EternalKnight
絶望の来訪者/条件
<SIDE-Zenon->
目の前に居る好敵手を相手に私は《永劫》を構えつつ、カノンに言葉を送る。
「決着をつけに来たと言う割りには、エーテルの残量が多く無い様だが、それで良いのか?」
「構わねェよ別ィ。エーテルの量が減ってるだけで他は万全だからなァ? そりャ、残量が多いに越した事はねェが、贅沢を言う気はねェよ。本来なら、今こうしてココに居る事が奇跡みてェなもんだしなァ? まァ、テメェが気にする事じゃァねェって事だ」
言いながら、カノンも《刹那》を構える。事情は知らないが、そんな状態のカノンに勝って、それで決着が付くと言うのは些か気に入らないが、だからと言ってエーテルを分けてやる義理等ある筈も無い。
「ンだァ? 気にいらねェって顔だなァ、ゼノン? 俺が万全じゃねェのがそんなに気になンのかァ? だったらこう思えよ、コレは前の続きだってなァ? そう考えりゃ、釣り合うかは兎も角、俺の方が消耗してるって条件でも気にならねぇだろォがよォ?」
前回の続き、ねぇ? 確かにそう考えればカノンがエーテルを消耗している程度ならば、寧ろよく回復した方だろう。だが――
「それは認められんな、前回の続きと言う事なら、要するに前のお前の負けは無かった事になる、と言う事だろう? そうなればここまでの通算ではお前の方が多く勝っている事になるではないか?」
そう言った私の言葉の意味を理解出来なかったのか、カノンは「あァ? 何の話だァそりゃァ?」と聞き返してくる。
説明しなくても気付いている癖に態々聞いてくるのは何のつもりなのか? 自分が覚えていない事を私が覚えている事を認めたくないだけなのか、カノンにとって意味の無いそれを数えていた俺を理解出来ないから聞いたのか――その真相はどうでも良い。
恐らくカノンは今まで気にもしていなかったのだろうが、私は覚えている。一戦一戦の流れなんかは流石に覚えては居ないが、少なくともコレまでの戦いの戦績ぐらいは、それぐらいの事は覚えている。
「2753戦、1375勝、1375敗、3分け。ついこの間の戦いの分も含めた私達の戦績だ。今回を最後にするのなら、前回の続きと言う名目で戦う訳には行かない。私が勝った所で戦績が並ぶだけだからな」
「……マメな奴だなァ、テメェも? ンな事ァ態々覚えとく様なモンでもねェだろ?」
確かにカノンの言う通り、態々覚えておく様な事ではないかもしれない。特にその数が四桁に届いている時点で、それを数え続けているのは馬鹿らしい事なのかもしれない。だが、それでも――
「覚えておく様な事だと思ったから、覚えていただけだ――確かにお前の言う通り、マメなのかもしれないな、私は。だが、数えていたからこそ今が丁度五分の勝敗になっているのだと、少なくとも私はそう思う」
自分の方が多く負けている状況であれば、その次の戦いで勝利を掴める様に自らを高める事が出来る。だからこそ私は《無限光》を自ら力とする事が出来たと、少なくともそう思っている。
「なら、そうだなァ――折角今の勝敗が五分で、その上でテメェがどうしても俺のエーテルの残量が気になるってんのならァ、一つだけ俺の方から戦う上での条件を出してェ」
戦う上での条件、か。カノンの事だから自分が絶対的に有利になる様な事は言わないとは思うが――
「その条件は? エーテルを失っている事との関係が無い条件は、流石に飲めないぞ?」
「まだ話してる途中だろォがァ、つーかテメェ、俺が関係ない様な条件なんざ出すと思ってンのかァ?」
確かに、カノンが無関係な条件を出してくるとは思えない。否、そもそもカノンの側から何かしらの条件を出そうとしている事自体が、俺には信じられない。
「俺の望む条件は一つ、勝負を一合で決める――唯そンだけだ。要するにィ、お互いの最強の技をぶつけ合って、それで決着をつけようってェ事だ。一合で勝負が決まるなら、俺に残ってるエーテルの量でも十分に釣りが来るだろォが?」
確かに、一合だけで勝負を決めるなら今のカノンに残っているエーテルの量でも十分だろう。どれだけ振り絞っても、一撃に乗せられるエーテルの量には限りがある。
無論、だからと言って常時全開で戦う事など出来はしないが、仮にそれが出来ると考えた所で、一合のぶつかり合いでならカノンに残っているエーテルが底を付く事は無いだろう。
カノンのエーテルの残量を考えれば対等に戦うには良い条件の様に思える。だが、しかし――
「お前は私の最強の技を見ているだろう? そう簡単に破られるつもりは無いが、一度は見せた技だ、こちらの方が不利になるんじゃないのか、それだと?」
「何が一度見せた技だァ? 最後の一撃で手ェ抜きやがった癖に良く言ったもんだなァ、ゼノン? それとも何か、あの技はまだ完成してないってェのかァ?」
確かに、前の戦いでは《AinSophAur》の最後の一撃は本来の力ではなく、単にエーテルを収束した刃をぶつけただけだった。だが、完全な《AinSophAur》でも、最後の一撃に強烈な付加効果があるだけで、基本的に流れは変わらない。
故に、一度見られている以上は回避される可能性はある。最も、簡単にかわせる様な技に仕上げたつもりは毛頭無い事もまた確かだ。
「それ以前によォ? 一度見せたら破られる様なモンを自分の切り札にしてんのかァ、テメェはァ? ンな事なら前の俺との戦いできっちりとトドメを刺してりゃ良かっただろォが? 半端に手ェ抜くからこうしてまた戦うことになるんだろォがァ?」
「手を抜いたつもりは無いが、お前を殺す気はなかった。それが俺達の間にあった暗黙のルールだろう? だが、丁度戦績が五部である今が、決着の時だと言うのならば……見せてやろう、完全な《AinSophAur》を」
決着をつけるにしても、勝ち越さなければ意味が無い。幸い前回の戦いで実戦で使用する上での問題点などは概ね分かった。アレから試している暇など無かったが今ならば確実に成功させられる。
問題は、一合での勝負と言う条件を出してきたカノンが用意している手札だ。《AinSophAur》は発動すれば、相手の逃げ場を奪い、防御を無力化してエーテル探知を遮断し、必殺の一撃へと繋ぐ三連撃だ。そう簡単に破られる様な技じゃない。
だがしかし、相手は私の永遠の敵であるカノンだ。最後の一撃の威力こそ把握しきれていないだろうが、ニ撃目までは既に見られている。
その上でカノンが一合で決着をつける事を提案してきたと言う事は少なくともニ撃目までの対処法は用意してきていると考えて間違いない。
戦闘の途中で一撃目に移るという形でなら隙を突けば良いだけなので、一度見られている事は問題には無かったのだろうが、最初から一撃目に入らなければならないのなら、隙を突く事等出来るはずもない。
だがしかし、エーテルを多く失っているカノンと戦うと言うのなら、決着をつけるのに相応しい方法は、その条件しか無いかもしれない。
「それァ俺の出した条件を飲んだってェ事で良いのかァ、ゼノン?」
「無論だ。随分と長く続いてしまった私達の戦いの幕、私の勝利と言う形で引かせてもらうぞ、カノン?」
そう言いながら《永劫》を上段に構えて重心を落として、正面に存在するカノンに真っ直ぐに視線を向ける。
「無駄話は終りだ。後は唯、己が磨いてきた技のみで語り合おう――その方が私達らしい」
その私の言葉に「ふン」と鼻で笑うように応じながらも、楽しげに口を歪めて、カノンもまたその手に握る《刹那》を中段に構えた。
その姿を確認すると同時に、意識を集中させて《永劫》とのシンクロを始める。
(前回の戦いで問題点は分かったのですが、やはりまだこの技を実戦で使うのは無謀です……と、言った所で引けないと言う主殿の心情も理解できます。故に、拙いながら、可能な限り全力で主殿のサポートをさせて頂きます)
《永劫》の言葉がシンクロしていく心に響く――そして、《永劫》が感じ取った情報と私が感じ取った情報が混ざり合い、莫大な情報量となって脳内に流れ込んでくる。
その中から不要な情報を切り捨て、空いた処理能力で自ら内にあるエーテルを構えた《永劫》の刀身に圧縮して纏わせ、一撃で開放可能な限界を超えるまで溜め込んだ状態で安定させる。
視界の先では、《刹那》の刀身にもエーテルが高密度に収束しているのが分かる。刀身に収束したエーテルから察するに、カノンの切り札は一撃だけであると考えて間違いない。
だがしかし、手数が多ければ強いという訳ではない以上、油断は出来ない。下手をすれば最後の一撃に届く前に、カノンに切り伏せられてしまう可能性もある――だが、あくまでそれは可能性に過ぎない、勝つのは、私だ。
真っ直ぐに相手を見据えた視線が交差するのを感じる。此方の準備が整うまで待ったのか、或いは偶然同じタイミングで準備が終わったのか、そんな事はどちらでも良い。今は唯、この一合に全てを掛ける――それだけで良い。
その次の刹那、私とカノンは、同時に虹色の空間に形成していた足場を蹴って、視線の先に居る好敵手にむかって動き出した。

<SIDE-Kanon->
「俺の望む条件は一つ、勝負を一合で決める――唯そンだけだ。要するにィ、お互いの最強の技をぶつけ合って、それで決着をつけようってェ事だ。一合で勝負が決まるなら、俺に残ってるエーテルの量でも十分に釣りが来るだろォが?」
(一合で決着を付けるだなんて、正気ですか、マスター? 《永劫》達には前回我々が敗れたあの技があるのですよ? そんな正面から戦う様な条件は危険すぎます!)
お前が声を荒げるなんて珍しいな《刹那》? 否、この場合は声なんて出してないから感情を高ぶらせるのは珍しい、と言うべきか?
(そんな事はどうでも良いでしょう? それよりも、答えてくださいマスター……まさか、この勝負をお捨てになるつもりですか?)
馬鹿を言うなよ《刹那》誰が、何時、勝負を捨てるなんて事を言った。勝負は一合で決める、ゼノンが拒否しない限りはコレは揺るがないし、俺は本気だ。
(ですがマスター、不徳の致すところですが、私には《永劫》のあの技に対抗する術がありません。万全であっても危険であるのに、態々相手の土俵に、それも自ら入っていくのは単なる自殺行為としか私には思えません)
そうでも無い。お前は今までゼノンの何を見てきたんだ? アイツは色々と考えすぎる――こっちに策が無くても色々と深読みするんだよ、アイツは。
「お前は私の最強の技を見ているだろう? そう簡単に破られるつもりは無いが、一度は見せた技だ、こちらの方が不利になるんじゃないのか、それだと?」
な、言ったとおりだろう?
(そういう事を言っている訳ではないんです、マスター。仮に変に警戒してきたとしても、だからと言って我々があの技を超えられる訳ではないでしょう? 私はマスターの事を心配して……)
そりゃありがたい話だが、心配ないさ。《道》は見えてる。さっきのグレンとの戦いで死に掛けた時にだけどな――何かが掴めた気がするんだよ。
(……分かりました。マスターがそう仰るのなら私からはもう何も言いません。コレまで通り貴方を支える力となりましょう)
よろしく頼むぜ《刹那》――お前が居なきゃ折角見えた《道》も無意味になっちまうしな?
「何が一度見せた技だァ? 最後の一撃で手ェ抜きやがった癖に良く言ったもんだなァ、ゼノン? それとも何か、あの技はまだ完成してないってェのかァ?」
前回の最後の瞬間、カノンが手を抜いたのか、俺の予想通り未完成だったが故に不発したのか、それは俺には分からない――だが、決着を付ける今回の戦いで、仮に不発でもされては困るのだ、故に――絶対に失敗出来ない様に発破をかける。
「それ以前によォ? 一度見せたら破られる様なモンを自分の切り札にしてんのかァ、テメェはァ? ンな事なら前の俺との戦いできっちりとトドメを刺してりゃ良かっただろォが? 半端に手ェ抜くからこうしてまた戦うことになるんだろォがァ?」
今までの暗黙の了解の存在から、あの時のゼノンには俺を殺す事など出来なかったと言う事は分かりきっている。その上で、止めを刺し損ねた事を煽る。
既にあの技が完成していれば、ゼノンのやる気を出させる事に一役買うだろうし、不完全だったとしても、コレだけ言って置けば奴ならば失敗したりはしないだろう。基本的に単純な奴なのだ、アイツは。
「手を抜いたつもりは無いが、お前を殺す気はなかった。それが俺達の間にあった暗黙のルールだろう? だが、丁度戦績が五部である今が、決着の時だと言うのならば……見せてやろう、完全な《AinSophAur》を」
「それァ俺の出した条件を飲んだってェ事で良いのかァ、ゼノン?」
本当に単純な奴だ。だが、それでこそ俺の好敵手だ。自分自身で《完全な》と言った以上、既に完成していたか、絶対的な自信があるのは間違いない。ならば俺も、心置きなく自分の中に見えた《道》を形にして、ぶつける事が出来る。
「無論だ。随分と長く続いてしまった私達の戦いの幕、私の勝利と言う形で引かせてもらうぞ、カノン?」
その俺の言葉に即答してきたゼノンの言葉を聴いて、その表情を見て、つい「ふン」と、鼻で笑ってしまい、口元が歪む。何だかんだと言って、奴も楽しそうにしているのだ、結局の所俺達は、似た物どうし立ったのかもしれない。
飽きただの何だの言っておきながら、結局の所俺はこの戦いを心待ちにしていたのだ。少なくとも、一つだけ手にすることに出来る願望を形にする力と言う権限を使ってしまう程には、コレまで延々と戦ってきた好敵手との決着をつけられる、この瞬間を――
《道》はもう殆ど見えている。後はどんな名を与えるかだ。力の解放には言霊が必要になるが、俺と《刹那》の目指す果てに届く様な名を与えてやれば良い。
ゼノンの辿り着いた領域が何処なのか、あの技の最後の一撃の本質を見ていない俺には分からない。
だけど構わない、これから俺と《刹那》が辿り着く場所が、きっと俺達の頂点だから。これで負けるのなら、それはゼノンが俺よりも上に居たというだけに過ぎないのだから。
故に、正面で重心を落としながら、《永劫》を上段に構えるゼノンの姿に応じる様に、俺も《刹那》を中段に構えてその刀身にエーテルを収束させていく。
《道》が見えたとは言え、所詮は急造の技に過ぎない、ゼノンの様に器用に逃げ場を奪っていく様な事も出来ない。だが、だからこそ、一撃に全てを込められる。
真っ直ぐに相手を見据えた視線が交差するのを感じる。此方の準備が整うまで待ったのか、或いは偶然同じタイミングで準備が終わったのか、そんな事はどちらでも良い。今は唯、この一撃に全てを掛ける――それだけで良い。
その次の刹那、俺とゼノンは、同時に虹色の空間に形成していた足場を蹴って、視線の先に居る好敵手にむかって動き出した。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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