EternalKnight
四人の永遠者/断罪者
<SIDE-Jiltm->
詠唱と同時に相棒の力によって俺の全身を構成するエーテルが人を構成するソレから、強靭な外殻を持つ黒銀の闘士へと変質する。
意識が加速し、全ての力が倍増する――待機形態時から通常形態になる事で引き上げられた基礎身体能力は《変身》する事によって更なる高みへと引き上げられる。
目と鼻の先までの距離にまで迫ってきていた巨人の拳を《変身》が終わってから動かし始めた掌で受け止めて掴み、そのまま片手で背後から拳を振り下ろしていたであろう巨人に向けて投げ捨てる。
その動作に、二メートルを超える二つ巨躯は抗う事すら出来ず、そのまま二体纏めて吹き飛んでいく。最下位の魔獣よりもあっけない――どうやら巨躯は見掛け倒しで、エーテルも全く上手く使えていないらしい。
(この程度の物を聖具と呼んでたのか……駄目だね、この世界の科学じゃ100年経っても大した物は作れない、待つだけ時間の無駄だろう)
だろうな――まぁ、だったら早くこの勘違い馬鹿を始末して他の世界に行こう。
「なんだ、それは……何なんだそれは!」
今まで待機形態で戦っていた俺しか見た事がなかった男は、明らかにうろたえながら叫びを上げる。もっとも、この世界で《変身》したのはコレが始めてなのだから、当然の事なのだが。
どうやって永遠の騎士と言う存在を知ったのか、どうして俺が永遠の騎士だと知っているのか、疑問は尽きないが――今まで待機形態でしか戦って居なかった俺を見て、その程度の力だと判断していた辺り、大した情報が出てくる事もないだろう。
(それでも、その疑問は解消したいと思わないかい?)
……おい、相棒?
(何故奴が永遠の騎士と言う存在を知っていたのか、何故僕等を永遠の騎士だと断定できたのか、そしてその上で何故待機形態で戦っていただけの僕等を見て実力を測れた気で居たのか――君は気にならないのかい、相棒?)
いや、気にはなるけど、別に大した情報が出てくるとは思えないんだが?
(――君は、気にはならないのかい? 相棒)
『あぁ、いつもの我侭が始まったか。こうなると興味を無くすか他にもっと気になる事が出来ないと、気になった事をなんとしてでも調べたがるんだよなぁ、相棒は。コレさえなければ本当に頼りになる何の不満も無い最高の聖具だと思えるのに……』
なぁ、一応今は戦闘中だって分かってるか、相棒?
(だからこそだよ相棒。君は奴を罪を生み出す悪だと認識している、だったらこの戦いの後と言うのは彼が死んだ後、と言う事だろう? そうなってしまえば僕の疑問は解決出来ないじゃないか? それに、そもそもコレは戦闘ではなく一方的な蹂躙だろ?)
どっちも否定はしない、けど別に良いだろ。お前が何に期待してるのか知らないけど、どうせ大した情報なんて聞き出せないって。
(そんなの聞いてみなければ解らないじゃないか、聞くだけなんて直ぐに終わるんだし、別に構わないだろ?)
根性捻じ曲がってる野郎から情報引き出すのって面倒なんだよ……特に、絶対的に不利にまで追い込んじまうと尚更な。
(それでも、君は今まで何度もそういう連中から情報を聞き出してきただろう?)
そうだな、誰かさんの我侭の為に今までも何度かそういうのは経験した――が、成功したのは三割ぐらいだろ?
(成功率が三割もあれば十分さ君が挑んで失敗したのなら、それはそれで僕にも納得がいく)
解ったよ、やれば良いんだろ、相棒。
「何だ――と、聞かれて答える奴が居ると思うか? そんな事よりも俺は、どうしてお前が俺が永遠の騎士であると知ってたのか、って事が気になるんだが?」
俺が投げかけた一言で、明らかに狼狽していた男の表情が変わる。その表情をどう表現すべきかはわからないが、今までの根性の捻じ曲がってる連中と変わらない反応である事だけは解った。
「何故私が貴様を永遠者だと知っていたかだったか? ソレを聞いてどうする?」
「別に何も――つーか俺としてはどうでも良いんだけどな、そんな事。相棒が知りたいって言うもんだから聞いてみただけだしな。面倒な手順を踏んでまでテメェから聞きだす気はねぇさ」
(端からそんな気持ちでやっていたら聞きだせる情報も聞き出せないんじゃないのかい?)
いや、此処は威圧的に行くべきだっての、下手に出て調子付かれる方が面倒だろうが?
(君がそう考えているのならそれで良いよ。僕としても、出来れば聞きたいと言うだけだしね――無理だった所で君に何か言うつもりは無いよ)
『本心なのか俺をやる気にさせる為の言葉なのか知らないが、本当に卑怯だよなぁ、相棒のこういう所は……』
「で、どうするんだ? どうして俺が永遠の騎士だと解ったのか、その理由を聞かせてもらおうじゃねぇか? あぁ、後ついでになんで永遠の騎士って存在を知ってるのかについても聞いとこうか?」
「……それを教えるのは構わないが、いくつか条件がある」
あぁ、やっぱり取引材料が自分にあるとか思われちまったじゃねぇか……どう責任取るんだよ、相棒?
(別に、責任も何も無いだろう? 相手は条件があると言っただけだし、別にいつでも力で制圧できるんだ――気にする事じゃないだろ?)
だから、あの手の輩は一度追い込んでから精神的な余裕を持たせちゃうと拙いんだってさっきも言っただろ?
「一つ、コレが最重要事項だが、私の命を脅かさない事。コレは絶対条件だ。話すだけ話して殺されるのは正直勘弁願いたい。二つ、コレは一つ目の条件の付加条件と言っても良いのだが、君が一つ目の条件を違えぬ様に、君の聖具を預からせてもらう」
「殺さないってのは兎も角、そんな条件をこっちが認めると思うか?」
また面倒な事を言い出しやがったな、畜生……だから調子付かせたくなかったんだ。
「では逆にどうやって私を殺さないで居る事を証明する? 口先だけでなら何とでも言えるだろう? ならば、私を殺せるだけの力を一度手放してもらうと言うのは至極真っ当な考えだろう?」
「何が真っ当な考えなのか理解できないな。つーかお前、自分の立場をちゃんと認識出来てるのか? 俺達はお前と交渉してるんじゃない、これは一種の強迫と一緒だ。対等な条件で取引しようなんて考えるのがそもそもの間違いなんだよ」
「ではそうだな、対等に取引出来る様に新たな交渉材料を出させてもらおうか?」
言いながら、男は胸のポケットから何かのスイッチの様な物を取り出す。またどんな面倒なもんを出してくるつもりだ、この馬鹿は……
(――突然で悪いけどね、相棒。この世界へ入ろうとしている永遠者の反応を三つ程見つけたんだけど、どうする? しかも門の出現予測位置はちょうどこの辺りなんだけど……)
この面倒くさい局面でまた別の厄ネタとか、ホントに勘弁してくれ……で、一応聞いとくけどその三人のクラスは?
(SS一人とS二人って所かな? あくまでエーテルの保有量から察した値だからなんとも言えないけどね)
SSとS二人って、Sクラスの俺達じゃどうやっても手に負えないレベルじゃねぇか……どうするんだよ?
(どうするも何も、敵なら戦うしか無いんじゃないのかい、相棒?)
この世界から手を引いて逃げるって言う手もあるけど、もし狙われてるのなら、流石に逃げ切れるとは思えないしな……この辺りに門を形成しようとしている辺り、俺に何かしらの用があるのはまず間違いないし……あー、くそどうするんだ、ホントに。
「このスイッチが何かわかるか?」
俺の心境も知らずに――或いは、永遠者の訪れを知って戸惑っている俺を見て何か勘違いでもしたのか、男は表情を歪ませながらその手に握られる何かのスイッチを弄びながらそんな事を言ってくる。
正直な話、今はそんなスイッチについて気にしている場合じゃない。いや、この局面で態々自信に満ちた表情で出してきている以上、何かしらの交渉材料なのだろうが、正直そんな事はどうでも良い。
(確かに、僕もこの状況下で情報が欲しいとかなんとか言う気も無いしね――彼、直ぐにでも処理して永遠者達に備えるべきじゃないのかい?)
処理する必要も無いだろ、何の脅威でも無いんだし。そりゃ始末しといた方がこの世界の為ではあるんだろうけど、いつ門が形成されて永遠者が現れるかも解らないんだ、下手に動くのは得策じゃない。
(ソレが君の判断なら僕はソレに従うまでさ。しかし今更言うのもなんだけど、本当に敵なのかな、現れる永遠者は?)
それは俺には分からないけどよ、味方だと思ってて敵が来たら目も当てられないだろ? だったらとりあえずは敵って認識で良いんだよ。
「解らないか――まぁ仕方があるまい。私は先程言った筈だが、勝機もなく貴様の前に現れたりはせんとな? 少し予定とは変わったが、私の目的は貴様を消す事ではない……そんな事なら態々私がここに訪れる必要等無かったしな」
うるさいな野郎だな、集中出来ないじゃねぇか――何時まで自分が相手をしてもらえてると思ってるんだ? 確かにアイツを処理する事も大切だが、それ以上に直に現れる永遠者への警戒を怠れないってのに……
「私の目的は貴様の聖具を調べる事だ、その為に貴様と交渉する為に私はこの場に訪れた――無論、その為の交渉材料を用意してな。もっとも交渉材料など使わずとも容易に制圧出来そうなら力で押さえつけただろうが、どうやらそうもいかないらしいのでな」
(ねぇ相棒、何か彼が不穏な事を言ってるんだけど、君はどう思う?)
そりゃ何時出てくるか解らない永遠者を警戒して無視に決まってるだろ。つーか、不穏も何もお前の想像する様な使い古された手なんか使ってくる筈ないだろ?
「これは私が研究材料として捕らえた人間を隔離している施設の爆破装置だ。貴様が私の誘いを断れば、その瞬間数万の命がこの世から消える事になる――お前が守ろうとして数万の人間の命がな?」
……どうして馬鹿共の発想ってのはドイツもコイツも同じなんだろうなぁ、相棒?
(特に彼の場合、自信がどれ程愚かな事を言っているのかが理解出来ていない辺りがどうしようもないね)
「さらに言うなら、貴様が聖具を提供すれば必要となる研究材料も格段に減る。心配せずとも研究が終われば聖具は貴様に返却する事を約束する。データを得るのに一月程、貴様の聖具を借り受けるだけだ。悪い話では無いだろう?」
周囲への警戒を怠りたくは無かったが、仕方ない。早くこの不愉快な言葉を吐き出し続ける馬鹿を断罪しよう。
「解った」
「ふむ、流石に長く生きているだけはあって話が分かる。では早速その聖具を私に――」
俺の紡いだ言葉の意味を馬鹿は自分に都合の良い様に解釈して受け取る――まぁ、意図してそうした訳だが。
「お前がどれだけ馬鹿で、且つ屑野郎かって事が理解したって言ってるんだよ」
そう紡ぎながら、力の限り地を蹴り、一気に男との距離を詰める。そして、伸ばした俺の黒銀の鎧に包まれた腕は、スイッチを握る男の二の腕をスイッチが押されるよりも早く掴む。
その俺の動きを知覚出来なかったのか、或いは視線を外して見ていなかったのか「残念だよ、永――」まるで勝ったつもりで居るかのように言葉を紡ごうとする。
だがその言葉は、俺が掴んだ二の腕を握りつぶす事で与えた苦痛によって「ギッ!? ヅゥァアァァァァァアアアア!」単なる絶叫へと変質する。
男の絶叫が響く――骨を砕く程まで握りつぶされたその腕が、体から送られてくる信号を伝える事は無い。故に男の手に握られたスイッチが押される事は無い。だが、この程度で終わらせる気は無い。
「多くの命を弄んだお前は、罪を生み出す悪そのものだ。故に、その罪諸共その命、クラスS《断罪》の契約者たるジルトム=クトナファの名の下にこの場で処断する。さぁ――裁きの時間だ、犯してきた罪を、その死で持って償うが良い」
(恐らく、聞こえては居ないだろうけどね……とは言え、永遠者の事を考えると時間はかけて居られない。速やかに、この罪人を黙らせよう)
言われなくても、そうするさ――今この瞬間にも門が出現する可能性はあるんだしな。
握りつぶされ、既に機能を有さない肉でぶら下がっているだけの右腕を残った左手で押さえながら男が絶叫している。意味は分からないし、解る為に努力しようとも思わない。こんな罪人に同情の余地などありはしない。
早く、一撃で終わらせよう。その一心で拳を強く握り締める。詠唱は要らない。《断罪》の能力は身体能力を過剰なまでに引き上げてくれるこの黒銀の外殻を生み出す事だけだから。
ただそれでも、その一撃には名を与えている、意味は無いけれど、意志のある名を――
「TransPunch」
短く、握り締めた拳を打ち出す際に吐き出す息に乗せてその名を紡ぎながら、目の前で喚き散らす肉の塊にソレは叩き込まれた。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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