EternalKnight
四人の永遠者/二人目
<SIDE-Jiltm->
握り締めた拳が、目の前で喚き散らしていた肉塊の顔面に叩き込まれる。握り締めたその拳には、黒銀の鎧で覆われていて尚、骨を砕き、肉を抉る感触を一瞬の抵抗として伝わってくる。
その直ぐ後に続く抵抗からの開放感と共に、顔面が醜く歪んだ肉塊が正面方向へとノーバウンドで十数メートル殴り飛ばされるのが目に入る。
一撃――本当に一撃で終わった。まだ生きているかもしれないが、頭蓋骨を砕かれる程の一撃を食らって再度立ち上がれる人間なんて存在しない。否、死んでいても何の不思議も無い。
ある意味で、これ程までに罪深い存在が一撃でその命を終えられるというのは幸せな事なのかもしれない。別に何時間も掛けて拷問をするとかそんなつもりは無いが、余裕があったのなら四肢を一つづつ破壊していくぐらいの事はやっていたのは間違い無い。
まぁ、結果として命を散らすのだからその過程はさして重要では無いと思うのだが、罪を生み出した悪には相応の罰が与えられて然るべきだろう。今回は、そうはならなかった訳だが。
――まぁ、そんな事はどうでも良いのだ。今気にすべきなのは三人の永遠者の来訪だ。
幸いな事に肉塊に仕掛けている瞬間に訪れると言う最悪のパターンにはならなかったが、どんな現れ方をした所で此方よりもクラスが上の永遠者一人と、同じクラスの永遠者が二人の三人である以上、敵であれば絶望的である事に間違いは無い。
それでも、逃げれる見込みが無い以上、正面から迎え撃つしか無いのが悲しい所か。クラスと聖具の性能はイコールでは無いので、SSクラスが相手だという事についての不安は薄い。
寧ろそんな物よりも人数差が気になる、圧倒的に能力に差があるのなら人数差は何の足しにもならないが、ある程度まで実力が迫っているなら人数差と言うのは絶望的な差へと豹変する。
(……妙だと思わないかい、相棒?)
妙って、何がだよ? 確かに門を展開してから入ってくるまでに随分と時間がかかってる気はするけど、別にまだ遅すぎるって程でも無いだろ? 門の展開には得手不得手があるんだし。
(三人も居て全員不得手だなんて、そんな話があると思うかい? 僕は、この間は何かしらの意味があると考えてるんだけど、君はどう思う、相棒?)
確かに、三人が三人とも不得手ってのもおかしな話だとは思うが、絶対に有り得ないって訳でも無いだろ?
(その確率は相当低いし、門の展開が遅い事が分かっているならどうして反応を隠そうともしていないんだい? 正直な話、門の展開にコレだけ時間のかかる相手だって言うのなら、逃げれない事もないだろ?)
なら、目的は俺達じゃないって事か?
(ソレは僕にもわからない――けど、こんな世界に他に目的があるとも僕には思えないのもまた確かな事だ。あまり楽観したくは無いけど、或いは僕等が目的だけど敵対の意志は無いという可能性もある)
俺達が目的だけど敵対の意志が無いって事は――俺達を勧誘にでも来たのか? って、事は今来てるのは守護者連中って事になるのか? なんでまた今になって?
(それこそ僕にはわからない事だよ――まぁ、可能性の一つであって絶対にそうだなんて断言は出来ないけどね)
しかし、そうなると門の出現と同時に仕掛けるって手も使えないのか……敵対の意志が無い相手に仕掛けて戦う事になったら馬鹿らしいし。
(敵か味方か分からなかったのに、そんな事をするつもりだったのかい、相棒?)
いや、そもそも味方って確率の方がよっぽど低いと思うんだが?
(確率で言うなら今でも変わってないだろ? 事実を観測するまで確率は確率でしかないんだし)
まぁ、確かにそうだ、推測は何処まで言っても推測の域を出ない。或いは、俺達が考えもしていない何かが門から現れる可能性も十分にある。
考えている間に、目の前の空間が歪み、巨大な門が形成されて、実体化と同時に開き始める。
「此方に交戦の意志は無いが、仕掛けてくる様なら無抵抗でいる気は無い――とりあえず、話をさせて欲しい」
ソレと同士に、開いた門の隙間から男の声が聞こえてくる。此方から仕掛ける気は無いが、言葉をそのまま鵜呑みにするつもりも無い。
(まぁ、妥当な判断だね、口先だけでなら何とでもいえる訳だし。そういう意味じゃ、その話とやらを聞いている間も気を抜く訳には行かないんだけど……)
「此方にもとりあえず交戦の意志は無い――が、数の差がある以上は警戒させてもらう。その上で話には応じよう」
「すまない、感謝する」
男が言い終わると同時に、出現した門は完全に開ききり、その向こう側から二人の男と一人の女が現れる。
巨大な剣を背負った銀髪の男が先頭に立ち、その後ろに純白の法衣を纏った茶髪の女とメガネをかけた黒髪の男が居る、此方が構えているのに対して、あちら側は全員が自然体で、敵意は全く無い様に感じられる。
とは言え、構えなくても能力の発動は可能だし、敵意も隠せない訳じゃない――警戒は解かない。
「君がジルトムか――その全身を覆ってる鎧は聖具の能力だね? 君の話はある程度情報屋で前もって聞かせて貰ってるよ」
あの爺さんか……まぁ、あの爺さんは料金さえ払えば知っている情報は何でも口にするだろうし、仕方ないか。人数差に加えてこっちの情報まで知られてるのか、コレはホントに敵対関係にならない事を祈るしかないな。
「事前に情報まで集めて、俺なんかに何の用だ? そもそもあんた等は何者なんだ――あんた等は俺の情報を仕入れてきてるかもしれないがこっちはあんた等の事は何もわからないんだ、話をするならその辺を最低限説明して欲しいんだが?」
「あぁ、悪かった。俺の名はアレン、後ろに居るのはリズィとフェイン――全員守護者だって言えば、大体の立場は分かってもらえるか?」
話し合いから入ってきた時点である程度予想はしてたがやっぱり守護者か……と、なると目的はやっぱり俺の勧誘か?
確かに色々な世界で独善的に活動はしてきたけど、三人もメンバーを派遣してまで俺なんかを誘いに来るか、普通? しかも態々情報屋から情報を仕入れまでして?
「大体分かったんだが、その守護者様がなんでまた俺なんかの情報を調べてまで俺に会いに来たんだ? あんまり言いたくないが、勧誘するにしても倒しに来たにしても、そんな必要は無いだろ?」
「君を調べて君に会いに来た――訳では無いというのが本当の所だ。ぶっちゃけて言えば、情報屋で力を貸してくれそうな奴の名前を聞いたら君の名が出てきた――というのが本当の所なんだけど、信じてもらえるかい?」
成程、それなら三人で来ている理由も俺の情報を知っている理由にもなる――が、守護者がそんなに人数を集めたがっているとは思えない。
破壊者ならまだしも、守護者は言ってみれば正義の味方だ。誰でも仲間に入れて良い組織では無い――少なくとも、広域次元世界を少しでも破壊者や魔獣から守ろうという意志が無ければ守護者の一員には成れないと思うのだが……
(守ろうとする意志、ねぇ? 君ならその資格は十分な様に思えるけど?)
今は俺にその資格があるとか無いとかそういう話じゃない。そんな組織が自分達から働きかけて仲間を増やそうとしている所がおかしいって話だ。
「あー、信じてもらえてないみたいだな……それじゃあもう少し話をさせてくれ。なんで俺達が今になって仲間を探してるのかについてだ。とは言っても俺は説明下手だから、話すのは後ろの二人だけどな?」
そのアレンの言葉に、愛想笑いを浮かべながら「まぁ、あっちゃんならそう言うと思ってたけどね……」とリズィが呟いていた。

<SIDE-Jiltm->
一通り説明を聞いて、彼等の事情は概ね分かった。 確かに、魔獣のほぼ全てを操れる様な存在を相手とするなら、戦力はある程度以上であれば少しでも欲しいというのも納得できる。
だが、彼等に手を貸すという事は、同時に生き残れる保障も無いという事に等しい――もっとも、彼等の推測通りなら手を貸さずに彼等が敗北した場合も生き続けていられる保障は無いのだが。
俺としては、魔獣なんて呪いの根源は赦してはいけない悪だと思っているのだが、流石に命がけとなると、相棒の許可を取らない訳に(……実に興味深い、そう思わないかい、ジルトム?)
『……何に興味を惹かれたかは知らないが、許可を取る必要等ないらしい』
で、今度は何に興味を惹かれたんだ?
(何にって、決まってるだろ? 最高位の聖具の事さ――僕等じゃ太刀打ち出来ない雲の上に居る様な相手だからそもそも関わる機会が無いかと思ってたけど、まさかこんな所で縁があるなんて――僕等は実に運が良いと思わないかい?)
いや、運が良いも何も一応最高位の聖具を見る事ぐらいは出来るだろうけど、関わる機会とか言う程の接触は出来ないと思うんだが?
(それは君次第さ、相棒。別に正面から最高位と戦えなんて言わない。味方側の最高位――今の守護者の首領と少しでも面識を作っておく程度の事で良いんだ。面識があるのと無いじゃ全く違うからね)
割と大変な戦いに参加するかしないかって話なのに、お前はもう生き残った後の事を考えてるんだな、相棒……
(君にしてはネガティブな発言だね、ジルトム。誰も自分が死ぬなんて思って戦いに出向く奴なんて居ないさ――絶望的な状況で、それでも逃げ道が無い時なんかは別だけどね)
それはそうだが……
「さて――聖具との話し合いはそろそろ終わったかな?」
狙い済ましたかの様なタイミングで、先ほどまで特に説明に参加する事無く話を聞いているだけだったアレンが此方に声を掛けてくる。
「大体は終わったよ。最も、どうするかって意味でなら話し合うまでも無かったけどな。聞いた限りでしかないが、その《呪詛》って野郎を放置しとくのは俺のポリシーに反する。何処までの力に成れるかは分からないけど、あんた達に協力させてもらうよ」
「すまない、協力に感謝する――所で、さっきからずっと気になってたんだが、この周りに居る魔獣の出来損ない見たいなのはなんだ? 外見は最下位の魔獣っぽいけどそうじゃないみたいだし、何よりピクリとも動かないんだが?」
……そうか、すっかり忘れてたが、さっきまで馬鹿の相手をしていたんだったか。しかし、馬鹿が死ぬのと同時に動かなくなるって事はあの男が指示を出さないと動けないって事で良いのか?
こんな外見にされてしまっている以上、俺には救う方法が無い。出来る事はその魂を速やかに歪に膨らんだ肉の檻から開放してやる事だけだ。
「それは何処かの馬鹿の下らない研究で生贄になってしまった、この世界の住人の成れの果てだ。少なくとも助けてやる手段を俺は知らない――まぁ、元凶はさっき処理したから当分はこの世界でそんな姿になってしまう人達は出ないと思うけどな」
その程度で全てが終わるとは思えないけど、それでも今までよりはマシになると思う。
「って事はこの世界に対する未練も無い――って事で良いのか?」
「未練と言うか、もう少しこの世界の行く末を、元凶を処理した事でどうなっていくのかを見て居たかったけど、どうしても見たいって訳じゃない――あんた等は急いでるみたいだし、この世界の事は全て終わった後にでもまた見に来るよ」
生き残れる保障は無いけど、死にに行くつもりも無い――その意志を込めてアレンにそう返す。
その俺の言葉の意図に気付いたのか気付かなかったのか、アレンは頷き「SSクラス《救い》の契約者、アレン=カーディナルだ。改めてよろしく頼むよ、ジルトム」そう言いながら右手を差し出してきた。
その手を掴み「Sクラス《断罪》の契約者、ジルトム=クトナファだ。此方こそよろしく頼む」改めて自分から名乗りをあげた。
「一応、此処を離れる前にとりあえずこんな姿にされちまった彼等に止めをさしてやりたいんだが、元に戻せそうな方法なんて――知らないよな?」
指示が送られてこなくなった事で動く事すら出来なくなった被害者達をそのままにしておくのは流石に忍びない。元に戻す方法なんて俺には分からないし、そもそもそんな事が出来るのかどうかすら怪しい。
その俺の言葉に、アレン達は首を残念そうに横に振った。まぁ、分かっていた事ではあるので特に思うところは無い。とりあえず、彼等にトドメを与えてこの世界から移動しよう。それが俺が次にこの世界に来訪するまでに出来る最後の行動だ。

<SIDE-Manaha->
誰か、この世界に近づいてる?
(その様ですね――永遠者の反応が四つ、この世界に近づいてきています。マスター、いかがいたしましょう?)
そっか――彼等は私達に用なんだと思う《光輝》?
(可能性は高いかと。この世界のエーテル量を考えれば、他の目的で訪れたと考えるほうが難しいのは間違いありません)
反応は最小限にまで抑えてたつもりだったんだけど、やっぱり見つかっちゃったか……
(その可能性も否定出来ませんが、状況的に言えば発見されたというよりこの世界の場所を誰かに聞いて来たと考えた方が妥当では無いかと――でなければ流石にこのエーテルの薄い世界には興味を示されないでしょうし)
そっか、そうなるよね……でも何の用なんだろう? 確かにクラスこそSSだけれど、エーテルを溜め込んでる訳じゃないんだけどな、私。
(確かに、エーテル収集が目的の破壊者達と言う可能性は薄いでしょうね。誰か、と言うか具体的に情報屋が破壊者達にエーテルの保持量の少ない私達を教えるとは思えませんし)
ねぇ《光輝》? 貴方は今ココに向かってきてる誰かにココの場所を教えたのがシェディさんだと決め付けてない?
(それ以外には考えられないでしょう? 寧ろ、他に心当たりがあるなら聞きたいぐらいなのですが?)
ごめん、私にも他に心当たりは無いかな。でもどうしよう? シェディさんが私達の居場所を教えたって事はそれなりに意味のある事だと思うんだけど?
(エーテルさえ渡せば効いた事にならなんでも答えますが、聞いていない事はまず話しませんからね、彼は……確かに態々私達について教えたという事は何かしらの意味がある様な気もしますが……)
まぁ、実際にあって話してみない事には分からないかなぁ……でも、最悪の場合を想定すればこっちから会いに行ったほうが良いよね?
(この世界で戦闘行為を行う事をマスターが望まないなら、此方から接触する方が望ましいかと)
そうだよね――よし、それじゃあ久しぶりに行こうかな。
『とは言え、仮に最悪の事態が起こった場合は一対四じゃ話にならないんだろうけど……まぁ、それでもこの世界が無事なら良いかもしれない。悔いは、残るけど』
そんな事を頭の片隅で考えながら、私は門を形成して随分と久しぶりに、私が生まれ育った世界から外に出た。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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