EternalKnight
情報
<SIDE-Aren->
「久しぶりじゃのう、アレン、リズィ。それからヌシは一月ぶりになるかの、フェイン?」
《情報屋》の門を開けて中に入ってそうそう、シェディさんから声をかけられた。これは、かなり異常な事、だと思う。
《情報屋》は外の虹色の世界から門を使用して入ってくるとシェディさんがいつも居るカウンターのある部屋とは違う、窓の無い部屋に出る。
何を目的としてこのワンクッションを置く様な空間を形成しているのかは兎も角、そういう造りになっているのだ。
故に《情報屋》のある世界と言うか空間へ入る門を潜ればまずそこに出て、そこから隣の部屋に移動する事でシェディさんに情報を聞けるのが普通なのだ。
だが、外から門を使ってココに入ってきた瞬間にシェディさんに話しかけられた――俺の今までの経験からすれば明らかに異常だ。
直ぐ目の前に居るシェディさんから視線を外し、自分が居る部屋を見渡してみるとそこは《情報屋》の入り口とも言える窓の無い――否、隣の部屋へ続く扉以外に何も無い部屋だった。
「えっと、シェディさん? 何でこっちに居るんですか?」
どうやらコレには《情報屋》の常連であるらしいフェインさんにとっても予想外の事だったらしく、シェディさんに疑問を投げかけるその声はどこか上擦っている。
「此処はワシの作った空間であり世界じゃぞ? 何処に居ろうがワシの勝手じゃろうが――と、言っても良いのじゃが無論理由はある。単に先程まで居た客であり友である者の見送りをしておっただけじゃよ」
さっきまで居たって――俺達は丁度さっきここに入ってきたばかりだけど、誰も見なかったのだが……
「なんじゃ、アレン? ワシを疑っておるのか?」
「別に疑っちゃいないけどよ、俺達は今此処に来た所なのに誰も見てないな、とか思っただけだよ」
ってか今の疑問は俺だけじゃなくてみんな抱いた疑問だと思うんだが、何故俺だけ名指しで言われたんだ?
「あっちゃん……それは限りなく疑ってるって事だと思うよ。私も同じ様な事は思ったけど」
「嘘をついているとも思いたくありませんし、何より貴方が嘘をつく理由が見当たらない。姿を見かけなかったのは丁度私達が入ってくる瞬間に出て行ったと考えれば良いでしょう。ですが、偶然にしては出来すぎて居ると、流石に思うのですが?」
入ってくる瞬間に出て行く――確かに元からある共通の入り口を使わずに自身で門を開けば、俺達が入ってくる瞬間に《情報屋》を出る事で俺達に見つかる事なく出て行けるんだろうが、普通そこまでするか?
門の展開にはエーテルが必要なのだ、元から門のある場所で態々自分で門を展開してまで俺達に気づかれず出て行くと言う事は、それは明らかに意図して俺達を避けていると言う事になる筈だ。
「なにやら三人とも色々と考えている様じゃが、別に偶然入れ違いになったとは言っておらんぞ? 彼奴が意図して入れ違いになる様に出て行っただけじゃ。ワシが此方に居るのはその見送りをしておったからじゃよ」
シェディさんが見送りって……相手は誰だよ? それとも何か? 常連とかは見送られるもんなのか? 否、ここまでのフェインさんの反応から考えてもそれは無いだろうし……
「答えられるならで構わないんですが、その見送った相手と言うのは? 私達が何故ここに来たのか、貴方ならとっくに知っているでしょう?」
「ふむ、別に隠せとは言われとらんし教えるのは構わんのじゃが、彼奴は絶対に御主等には手を貸さんと思うぞ? もっとも、彼奴に会う事すら御主等には出来ぬだろうがな?」
会う事も出来ないって、今さっき此処を出たんなら今すぐにここを出ればエーテルの反応ぐらいは追えると思うのだが……速過ぎて反応を捕らえられないとか言うつもりなのだろうか?
まぁ、ゼノンさんとカノンの戦いを見た後だと、次元が違いすぎる相手というものの存在は認めざるを得ない訳だが。
「あぁ、別に御主等が知るゼノン等の様に動きが速過ぎて知覚出来ない、とかそういう訳では無いぞ?」
なんだろう、この人には俺の心が読めるんだろうか……いや、気のせいなんだろうけどさ。
「そう言うのとは別に、もうこの辺りには居ないと言うだけだ。と、言うかそもそも本気で彼奴が逃げるつもりなら、追える者等少なくともワシの知る範囲では一人もおらん。《空間転移-UnlimitedTeleport-》と言う名くらいなら聞いた事があるのでは無いか?」
《空間転移》って、あの《空間転移》だよな? まぁ、確かにシェディさんならどんな知り合いが居てもおかしくは無いと思うが、そんな所とも縁があったのか……
「あの、シェディさん《空間転移》って空属性最高位《空間転移》さんの事で間違いないんですよね?」
おずおずとリズィが手を上げながらシェディさんに問いかける。他に《空間転移》なんて聞いた事は無いが、万が一にでも違った場合はこの後の会話が食い違ってくるのだから、その質問を此処でしておくのは正解だろう。
「うむ、空属性唯一のLv9にして最強の転移能力者エムルイン=ミレス=コレクラグ、彼奴以外で《空間転移》を名乗っておる奴などおらぬだろう? まぁ、ワシの知る限りでは、だがのう」
まぁ、そうだろうなぁ……しかし、今なんか真名とかシェディさんが口走ったから聞いちまったけど、良いのかね? 一部の聖具にとっては重要な意味があったと思うんだが……
とは言え、こっちが聞いた訳じゃないし、どれだけ情報に価値があろうがエーテルを払う必要は無いだろうし別に良いか……
「まぁ、入れ違いで出て行ったのが《空間転移》だってんなら、今から追うのは不可能ってか、仮に目の前に居た所で逃げられたらどうしようもないし、その話はもう良いさ――それよりも本題の方が大切だ」
「控えている《呪詛》との戦いにおいて、御主等に協力してくれそうな者はおらぬか、と言う事なら既に四人は思い当たる者はおる。そして無論彼等が現在何処にいるのかも把握している」
「だったら教えてくれ、そいつ等が何処に居るのか、外見的な特徴と名前もだ」
此処まで来た目的はそこにあるのだから、悩む必要等無い。シェディさんが思い当たると言うのなら話さえ持ちかければほぼ確実に乗ってくれる様な奴等だと思っていい。
「だが、あくまで可能性があるだけで、必ずしも協力してくれると言う訳ではない、それを踏まえた上で情報を受け取るか受け取らぬかを選んでくれ、無論一組の情報に付きいつもと同じ定額のエーテルを貰う」
必ずしも協力してくれる訳が無いなんて事は言われなくても解りきっていた事だ。別に協力を拒まれた所で拒んだ相手やシェディさんへ文句を言うのはお門違いだなんて事は理解している。
「自覚が薄いようじゃから言っておくが、御主等に協力するという事は、その者の命を預けてくれと言っているのと同じじゃ、断られるのが普通だという事を忘れるでないぞ?」
念を押す様にシェディさんは言うけれど、そんな事は言われなくても分かっている――自分の命を天秤にかけて、それ以外を選べる人なんて早々居ないのだ。特にそれがこの広域次元世界全ての命運なんていう大きすぎる物であれば、尚の事。
「それは分かってるつもりだ。断られたってシェディさんや相手に文句は言わないさ――それでも一人でも多くの協力者を得られる可能性を選びたい。だからその四人全員の情報を教えてくれ」
「では、情報量は後から貰うとして、まずはその四人の名から教えようかのう? 誰からでも良いのじゃが、とりあえずは此処から近くに居る順に教えておこうかのう? まぁ、その前にここで話すのもなんじゃし、カウンターのある隣に場所を移さんか?」
確かに、此処で立ち話するよりはカウンターに座って聞いた方が良いか――まぁ、別に立ち話でも構わないと言えば構わないのだが、折角の好意は受け取っておこう。
と、言うかここの常連らしい上に、俺よりも長く永遠の騎士をやってるフェインさんを差し置いて俺がシェディさんと話してて良いんだろうか、なんて心の隅で重いながらも「わかった」とそのシェディの言葉に短く答えた。

<SIDE-Aren->
「――と、これで四人分の情報じゃ。居場所を知っておる永遠の騎士なら他にもおるのじゃが、協力してくれる可能性が高いのはその四人ぐらいじゃと思うておる。まぁ、可能性が低くても良いのなら此処から近い場所に居る者だけでも教えるが?」
出来れば駄目元でも行ってみたい所だが、さっき聞いた四人の中で一番遠い奴の居る場所を考えると数を回るのは良い策では無いだろう。時間を掛けすぎると《宮殿》で待つ仲間達に迷惑が掛かってしまう。
「いや、シェディさんが無理そうだと判断してるなら別にいい。数を当たるのも大事だとは思うけど、今は《宮殿》に仲間達を待たせてるから、時間が掛かりすぎる手は選べないんでね」
「そうか、ワシとしては稼げる時に稼いでおきたかったのだが、御主がそう言うのなら仕方ない」
稼げる時に、ねぇ? 十分に稼いでると思うんだが、まだ足りてないんだろうか? って、言うかそもそも何に使ってるんだ、料金として受け取ったエーテルって? いや、知った所でどうなる訳でも無いけど。
(集めたエーテルは情報の収集に使われるんじゃないのか? 少なくとも何もしていなければ、莫大な量の最新の情報を持っている訳が無いだろう)
まぁ、それもそうか――けどエーテルを使って集めた情報でまた別の情報を集めるってそれじゃあ増えも減りもしないんじゃないか?
(それを我に聞いて答えが出るとでも思っているのか? だがまぁ、どの程度のペースでかは兎も角、増えているのは間違いないのではないか? 減る一方であるなら態々情報屋なんて物を作らなければ良いだけだろう?)
例え減る一方でも趣味としてやっててもおかしくは無いと思うのは俺だけなんだろうか……まぁ、流石に趣味でやってるにしても他に競争相手が居ない以上、情報一個当たりの値段を弄れば差し引きでプラスにするのは難しくないとは思うのだが。
結局の所、どれだけ考えてもその増やした分のエーテルで何をやっているのかなんて事は俺には想像も出来なかった。まぁ、集めたエーテルを使って何をするのかなんて個人の自由だとは思うが。
「とりあえず、四人分の情報には感謝する。料金は、これで良いか?」そう言いながら、シェディの話を聞いている間に生成した下級聖具四つ分程度のエーテルが詰まった結晶をカウンターに置く。
「ふむ、料金はしっかりと頂くが、お前一人で支払って良いのか?」
俺一人で支払って良いのかって、別に誰が払ったって一緒だろ? とシェディさんに返すよりも早く、リズィが言葉を紡ぐ。
「そうだよあっちゃん、私達は三人で来たんだから三人で均等に割らなきゃ駄目だよ? フェインさんもそう思いますよね?」
いや、フェインさんはそういうのは気にしないと思うんだが――たぶんだが。
「確かに、幾ら順最高位と仮契約を結んだからと言っても、後輩に全て支払わせる程落ちぶれては居ませんよ?」
ってアレ? フェインさんもそういうの気にする人なのか?
「どうするアレン? ワシは情報料を貰えるなら誰から貰っても良いのじゃが? お前が今カウンターに置いたエーテル結晶を料金として貰ってもいいのか?」
――えっと、これは素直にリズィやフェインさんにも払ってもらった方が良いかな?
「なら、リズィとフェインさんにもお願いしようかな。別に誰が払ってもそんなに変わらないと思うけど」
カウンターの上に置いたエーテル結晶を《救い》をはめた右手掴み、そのまま握りつぶしてエーテルを取り込みながら、俺はそう答えた。
もう一度、今度は先ほどの三分の一とは言えエーテル結晶を作るのは少し面倒だが、まぁ暫く色々と言われ続けるよりははるかに楽だろう。
「初めからそうしてれば良いのに……なんで一人で勝手にやっちゃうのかな、あっちゃんは? 誰が払っても一緒な訳無いでしょ、こういうのは皆で分けて支払わないといけないんだから」
そんな風に頬を軽く膨らませながら怒るリズィをなだめる様に「解ったから、そう怒らないでくれよリズィ……」と謝る俺を見ながらシェディさんとフェインさんがニヤニヤしていたのは気のせいだと思う。
と、言うかシェディさんは兎も角フェインさんもなのか。つーかフェインさんなんかは誰がエーテルを支払うとかどうでも良くて、こうなる事を予測して俺一人に支払わせないって言ったんじゃないかと思えてくる。
いや、他の連中が痴話喧嘩とかしてたら俺もニヤニヤしながら生暖かく見守るだろうから、仕方ないとは思うけどさ……

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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