジルトムとリゼツの間では空気が張り詰めている。互いに構えたままピクリとも動かず、相手から視線を外さない。互いに相手の手札が見えない以上動けないのは仕方ない、と言う所か? 否――
「ッハ、様子見なんて詰まんねェ真似やってられっかよ!」
そんな叫びと共に、銀色の装甲に覆われた右腕を振り上げながら、リゼツが地を蹴りジルトムとの距離と詰めにかかる――だが、それに対してジルトムが取った行動は一つ「《-Transformation-変身》」能力の詠唱。
紡がれた言霊は力となり能力が発動する。一瞬ジルトムの姿が霞み、次の瞬間には同じ場所に同じ体勢でリゼツを迎え撃とうとする黒銀の鎧を身に纏った出合った時の姿のジルトムがそこに居た。
ジルトムの全身を覆う黒銀の鎧が形成された一瞬後に、拳を振り上げて迫ってきていたリゼツの拳がジルトムに打ち込まれる――だがしかし、その拳はあたる寸前でジルトムがリゼツの腕を掴む事でその勢いを完全に殺される。
「良いパンチだ――けどな、その程度じゃ今の俺にはあてれないぜ?」
「いンや、一発デケェのが入るの間違いだろ――《Trishula》!」
唱えながら、リゼツはジルトムに触れるか触れないかの距離まで伸びていた拳を開く。瞬間、その掌から青白い光の柱が伸びる――否、先端が鋭利な刃にも見えるそれは光の柱等では無い。
「――光の、槍?」
出現すると同時に、その正面に居たジルトムの左の肩口を抉りつつ、その勢いで吹飛ばすようにして現れた光の槍は、展開されてすぐに金色の粒子へと解けて消える。
だが、あれだけでも十分にどんな能力かは推測する事ぐらいはできる。
まず注目すべきはジルトムだ。あの距離で光の槍を生成されて尚、二重か三重の障壁を展開していた――或いは、あの黒銀の装甲と共に常時展開していたのかもしれないが、それにしたって障壁の維持には相応の技量が居る。
維持にかかるエーテルの量を鑑みても常時展開の障壁は装甲とは別にあって一枚、最低でも残りの一枚はあのタイミングから展開を間に合わせたという事を意味する。
もっとも、装甲諸共全て光の槍に悉く貫かれた訳だが、決して無意味だった訳では無い。リゼツの放った《Trishula》の能力は最低でも最初の衝撃に加えて二段階以上の追加の衝撃をくわえる事――と推測できるだけの判断材料にはなった筈だ。
展開した障壁を纏めて貫かれた訳ではなく、障壁と装甲毎に一瞬光の槍の勢いが奪われていたのがそう判断できた理由なのだが、直接受けたジルトムには他にも何かしら気付いている事があるかもしれない。
もっとも、能力に気付けた所でダメージを受けてしまった事実に変わりは無い「クソっ……油断したつもりは無かったんだが――」肩口に拳大の孔を穿たれたジルトムが表情を苦痛に歪めながら吐き捨てる。
言いながらも穿たれた傷口にエーテルを集めて即座に修復を開始している――完全に修復が終わるまではあのペースなら残り十数秒と言う所か? エーテルを大量に使っているとは言え、修復速度はかなり速い。
しかし、ジルトムを殴り飛ばしたリゼツも止まって居る訳では無い。即座にジルトムを追う様に地を蹴って「あれだけで終りだと思うな!」拳を振り上げて追撃する。
迫るリゼツを前に、右手で穿たれた左肩を庇うようしながら「――だが能力の方向性は分かった。後は任せるぞ、相棒《Transformation-Sonicform》」ジルトムは能力を発動させる。
その言霊が紡がれると同時にジルトムの体に纏われていた黒銀の装甲は碧色へと変貌していくが、その間にも拳を振り上げたリゼツとジルトムの距離は縮まっていく。
拳での一撃程度なら先ほどやった様に複数の障壁を展開すれば良いだけなのだろうが、それではその後に続くであろうリゼツの《Trishula》とやらを防げず先程の二の舞になるのだが――少なくともジルトムは何かの能力を発動させた。
単に装甲の色が変わるだけ等と言う事はありえないのだろうが、他に変化が無い所から察するに身体能力に何かしらの作用をする能力なのかもしれない。
考えている間に、ジルトムとリゼツの距離はさらに縮まり、リゼツが拳をジルトムの顔に目掛けて突き出す。しかし、その拳はジルトムにかする事すらせずに空をきる。
「っ……速いな、クソ」
呟いたのはリゼツで、その視線の先には不可避に近いタイミングで放たれたリゼツの拳をかわしてみせた碧の鎧を纏ったジルトムの姿があった。
リゼツの呟きの通り、ジルトムの速度は先程までと比べて格段に上がっている――どころか、何処と無くだが動き方が、まるでその鎧の中が別人と入れ替わったかの様に根本から変化している気がする。
「防御を突き破ってくる相手と戦うにはどうすれば良いのか――結論から言えば敵の攻撃に当たらなければ良い。まぁ、理想論ではるけれど、どうやらその理想は実現出来そうだ」
否、入れ替わっている様なのではなく、事実として入れ替わっている。紡がれたその声を聞いて、ジルトムとはまた違う声音を聞いて、俺の疑問は確信へと変わる。
「いンや、それも無理だ。つーか誰だテメェ……いや野郎の聖具かなんかだとは分かってるんだがよォ?」
「ご名答だね、僕の名は《断罪》。ジルトム=クトナファを契約者に持つSクラス聖具《断罪》だ。君みたいな力押しの相手と戦う際には僕も相棒に代わって戦わせて貰ってる。こんな風に、相棒の体を借りて、ね?」
体を借りてって聖具が契約者の体を制御するなんて殆ど同化されてるのと同じじゃねぇか。
(だが、見た限りは互いに意識ははっきりとしていそうだぞ?)
そりゃ俺にだって見れば分かるけどよ……それにしたって聖具に肉体の制御を委ねるってどういう判断だよ。
(否、あながち悪い判断でも無いぞ? それが出来る能力である事が前提条件と成るだろうが、人としてのシステムに縋る契約者の魂よりも、その枠組みから外れた存在である聖具の方が動きの無駄を省きやすい――現に見違えるように動きが良くなっただろう?)
良く成っている――か? 確かにスピードは増しているんだろうが……
「まぁ、何だって構わねぇよ――俺を楽しませてくれるんならな」
《救い》と念話をかわしている間に再びリゼツが動きを見せる。今度は自分から攻めずに受けに回るつもりなのか、今までの様に拳を振りかぶらずに、脇を締めてファイティングポーズを取って、真っ直ぐに《断罪》に視線を向ける。
「相手の動きに合わせてスタイルを変える――実に利に適った堅実な一手だ。だけど、構えた所で僕の速度についてこれるのかい?」
「分かりきった問いだな――ついていけるとかいけないとか、そんな事はどうでも良い。俺は俺に出来るベストを引き出してこの戦いを存分に楽しむ、唯それだけだよ――もっとも、さっき言った様にテメェの理想は体現されねぇ、勝つの俺だ」
そう言いながらリゼツは銀色の装甲に覆われた右腕を真っ直ぐに伸ばし、そのの掌《断罪》に向ける。正直な話、幾ら距離が開いているからとは言え不用意過ぎるとしか言い様が無い。
最初の一撃を与えた《Trishula》があの掌から打ち出された事を忘れているとも思えない。と、成れば圧倒的なスピード差を得たことによる単なる慢心がその原因だと考えるべきだろうか?
確かに速度差が生み出す戦力差は大きい――だが、俺に言わせればまだ目で追える程度の速度は生ぬるいとしか言い様が無い。その程度の速度などやりようによってはどうとでも出来る。
恐らくジルトムならそんなへまはしないだろう、経験の浅さが《断罪》に制御を委ねる事で上乗せされた身体能力を生かせない原因を作っている――少なくとも俺の目にはそう写る。
「幾ら強がった所で、速度の差は絶対さ。僕だと一撃の威力が落ちるが、それは数を重ねる事で補うさ」
速度は増しているのに、身体能力は最適化される事で強化されている筈なのに、一撃の威力が落ちる――それがどれだけ自分の実力不足が原因で起こってるのか、理解できているのだろうか?
そもそも威力とは速度と質量でその大体が決まってしまうのだ。速度が増し、質量が変わらない以上、余程下手に使わないと威力が弱くなるなんて事はありえない。
そして「だから言ってるだろ、それは無理だってなァ――《Gungnir》」笑みを浮かべたリゼツの口から先程のモノとは別の名が紡がれる。
それに反応する様に、伸ばされた腕の直線状から《断罪》が飛び退くが、恐らくもう遅い。紡がれたの初撃と同じ名であれば恐らく今の対応で問題なかった、だが新たに紡がれた能力が、前に発動した物と同じな筈が無い。
自らの勝利を宣言したジルトムが、そんな甘い行動を取るとは思えない。故に今放たれた一撃は《断罪》にとって正しく死神の鎌に等しい。
リゼツが力の名を紡ぎ、それを放つよりも早く《断罪》が動く――が、それでもリゼツが視線は真っ直ぐと前だけに向けられている。そして、その掌から青白い光の槍が吐き出される。
吐き出され、直線に進む光の槍の先には《断罪》の姿はもう無い。その時点で《断罪》は速さにモノを言わせてリゼツの背後を取っていた。
この状況だけ切り取れば《断罪》の勝利は目前と言う風に見えるかも知れない。否、或いはリゼツが張ったりをかましていただけと言う可能性も否定できない。
目線を前にしか向けていないリゼツにとって、背後からの一撃は不意打ちに近い。エーテルの反応を見ていれば対応ぐらいは出来るだろうが――等と考えながら戦況を俯瞰していた俺は、そこでようやくリゼツの放った二つ目の槍の力を知る事になった。
放たれた《Gungnir》は最初の数瞬前に進むと、その意志を覚醒させたかの様に進む方向を鋭角的に反転させて、定められている目標を貫く為に加速する。
背後からリゼツに一撃目を加えた直後だった《断罪》も直ぐにその存在に気付き、リゼツへの攻撃を中断してその槍から逃れ様に距離を取ろうとする。だがしかし、光の槍はその逃走を許さない。
鋭角的にその方向を転換しながら、逃げる《断罪》が加速すれば加速するほど放たれた光の槍もまたそれを越える速度へと加速する。
相手に応じて相対的に加速し、恐らく命中するまで追尾し続ける一撃それが《Gungnir》の正体だと見て間違いない。《断罪》もそれに気付いたのか「《Transformation-Punishmentform》」と唱えて、迫る光の槍に正面から相対する。
迫る光の槍がぶつかるよりも早く、纏われていた碧色の装甲は元の黒銀へと戻っていく。そして――装甲が全て黒銀へと戻り終えるのと同時に光の槍が《断罪》を貫いた。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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