EternalKnight
受け継ぐ者、救う者
<SIDE-Aren->
「俺がゼノンさんの聖具を? そりゃありがたい話ですけど、それこそ俺なんかよりももっと適任なメンバーは居るでしょ?」
そうだ、俺なんかじゃなくてもっと上手く《永劫》を使えそうなメンバーなんて幾らでも居る筈だ。正直俺なんかが持っても宝の持ち腐れになる結果しか見えない。
「断らないでくれると助かる――と、言ったよな? それに先程も言ったが私はお前が適任だと思っている。とは言え、お前にはお前の聖具もあるんだし、正規の契約をしろとは言っていない、仮契約だ」
仮契約――だって?
(確かに《永劫》程の聖具が汝と契約すれば、我の立場は無いも同然だからな……そういう意味では汝の能力がある程度底上げされるだけの仮契約の方が我としても助かるな。無論、するか否かは汝の判断に任せるがな)
「戦いが終わったら《永劫》の好きにさせてやってくれれば良い――《永劫》の意思も尊重してやりたいしな」
……確かに《永劫》と仮契約すれば俺の力は底上げされるだろう、コレはたぶん間違いない。だが俺の気にしているのはそういう問題では無いのだ。《永劫》と言う契約すれば絶大な力を得られる聖具を俺なんかが使う事、そこに問題がある。
しかも正規の契約ではなく仮契約で、だ。《永劫》の側の意思があるのは分かっているが、それなら俺が仮契約なんかにするよりも新しい正規の契約者を探した方が戦力と言う意味でよっぽど守護者の為になる。
(だがしかし《永劫》の契約者は汝に己の聖具を引き取って欲しい様だな、少なくともこれから起こる戦いが終わるまでの間だけでも)
そう、それだ――そこが分からない。《永劫》が次の契約者に俺を選んだとか、或いはゼノンさんが次の契約者に俺を推したと言うのならまだ分かる――守護者の戦力を低下させない為にそういう風に動いたと言うのなら、まだ理解出来た。
なのに、仮契約でもいいから戦いが終わるまで俺が使え、だって? 俺自身も気付いていない俺の潜在能力だとか、そういう都合の良い何かにゼノンさんが気付いていて、それで契約させようと言うのなら納得もしたかもしれない。
理解も納得も出来ないまま《永劫》程の聖具と仮契約する? 《呪詛》とか言う魔獣の親玉との決戦を目の前にして? 在り得ない、納得できない、理解できない。
どうして俺なんだ? 確かに力を望んではいた――だけど俺なんかの能力の底上げをする為に、守護者全体の戦力が下がるなんてそんなの納得出来ない。正規の契約者を持った《永劫》程の聖具なら、それだけで多くの仲間を守れるのだから。
(なぁ、アレン。汝はいつまでそうやって居るつもりだ?)
《救い》? お前、一体何を言って――
(汝が己の事をどう思っていようが、守護者全体の事をどれだけ考えていようが、そんな事は関係ないのでは無いか? 《永劫》の契約者は汝に託すと言っているのだ、お前はそれを無下にする気ではないのだろう?)
それ――は……
(そんなつもりは無いのだろう? どれだけ自分の中で折り合いが付けられなかろうと《永劫》と仮契約する事になるのは避けられないと悟っているのだろう? だったら、下らぬ言い訳をだらだらと続けてくれるな、聞いている此方が不快な気になる)
すまない……確かにお前の言うとおりだよ。たぶん――否、ゼノンさんの頼みだから間違いなく、俺は《永劫》と仮契約を結ぶ。
けど、それならそれで自分の中で折り合いを付けたいじゃねぇか。確かにお前に取っちゃ下らない悩みかもしれないし、不快になる様に考え方かもしれない、それでも考えずには居られないんだよ。
(そういう考え方が気に入らないと言っている。汝が《永劫》に釣り合わない? もっと適任な者が居る? なぁ、汝がそうだと考える理由はなんだ? 汝は我の契約者なのだぞ? 例え最上位だろうが、汝で釣り合いが取れない筈がないだろうが)
あ……
(それにな《永劫》の契約者は《永劫》の意思を尊重してやりたいと言っていただろ? だったら《永劫》に汝の事を認めさせて正規の契約をすれば良い。そうすれば守護者の戦力は下がらずに住み、汝は力を手にれられる――我は、何か間違った事を言ったか?)
間違ってない、お前の言うとおりだ《救い》お前は、いつも俺を救ってくれるんだな――だけど、そうなると一つだけ問題が残るんだよ、自分で言ってたんだからわかるよな? もし仮に俺が《永劫》に認められて正規の契約を結んじまったら、お前はどうなる?
(それこそ愚問であろう? 我が名は《救い》汝の……アレン=カーディナルの聖具以外の何物でない。複数の聖具を所持する事が不可能な事ではないのは汝も知っているだろう――最も、エーテルの配分が少々面倒だがな)
でも、さっき言ってたじゃねぇか。《永劫》と契約されたら自分の立場が無いって――
(確かに《永劫》程の聖具と比べられれば我の力なぞ取るに足らない程度だろうさ。だが力は力だ、足しにくらいはなってやるさ――と、言うか我の心配をする前に自分の心配をしろ、《永劫》に認められるのは生半可な事では無理だと思うぞ?)
それならそれで良いさ、俺にはお前が居てくれるんだからさ――ありがとう《救い》お陰で覚悟が決まったよ。
(礼などいらん、我は唯、我の存在理由に従い汝の心を救っただけだ)
「――随分と悩んでる様だが、そろそろ答えを聞かせてもらえないか? 断らないでくれると助かるなどと言っておいてなんだが、どうしても受け入れがたいと言うのなら他の誰かに預けても良いと私は思っているんだが……」
なんだ、他に預けても良いと思ってたのか――でも、俺が一番適任だと思ってくれてるのもきっと事実だと思う。それに、俺はもう決めたんだ。
「いえ、俺にやらせてください。ゼノンさんがなんで俺を選んだのかは分からないですけど、やらせてください。俺は力が欲しいんです――皆を、仲間を守れるくらい強い力が」
「分かった、お前に《永劫》を託そう。私との契約は破棄された、コレで《永劫》仮契約でなくとも誰とでも契約できる。この後の戦いが終わるまでは、仮契約でならお前に力を貸してくれる筈だ――あぁ、私は今動けないんで自分の手で取ってくれないか?」
言いながら、ゼノンさんは姿勢をそのままにその手に握る《永劫》を手放した。そのまま虹色の空間に浮かぶ《永劫》を《救い》をはめた右手を伸ばして掴み取る。
【こうして会話をするのは始めてですね、《救い》の契約者。態々名乗る必要もないと思いますので、早速主殿の命により貴方に力をお貸ししましょう。仮の契約ですが、それでも貴方の力の底上げにはなるでしょうから】
《永劫》がそういい終わるのと同時に、全身に漲るかの様にエーテルが満ちていくのが分かった。
SSとSSSの性能差を考えれば特別身体能力が上がった訳ではないのだろうが、それでも明らかに一瞬前までとは違う領域に自分が居る事が理解できる、そんな感覚がある。
《永劫》だからこうなのか、SSSは皆こんな感じなのか、他と比べた事のない俺には分からないが――それでも知っているとは言え互いの名前すら名乗りあっていない仮契約だけでココまでとは、正直思っていなかった。
【より高濃度なエーテルで全身が満たされただけです、仮の契約ですので私の能力の行使は出来ません。それでも濃度の高いエーテルで構成されればそれだけ《救い》の能力も一回り程度は強化されたと思いますが】
いや、ありがとう《永劫》とりあえず今はこれで十分だ。
【主殿との約束ですから、貴方に力を貸すのは――それも、この後に控えている《呪詛》とやらが率いる魔獣の軍勢を倒すまでの間ですけど】
それまでの間に俺が貴方に認められれば、そこで正規の契約を結んでその後も俺の力になってくれたりするのか?
【えぇ、主殿ともそういう約束ですので――もっとも、私が認めればですのであまり期待はしない方が良いとおもいますよ】
いや、なんか俄然やる気が出てきた。別に気取るつもりは無いけど、認めてもらえるように頑張るよ。《救い》にも応援されてるしな。
【まぁ、主殿の期待に応えられるように頑張ってください――主殿の頼みでも自分の認めていない者と正規の契約を交わすのは幾らなんでも嫌ですから】
「どうやら仮契約の方は上手く言ったみたいだな。正直《永劫》の方はあまり乗り気じゃなかったみたいだから安心した。それからもう一つ、コレは断られるとかなり困るから《永劫》を渡した事に対する対価だと思ってくれ」
《永劫》の対価で、断られると困る事だって? 一体どんな事を頼むつもりなんだ?
「俺にトドメの一撃をくれ、出来れば《永劫》を使ってバッサリと一撃でやってくれるとありがたい」
は――?(成程な)【主殿……】
全く予想していなかったその言葉に、俺は全く反応する事が出来なかったが《救い》と《永劫》は別だったようだ。
否《永劫》に関しては予めゼノンさんにその願いを聞いていたのかもしないが、《救い》は何を冷静に納得などしているのだろうか?
ここに居る誰にも治療が行えないから、ゆっくりと消えていく前にトドメをくれって事だろ? 治療できないからって救う事を諦めるのかよ《救い》?
治療できないなら最期の瞬間までその心を救える様に、話し相手になるぐらいの事はしてたじゃねぇかよ、今までは!
(アレン、お前はどうして《永劫》の元契約者が自身のトドメを頼んできたのだと思う? どうして自身にトドメを刺してくれ、なんて事を頼んできて、その頼みを断られると困るのだと思う?)
どうしてって、エーテルを全部失って自分の形を保つ事も出来なくなって徐々に消えていくのが嫌だからなんじゃ――
【主殿はそんな事を恐れる様な方ではありません。主殿は――】
(すまない最上位、そなたの主程我が契約者は聡くないのだ。故に我が道を示す、そなたはそこで見ていてくれ。今すぐにとは言わんが必ずそなたが気に入る様にしてみせる)
悪かったな聡くなくて――でもそうじゃないならなんでゼノンさんは自分にトドメをくれなんていってるんだよ?
(なぁアレンよ、そもそも何で《永劫》の元契約者は何故動けば死ぬし、放っておいても死ぬなんて難儀な状況になってるんだ?)
なんでって、それは《刹那》の契約者にやられたからだろ――って待て、そういう事なのか?
(ようやく気付いたか。《永劫》の元契約者は《刹那》の契約者にやられたんだ――魔獣となった《刹那》の契約者にな)
魔獣によって殺された者はその魂を呪われて魔獣となる、つまりこのままゼノンさんが死んでしまえば――
(魔獣である《刹那》の契約者が死ぬ直接的な原因を作ったのだから、魔獣になるだろうな――それを回避する為にトドメを望んでいる。汝が今しがた仮契約をした《永劫》でその命を奪えば、その魂が呪われる事は無いのだからな)
ゼノンさんがトドメを欲している理由までは分かった……だけど呪いの回避が目的なら《永劫》を使ってゼノンさんにトドメを与える事にどんな意味がある?
(《永劫》の元契約者がそれを望んでいるからだ、他の理由は無い。仮にあったとしても我には分からんし、出来ればと言っていた辺りから察するに絶対にそうする必要が在る訳ではないと言う事ぐらいしか分からん)
……分かった。俺にはゼノンさんが何を考えているとかそんな事は分からない、けどゼノンさんがそれを望むなら、ゼノンさんの力を引き継いだ俺にはそれを成す義務がある――そんな気がする。
最良の救い――ゼノンさんを死なせない事――に手が届かない今、次点での救い――ゼノンさんの願いを叶える事――でしかその魂を救えない。
それでも、それが救う事に繋がるのであれば――それがゼノンさんの心から望みでなくても、望みである事に違いは無く、呪いに捕らわれぬ様にするのは紛れも無く救いだ。
だから――右手に掴んだ《永劫》の柄を強く握り締めて振り上げる。
「覚悟を決めてくれたみたいだな、アレン。すまない、お前にこんな役目を押し付けてしまって。フィリアやキョウヤ、それから他の皆や……レオンにはお前達から伝えておいてくれ」
「分かりました、俺の方から伝えておきます――それじゃあ、行きますよ? 思い残した事なんかはありませんか?」
振り上げた自分の腕が微かに震えるのを感じる、いつの間にか背後にまで近づいてきていた気配が息を呑むのを感じ取る。俺とゼノンさんの会話だけで、何を何の為にしようとしているのかは理解できているらしい。
フェインさんは勿論、リズィだって俺なんかよりもずっと理解と飲み込みが速かった様で、この状況を前に何も言ってこない。だけど今は、その方が俺としても助かる。
「思い残す事が無い訳じゃないが、口にするのも野暮な下らない願いだ、俺の中にだけ閉まって置く――だから頼む」
その言葉を合図にして、俺は振り上げていた《永劫》を振り下ろした。

TheOverSSS――16/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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