EternalKnight
長い縁
<SIDE-Leon->
「――とか何とか言ってる間に《宿》が見えてきたな」
移動のペースを緩めることなく、寧ろ状況が状況だけに少し早足で、それで居て雰囲気を損なわない様に会話を盛り上がせながら進んでいく内に、気がつくと虹色の世界の彼方に《宿》の入り口となる門を見つけた。
「見えてきたって――それホント? 座標的にはまだかなり離れてるし、私には見えないわよ?」
「まぁ、俺がある程度遠くを見ようとして見て、ようやく見える範囲に入っただけなんだし、当然なんじゃないか?」
どちらも別段身体能力の強化に特化している訳では無い聖具である以上、EXクラスとSクラスの聖具の身体強化率の差を考えれば、ある意味当然といえる結果でしかない。
とは言え、視力の強化率は知らないが、そんなに差がつく物だとも思えないし、クオンの目にも直に捉えられる様になるだろう。と、言うかそんな会話を交わしながらも《宿》へ向かって進んでいるので今この瞬間に見える範囲に入ってもおかしくは無い。
等と考えていると「あぁ、手前にも見えてきました――」とトキハが目を細めながら真っ直ぐに前を見ながらそう告げる。
そのトキハの声に「嘘――私にはまだ見えないんだけど? 何で私よりクラスの低いトキハが見える様になってる訳?」と、同じ様に目を細めて必死に門を見つけようとするクオンの声が応じる。
クオンが躍起になって門を見つけようとしている間にも「にゃにゃ! 私にも見えたにゃよ、レオン」と、今度はユフィの勝ち誇るような声が上がり、その声の後に力ない「ちょっと、なんで私にはまだ見えないのよ……」クオンの声が続く。
「大丈夫さクオンちゃん、お兄さんにもまだ見えて無いから――ってかなんか感動的だ、俺とクオンちゃんだけがまだ見えないとか、軽く運命を感じるんだぜ」
落ち込むクオンを尻目に、ユーリは体をヌルヌルとくねらせながら一人でぶつぶつと言って悶えている――まぁ、コイツは無視しておいて良いだろう。
と、言うか何で見えないのかとクオンは嘆いているが、視力でも何でも同じ事が言えるのだが、身体能力の強化率はあくまで元が良ければ良いほど高い値になる物なのだ。
そして、身体能力強化率の高さは一般的に聖具のクラスに影響される物なのだが、中には能力の数が少なかったり、クラス的に見て基準といえるラインに届かない様な能力しか持っていない代わりに、通常よりも身体能力強化率が高いという事が良くあるのだ。
或いはその逆に、クラスから見れば強力な能力を有している代わりに、身体能力強化率が非常に低いという事も稀にだがあったりする。
今回の場合は、クラスが離れすぎている俺は兎も角、クラスが下なのにクオンより先に《宿》を発見できたトキハやユフィは、クオンよりも元の視力か身体能力強化率――或いはその両方が勝っていたという事なのだろう。
考えている間に「見えた! 私にもやっと見えたわよ《宿》の入り口!」遂にクオンにも《宿》の入り口が見える距離まで距離が縮まっていた――が「ちょ、え? お兄さんにはまだ見えないんだけど? え、運命的な何かは?」変態にはまだ見えないらしい。
まぁ変態は、単純に元の視力も身体能力強化率もクオンよりも下だったと言う事だろう。強化率に関しては、クラスがクオンよりも下なのである意味当然の結果なのだろうが。

<SIDE-Leon->
結局、変態が《宿》の門が見える距離になるまではクオンが門を見つけてからはそう時間は掛からず、そこから《宿》の門の前に辿り着くまでの時間も大してかかりはしなかった。
宿の入り口である門に振れながら、クオンが「ココに来るのって結構久しぶりなのよね、私」と、懐かしそうに言うと「えぇ? クオンちゃんって《宿》に来た事あるの? 何でその時お兄さんを誘ってくれなかったんだよ……」とかなんとか変態が反応する。
つーかクオンの発言には何かしら反応するのな、コイツ……もう慣れたけどさ。等と呆れた様に変態を見ている俺に「レオン? 突っ立ってないで早く《宿》の中に入らにゃいのかにゃ?」ユフィがそう問いかけてくる。
「あぁ、そうだな――突っ立てても仕方ないよな。って、事でクオン丁度門に触ってるし開門よろしく」
「あの、開門の前に一つよろしいでしょうか? 手前は随分前から名前は知っていたのですが、来るのは今回が初めてなのですが……中に居る者達の反応が一人を除いて微弱なのには理由があるのですか?」
って、トキハはココに来るのって初めてなのか。てっきり全員《宿》の雰囲気とか知ってて来てるのかと思ってたんだが……つー事はあれか、トキハが付いて来てる理由はまず間違いなく新しくリーダーになった俺を測ろうとしてるって事になる――よな?
「それはだな《宿》には守護者も破壊者もハグレも特に勢力に関係なく集まってきてるだろ? そういう中でいざこざが起きない様に《宿》の中では《宿》と言う空間を形成している本人以外は能力が著しく制限されるのさ」
正しくは、そういう空間を作れるからこそ《宿》として機能している、と言うのが本当の所なのだろうが。
昔はココ以外にも今の《宿》に近いシステムの場所があった訳だが、基本的にアルアの《宿》以外は全て何かしらのいざこざで無くなってしまったのだ――まぁ、別にそこまで説明する事でも無いだろう。
「成程、と言う事は――」
「そうだ、さっきトキハが言った微弱じゃない反応を出してるのがこの《宿》の店主で、俺の六千年来の友人であるアルアって事だ」
その言葉に、一瞬場が静まり返る。ユフィ以外全員の表情が凍り付いてる気がするのは気のせいなのか――何か、拙い事でも言ったか、俺?
あぁ――そうか、考えてみりゃ六千年って結構な時間なんだよな、さらっと言われたらそりゃ絶句したくもなるか。
等と考えていると、いち早く驚愕に凍り付いた状態から復活してクオンに「ねぇ、今六千年来とか言った? 言ったわよね?」と、軽く詰め寄られる。
「あぁ、そうだ――アルアとはアイツが《宿》って便利なシステムを完成させて直ぐの次期に、俺が《宿》に行った時以来の仲だからな――つっても、特に理由は無かったけどついこの間会うまで千年ぐらい会っては居なかったけどな?」
その俺の言葉に折角驚愕から復帰したのに再度クオンが絶句ししてしまう。って、千年単位でもここまで驚かれるのかよ……
(いや、それは流石にそうだろ、友人とか自分で言っといて千年会って無かったとか……っと、いかん遂に我慢でき無くなってツッコんでしまった)
あぁ、そういえば随分長い間黙っててくれたな、シュウ。
(うむ、自分でもここまで黙っていられると思っていなかった。つーかお前の言動に突っ込みを入れたくて仕方なかった。まぁ、なんだ――俺は黙ってる間ずっとお前の言動なりを見てた訳だが、やはりお前には俺が必要だと言う結論が出た)
適当な事を言うなよ、シュウ。寧ろお前が居ないほうが随分とやりやすかったと思うぞ、俺は!
(だろうな――だが、適度には俺のツッコみと言うかなんと言うか、そういう物が必要だと俺は思った訳だ)
えー……
(何だその嫌そうな反応は! 俺ってお前の大事な相棒だぞ? 俺の力が無いと戦えないんだぞ、分かってるのか、その辺?)
いや、それは分かってるんだけどさ、適度なツッコミとか必要ないんじゃね?
(いや、必要だろ。お前結構ツッコミどころの多い言動ってか思考をしてるぞ? 自分では気づいて無いのかもしれないが)
まぁ、言動は兎も角、思考に関してはお前以外には伝わらないんだし良いと思うんだが?
(お前が良くても俺が気になるから言ってるんだよ。つーかなんだ俺以外には伝わらないから良いって? それこそお前自分の相方ってか聖具の事を馬鹿にしてるんじゃないのか?)
まぁ、結局の所俺がどう言った所でツッコむツッコまないはお前の自由だろ? だったらお前の好きにすれば良いじゃねぇか?
(お前、人が折角気を利かせて今までの様に弄ったりはしないけど、適度にツッコミだけ入れてやるって言ってるのにその態度はなんだ? そんな態度だと今までの様に弄り倒すぞ?)
ちょい待て、何? 今からは今まで見たいに弄り倒すぜ、って話じゃねぇの? だったら俺としては大歓迎な訳だけど?
(ようやく俺の提案のありがたみが分かったか……つーか意思疎通にどれだけ無駄な時間を要してるんだよ、長い付き合いだろうが、俺達は? アルアと比べりゃ1.5倍程の長さだぞ?)
いや、幾ら付き合いが長くてもちゃんと言ってくれないと分からんって、普通。それよりも、本当に良いのかシュウ? お前が普段俺を弄ってたのはどうしようもない暇を潰す為だったんだろ? 適度なツッコミだけで我慢するって、本当に出来るのか?
(レオン、俺は可能だと判断したから持ちかけたんだ、ココ数時間黙ってお前を見てて思ったんだよ、コイツは俺が弄らなくても十分に見てて飽きないなとか)
なぁシュウ、それは軽く俺をバカにして無いか?
(あぁ、無論バカにしている。と、言うかこうして数時間ぶりに話すだけで最近は自分で気づけていた筈なのに回りが見えなくなっているあたりとか、かなり見ていて飽きない)
な!? しまった!
(あぁ、焦るな焦るな。もとより余り驚いていなかったユフィは兎も角、他の連中はまだ反応に困ってる最中だから。あぁ、因みに今の内に教えてやったのは俺の優しさ的な物だとでも思っておいてくれ)
無理だろ、それ……ってかどこがやさしさなんだよ、単に人を弄って楽しんでるだけだろ、お前は。
(まぁまぁ、良いじゃねぇか。さっき言った事は嘘じゃないからよ、今度もどうしてもツッコミたくなるまでは黙っててやるから、今ぐらいお前を弄ったっていいだろ? 俺としちゃ弄ってる方が楽しいんだからな――じゃあ、俺はまた少し黙っているとするかな)
『そんな風に言われると、文句の一つも言いにくくなるじゃねぇかよ、空気を読めよな、あの野郎』
さて、シュウも黙ったし、話を進めるとしよう。ってか何で俺等は《宿》の入り口である門の前でこうグダグダとしてるんだろうか? さっさと中に入れば良いのに。
「っと、ホラホラお前等ぼさっと突っ立ってないでさっさと中に入るぞ?」
自分に言い聞かせるよう、俺は前に踏み出してクオンが触れていた《宿》の入り口である門に手をかけ、エーテルを流し込む。
それと同時に閉じていた巨大な門がゆっくりと開き始め、その向こう側から「前はあんなに期間が開いたのに、今回は随分と速かったわね、レオン?」と、聞きなれた声が聞こえてきた。
確かに、前は千年間が空いて、今回はものの十数日で舞い戻った訳だから確かに間隔は前回よりも遥かに短い。ただ、それとベアトリスのむくれた表情とどう関係があるのかが俺にはさっぱり分からなかった。
いや、前の時にベアトリスに一言も告げずに出発した事を怒ってるのか、もしかして? そう言えば過去にもそれで何度か色々と言われた様な気がする……詳しくは覚えていないが。
「こっちにも色々と事情ってモノがあるんだ。で、早速で悪いんだがアルアに話があるんで案内してくれ」
「その前に、前は一人だったのに今回は随分と連れが多いみたいじゃない、レオン? あんたは基本的に一人で行動するのを好んでたとあたしは記憶してるんだけど、一体どういう風の吹き回しなのよ?」
尚も不機嫌そうに、ベアトリスがそんな事を言ってくる――まぁ、確かに四人引き連れてはいるが、別に俺が誰とどう行動しようとベアトリスには関係ないと思うのだが……
「どういうって……まぁ、色々とあって守護者所属つーか守護者のトップになっちまってな。アルアに用事があって《宿》に来させてもらったんだが、移動の間に親睦を深めようと思って何人かについてきて貰ったって訳だ」
「――はぁ? いや、ごめん、ちょっと意味が分からないんだけど? 守護者のトップになったって何? 貴方ってSクラスでしょ、しかも別に守護者の一員でもなかったし、そんなあんたがいきなり守護者の首領になるとか、全然意味が分からないんだけど?」
まぁ、ある意味当然の反応、だよなぁ……どうせこれから本当の事を包み隠さず話すつもりだったんだけど、先にベアトリスに言ってしまったのは失敗だったかもしれない。
「詳しくはアルアにも説明するつもりだからその時に話す。とりあえず今はアルアの居る所に案内してくれないか?」
「……分かったわ。アルのところに連れて行けば良いんでしょ、連れて行けば。そ・の・か・わ・り、ちゃんと説明してもらうわよ? 包み隠さず全部、あたしとアルに話して頂戴。それが守れるなら今すぐアルの所に案内してあげる」
まぁ、そもそも案内も何も、カウンターにでも行けばアルアは居るんだろうけどな……ここで反論しても仕方ないし、今更誤魔化す気も無いし、今は素直にうなずいておこう。
そんな事を考えながら無言で俺がうなずくのを確認する同時に、ベアトリスは「こっちよ」と、言いながらカウンターの方へと歩きだした。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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