EternalKnight
絶望の来訪者/最後の一合
<SIDE-Zenon->
踏み出した一歩に己が全てを懸けるつもりで、足場を蹴って前に出た。それによって生みだされた絶大な力が、私の体を前に進ませる。
正面に居たカノンも、迷わずに同じ行動を取っていたらしく、私達の間に横たわる僅かな距離は、ほんの一瞬で互いを攻撃出来る範囲にまで縮まった。
そして、いつもの結局は互いに相反して意味を成さない詠唱をする暇すらないまま、最後の一合は幕を開けた。
攻撃範囲内にカノンを捉えた瞬間に私は「《Ain-無-》」と、必殺の三連撃の一撃目を展開する為の言霊を紡ぎ、上段に構えた《永劫》を振り下ろした。
それと同時に《永劫》の刀身に収束している膨大な量のエーテルの一部が開放され、周囲の空間を満たすエーテルに干渉して、カノンの周囲を覆う様に、膨大な量のエーテルの刃を展開させる。
その間に《永劫》の刃をわざとカノンに当たらない様に振り下ろし、ニ撃目を放つ為にその刃を反して下段に構える。まだ完全に完成したとは言えないこの技では、刃を止められてしまった場合、ニ撃目へ繋ぐ事が出来ないのだ。
当初考えていた形で能力が完成していれば良かったのだが、生憎まだこの技は完成していない。
形になっているとは言え、不完全な状態で実戦で運用した私に問題があると言えばあるのだが、今は弱音を吐いている場合ではない。
そもそも、私が望んでいた完成形に辿り着けるかどうかが怪しい所なのだ、形になっているだけマシと考えた方が良い。
一撃目の発生からニ撃目を放つまでの一瞬の間にそんな事を考えて、ニ撃目を放つ為の言霊を唱えようとしたその時、無数の刃に襲われているカノンの口から「《Yocto-涅槃-》」と言霊が紡がれ始めるのを聞き取った。
否、問題は紡がれた言霊ではない。紡がれた言霊も問題ではあるがそれよりも問題なのは、何故カノンは防御の一つも展開していないのか、だ。
前回の時点で防御壁を展開して無数の刃を全て止めていた筈なのに、初見でもそれぐらいの事は出来るカノンが、何故一撃たりとも防御せずに、そのまま無数の刃をその身に受けている?
受けたダメージを反転させる能力か? それともダメージを受ける事が能力の発動条件なのか? 分からない。分からないが、今は――「《Soph-限-》」自らの技を信じ、唯この三連撃でカノンと決着を付ける事のみを考える。
二撃目を展開する為の言霊を紡ぎながら、私は下段に構えた《永劫》を斬り上げる様に振るう。丁度、無数の刃がカノンを襲い終わるのと重ねるタイミングで、だ。
防御壁を展開していない今、このニ撃目に科せられた役目はカノンの探知能力に一時的な障害を与える事だけだ。無論、探知能力に障害を与える事も、防御能力を強制的に解除する事も最後の一撃をより確実に決める為の布石に過ぎない。
しかし、カノンはそのニ撃目すらも意に介さない様に「《Nir-静-》」と、言霊を紡ぎ続ける。その全身は一撃目の無数の刃に切り裂かれた事でボロボロで、全身から流れ出す血は、流れ出した傍から金色の粒子となって大気中に還って行く。
唯、瞳を閉じまま微動だにせずに血まみれになっているカノンに、私の放ったニ撃目の刃が叩き込まれ、無数の刃によって刻まれた浅い傷とは一目見ただけ違う物だと分かる程に深い傷跡がカノンの体に刻み込まれる。
それでも尚、カノンは動かない。残り少ないエーテルを全身から出血という形で失いながら尚、瞳を閉じたまま微動だにしない。動くのは、言霊を紡ぐ口元だけだ。
どんな狙いがあるか私には分からないが、この一合で決着をつけようと持ちかけてきたのはカノンだ。今紡がれている詠唱の完成と同時にどんな事が起こってもおかしくは無い。
だが、仮にそうであったとしても――否、そうであると仮定するからこそ、この三連撃の最後の一撃で、全てを終わらせる。そして「《Aur-光-》」最後の一撃を放つ為の言霊を紡ぐ。カノンの詠唱は、まだ終わっていない。
ニ撃目の動作で振り上げた《永劫》を、その刀身に収束したエーテルを開放させながら振り下ろす。
その瞬間、カノンも「《vaana-寂-》」詠唱を完結させる。私はカノンの技を知らないが、見開かれたその瞳が、詠唱が終わった事を示していた。
だが、今さら詠唱が終わった所でもう遅い、放たれたこの一撃を止められる者は存在しない――否、する筈がない。そう言い切れる技を私は《永劫》と共に作り上げた。故にこの戦い、私の勝ちだ。
そして、振り下ろしたその刃は、結局最後まで目を見開いたまま動かずに突っ立っていたカノンの体を袈裟切りに切り裂いた。
最後の一撃は時に干渉する必殺の刃だ。切り裂いた対象の切断面の時の流れを停滞させ、それ以外を加速させる事によって切断面に時間的な歪みを与える必殺の一撃。
食らえば、誰であろうと助かりはしない。無論、同系の時を制御する力を持つカノンであっても、だ。
否、そもそも私やカノンの強さは攻撃を当てられる事すらない、時の流れに干渉する事で得られる絶対的な速さなのだ《-AinSophAur-無限光》の最後の一撃を当てる事に成功している以上、助かる術等ありはしない。
互い刃を振りぬいた状態で、私とカノンは向き合ったまま動きを止めている。カノンの体には《-AinSophAur-無限光》の三連撃によって無数の浅い傷と、一太刀分の深い傷、そして致命傷となる傷跡がそれぞれ刻まれている。
それに対してカノンからの反撃を受けなかった私は無傷でいた。動きが止まっている以上、最後の一合という名目で戦った以上、コレより先は無い。
決着とはこんなモノなのだろうか? そんな風に考えていた私の脳裏に、かすかな違和感が過ぎった。

<SIDE-Kanon->
「《Aur-光-》」
ゼノンが三段目の攻撃を展開する為の言霊を紡ぎ、振り上げた刃を振り下ろし始める一瞬前に、此方も「《vaana-寂-》」言霊を紡ぎ終わった。
グレンとの戦いで見えた《道》を形にし、頭の中で編み上げたその一撃に与えた名は《-YoctoNirvaana-涅槃静寂》
《道》を形にして技として昇華したつもりだが、無論試した事は今まで一度だってありはしない。思い描いた通りの技として完成しているのかも分からない。それでもゼノンのあの三連撃に抗し得る技を持たない俺には、コレに頼る他に道はなかった。
思い描いた通りのモノに完成していれば、ゼノンの振り上げた《永劫》が俺に振り下ろされるのよりも先に俺の一撃がゼノンを両断する事が出来る。
刃を振るうその瞬間だけ、極限まで己を加速させる一撃――それが俺が思い描いていた《-YoctoNirvaana-涅槃静寂》の完成形だった。だが、しかし――俺が《刹那》を振るうのよりも早く、ゼノンの《永劫》が振り下ろされた。
振り下ろされた刃は俺の体を袈裟切りにする。それと同時に、その傷口の時の流れが歪み始めるのを感じた。
恐らくそれは、時に干渉出来る聖具を持っているモノにしか分からないであろう歪みで、同時に、だからこそコレだけの時間的な歪みを直す事は不可能に近いと言う事も理解出来た。
そうか、ゼノン……コレが、お前の辿りついた場所か。時を操る力をそういう風に利用しようと言う発想自体、俺には無かったよ。
だけど、なぁ――見てくれないか、ゼノン。速さだけを求めた、死に掛けてまで見つけたそれが速さを追求するだけだった俺の、頂点を。
ゼノンによって刻まれた無数の傷から、致命傷以外の何でもない時の流れを歪められた傷口から、エーテルが漏れ出し続けている。
もう俺にはエーテルは殆ど残されていないし、仮にエーテルを補充する術があってもこの傷では直に消滅してしまうのは明らかだった。
だからもう、何も要らない。俺の体を構成するエーテルさえも、この一撃を放った後には残っている必要が無い。故に、この体、この魂――その全てをこの一撃に乗せる。
己の全てを賭けて、自らの頂点と呼べる技《-YoctoNirvaana-涅槃静寂》に己に残っている全霊を乗せて《刹那》を振るう。
その瞬間、否――その一撃を放つ間と言うべきか? 俺は本当の刹那と言うモノを全身で感じ取った。間違いなくコレは俺の頂点だろうと、確信を持って言える。
何故なら――コレはこの力は時の力を用いて速さを求めたモノが辿り着く終着点に、他ならなかったから。
時の停止……俺とゼノンが今までどちらも辿り着けなかったその場所に、時の加速と停滞と言う二つの相反する事象の極限に、俺は、最後の一撃で辿り着いたのだ。
常に流動する世界を満たすエーテルが完全に停止し、全ての音が消える。その中で《刹那》を振るう俺だけが動けている。邪魔をするものは何処にも存在しない。
止まッた時の中で俺の振るった刃はカノンの胴を両断し、その刃を振りぬイた時点で、再ビ時は動き始メタ。

<SIDE-Zenon->
……否、待て――反撃を受けなかった、だって? カノンは刃を振りぬいた状態で居たのに?
それ以前にいつカノンが刃を振るった? 私はそんな瞬間を見ていないし、知覚してもいないぞ? だったら、何故カノンは剣を振りぬいた状態で居る? それ以前に《刹那》が振りぬかれているのなら――
こうなっているのは予想が出来た、カノンが《刹那》を振り抜いていた時点で、恐らくそうなっているだろうとは理解していた、だが「なっ……」驚愕の声は理解していて尚、私の口から漏れ出していた。
《刹那》が振りぬかれている以上、私が斬られていない訳が無い、そうだ、それは分かっていた。だがしかし、自覚の無い内に、全く気付く暇すらなく胴を両断されていて、驚愕しない者など一体何処にいるというのか?
だが、いつだ? 一体どのタイミングで私は斬られた? 斬られている私自身でさえも、《永劫》を持つ私でも知覚する事すら出来ない程の速度など、果たして存在しうるのか?
否だ、幾らなんでも刃を振るう腕だけが私に知覚出来ない速度にまで加速する事なんて在り得ない。少なくとも《-AinSophAur-無限光》の三撃目が決まってからはずっと目の前に居たのだ。
その状態で、《刹那》を振るう腕だけを見逃すなんて事がありえるだろうか? 否、そんな事が在る筈が無い。ならば、考えられる可能性は……
《刹那》の刀身に収束していた高密度なエーテルは、今はもう残っていない。
先程まで《刹那》の刀身に詰まっていたエーテルで何かをした、それだけは確かなのだが、何をしたのかが分からない。
否、状況から予想は概ね付いているのだが、頭がそれを認めるのを拒んでいる。それでも、状況から考えれば頭に過ぎったそれでが答えと言う事で良いのかも知れない。
あの領域に辿り着かれていたのなら、私の負けを認めるしかない。否、負けを認めるも何も、この最後の一合に敗れた時点で私に命は無い。コレは、決着を付ける為の戦いなのだから。
止まっていた時が動き出すかの様に、両断された胴の傷口から血が流れ出し、エーテルへと還って行く。
今の私には動く事すら出来ない――動かなくても直に最後の時は来るだろうが、動けば早々と上半身と下半身が分かれてより最後の瞬間が早く訪れる様になるだけろう。
斬られてから気づくまでに相応の時間を要する程の美しい切り口から考えれば、フィリアの持つ治癒促進能力なんかがあれば短い時間で繋げる事も可能なのだろうが、コレは私とカノンの決着だ、敗者には死が与えれれるべきだろう。
しかし、コレは実際どうなのだろうか?
技の質では完全に私の負けだ。それは認めるし、このまま放っておかれるといずれは体を維持するのに必要なエーテルが無くなるのだから、私の死はまず揺るがない。
フィリアが居ればその治癒能力で生き残れたかも知れないが、今から宮殿に戻りフィリアをココまで連れてくるまで私の体が持つとは思えない。
技の発動は私の方が早かったし、威力もこちらの方が上だったのだ、勝敗は兎も角として《-AinSophAur-無限光》を直接受けたカノンが、無事な筈がない。
唯でさえ、多くのエーテルを失った状態でこの場に現れたのに、私との一合で傷だらけになり、致命傷とも言って良い一撃受けて、さらに多くのエーテルを失ったのだ。
否、今この瞬間にも、全身に刻まれた無数の傷跡からエーテルが止めどなく漏れ出しているのだ、カノンに助かる余地は恐らくない。
ならば、伝えなければ――恐らくカノンなら、カノンの性格ならこの戦いは先に致命傷を貰った自分の負けだとか、そんな見当違いの事を言うに違いない。
敗北を認める声が「「私(俺)の、負けだ」」重なる――やはり見当違いな事を言ってきた。時を操る聖具の極限の領域に辿り着いておきながら、自分の負けだと?
「どの口でそんな事を言っている。私にはその一撃を認識できなかったが、だからこそ分かる。お前が辿り着いた場所は時を操る聖具の極限だ――そこに至っておいて、負けだと? それは私への侮辱だぞ?」
捲くし立てる様に、カノンへの文句を並べる――今の私にはそんな事しか出来ない。だが、そんな私の言葉にもカノンは何も反論してこない。
何を言われても自分が定めた勝敗を覆す気が無いのか、もう話す事も出来ないのか、どちらなのかは私には分からないが――目の前の刃を振るったままで止まったカノンの体が、四肢の端から薄れていくのだけは分かった。
《刹那》は握られたその手が輪郭もはっきりしない所まで薄れた所ですり抜ける様に零れ落ち、虹色の空間に漂う様に浮かぶ。
それを、私は唯見ている事しか出来ない。直ぐに四肢は完全に見えなくなり、体や頭も薄れ始めた所で、カノンが再び口を開く。
「もう何も見えねェし、聞こえねェがよォ――楽しかったよなァ、ゼノン? お前がどう思ってるかは知らねェが、俺ァ最後にテメェと戦えて良かったと、そォ思っ――」
最後まで言い終わる前に、カノンを構成していたエーテルは彼を構成し続けるだけの密度を失い、薄れていきながらもそこに存在していたカノンの存在は、この広域次元世界から消滅した。
「私も、最後にお前と戦えて良かったと思っているさ、カノン」
カノンには届かないとわかっていながら、私はそんな事を呟いていた。

TheOverSSS――17/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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