EternalKnight
救う為の力、守る為の力
<SIDE-Aren->
「もう何も見えねェし、聞こえねェがよォ――楽しかったよなァ、ゼノン? お前がどう思ってるかは知らねェが、俺ァ最後にテメェと戦えて良かったと、そォ思っ――」
最期の言葉を言い終わる前に《刹那》の契約者を構成していたエーテルは解け、金色の粒子となって霧散した。
「――」
大気に消えていくエーテルの光を眺めながらゼノンさんが呟いた言葉を、俺は聞き取る事が出来なかった。
「終わった……よな、流石に?」
自分に言い聞かせるように、俺はそんな言葉を漏らしていた。流石に、最後の言葉を言い切る前に消えておいて生きているなんて事はないと信じたい。
戦いの行方を目で追う事すらマトモに出来なかったのも、決着がついた事が信じられない要因なのかもしれない。
ゼノンさんの技の威力を疑っている訳ではないが、あれ程の力を持った存在がそう簡単に滅びたとは信じられない自分がいるのも確かだ。
同じ最上位のロギアが滅びた時にはこんな風には思わなかった。ロギアと《刹那》の契約者、どちらが上だったかと聞かれれば《刹那》の契約者の方が強かったとも思う。だが、圧倒的な存在と言う意味ではどちらも変わらなかった様に思う。
その違いが何処から来るモノなのか、俺には分からないが、何かが腑に落ちない。
否、ゼノンさんが、仲間が強敵との戦いに勝ったのだ、はしゃぐまでいかなくとも、その勝利を喜ぶべきだろう。そうだ、そもそも大気に還る様にエーテルの塵になっておいて、生きている筈は無い。
(いや、アレンよ。この戦いは恐らく――)
何言ってるんだよ《救い》聖具だって、既に手放しているんだぞ――っと、そういえばその聖具は何処だ? 《刹那》程の聖具を救えれば《救い》の力が大幅にあげられるだろうから、出来れば救ってやりたいのだが……
(契約者よ、救う為の動機が随分と不純だ、思惑を持って伸ばす手は救いの手とは言えんぞ?)
確かにそうかもしれないが、その不純な動機の行き着く先にあるのは、守り、救う為のモノだ。お前になら態々説明しなくても分かってもらえると思ってたんだが?
(あぁ、分かってはいる――癖の様なものだ、気にしなくて良い)
癖? 昔はよく俺の心を救うとか言ってたけど、ロギアを倒してからはめっきり言ってなかっただろ?
(最近言っていなかったのは汝が純粋な気持ちで他者を救っていたからだろ。不純な動機で救おうと考えたのは久方ぶりだったと言うだけだろう?――っと、今はそんな事を議論している場合か? 《刹那》が今にもエーテルを切らして崩壊しそうなんだが?)
――なっ? マジかよ……契約者が手放して直ぐに崩壊し始めるとか、どれだけエーテルを使い込んだらそんな事になるんだよ?
(さて、我にはどうすれば自身を構成するエーテルまで含めて使い込めるたのかが分からぬが、逆に一つだけ解った事がある)
解ったって、何がだよ? そんな事よりも早く《刹那》を救わ――(無駄だアレン、今からでは間に合わんし、間に合った所で無意味だ)
無意味って、何だよ?
先程まで、膨大な密度を誇っていた筈の《刹那》からは既に僅かな量のエーテルしか感じ取れない。滅びつつある《刹那》の元へ、動き出す。後ろにいたリズィをおいて、俺の少し前にいたフェインさんの脇を抜けて、俺は前へと進む。
俺は諦めたくない、今は力が必要な時だとかそういう理屈は抜きにして、敵の使っていた聖具だとしても聖具自体が悪い訳じゃないかもしれない以上、救えるかも知れないモノを諦めたくない。
《救い》お前は他の聖具を救える力を持った聖具で、お前は自身誰かを助けたいと思ってるんだろ? だったら、間に合いそうに無いぐらいの事で諦めるなよ!
(――そういう意味ではない。言っただろ、間に合っても意味が無いと。自分の聖具の話くらい聞いておけ)
だからなんで意味が無いなんてお前にわかるんだよ? 助かりたいかどうかなんて本人にしか――
(解るさ。自らを構成しているエーテルを削ってまで契約者にエーテルを渡して、その上で契約者が死ぬまで自分は滅びなかった。それだけで《刹那》は救いを求めていないと分かる――少なくとも我々が与える形での救いはな)
――生き永らえるよりも、契約者と共に命を散らす事を選んだって事か?
(他の奴との契約など考えられないという程に、自らの全てを捧げられる程に、単に契約者が気に入っていたというだけなのだろうがな。結局の所、聖具は己だけでは大したことは出来ん、他の者と契約する気がないのなら生き永らえる意味は薄い)
《救い》の言っている事が理解できない訳じゃない。それでも、今この瞬間にも金の粒子に還りながらその形を失っていく《刹那》の元へ向かう足は止めない、止められない。
今までだって救おうとして断られた事はあるし、間に合わなかった事もある。だけど今回は、少なくとも本人に断られない事には諦めきれない。守る為には、力が必要だから。
消えてしまいそうな《刹那》に《救い》をはめた手を伸ばす、この手で触れる事が出来れば交渉する事が出来る。
「っ――」
だけれど、伸ばした手が届く事は無く。俺が触れる直前で《刹那》は完全にその形を失ってエーテルへと還っていった。
(――届いた所で、破損による崩壊ではなくエーテルの欠乏による崩壊なら、マトモに此方と対話出来たかすら怪しい所だったのだがな。それに、先程も言ったが恐らく話すだけ無駄だ)
だから、それは話してみないと分からないだろ! エーテルだって契約者に強引に持っていかれたのかもしれないし、崩壊が遅かったのだって他の理由があるかも知れないじゃねぇか!
(解ると言った、少なくとも汝以上には分かっている。汝の方こそ、そこまで拘るのは《刹那》を救いたいという気持ちからではないだろ? 守る為の力とは言え、救いたいという気持ちよりも力を望む心の方が強くなっているのが分からんとでも思ったか?)
っ――それは……
(それとな、契約者が強引にエーテルを使ったと言うのはありえない。存在する為に必要なエーテルと言うのは他者に介入出来る物ではない。それが出来る存在がいるのならば間違いなくそれは全ての純エーテル存在の天敵だ。誰もその存在を止める事はできん)
あぁ、そうだよ。俺は力が欲しい。別にお前の力が弱いとは思ってないけどさ――唯、目の前であんな戦いを見せられたら思うじゃねぇか……本当に俺に守れるのかってよ。
そりゃゼノンさんぐらい強ければ勝てるから良いさ。けど俺は《刹那》みたいなバケモノと戦っても勝てる気がしないし、あんなのを相手に皆をリズィを守りきる自信もないんだ――だから力が欲しいんだ。守る為の、救う為の力が。
(……汝の救いたいと思う気持ちもは分かったから、落ち着いて聞いてくれ――先程言いそびれてしまった事なのだが、今の戦いは恐らく《永劫》の契約者の勝ちと言う訳ではないぞ? お前も聞いていただろう、互いが負けを認め合っていたのを?)
――は? 何言ってんだよ《救い》どう見てもゼノンさんの勝ちだろ? 《刹那》の契約者は消滅して、ゼノンさんはまだあそこにいるんだぜ? 何で負けたなんて言ったのかは分からないけど、それは間違いない事だろ?
(あぁ、まだあの場に居るし、エーテルの反応から見ても生きているのは間違いないだろうな――だが、汝もよく反応を見ろ。少しずつ、減ってきているのが分かるか? 何よりも、何故《刹那》の契約者が消滅したのに動こうとしないのだ?)
何故ってお前、そんなの俺が知る訳な(現実から目を背けるなよ、アレン。汝も我に指摘されて気付いたのだろう? 《永劫》の契約者が自ら負けたと言った意味が?)
それは……否、だけど、現に相手のカノンは消えたじゃねぇか。まだそこにいるんだからゼノンさんの勝ちで(そんな問題では無い。否、違うな……双方共に勝ちで、同時に負けだったと、コレは唯それだけの事だろう? だから、互いに自らの敗北を認めた)
『《救い》の言葉が何を意味しているのかなんて分かっている。コレだけ言われて理解できない程、俺は馬鹿じゃない。だけど、その情報を理解したくない――それで何が変わる訳でも無い事ぐらい分かっている。それでも、理解できない振りをしていたい』
それで、そんな逃げ腰で――現実から目を背ける様な奴が、果たして救世主なんて大層な名を名乗っても良いのだろうか? そんなのは駄目だ、駄目だろ? だから、受け入れよう――全てを、目前で起こっている現実を。
目の前の現実逃げていても何も解決しないから、話をしよう――ゼノンさんが生きているというのなら今の内に。特によく話をする訳でもないけれど、ゼノンさんの部下と言う訳でもないけれど……それでも、何か話しておくべきだと、そう思った。
だから完全に滅びてしまった《刹那》へと伸ばしていた手を引き戻して、ゼノンさんが《永劫》を振りぬいた姿勢のまま止まっている場所へ視線を移し、虹色の空間に足場を作って蹴り出し、真っ直ぐに視線の先を目指す。
(アレン? おい、突然どうした?)
受け入れるんだよ、現実を――お前が言った事だろ《救い》? って事でゼノンさんと話をする。パッと見は無傷だし、エーテルが何故か少しずつ漏れ出してるけど、まだ生きてるんだろ?
(いや、それはそうだが――おいアレン、リズィと《法典》の契約者はどうするんだ?)
リズィとフェインさんなら、俺みたいに現実逃避せずにちゃんと事実を受け止めてるだろうさ――それに、どうするも何もリズィもフェインさんも俺がどうこう言わなくても自分の意思で動くさ。特に、フェインさんは俺よりもずっと長く生きてる訳だし。
(だが、聖具のクラス自体は我よりも下だ――《永劫》の契約者のエーテルが微弱に減りつつあるのに気付いていない可能性もある)
それこそ問題ないだろ、お前が言った様に決着はついたのにゼノンさんが動かない事と、カノンが滅びる直前に二人が互いの負けを求めたってあたりから察せば分かるだろうしな。二人なら俺みたいに現実逃避もしないだろうしさ。
(……その根拠は? 《法典》の契約者は兎も角、リズィはそんなに強い心を持っている様に見えぬが?)
そんな事ねぇよ――リズィの方が俺なんかよりもよっぽど強い。だから、心配は要らないさ。それに、今気づいてなくても無言で飛び出した俺を追ってくるから、その時にでも気付くだろ?
(それは、確かにそうだが……)
そんな風に《救い》と話している間に、俺はゼノンさんの目の前まで辿り着いていた。そこで、俺の視線は《永劫》を振りぬいた状態で佇むゼノンさんの腹部に吸い寄せられた。そうか……だから動けなかったのか。
「アレンか……私の元まで来てくれたという事は、私がどういう状態か、概ね分かってくれていると考えて良いのだな?」
「はい、遠目に見たときは何が原因なのか分からなかったですけど、ココまで近づいてようやくわかりました――ゼノンさんが動けない理由が」
吸い寄せられた視線の先には、一太刀分の傷があった。その傷跡からは、肉体を上下に分断する境界線を描くかの様に少しづつ血が流れ出し、流れ出した血はエーテルへと還っているのだろうが、漏れ出し大気へ還元される量が少なすぎて金の粒子は目視できない。
肉体を上下に分断する為の境界線の様な傷跡――それが意味する所が何なのかは、態々考えるまでもなく分かる。
要するに、今ゼノンさんの体は、下半身に上半身が乗っているだけなのだ。だから動けない。下手に動けば上半身と下半身が永遠の別れを告げる事になるから。
「まぁ、確かに分からんだろうな。私自身、食らってから気付くのに少し時間が掛かったくらいだしな――それで、だ。放っておけば傷口から漏れ出すエーテルの量も時間と共に増えるだろうから私はそう長くない。故に、お前に少しばかり頼みがある」
「俺に、俺なんかに頼み、ですか?」
別に、俺とゼノンさんはさして親しいわけじゃない。ゼノンさんの部下だった訳でもない、そんな俺にゼノンさんが頼む事なんてあるのか? それこそ俺よりも自分の部下であるフェインさんに頼むべきだと思うのだが――かといって俺にも断る理由は無い。
「そう、他ならぬお前だ。少なくとも私の知る限りでは、お前以上に任せられる者を私は知らない。だから、俺の遺言だと思って断らないでくれると助かる」
俺以上に任せられる奴が居ないって、それはどういう――いや、それ以前に俺が断るかも知れない内容って事か?
「私の聖具の次の……否、これから起きる戦いが終わるまで《永劫》の力を使ってやってくれないか? 《永劫》には私から言ってあるから仮契約なら結べる。これから控えている戦いの事を考えると。少しでも戦力が必要だろう?」

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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