EternalKnight
四人の永遠者/一人目
<SIDE-Jiltm->
この世界に留まって早い事で数年、許せぬ悪事を悉く裁いている内に、何時の間にやら俺はこの国の政府から指名手配されていた。
(まぁ、君が裁いてる悪事と言うのを企んでるのはこの国の政府の連中だからね、それを邪魔して回ってる僕達が指名手配されるのは当然の流れだろ?)
つーかなんで国が民の為に行動せずに私欲を肥やす為に民を犠牲にしてるんだよ、おかしいだろ?
(そんな事を僕に言われても困る。まぁ、人間と言うのは得てして自身の欲を満たそうとする生き物だからね、頂点に居座ってる連中が私欲を肥やす為に活動しているのは別におかしな事じゃないだろう? もっとも、だからと言って許すつもりは無いんだけど)
罪は裁かれなければならない――それが俺の心情だ。とは言え前提条件として、何を善とし何を悪とするのかによって罪になるかならないかは変質する。そんな事で悩んでいた時期もあったが、今はもう迷わない。
俺が罪であると感じた事が、迷わずに裁く、それが今の俺のモットーだ。この国の頂点は腐っていて、罪に満ち溢れている、だから裁く。その結果が今の指名手配に繋がる訳だが――
つーかその前に何時写真とか録られたんだ?
(いつ録られたのかは知らないけど、事件に関わった人間を始末せずに野放しにしていればいつかはこうなる事ぐらい分かってただろう?)
罪を憎んで人を憎まず――これも俺のモットーだから、それはお前にも譲る気はないよ、相棒。
(まぁ、君がそう言うのなら僕からは特に言う事はないけどね……どの道、今この国を支配してる連中はそろそろ引きずり落とされる。君が助け、君を英雄視し、君をサポートしようとする人々の手によって、ね?)
まぁ、それならそれが一番良いだろ。そうなってくれると俺もようやくこの世界から離れられるってもんさ。
(もっともそうして作られた世界が、どの程度持つのかは疑問だけどね――別に定期的に見回る訳でも無いんだろ、今までの世界と同じ様に?)
俺はこの世界の人間じゃ無いし、とりあえず許せない悪事が無くなったのならここから離れるさ。お前の言う通り見回りに来る気は無いけど、通りかかった時に覗くぐらいの事はするつもりだ。勿論その時に許せない悪事を見つけたなら、それを裁くだろうけどな。
(まぁ、今まで関わってきた様々な世界と同じ対応だね――否、別にここだけ特別視する理由なんて無いんだから、当然と言えば当然なのか)
そう言う事だ、今までどおり別に俺はどこの世界にも肩入れする気はない。唯、目の前の許せない罪を裁く、俺の行動理念はそれだけだ、そんなことはお前もわかってるだろ、相棒?
(そう、実に君らしい。だけど、僕は少しばかりこの世界に興味がある――と、言うよりは、この世界で研究されてる人造聖具とやらが気になるだけだけどね)
人造聖具、ねぇ? 確かにどの程度の物なのかってのは少し気になるが、人が造る聖具なんてしれてるだろ? 良くて身体能力を底上げ出来る装具ってのがいい所なんじゃないか? 魂が宿っている本当の意味での聖具を作るのは不可能だろ?
(確かに、僕達の知る限りじゃ人の力だけで造れるのは君の言う様な能力の底上げが出来る程度のモノだ。だけど、この世界で研究されているのが必ずしも僕らの知る範囲内のモノだとも限らないだろ?)
お前の言う事も一理あるかもしれないけどな、相棒。どの道それは今この国を支配している馬鹿がやってる研究だ、それは今からぶっ壊す訳だから、興味もクソもないだろ?
(その研究を誰かが引き継ぐ可能性は否定できない。君が研究の資料になりうる物を全て破壊し、関係者を皆殺しにでもするなら話は別だけど、そんな気はないんだろう?)
それこそ当たり前だろ、資料を潰すくらいならやっても良いが、関係者を皆殺しなんかする訳ないだろ。俺が罰するのは罪だけだ、それを犯した奴には少し痛い目は見てもらうが、命をとろうとまでは思ってない。お前ならわかってるだろ、相棒?
(あぁ、分かってるよ。だけど、だからこそ僕はこの世界の行く末が気になるんだ。資料をどれだけ潰しても、その研究者が生きて居る限り研究は終わらない、それがどんな研究であるにせよ、ね?)
やっぱりそうなるか……まぁ、元々全てを救えるだなんて思ってないし、この世界のあるがままに任せるしか無いのかも知れないな。
(君にしては珍しい意見だね。それはつまり、この世界から引き上げると言う宣言でいいのかい、相棒?)
まさか、こんな半端でやめる訳無いだろ? とりあえずは、今この世界で起こっている許せない罪を裁く――それが終わったら此処から出るつもりだ。最低でも平然と人々が拉致されて実験に使われるなんて状況を改善しなきゃ駄目だろ。
(けど、何であれ研究が続く限り人々が実験に使われる事に変わりは無いよ?)
それが堂々と成されてるってのが気に入らないんだよ――どの道世界を丸々一つ平和になんて出来ないなら、せめてそういう事をする連中が日陰者になる様な世界にはしておきたい。それがこの世界に関わった俺の責任だと思ってる。
(まぁ、君がそうすると決めたのなら僕から異論は無いよ。何せ僕等は、二人で一人の永遠の騎士だからね、君がそれを望むなら僕はそれに従うだけだよ)
代わりに俺はお前の我侭を聞くってか、相棒?
(そうだね――強制では無いけど、聞いてくれるとありがたいよ)
――となんとか言ってる間に、目標のお出ましみたいだな。
暗がりから、この世界で最大の規模を誇る研究施設を監視する様に待っている内に、遂に待っていた存在がその場に現れた。
この世界の人々から託された情報――この世界を支配している、許せぬ悪事を企む存在が訪れると言う情報の通りなら、周囲を数人の屈強な男に守られているあの初老の老人こそ、この世界を支配している悪と見て間違いないだろう。
(頂点を倒せば全てが解決するなんて、子供じみた事を考えてるのかい?)
いや、流石にそこまでガキな思考はして無いさ。それでも、頂点を潰せばこの世界は少しでも良い方向へ向かうと信じてる。そもそも、完全な解決なんて端から出来ると思ってない。
(まぁ、君がそれで良いと言うのなら、僕は可能な限り君に力を貸そう)
悪いな相棒、後でお前の我侭を聞かせてもらうよ。とは言え、流石に無理な事は無理だって断るけどな。
(じゃあその我侭というのは例えば、この世界に暫く留まって人造聖具の行く末を見届ける、と言うのでもいいのかい?)
後でって言ったぞ、相棒? けどまぁ、そのくらいの事なら別に構わないさ――流石に十年とか二十年もこの世界に留まってってのは勘弁だけどな。
そうやって念で相棒に応じながら、俺は暗がりからこの世界の悪の前に立ち塞がる様にして躍り出た。
「なんの用かな?」
暗がりから突然現れた俺に対して、特に驚いた様子も無く初老の男が口を開く。周囲に居る屈強な男達は早くも銃を構えている――まぁ、俺も銃を持ってる訳だし当然と言えば当然の反応だろう。
「この世界の罪を生み出す悪を裁きに来た、と言ったらどうする? 俺の顔に見覚えが無い訳じゃないんだろ? 手配書も出回ってるみたいだしな?」
「見覚えが無い等とんでもない、君の事は色々と調べさせてもらったよ。もっとも、君が永遠の騎士であるという確証とその顔しか私には解らなかったがね?」
俺が永遠の騎士だと知ってる? 否、そもそもこの世界にその存在を知る方法なんてあったのか? だが、それが分かっていてあの落ち着きはなんだ? 何か策でもあるのか? そもそも、此方から仕掛けたのに策なんて用意出来る物なのか?
「君は随分とわかりやすいな、永遠者? 私の落ち着きの理由がそんなに気になるかね?」
否、敵の声や態度に惑わされるな、策があった所で大した問題じゃない、この世界の科学技術や魔術の発達具合なら把握している、それ等を用いてどれだけ策を擁した所で、大した障害にはならない。
「……別に、どんな策が合った所で、そんな物は力技でねじ伏せてやるよ――俺を永遠者と呼んだんだ、どの程度の力があるかぐらい分かってるんだろ?」
「今いち状況が理解出来てないようだな……言った筈だがな、君の事は調べさせてもらったと? その実力も私の知る所だが、そんな君を私は呼んだ、こう言えば今君が置かれている状況がどんなものか、理解してもらえるかな?」
ちょっと待て、奴が俺を呼んだ、だって? と、言う事は――
「随分と驚いているな、永遠者? ようやく自分が誘き出されらと気付いたのか? そもそも私の行動がそんな簡単に漏れる筈が無いだろう? 結成されて一年と経っていない君の存在に後押しされて勢いだけで出来た組織なら、尚更だ」
「誤情報……否、実際にお前は今目の前に居る訳だから、情報の操作になるのか?」
「正解だ、永遠者。そしてそうである以上、何の勝機もなく私がここに居る訳では無いという事もまた、理解は出来たかな?」
そこがまだ解らない、周囲のエーテル反応を探ってみても、男の周囲に居る者達が人造聖具と思われる物を持っている事しか知覚出来ない。
そして、その程度の三流以下の紛い物では、どれだけ数を集めても俺には届かない事は解りきっている。仮に今のまま戦ったとしても、そこまで苦戦する事も無いだろう。面倒な事に間違いは無いのだろうが。
故に、否……そうでなかったとしても、罪を生み出す悪が向こうから勝負を挑んできたのだ、戦わない理由など何処にも無い。
「お前のその自信だけさっぱり解らないが、まぁ概ねは把握した――それだけ自信があるなら相手をしてやる。紛い物なんかじゃ幾ら数を集めても同じだって事を教えてやる――俺達、断罪者の手でな」
「断罪者を名乗るか……ならばこの罪、裁いて見せ――」男が言い終わるを待たずに、俺は右手に握る相棒を迷わずに男の額に向けて、その引き金を引く。
一発の銃声が響き、相棒からエーテル製の弾丸が打ち出される。だがしかし、その弾丸は初老の男を庇うように飛び出してきた屈強な男の一人の体によって防がれた。無論、庇う様に飛び出した男の体は崩れ落ち――無い?
「――ろ、出来る物ならば、だがな? それから、言い忘れていたが、彼等は皆私の作り上げた人造聖具の宿主達だ、私の罪を裁きたければ、先ずは彼等の相手をしてやってくれ……力技で、ねじ伏せられるんだろう?」
その言葉と同時に、弾丸を受けた男と周囲に居た屈強の男達の体躯が二メートル以上に膨れ上がり、胸の中心に灰色の光を点す球体を埋め込まれた、筋肉質な巨人へと変質する。
血走ったその瞳からは、生気を感じられないが、一斉に変質した所から察すに男の命令は聞く様だ。
……どこまで本気なのかわからない。
(こんな物が人造とは言え聖具だって? こんな最下級の魔獣と似たような存在を作る、こんな物をあの男は聖具と呼ぶのかい?)
そうらしいぜ、相棒――どう思うよ? 確かに反応自体は周囲にエーテルを取り込んで肥大化したみたいだけど、それでも俺達の本質の前じゃ雑魚でしかない。
永遠者の存在を知りながら、こんな物を見せて自慢げにしていられる理由は解らないが、さっさと始末して、埋め込まれた人達を助けるべきだろう。
もっとも、エーテルで出来ている訳でも無い肉体を此処まで強引に変質させてしまっている以上助けると言う事は即ち、醜い姿から開放してやると言う事しか意味していないのだが。
人々を殺して人造聖具の素材にするのも許せなければ、生きている人間に不出来な人造聖具を与えて使い捨ての兵士にした事も含めて、全てが許せない行為だ。
コレはもう、奴を罪を生み出す悪ではなく、罪その物だと認識を改めるべきだろう。そしてそうと決まれば、やるべき事は決まっている。罪は裁かなければならない、断罪者の名にかけて。
「どうした、言葉も出ないか? 永遠者であり天然の聖具を持つ君でもこの数を相手取るのは厳しいだろう? 隠さなくても良い、君のコレまでの戦いは見せてもらった私には解るよ」
……コレまでの戦い、だって?
(成程ねぇ……それだと話がかみ合わない訳だ。否、それならそれで、どうやって永遠の騎士の存在を知ったのかが気になるかな?)
コレは、ひょっとしてとんでもない勘違い馬鹿を相手にしているって事でいいのか、相棒?
(間違いなくそうだろうね)
だったら、俺達の本質を見せて思い知らせてやろう。自分がどれだけ愚かで馬鹿な存在なのかを。
考えている間に、八つの巨躯が統制の取れた野生的な動きを見せながら仕掛けてくる。そうして俺の正面と背後についた二体の巨人は、前後から寸分の狂いも無いタイミングで巨大な拳を繰り出してきた。
こんな物は避けるまでも無い、今するべき事は一連の動作だけだ。相棒を待機形態から通常形態に戻して、俺達の唯一無二の力の名を紡ぐ、その動作だけで全てが変質する。
銃の形状だった相棒は金の粒子となってその形を崩して、俺の腰に巻かれたベルトのバックルへと変質する。巨人の拳は目前まで迫っているが、焦る必要は無い。
後はその力の名を紡ぐだけで良い。故に俺は瞳を閉じて言霊を紡ぐ――唯一言「《-Transformation-変身》」と。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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