EternalKnight
絶望の来訪者/好敵手
<SIDE-Guren->
数万に届く刃の雨がカノンの元に降り注ぐ。回避する隙間すらなく降り注ぐその雨への対処方は結局見つからなかったのか、その刃の雨をカノンはただ棒立ちでその身に受けていた。
降り注ぐ刃の雨はカノンの体を穿ち、傷跡を刻み込むと同時にその結合を崩壊させて大気へと還って行く。流石に、詠唱を含めても数万に近い刃を同時に生成する以上、その刃を完全な構築式で組むのは無理があるのだ。
(とは言え、一度カノンの体を貫いた刃がそのまま残るというのなら、逆に数万も降らす必要がない訳だから、問題は無いだろ?)
まぁ、相棒の言うとおりな訳だが……しかし、数を多くしすぎたかな? 一斉に打ち出さすに隙間を作らない様に順次打ち出している訳だけど、本当に隙間無く刃がカノンへ向かうから、刃の壁に阻まれてカノンの姿が見えないぞ、これじゃあ。
(おい、ちょっと待て相棒、カノンの様子が変だぞ?)
様子が変って、刃の壁で俺からは見えないけど、あんだけ絶え間なく刃が降り注いでるのに抵抗なんて出来ないだろ、流石に?
(違う、抵抗している訳じゃない――エーテルの探知能力も感知能力も最上位になった事でよくなったんだから、少しはエーテルの流れを読もうとしろ)
抵抗してる訳じゃないって、だったら一体何をしようとしてるんだ? なんて、相棒の言葉に愚痴りながら俺も刃の向かう一点、カノンの居る辺りのエーテルの流れを読む。
――エーテルが収束してる……けど、なんか変じゃないか?
(だから、言っているだろう、様子が変だと? どうも聖具の能力とも魔術とも違う様なのだが、そうでないならこのエーテルの収束に説明が付かない)
聖具の能力でも魔術でもないエーテルの収束だって? 他に考えられそうなエーテルが収束する何かってなんかあったか?……まさか、魔獣としての能力か? 可能性は十分にある――否、それしか考えられない。
(だが、そうであったとしても何故このタイミングでそんな物を発動させたんだ? 聖具の能力や魔術でもそうだが今の状態を覆せる能力なんて早々ある物じゃないぞ?)
お前に分からないのに俺に分かるかよ――兎に角、なんにしたって今は警戒しておく事しか出来ないだろ?
少なくとも、ココに至るまで使ってこなかった辺り、攻撃的な能力ではないと予想する事は出来るが、だからと言って警戒を怠る気は無い。最悪、今この瞬間まで隠していた能力、と言う可能性もありうるのだ。
(なんにしても、あれだけのエーテルを収束させて発動させる能力が並みの物である筈が無いのは確かだ。攻撃型にしろ防御型にしろ、な)
カノンの周囲に渦巻いていた膨大な量のエーテルの渦が、収束した超密度のエーテルが、カノンを包んでいく。その殻は俺達の打ち出した刃を悉く弾き、尚且つ包み込んだカノンの反応を俺達から隠す。
やっぱり、防御能力だったか……だけど、そうしている限りは動けない。なら、今よりもさらに逃げ場を無くすだけだ。
殻に弾かれるのは分かりきっている以上、今尚カノンの元に向かうのを待っている数千の刃を無意味に打ち出す必要は無い。その刃を中空に留めたまま、もう一度力の名を紡ぐ。
「Creation」
言い終わると同時に、残された数千の刃とは別に、さらに数万の刃がカノンの周囲を取り囲む様に創造される。詠唱を込みで創造すれば、一度創造した物質は崩壊させずに維持させる事が出来る。あの殻の防御を解除した瞬間が、カノンの最後だ。
(しかし、大した強度ではあるが、あれだけのエーテルを収束させて壁を展開するだけの能力と言うのも変な話だな……或いは、あの殻の中で何か別の能力を展開させている、と言う可能性もあるが……)
それにしたって、慢心や油断しなきゃ良いだけだろ? その能力が攻撃的な能力だとしても、その一撃さえ捌ければ後は展開した刃の雨でカノンを倒す事は出来る。今の時点でかなりの重症を負ってる筈だしな。
相棒の念にそう応じていると、予想していたよりも遥かに早く、カノンを包んでいた殻が、砕けた。だが、しかし――
(これは……どういう事だ?)
砕けた殻の中に、カノンの反応は無かった。カノンの周囲全方位を包む刃の壁によって視界は阻まれ目視は出来ないが、それでも反応を消しているとは思えない。
この戦場でエーテルの反応を消した所で、周囲の空間のエーテルの濃度を考えれば逆エーテルの反応が無い空間と言うのは目立つ、故にその線は在り得ない。
今の俺にさえ知覚出来ない速度で移動していれば、確かに反応が無い状態と言うのも納得が出来るが、全方位を刃で囲まれている中では、どれだけ早く動けようと脱出できない。
だったら、カノンは一体どうなったんだ? 忽然と消えるなんて、そんな事がありえるのか?
(或いは、俺達に同様を与えると言う目的のみの為に、逃げ場の無い空間の中で超速で移動していると言う可能性も零ではないが……)
カノンがそんな事をする様な奴だと思うか?
(まぁ――言っておいて何だがまず無いだろうな。それでも一度試すだけ試しておけ、俺達は結局奴と戦っただけの間柄にすぎない。それだけで奴の本質などわかるものか。どの道展開したしまった能力だ、使わずに消すよりは意味があるだろう)
相棒に言われた通りに、展開した刃を包囲している範囲全てにかわす隙間も与えずに打ち出しては見たが、結局分かった事は、包囲している範囲内にカノンが居ないというコトだけだった。

<SIDE-Kanon->
こコハ……どコダ? どウシて、オれは……こンな所に? 黒に染まった視界とは裏腹に、途切れた意識が徐々に鮮明になっていく。痛みは、残っていない。エーテルが傷口から漏れ出す事も無い。否、傷口自体が残っていないのか?
とは言え、先程まで傷口から止まる事無く流出していたエーテルが元に戻った訳ではないらしい。そもそも黒に覆われた視界が晴れていない理由が分からない。
目を閉じている訳ではない、唯本当に、視界が黒に覆われているのだ。物理的な意味で光を一切通さない黒い何かに全身を覆われている。それが何なのか、俺には分からない。
それでも感覚はある、まだ生きていると言う実感はある。或いは、そう感じるだけで、ココは既に死後の世界と言う物なのかもしれないが――
(いいえマスター、それは在りません。私がこうしてマスターの思考に応答できている時点で、ココが死後の世界だと言う事だけは絶対に。とは言え、私にもココがドコなのかさっぱりですが)
《刹那》か……確かに、お前が居るって言う事はココが死後の世界だって事はなさそうだな。俺とお前との契約はあくまで生きている間しか有効ではないだろうしな。
つー事は何か? この黒い壁みてェな何かに覆われてるだけで、別に移動してないって可能性も在る訳だな、つまり? たぶんこの壁のせいなんだろうが、周りの反応は全く検知出来ないしよ?
否、そもそもなんで俺は同じ場所に居ないだなんて思ったんだ? 空間の転移なんて言葉にすれば簡単だが、そんなに簡単に実現するような能力じゃない。
普通はまず最初にあの壁が俺の周囲に展開し、何故か傷口を全て治してくれたぐらいに思う筈だ。周囲に誰一人として味方が居なかった筈のあの状況では、それでも十分に在り得ないだろう話なのだ。
何故そんな状態でまず真っ先にココは何処だ、なんて自分で口走ったのか、それが理解できない。或いは――何処かに転移した確信が、俺の中にあったってのか?
それこそ、自分で考えていて馬鹿らしくなる。俺の知る限りでは、俺にも《刹那》にもそんな能力は無い。だが、それを言ってしまえば未だに俺の周囲を覆っている黒い壁も、俺と《刹那》の能力ではない。
そこまで考えて、ふと一つの事を思い出し、つい言葉に出して「魔獣としての能力って奴、俺ァまだ発現させて無かったよなァ?」積もりに積もった疑問を氷解させる解になりうる言葉を紡いでいた。
しかし、もしこの黒い壁が俺の魔獣としての能力とやらであるなら、それによって引き起こされる現象は《何でもあり》の筈なのだ。例えそれが、難しいとされている空間の転移であっても、だ。
そう考えれば話が繋がる。最初にココは何処だなんて言ったのも、転移をした自覚が何処かしこかにあったからと考えれば納得が行く。
まぁ、目の前に迫った危機的な状況から逃げる為に転移能力を得たと言うのは、常々死に場所を戦場に求めているつもりでいた俺にとっては、実に情けない話ではあるのだが……
転移能力が発動した、と言う事は俺の無意識かにある願望が《死にたくない》とか《此処では死ねない》とかそういう下らない物だったと言う事を意味する。
何が死ねばそこが自分の限界、だ。死から無様に逃げる様な奴が吐いていい台詞じゃないだろ、それは。
まぁ、起こってしまった仕方ないと言えば仕方ない。そもそも俺の勘違いで、単に黒い壁を展開してグレンの絶対包囲攻撃をやり過ごしているだけなのかもしれない。
等と考えている間に、俺の周囲を覆っていた黒い壁にヒビが入り始めた。
転移が終わったのか、効果時間が切れたのか、攻撃を凌ぎきったのか、或いは外部からの攻撃に耐え切れなくなったのか、この黒い壁の内側に居た俺には何も分からない。
そして、その黒い壁が砕けると同時に、俺は周囲の状況を知る為に、自分が何処に居るのかを知る為に、エーテルの探知能力を全開で発動させた。
――だが、壁が砕け散り視界が開けると同時に、全てがどうでも良くなっていた。
周囲の状況? 確かに大切だ。此処が何処なのか? それはまぁ、どうでも良い。そんな事よりも俺にとってもっと優先すべき事柄が目の前にあった。
そうか……コレが、コレが俺の心からの願いなのかと、そう理解する。確かに、コイツとの本当の意味での決着が、まだ付いていなかった。
「唐突な登場で悪いが、決着をつけに来たぜ、ゼノン?」
視界が開けたその先、そこに居たのは、俺が倒すべき、決着をつけるべき、俺の好敵手の姿だった。

<SIDE-Zenon->
情報屋を目指して移動している最中、突如俺達の目の前に現れた巨大な黒い球体――そこから感じられるエーテルの反応は相当な量ではあるが表面的な物でしかなく、その内側にどんな危険が潜んでいるか距離を開けて見ただけでは判断出来なかった。
俺のエーテルの探知能力では、表面を構成しているのが殻の様になっている事しか分からなかった。最も、連れの三人に関してはエーテルの塊としか認識できなかったらしいので中に何かが入っている、と分かっただけでも行幸と言う物だろう。
周囲を覆っているエーテルの殻が中に入っている何かのエーテルの反応を完全に消しているのか、或いは本当に何も無いのか、そこまでは俺には判断しかねる所なのだが、突如出現した事を考えると後者である可能性は低い。
中に何が入っているか分からない以上、力技で殻を叩き割る訳にも行かず、だからと言って突如とは言え俺達の目の前に現れたこの黒い球体を放置する訳にも行かない。
内容物の探知は、時間とエーテルさえあれば万能なフェインに任せるとして、今ここにいる四人の中で最も階位が上である俺が黒い球体を見張る事になった。
いつ何か動きを見せても良い様に巨大な《永劫》の刃を構えて黒い球体に視線を固定し、且つエーテルの探知は周囲の全方位に広げる。コレを維持し続けるのは難しいだろうが、直にフェインが球体の中身を看破してくれる事を考えれば、難しい話ではない。
既にフェインが能力の構築を開始してから数分、そろそろ《法典》の力で新たな術式を構築し球体の中身を看破しても良い頃だが――なんて事を考えて居た、その時、黒い球体に動きがあった。
先程まで現れたままの位置――虹色の空間の一点――で停止していた黒い球体が、僅かに動いたのだ。そして、そう思った次の瞬間には、黒い球体は薄いガラスの様に砕け散り、その中に居た者が動き出す。
知っている、髪の色は艶のある白から銀色に変化しているし、肌の色も血の気を感じない白から褐色に変化しているし、血の様な赤色の瞳の色は以前よりも薄れているけれど、それでも俺は動き出したその男の事を知っている。
そうまでして、そんなモノになってまで、そんな力に縋ってまで、俺を超えたかったって言うのか、お前は? 違うだろ――否、違うと分かったからそんなになってまで、今ココに居るんだろ?
……だったら、良いだろう。この戦いを最後にしよう――数千年続いた俺達の戦いを、今ココで終わらせよう。
「唐突な登場で悪いが、決着をつけに来たぜ、ゼノン?」
黒い球体から表れたのは、そこに居たのは、俺が倒すべき、決着をつけるべき、俺の好敵手の姿だった。

TheOverSSS――18/28
UltimateSeven――4/7
PerfectSix――3/6
KeyToSeven――2/7
――to be continued.

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