EternalKnight
彼方〜周波数〜
<SIDE-Leon->
ベアトリスに引き連れられて、俺達はカウンターまで移動する。やはり連れてこられるまでも無くカウンターにアルアは居るようだ――が、カウンターに居るアルアには既に先客が居たようで、アルアはそちらと話をしている。
とは言え、宿に居る間はベアトリスを盗聴しているだろうから、俺が来た事には気付いていると思うのだが……って、待て今アルアと話してるのって――
「セトさん!」
俺が気付くのとほぼ同時か、それよりも早くその存在に気付いたユフィが声を上げてその名を呼ぶ。その声に反応してカウンター席に座っている彼女はゆっくりと此方へ振り返り、言葉を紡ぐ。
「待ってたわよ、ユフィにレオンさん、それにトキハにクオンとユーリ」
宿の中に居たので反応が小さくなっており気付けなかったが、アルアと話をしている彼女は間違いなく、守護者の一員にして、その組織内において非常に重要な役割を持つ、セト=オルフィシアその人だった。
そういえば、引きこもりを止めて以来は初めて合うんだったか――随分と懐かしい。とは言え、お互いに上位聖具の契約者なので姿は最期に顔を合わせた時と特に変わっていないのだが。
「宮殿が襲撃されてすぐに《InTheDistance》で宮殿外に跳んだ所までは良かったんだけど、思いの他遠くまで跳んじゃってね……私ってば戦闘は空っきしで一人で帰るのが危なそうだったから、偶然近くにあった《宿》で守護者の誰かが来るのを待ってたのよ」
「私はそれまでの話し相手と言う訳だ、レオン。基本的に私はここを出ないから自分で見た物というのは少ないだが、お客が持ってくる面白そうな噂話なんかは山程聞かされてるからな、話題には困らなかったよ」
確かに、セトの能力は探索に特化しており戦うのには向いていない――が、探索に特化している以上、相手よりも確実に自分が発見できるのは間違いない。それの能力を持ってすれば、宮殿まで無事に帰ることは不可能では無いと思うのだが……
もっとも、そうやって知らない反応は兎に角避けるという方法では、明らかに宮殿へ帰り着くのも遅くなるのだから、こうして《宿》に俺達が来た以上、彼女の判断は正解だったという事になる。と、まぁそんな事は兎も角――
「悪いが今回俺達が《宿》に来た理由はセトを迎えに来る事じゃない、それは単なる偶然で、用件が他にあるんだ」
まぁ、偶然だろうがなんだろうが、先の一件で転移能力によって宮殿を脱出していたセトが見つかったのは実に行幸と言える。やらなければ行けない事が一つ減ったと考えれば、本当にラッキーだと言えるだろう。
《完全なる六》が三つも復活してしまっている今、《呪詛》に仕掛けるなら早いに越した事は無いのだ。
それこそ時の迷宮に封じられている《時空》が開放されてしまえば、《必滅》を封印したままで維持したとしても、暴走によって能力の片鱗でも漏れれば《真理》が復活してしまう。それだけは、なんとしても回避しなくてはいけない。
「ちょっとレオン? 貴方の用件の前に、約束をちゃんと守ってアルとあたしにちゃんとさっきの話を説明しなさいよ」
「言われなくても説明するさ――と、言うかその用件ってのに密接に関わってるから説明しなきゃ本題に入れない。信じにくい所もあるかもしれないが、何一つ嘘じゃない事実だから、疑わずに聞いて欲しい」
シュウが最高位の聖具である事、先の襲撃でセルが殺された事、それによって俺が守護者の首領になった事、敵は《完全なる六》を全て手に入れようとしている魔獣の王《呪詛》である事、それと戦う為に戦力が一人でも欲しい事――話すべき事は多くある。
つーか、もう面倒だから《宿》に今居る連中に呼びかけてみるか? ここでアルア達に話して、もう一度《宿》に来ている連中に説明するのは、面倒な気もするし――うん、もうそれで良いよな?
正体を極力隠すとかどうとか、もうどうでも良い。そもそも、この状況なら最上位である《終焉》の契約者である事を隠している事は大したメリットにならない。
既に《完全なる六》は《終焉》を含めて半数が復活してしまっているのだ――出来る限り速やかに仲間を集め、《呪詛》との戦いに挑みたい。
「と、言うかこの際だから《宿》に居る奴等にも聞かせたい、と言うか聞いてもらいたいんだが、出来るか?」
「お客全員にお前の話を、か? まぁ、呼びかける事ぐらいは出来るが、本人が拒否した場合は無理だぞ? 力ずくなら無理にでも聞かせる事も出来るだろうが、こちらも道楽に近いとは言え客商売だからな、その辺りは分かってくれ」
まぁ、聞くつもりが無い様な奴は初めから手を貸してくれるとは思えないし、それで問題ないか。
「悪いなアルア、助かるよ」
「気にするな、私とお前の仲だろう? それに大体の事情は予想出来るし、お前の性格も知っているつもりだ――二度手間は、面倒だろう?」
やはり古い友人は理解が早くて助かる――まぁ《宿》の中でのベアトリスとの会話は基本的に盗聴器を介して聞かれている筈だから、俺が守護者の首領になったと言う事をベアトリスに話して時点で予測はついていたのかもしれない。
首領となった者が、不特定多数の永遠者が集まる場所に自ら出向いてくる理由――
考えればいくつも候補が上がるし、守護者の首領としてではなく個人として訪れているのなら幾らでも可能性はある。だが、明かさなくても良い情報である筈の自身が守護者の首領である事をベアトリスに伝えた事を考えれば概ね可能性は絞られてくる。
「あぁ、何度も同じ説明をするのはしんどいってのは最近久しぶりに身を持って知ったからな――で、客を集めるって言ってた、どうやるんだ?」
まさか声量を上げて呼ぶなんて真似はしないよな、流石に? 結構広い訳だし、この《宿》も。
「どうするもこうするも、念話で呼びかけるのさ。非常事態なんて起こらないとは思うが《宿》を名乗る以上は最悪の可能性に備えて《宿》に居る全員に念を送れるようにちょっとした《宿》自体に細工をしててな――それを使う事えば全く問題ない」
「良いのか? 最悪の事態に備えた緊急用なんだろ? つーかそれ、周波数はどうなってるんだ?」
基本的に念話というのは双方が意思疎通を行おうとしていなければ出来ない。送る側は受け取り手を、受け取る側は送り手を意識していなければ普通念話というのは成立しない。
つまるところ念話と言うのは一対一が基本なのだが、不特定多数に念を送りたい場合、送り手は複数の相手を意識しなければいけないし、受けてもいつでも念を受けられるように意識していなければ行けない。
その問題を解消する為に、守護者が独自編み出しに周波と名づけた技術が存在するのだが、今ではその技術は守護者から漏れ出し、破壊者、ハグレにも使用されている。
もっとも、そのお陰でほぼ全ての永遠者がある程度までなら距離の離れた場所においても複数で念話が出来るという現状が出来上がった訳だが――と、いけないまた関係ない事を考え始める所だった。
「周波数は関係ないし、良いも何も別に一度しか使えないとかそんなモノでもない。緊急時に使う為に《宿》を構築する際に仕込むだけ仕込んで全く使ってない技術だからお前は特に気にする必要は無い」
「そうか、なら頼む」
しかし、周波数に関係なく特に使用を躊躇う必要のない広域への受け手を選ばない念話ってどういう事だよ? 流石は《やりたい放題の俺の館》って事か?
【テステス……うん、コレで聞こえてるかな? えー《宿》にご来場頂いてて居る全てのお客様にご案内いたします、ただいまよりカウンター席付近で守護者の新首領殿による報告があるとの事です、お聞きになられる方は、カウンター席前までお越しください】
考えている間に、頭の中にアルアの声が響いてきた。 特にアルアの念を受け取ろうという意識は無かったし、どの周波に乗っている訳でもない……本当にどういう仕組みだ、コレ?
「と、こんな感じで良いかな、レオン?」
報告があるって言うと微妙に御幣があるんだが――それはまぁ良いだろう。仕組みについても気にはなるが今はどうでも良い。
それよりもよくよく考えると、俺の事を多少なりとも知っているアルアやベアトリスは兎も角、俺の事を知りもしない連中にどうやって俺が最上位であるという事を伝えるべきなのだろうか?
《終焉》を展開してその力を見せ付ければ納得してくれるとは思う――がここではそれが出来ない。ココは《宿》の中なのだ、アルアを除くあらゆる者はこの《宿》の内側においてその力を極端に制限される。
否、まぁ仮にもあらゆるモノの終りの力を内包する最上位なのだから《宿》内における独自ルールたる能力の極端な制限を受けないか、或いは受けた所で力技で破る事は出来るだろう。
だがそれをすると力を制限している《宿》と言うシステム自体を終わらせて仕舞う可能性が大いにある。
それは、流石にアルアに悪い……が、そうなると本当にどうするべきなんだろうか? 話だけで信用してもらえるならありがたいんだが、流石にそんなに簡単にはいかないだろう。
「アルってこんな事も出来たんだ……あたし知らなかったんだけど?」
「まぁ、話した事も使った事も無かったし、知らなくて当然だな。私以外にこの事を知っているのは《限定》しか居なかった訳だし。最も、この《宿》の中でしか出来ないのだから触れて回るほど凄い事と言う訳でもないだろう?」
まぁ、結界の外で出来れば異常な事だとは思うが、結界の中であればある程度の無茶は実現可能な訳だし、確かに触れて回るほど凄い事でもない――探せば似た様な事が出来る永遠者なんかが居てもおかしくは無いと思えるレベルだろう。
実際どういう仕組みでそれが行われているかと言うのが分かれば再現できる奴になら再現できるだろう――概ね間違いなく俺と《シュウ》には無理だろうが。
「あたしにぐらいは教えてくれても良かったんじゃない、私もここに住んでるんだし?」
「そうだな――ベアトリスには教えておいても良かったかもしれない。が、済んだ話だ。ベアトリスはもう知っているだろう? なら良いじゃないか」
いや、まぁ確かにさっきので知っただろうけど、それで良いのか? ベアトリスが納得するとは思えないんだが――
「もう良いわ……確かに今のであたしもその存在を知ったことだし、別に済んだ話を根に持ってても仕方ないしね」
と、何故だけ直ぐに納得してしまった――付き合いの長さ、と言うか共に居た時間の長さが成せる技なんだろうか、コレは。
つーか済んだ事を根に持っても仕方ないって、それはお前の言うべき台詞なのか? なんか割と済んだ事を色々根に持たれてた気がするんだが……今言っても話が拗れるだけだから絶対に言ったりはしないが。
「とかなんとか言ってる間にお客さんが集まって来たみたいだけど?」
言いながら、セトが近づいてきて、そこから先を【と、言うか本気で話す気なの、貴方の秘密? 割と凄い騒ぎになると私は思うんだけど?】懐かしい周波の念話で聞いてきた。
随分と昔に使っていた周波だが、どうやらセトは覚えていたらしい。俺の方は一度でも使った周波は常時受け付ける形にしているのでそれを受け取れた訳だが、まぁそんな事どうでも良い。
【全部話す気は無い。つっても《終焉》の契約者だって話はするから殆ど全部だけどな】
あれに関しては、存在そのものが曖昧だから特に話す必要が無い。寧ろ話してしまえば嘘っぽさが増す気がする……例えそれが事実であろうとも。
【あぁ、あの事は伏せとく訳ね……なら安心って――殆ど一緒じゃない!】
セトの不意の突っ込みに驚いて、思わず体がビクリと震える――念話であろうと、送り手の感情の起伏によって喋っている時で言う声の大きさの強弱の様な強弱をつける事が出来るのだ、あのレベル突っ込みを念話でされたのは始めてだが。
つーか勝手な偏見だけどバイザーしてる奴ってクールなイメージなんだけど、何でセトはこんななんだろうか……別に悪いって訳では無いけど。
しかし、この性格でよく宮殿深部でずっと索敵とかやってられるな、コイツ……或いは、久しぶりに外に出た反動なんかもしれないが。
ってかさっきの傍からみたら急に驚いてるって状況な訳だし相当怪しいよなぁ……最悪聖具とくだらない話をしてたって事でなんとかなるんだろうけど。今はシュウは黙っているけど、いつもはそんな感じだし。
【まぁ、貴方がそれで良いと思ったんなら私からは異論は無いわ。と、言うか新しい首領様が決めた事に逆らう気は無いわ。貴方は貴方の望むようにやれば良い。私はそれをサポートするだけよ】
【すまない、セト】
念話でセトにそれだけ告げて、集まってきた《宿》の客とアルア達に視線を向ける。
客だけで十数人――この中の何人が協力してくれるかは分からないが、兎も角、一人でも多く協力者が得られる様に守護者の首領として、この広域次元世界に住む者として、最上位の聖具の担い手として、話をしよう。
そうして俺は目の前の十数人とアルア達に自分が伝えるべき事を語り始めた。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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